ドラゴンクエストⅡ 大空と大地の中で   作:O江原K

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受難の時代の巻 (湖の洞窟②)

 

湖の洞窟、魔物たちすらいない暗く静かな空間で祈りを捧げる怪しい男。

アレンやアーサーが知る、一般的な崇拝の行為と似てはいるが、

その祭壇に祀られている神は恐ろしい怪物の姿をしていた。

 

 

「おお、偉大なる神々よ!どうか私の祈りをお聞きください!恵みを

 お与えください!私だけではなく、あなた方を賛美する全ての者を!

 そしてあなた方に敵対する者たちには公正なる天の裁きをもたらし・・・」

 

男は突然それを中断した。くるっと振り返り、立ち上がった。アレンたちに

気がついたようだ。神聖なる時間を邪魔されたことに大きな怒りを抱いている。

アレンとアーサーはどう見ても彼の同志ではなかったからだ。

 

 

「・・・お前たち・・・この崇拝の場所に何の用だ。偉大な神々を讃える

 つもりで来たわけではあるまい・・・」

 

「別に用があったわけじゃない。だがその格好・・・邪教のやつだな?

 おいアーサー、とんでもない魔物が潜んでやがったぜ!危うく見逃す

 ところだったぜ、ハーゴンの手下をなぁっ!!」

 

アレンは邪教の男に向かって鎖鎌を手に一直線に駆けていった。ハーゴンを

頂点とする、彼らの信じる神々に身も心も捧げた者たちはハーゴンによって

魔物とされているのだという。アレンにとってはムカデや蟻なんかよりも

この世から除き去るべき者たちだった。邪悪な信仰を抱き人であることを

捨てたのだ。一切の情状酌量の余地はない。

 

「くらえ―――――っ!!ルビス様の教えを捨てた外道め――――っ!!」

 

「フン!罪人を処刑してやるのは私だ!ハーゴン様、我に力を!」

 

男が怪しげな動きをすると、その手から炎が放たれた。ギラの呪文だ。

 

 

「アレン!そいつは魔術師だ!炎がくる、避けろ!」

 

「いーや、違うな!お前の魔力はまだ残っているんだろ、だったら前進だ!

 あえてこのまま突っ込んでこいつを攻撃する!ホイミを頼んだぜ!

 うおおおおお――――――――っ!!」

 

魔術師のギラが先にアレンに命中し、彼の身体を燃やす。しかし人々から

闘将ボーイと呼ばれるアレンの熱き心はその炎以上だ。怯むことなく

火だるまになったまま走り抜け、魔術師の胴体を鎖鎌で斬りつけた。

 

「うおりゃぁぁぁ―――――!!」

 

「・・・ぐふっ!!」

 

魔術師は吹き飛ばされ、祭壇に叩きつけられた。小動物の生首や虫を大量に入れた

嫌悪感を抱かせる『供え物』の入った複数のかごが中身と共に散乱した。

そして地面にうつ伏せに倒れ、顔を隠していた仮面も外れていた。

 

 

「・・・無茶するなぁ。でも結果的に正解だったようだね。ホイミ!」

 

「おっ、助かるぜ。こんな火傷までもすぐに治すんだから凄いな。

 皮膚に違和感みたいなのは残っているが後で薬草でどうにかするか。

 それにしても変な仮面だな。邪教の魔物どもはみんなこいつを被ってるのか?」

 

不気味な仮面を手に取り、すぐに投げ捨てた。あとはこの祭壇も壊しておこうと

アレンがその方向へ進むと、倒れていた魔術師が重傷を負いながらも立ち上がってきた。

 

「おいおい、その傷でまだやるのか?大人しく死んだふりをしておけばおれたちも

 見逃したかもしれないってのにな。その狂信ぶりは大した・・・・・・」

 

 

アレンは口も足も固まってしまった。彼が元・人間だと思って戦っていた相手、

それは今でも人間であったからだ。流している血は真っ赤な鮮血だ。

加えて、仮面が取れた魔術師の顔、それも明らかに人間のものだった。

 

「こ・・・こいつは・・・・・・人間だ!おれは人相手に・・・!」

 

「・・・か・・・神々は偉大なり!ハーゴン様もまた・・・い、偉大なり!」

 

またギラを唱えるための動作を始めたが、全身が震えていて動きが鈍い。

立っているのもやっとの傷だ。戦おうとするだけも信じられないことなのだ。

 

「しかもおれはこいつを知っている!アーサー、お前も顔だけは見ているだろ!」

 

「・・・・・・・・・」

 

アーサーが洞窟の途中で話していた、宝探しに行くと西へ行ったっきり帰ってこない

男たちがいると。その行方不明者を見つけるために描かれた似顔絵がローレシア、

サマルトリアのどちらにも渡されていた。

 

「確か・・・ローレシアの町に住んでいる商人だ!家族もいて、ルビス様を熱心に

 信じていた!商売が厳しくなりかけていたからまだ開拓されていない西のほうへ

 向かったって話だった。でもいくら追い詰められたからって邪教の信者に

 なるような人間じゃない!これは・・・洗脳されているんだ!」

 

アレンの言うことは正しかった。自分から邪教の成員になる者が大半だったが、

なかにはこの商人のように他に人のいない場所で攫われて洗脳された人間もいた。

そうなってしまえば自ら信者となった者より狂信的な崇拝を行い、神々と

大神官ハーゴンのためなら自分の全てを差し出すことを厭わなくなるのだ。

資産も、地位や名声も、家族も、そして最後には自らの命までも。

 

 

「だ、だ、大神官さまァ・・・・・・どうか私に愚か者たちを裁く力をっ・・・!

 偉大なる神々に最も近いあなた様を通して・・・ち、チカラをォォ・・・・・・」

 

「・・・く・・・くそっ・・・!だめだ・・・おれには殺せない!しかし

 回復させてやるわけにも・・・・・・!どうすればいいんだっ!!」

 

 

アレンが頭を抱え苦しんでいる間に、魔術師は再度邪悪な力を溜めこんでいた。

この至近距離から渾身のギラを放ち、アレンを神々への捧げ物とする気だ。

 

「ぐ、ぐらぇ~いっ・・・!神に逆らう者め・・・ギ・・・ギ・・・!!」

 

この至近距離で焼かれてしまえば今回は無事では済まない。危険な炎が

アレンを襲おうとした、まさにギラの発動の寸前だった。魔術師の

喉にナイフが深々と突き刺さり、呪文は失敗に終わった。

 

 

「・・・・・・ガッ!!・・・ガハァッッ!!き、き・・・ぎざま・・・・・・!!」

 

「・・・!!ア、アーサー!!」

 

 

アーサーが聖なるナイフを肉を抉るように押しこんでいく。そして勢いよく

引き抜くと、魔術師はこれまでよりも大量の血を口から噴き出した。

 

「ご・・・ごの・・・!!の、呪われたやつら・・・め・・・・・・」

 

ついに完全なる致命傷を受けた魔術師はふらふらと後退していき、

仰向けに倒れると、尖った岩に頭を打ちつけたので彼は死んだ。

洞窟に流れている水でナイフの血を淡々と洗い流すアーサーにアレンが迫った。

 

 

「お、お前・・・!お前はいま・・・!!」

 

「・・・あの目つきはもう手遅れだった。あれだけ洗脳されていたらもう

 死ぬまでまともには戻れないだろう。だから殺した、それだけだよ。

 こんな洞窟からローレシアまで運ぶのは無理だから彼の死体はここに

 置いていこう。ぼくがやったと知られたらいろいろと厄介だからね」

 

 

いかに敵とはいえ魔物ではなく人間を躊躇いなく殺害したというのに

声の震えも全くない。いつも通りにしている彼をただ黙って見つめるしか

なかったアレンの気持ちを察したのか、アーサーは彼の肩を叩いて言った。

 

「これからこういう相手が出てきたときは任せてよ。その代わり虫や獣の

 相手はお願いするから。ぼくらの役割分担の新しいルールさ」

 

「・・・・・・・・・いいのか?それで・・・・・・」

 

「・・・気にしなくていいよ。実は人を殺したのは初めてじゃないんだ。

 そのときのことを・・・聞きたいかい?」

 

アレンは再び頭を打ち叩かれるような言葉を聞いたが、どうにか冷静を保った。

 

「いや、いい。それよりさっさと出ようぜ、こんな洞窟は」

 

言うと同時にこの空間を後にするために歩き始めた。アーサーも黙って

その後に続き、洞窟を出るまで二人はほとんどしゃべらなかった。

 

 

アレンは自らの遠い祖先である勇者ロト、そして百年前の祖先ブライアン、

彼らの活躍が収められた書を幼い日からいまに至るまで何度も読んできた。

その勇者たちに共通する点として、多くの魔物たちを打ち倒してきたが

人間は一人も殺していない、そのことだった。それをしてしまったら

勇者である資格を失うだろう。なのに自分と同じ偉大な先祖を持つ

アーサーはあっさりとやってのけた。しかし彼があの魔術師を

倒してくれなければ自分が殺されていたかもしれない。気分は複雑だった。

間一髪で助けられたというのに礼が言えなかった。

 

しかしアレンが救われたのは実はそれだけではなかった。アレン自身は

そのことに考えが及んでいないが、アレンも人間を斬ったのだ。

あの感触や飛び散る血。後々嫌な記憶として彼を苦しませたかもしれなかった。

だがもはやそれ以上の出来事に意識が向かい、自らのことはすでに

忘れてしまっている。彼はこの先も今日の出来事を思い出すことはあっても

自分の行為によって悩まされることはなかった。その点でもアーサーに

救われていたのだが、そこまで頭が回らなかった。

 

 

 

長い洞窟探検が終わった。手にしたのは戦いの自信と小さな銀の鍵、それに

何とも言い難い気持ちだった。地上に出てからもアレンはアーサーに

話しかけることができないまま、湖に向かっていた。湖で水と食物をはじめとした

今後の旅に必要なものを調達し、体を洗って少し休息していくことにしていた。

互いに汚れを落とし、泳いでいた魚を数匹手にしたところでアレンはふと

思いだしたことがあった。

 

アレンの弟、プレス・トウコウがアーサーの妹サマンサを襲おうとした際に

何者かによって大怪我を負わされた。そのときのトウコウは斬られた傷のほかに

火傷もしていた。結局犯人は見つからずに国同士が和解するに至ったが、

今ならアレンはその犯人がわかる。剣も炎も使え、人間だとしても悪人であれば

迷わずに命を奪える男が隣にいる。数時間ぶりに口を開いた。

 

 

「なあ・・・・・・」

 

「・・・ん?」

 

「・・・アーサー。この間・・・例の事件のときに・・・

 おれの弟をやったのは・・・・・・お前か?」

 

アーサーは僅かに動きが止まったが、それほど変わらない様子で、

 

「・・・・・・もしそうだと言ったらどうするつもり?」

 

アレンもまたアーサーをこれ以上追及する気はないと言わんばかりに魚とりを続け、

 

「別にどうもねえよ。間違って死んじまってたら話は違っていたけどな。

 あれは誰が考えたってトウコウが悪い。あいつが回復したらちゃんと

 ケジメはとらせる。お前らの要求も全部飲む。もう終わった件だ。

 これ以上は蒸し返さねえ。ただ聞きたかっただけだ、悪かったな」

 

 

また黙ってしまったまま時間は過ぎ、二人で焼いた魚をもそもそと食べた。

しかしサマルトリアで手に入れていた酒がだいぶ残っていたのでここで

全部飲んでいこうと酒盛りを始めた途端、リリザでの夜と同様、アレンは

すぐにいい気分になり、声は大きくなって饒舌だった。

 

「だからなぁ、おれはそういうところがどうしても受け入れられねえんだよ!」

 

「はいはい」

 

アーサーに対しての文句や説教ではない。それはもうとっくに終わり、いまは

自らの国のあり方について熱く語っている。どのような国を目指せば

ローレシアの建国者である先祖ブライアンが喜ぶのか、現在自分たちの国が

至らない点を批判し、自分ならどう変えられるかを繰り返し叫ぶので

アーサーはやがて返事が単調になっていた。

 

「貴族や王族が自分たちのことばかり考えずにもっと・・・」

 

「はいはい、そうだね」

 

「コラッ!アーサー、ちゃんと聞いているのかお前はっ!」

 

「はいはい・・・」

 

翌日になれば全く酔いは醒めているのでそこは安心だが、いまはこの酔っ払いは

面倒極まりない。せっかく彼の矛先が自分から国や社会に向かっていったのに

また戻ってきてしまった。しまった、とアーサーは目を覆った。

 

「あっ、そうかそうだったな!お前はこの旅を利用して行方不明になった

 ふりをして国を捨てて気ままな旅人になろうってやつだったもんな!

 そんなやつに王族のあり方を語ったのが無駄だった!そもそもお前は・・・」

 

「まだそう決めたわけじゃないよ。あくまで選択肢の一つで・・・」

 

アレンの身体がだんだん傾いてきた。このまま眠ってしまうだろう。

もう少し耐えればアーサーも解放される。アレン本人の意識の内部でも

そろそろ『締め』だとわかっているのか、またしても様子ががらりと変わった。

 

 

「アーサー・・・何だかんだ言ったが・・・お前はやっぱり正義感があって、

 それでいて強い。今日はお前だけにあんなことを押し付けてごめんな・・・。

 おれも強くなりてぇ・・・!早くおれも相手が誰であろうが・・・・・・」

 

「・・・いや、きみはいまのままでいい。一度やってしまったらもう歯止めが

 きかなくなる。きみは十分に強いさ。ぼくのほうこそ早くきみに追いつけるように

 ならなくては。ねずみや蟻を一発で倒せるくらいにならないと・・・」

 

「そうだな・・・・・・。ハーゴンとその手下のクズどもをさっさと蹴散らして

 おれとお前で新しい時代をつくろうぜ・・・。おれたちが王になって・・・」

 

「・・・・・・約束はできないけど考えておくよ」

 

 

湖での野宿は魔物に襲われることもなく穏やかに過ぎていった。もし世界に

何事もなければ二人はこの湖に来ることもなかっただろう。ローレシア大陸で

一番自然の恵みが豊かなこの地は平和になった後も開拓されないだろうが、

二人の少年にとって確かに忘れることのない思い出の場所となった。

翌日から彼らは新たな大陸を目指して旅立つのだ。

 

 

 

 

「・・・何回も来たが今回は特別だな。この『ローラの門』も」

 

「ぼくたちだけじゃなくてここもいろいろ変わってしまっているからね」

 

ローレシア大陸とムーンブルク大陸を繋ぐ海底の洞窟。ただの抜け道で

あったのにこのトンネルにも魔物が現れるようになってしまった。

しかしここまで彼らは十分な経験を積んでいる。魔物たちが好戦的に

襲いかかってきても難なく退けた。アレンの物理攻撃がメインだが、

場合によってはアーサーのギラも使用した。とはいえ彼らはこの洞窟を

抜けてからも大きな町にたどり着けるまで距離があるのを知っている。

これまでのように家族や護衛の兵士たち大勢と旅していているわけでは

ないのだから、体力や魔力の配分は大事だった。

 

「・・・・・・げっ・・・・・・あいつは・・・・・・」

 

「・・・下がっていてくれ。ぼくがやる」

 

キングコブラやよろいムカデならどうにでもなるが、またしても二つの足で歩く

魔術師の格好をした敵が現れると、アレンはアーサーに任せる形になってしまう。

 

「やられる前にこっちがやってやるさ。ギラ!」

 

アーサーのギラ一発で魔術師は沈んだ。全身焼け爛れ、全く呼吸をしていない。

確認のつもりでその顔を見てみると、明らかに人間ではなかった。

 

「・・・こいつは違うのか!ややこしいなぁおい!」

 

「でも一々戦う前から確かめるのは無理だ。やっぱりこういう敵はぼくがやるよ」

 

「ああ・・・すまない。おれも早くほんとうの意味で強くなるから待ってくれ」

 

 

 

人によってはこの少年たちは『受難の時代』に生を受けてしまったと

言うかもしれない。もし平和な日々であれば城で何不自由ない生活を

過ごし、やがて王位を継承したのだ。命をかけて心身を削る苦しい戦いと

長旅をしなくてもよかったのだ。しかし肝心の二人はそうは思っていない。

傷つきながらも未知の体験が待っていることに期待の気持ちも強かった。

彼らがほんとうに受難の時代を生きたかどうかわかるのはまだ先の話だった。

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