雪が吹き荒れるある日のこと、博麗霊夢と霧雨魔理沙の二人は異変解決に赴いていた。
しかし『異常気象』という判断材料しかなく、宛もなく空の旅を続ける二人だった。
だが魔理沙がある不愉快なものを感じ、霊夢を引き止める。
「なぁ、霊夢」
「なによ魔理沙」
「……なんか、少し寒くないか?」
魔理沙が感じた不愉快なものとは、異様なほどの寒気。この異常気象を鑑みても、異質で、規格外な『寒気』が、二人を襲っていた。
「まぁ、言われてみれば……でも、そこまで気にするようなことでもないんじゃない?」
「そりゃそうだが……こんだけ着込んでのに体が震えるんだぜ? なんて言うか、ここだけおかしいぐらい温度が低いような……」
そこまで言って、魔理沙は一つ懸念を抱く。
この気象が『敵の能力』によって起こされている事だとしたら――。これは敵の『攻撃』で、その的は――『魔理沙達』自分たちは既に敵に攻撃されているんじゃないか――と、魔理沙がそこまで考えたところで、一つの人影が二人の前に現れた。
「お前は!」
「アンタ……」
二人とも目を丸くして驚いているが、それは敵が現れた驚きと言うよりも……ここにいるべきじゃない人物が現れたことに対する驚きだろう。
そこには、ドヤ顔で背中から生えているであろう氷の羽をパタパタと羽ばたかせながら飛んでいる妖精チルノがいた。
「……またお前の仕業かっ!」
「ち、違わい! あたいだって迷惑してるんだよぉ!」
この異常な気温の犯人を見つけたと魔理沙はミニ八卦炉をチルノへと傾けるが、チルノは必死に否定する。
「……そりゃあ異変だもの、このバカ以外にも、殺気立ってる妖怪はいくらでもいるわよ」
そんなチルノを庇護するように、霊夢が口を開く。
「そんなもんかぁ? ……って、それならこの異常気象は誰のせいだってんだ――寒いっ、マジで寒いぞ霊夢ゥ〜」
「そんなこと言ったって……それなら一回神社に帰る?」
「いや……そこまで寒いわけではないんだけど……なんて言うか、気持ち悪い寒さだぜ」
そこまで寒い訳では無い、しかし無視できる寒さでもない。表現するとしたら『悪寒』
熱があるわけでも、風邪をひいているわけでもない。なのに何故か震えが止まらない。
魔理沙の体力は、寒さによってどんどん削られていく。
「魔理沙……?」
寒さに正体はない。それは身体が感じるものだから、それ以上でもそれ以下でもない。
ならば、ここの寒気は? 魔理沙だけが体を縮め震えている理由は?
答えはただ一つ、
「ッ、霊夢……私は、も、ダメだ……気付くのが、遅かった――――」
魔理沙が寒気の元凶を知るとともに限界を迎え、落ちる。
「魔理沙!?」
慌てて、落ちていく魔理沙を抱え上げる。
「……凄い熱、さっきまでは何も無かったのに」
霊夢は赤く染まった頬に気が付き、魔理沙の額に手を当ててみる、すると、異常なまでに熱が上がっていた。
霊夢も同じく、魔理沙とおなじように、この寒気の元凶にたどり着く。
「やっと気づいたのねェ〜」
瞬間、背筋が凍りつくような『寒気』に襲われる。
霊夢の背後にはこの寒気の元凶であり、魔理沙を戦闘不能にした妖怪『レティ・ホワイトロック』が立っていた。
「ッ――あんたが魔理沙を」
「そうね、白黒の魔法使いさえ倒せば、後は楽勝だからねェ」
レティの最後の言葉に反応する。魔理沙さえ倒せれば、後は自分より弱いものしか残らない。煽るように包み込んでいた一言が、強く胸に刺さる。
「『フロストコラムスッ!』」
たしかに、霊夢にだって思うところはある、だが以外にもその言葉はチルノの胸に強く突き刺さっていた。
「霊夢、魔理沙を連れて逃げて」
「嫌よ、私だって少しはやれるわ」
霊夢に逃げろと強く提案するチルノだが、霊夢は拒否する。
「……ダメだよ、霊夢。魔理沙を抱えながら戦えるの? それとも魔理沙の仇討ちのつもりで魔理沙と一緒に落ちようとでもしてるの?」
必死の形相で、チルノは精一杯霊夢を説得する。
「そ、それでも……私は戦わなきゃいけないのよ! 魔理沙をこんなにされて、引き下がるわけには……」
「違うんだよ霊夢! もし生きているのが魔理沙だったらとかそういう話じゃあないんだ! あの妖怪『レティホワイトロック』は『寒気を操る』! 人間が太刀打ちできるような相手じゃないんだよ!」
『寒気を操る程度の能力』それが『レティホワイトロック』の力である。
『自然の力』を操るその能力は、一見強力なように見える、しかし。
その力は、寒気を『操る』能力なだけで、寒気を『つくる』能力ではない。『もの』の元々の温度を下げるようなことは出来ない。ただ人に寒さを伝えるだけの能力……の、はずだった。
だが、力の使い方は、使用者によって多種多様に変貌を遂げる。寒気(かんき)を操り、寒気(さむけ)を呼び起こす。そしてその寒気は身体が過去の記憶を思い出す。『風邪』であれ『熱』であれ、身体が思い出せば、脳が追い付かなくても、勝手に身体が思い出した記憶に付随し始める。
魔理沙の身体は、過去に罹った『風邪』を引き起こし魔理沙を再起不能にした。
その寒気を操る能力こそ、魔理沙が知らぬうちに落とされた理由であり、霊夢が勝てることの無い絶対的な理由でもある。
冬の季節のみに抜刀される、その刃は命にも届きうる。
恐ろしい、レティ・ホワイトロックの能力に霊夢は寒さに関係なく、震える。
そして、そのことを鑑みてなにも言い返すことが出来ず、霊夢は先へと進むことにした。
「チルノ、絶対勝ちなさいよ」
森の方へ逃げ、飛び去って行った霊夢だけを見つめてレティはすぐさま追いかけようとする。
「逃げられちゃったじゃない、すぐに追いかけて……」
だが、
「待て……霊夢たちは追わせない。あたいがここで止めてやる」
レティの目の前に、氷の壁が創り上げられる。
「……今、なんて? もしかして、妖精のアナタが妖怪である私を『足止め』するって言ったのかしら?」
チルノの創り上げた氷の壁を、いとも容易く破壊し、この吹雪の中、気温よりも冷たい眼で、チルノを睨む。
「……いいや、間違えた。そんなこと、言いたいんじゃかったのさ……」
チルノの宣言にレティの威圧が迸る。
気圧され、チルノは怯み前言を撤回する……かと思われたが、
「ここで、お前を『撃ち落とす』って言いたかったんだッ!」
その逆、いくら相手が格上だったとしても燃え上がる不屈の闘志。
こうして、燃え上がった闘志は消えることは無い。どれだけ風が吹こうと、温度が下がろうと、チルノの体内で燃え続ける。
「喰らえッ! 『アイシクルフォーールッ!!』」