紅魔館のエントランス。
そこでの突然の攻撃に、霊夢は戸惑っていた。
何も無い空間から飛び出してきた『銀のナイフ』……かと思えば音もなく消える。
技術とも、超スピードとも言い表せない不思議な事象。その真実を暴くことだけに集中して、それ以外のことが頭に入ってこなかった。
そう――既に自分の周りを、銀のナイフで埋め尽くされていることに、気づかなかった。
「――ッ!?」
瞬間、銀のナイフは動き始める、霊夢に向かって。
一本、二本と霊夢の肌に銀のナイフが刺さっていく。深くは刺さらないものの、その量は数え切れない。
どこにいるのか、そもそも存在しているのかすら分からない『敵』に翻弄され続ける霊夢だった。
だが、
(今まで投げられたナイフは、一本残らず『消えている』)
そんな中でも、霊夢の脳は凄まじい速度で動き、計算し、次第に敵の能力を炙り出していく。
(物音一つ立てずに、私の周りをナイフを投げては回収しながら走ってる?)
そんなこと、不可能だろう。
これで、霊夢の念頭にあった『超スピード』の線は無くなる。
(速すぎ……というよりかは、時間でも止めてんじゃないの? 羨ましい限りね)
こうして、敵の能力に当たりをつける霊夢……だが、それだけでは、この攻撃が止むことはない。
(長いこと止めていられるとは思えないし――)
そこで、霊夢はある一点だけに狙いを定め、手に持っていたお祓い棒を投げつける。
そして、霊夢は後ろに手を伸ばし、敵を掴まえる。
「掴まえた……!」
時を止める相手に、お祓い棒が当たるとは思ってもいない。だからこそ霊夢は逆に当てないように投げて、敵に余裕を与え、そこを掴まえる。
「ナイフを投げる程度では致命傷は与えられない。けど、不用意に近づいていくのは危険かもしれない……でしょう?」
だから、まったく関係の無い位置にお祓い棒を投げ捨て、油断させて掴まえる。
「さあこの霧晴らさでおくべきか……ってね!」
そうして捉えた敵は、青色のメイド服に身を包んだ瀟洒なメイド。『十六夜咲夜』だった。
一つため息をつき、咲夜は持っていたナイフを宙に放る、そしてそのナイフが床に落下すると同時に、
「一応、名乗っておきましょう。私は『十六夜咲夜』と申します」
「ああそう、私は博麗神社の巫女『博麗霊夢』よ」
いつの間にか、いや、時を止め霊夢の背後に回る。
これが、時止めの真価なのか、ここまで近づかれていても、声をかけられるまで気づきすらしなかった。霊夢の額に冷や汗が流れる。
背後を取られたからか、霊夢は両手を上げる。
咲夜はそれを、ただの降伏の合図だとは受け取っていない。
長いようで、一瞬の出来事、霊夢の手が少し動いたかと思えば、どこからかお祓い棒があらわれその手に収まる。それと並行して霊夢は振り返り、咲夜に攻撃を仕掛ける。
完璧に虚をつかれた咲夜に、その攻撃は当たるはずだった。しかし、
「『ザ・ワールドッ!!』私以外の全てが停止するッ!」
霊夢の攻撃は当たらずに、咲夜の目の前で停止する。
「この棒、いったいどこから取り出したのでしょうか……まぁ関係の無いことですがね」
目の前まで迫ってきていたお祓い棒を奪い取ると、見えない所へと放り投げる。
「……よし、これでいいでしょう――時は動き出す」
時が動き出すと、何事も無かったかのように、霊夢の手は敵がいたはずの空間を通過する。
その手に握られていたはずのお祓い棒もどこかへ消えていた。
「時を、止めたのね」
「……さぁ、何のことでしょう」
突然の出来事に戸惑うこともなく、咲夜の能力の最終確認を行う霊夢と、能力を暴かれたことを悟らさせないように瀟洒に返す咲夜。
二人の間に流れる静かな時間。そんな今にも崩れさりそうな不安定な静けさを、二人は受け入れるしかなかった。
片方は敵の能力の強力さ故に、もう片方は敵がぼやけているが故に、二人とも動けない。
そのまま数秒の時間が経つ。
煮え切らないこの状況に先に痺れを切らしたのは咲夜だった。
ナイフを装備し、霊夢に向かって攻撃の姿勢をとる。
そしてそのまま、時を止めようとした刹那――咲夜の後頭部に衝撃が走る。
一瞬、何が起こったのか分からなかったが、すぐに状況を飲み込めた、攻撃されたのだと。
後方を振り返ればそこにはお祓い棒が地面に転がっている。咲夜自身どこに投げたのかすら覚えていないというのに、『誰か』がお祓い棒を発見し、投げつけてきたのだろう。
「くっ……」
咲夜がもう一人の敵を探そうとするが、霊夢はその身一つで突っ込んでくる。
もう一人の敵を探しにいけば、霊夢にやられる、目の前の霊夢を対処していれば、後から迫ってきているであろう敵にやられてしまう。
兎にも角にも、時を止めようとした、その時。
何かが動く音がする。
木製のものが、少し動いた音。
そんな音に気をとられ、霊夢にふところに入られてしまう。
「アンタは『一手』間違えた」
強く握られた霊夢の拳に、咲夜の顎は強く打たれる。
気絶し倒れる一瞬前、お祓い棒が頭上を通過したように見えたが、咲夜にその真偽は分かるはずもなかった。
「いもしない敵にビクついている暇があれば、時でも止めりゃよかったのにね」
飛ばしたお祓い棒を掴み取り、霊夢は口を開く。
昔から博麗神社に置かれていたお祓い棒。それを霊夢は手を使わずに自由自在に動かすことが出来た。
それ以外は何にもできないので、それが霊力とか魔力を使って動いているわけじゃない。
生まれながらに与えられた才能の二つのうち一つ、だと霊夢は思っていた。
◆ ◆ ◆
その頃の魔理沙は、紅魔館の図書室のような場所で紅茶を飲みながら、魔導書を吟味していた。
パチュリーが部屋にこもった後、三秒と待たず降伏してきた小悪魔は、隣でせっせと魔理沙が散らかした部屋の片付けに勤しんでいる。
「……紅茶おかわりだぜ」
「あ、はいはい少々お待ちを〜」
マスタースパークを打ち消す程の魔力を有する『強敵』が、砂埃によって戦闘不能になった。
そんな事実を認めたくないような、またここに来てついでに戦えばいいかなとか考えながら、魔理沙は魔導書のページをめくる。
かれこれ三十分ほど、ここで魔導書を読み漁っている。
いつまで経っても、あの強敵の体調が回復しないらしい。
あと五分音沙汰もなければ、屋敷の探索に戻ろうと考える魔理沙だったが、どこからか聞こえる音に気づき、席を立つ。
「……なんだ、これ。声……なのか?」
どこからか聞こえる小さな声。
か細く鳴り響く小さな声は内容は聞こえないものの、誰かを呼んでいるような声だった。
扉の外から聞こえるその声は魔理沙の心を少々くすぐった。
「……行ってみるか、だぜ」
扉を開けると、その先には廊下と部屋への扉が一つ二つ。
そして、魔理沙の目をひく階段があった。
(一階なのに、下に降りる階段? 地下室があるのか?)
その階段の先を覗いてみるが、かなり深く、肉眼でははっきりと見えない。
意を決して、魔理沙は階段を降りていった。
階段を少し降りたところで、またあの声が聞こえてくる。
「さっきの声か……?」
よく耳をすませると、確かに階段の先から聞こえてくる。
その声は、激しく何かを叫んでいた。
「……ついたぜ」
ようやく、扉に辿り着く、ここまでの深さから魔理沙がいた場所まで、声が届くとは思えないが、そこまでの声量だったと考えるべきなのか。
魔理沙はゆっくりと、その扉を開いた。
えっと、あの……その……なんだかイマイチ納得がいかず、全てを変更したリメイク版紅魔郷編がはじまってしまいました。