無題   作:海猿

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東方妖々夢編
雪が止まない幻想郷


 

 

 博麗神社の一室。

 掘りごたつが備え付けられているその部屋で、惰眠を貪る二つの影があった。

 片方は黒髪で紅白の服を着た巫女『博麗霊夢』

 もう片方は、金髪で白黒の服を着る魔法使い『霧雨魔理沙』

 

「なぁ、霊夢ゥ〜」

 

「何よ……魔理沙」

 

「みかん取ってきて」

 

「ヤダ」

 

 既に季節は春を越えて夏に差し掛かろうというのに、今日も気温はマイナスを記録し、外では雪が吹き荒れている。

 

「だいたい、もう春だろうに……なんで吹雪が吹いてるんだぜ?」

「――知らないわよ……」

 

 この異常気象は、もちろん『異変』のせいなのだが、二人は気付いていない……否、気付いていないフリをしている。

 別にどれだけ冬が続こうと、このまま一生コタツの中で暮らせば問題は無いし、わざわざ自分が寒い思いをして解決するような事じゃない。

 そんな子供の言い訳のような理由で、気付かないフリをしてかれこれ一ヶ月ほどコタツの中にいる。

 

「なぁ、霊夢ゥ〜」

 

「何よ……魔理沙」

 

「みかん取ってきて」

 

「ヤダ」

 

 この一連の会話も、朝から百回ほど繰り返していた。

 

「しっかし、アレだな。こうも寒いと何にもやる気起きないな」

 

 流石に飽きてきたのか、それともみかんを持ってこさせることを諦めたのか、魔理沙は話題を変えてみた。しかし、それがこれから二人を地獄へと陥れる『フリ』になるとは誰も思わなかった。

 

「……ほんと、異変を解決する気にもなりゃしな――」

 

 寒すぎて思考が停止したのか、それとも元々の頭が悪いのか、今の今までタブーとしてきた単語を、霊夢はポロッと口に出した。

 

 その瞬間、部屋の空気は一気に凍り、音を立てて少しずつ壊れていった。

 

 

「「………」」

 

 

 二人の間に流れる数秒の静寂。

数秒間だが、一生にも思えるような長い体感時間が、二人に襲いかかる。

 そんな静寂を破ったのは、魔理沙の方だった。

 

「こーいうことは、言い出しっぺが先にやるもんだぜ!」

「いやいやいや、べっつにー? 言い出しっぺなんて言わないで行きたいやつが行けばいいんじゃあないかしら? ほら、魔理沙、寒いなら運動でもしてきなさいよ妖怪共と」

「だが断るッ! この霧雨魔理沙の最も好きなことの一つは、『冬は炬燵に入ってヌクヌクすること』だッ!」

「それは違うわ! 今はもう月で言えば六月! 春は訪れて桜が散り始める六月二十日よ? 一体全体どこをどう見れば今が冬だと認識できるのかしら?」

「ははっ! いかにもって返し方だな! まるでマニュアルが用意されてるんじゃあないかってほど正確に痛いところをついてきやがるぜ! だがな、そんなこと私にとっちゃあ、ど〜でもいいことなんだよ! この雪吹き荒れる外の景色を見れば誰だろーと今は『冬』! そう言うだろうぜ!」

「そんなのアンタの感想でしょ? 今はれっきとした六月で、職ある村人はこんの寒い中起き上がって仕事をしているわけよ……だからアンタも――はっ!」

「あははははっ! ついに尻尾を掴んだぜ霊夢ゥ! お前は今職ある村人はって言ったよな? 更に、仕事しているとまで言ってしまった! ここでチェックメイトだ! ……喰らえッ! ラストスペル『博麗の巫女の仕事は!?』」

「くっ……まさか、アンタに負ける日が来るとはね……いや、これも運命かしら……さぁ、受け取りなさい。博麗の名はアナタのものよ」

「ふっふっふ、私も成長してるってこった。それじゃあ、有り難く頂いておくぜ――ってオイ! どさくさに紛れて異変解決の役目を私に押し付けるんじゃねえ!」

「異変解決……頼んだわよ……っ。三代目」

「誰が三代目だっ!」

 

 

「「……」」

 

 

 やっと終わりを迎えた、二人の意味の無い揚げ足の取り合い。

 しかし、終わりが何かを始める合図かのように、また二人は黙り込んでしまった。

 このまま、異変のことも有耶無耶に出来ないだろうか……なんて霊夢は考えているが、それは無理な話だろう。

 

「仕方ないわね……行くわよ、行けばいいんでしょ!」

 

 異変解決こそ、博麗の巫女の仕事なのだから。

 

「よっし! それでこそ霊夢だぜ」

 

 霊夢、魔理沙と順に立ち上がり、ありったけの防寒着を装備して、暖かい炬燵部屋と凍える銀世界を仕切っていた襖を開く、その先には――

 

「咲夜ー! 見て見て! 雪のウサギさんよ!」

「素晴らしい出来栄えでございますレミリア様」

 

 銀世界を前にしてはしゃぎまくるレミリアと、身体を震わせながらも、瀟洒な佇まいで主人を見守る咲夜の姿があった。

 

「子守りって大変ねぇ」

「フランはあんな馬鹿みたいにはしゃがないぜ?」

 

 何も知らない人が傍から見れば、若い母親とその娘か。それとも少し年の離れた姉妹か。

 ともかく、すべてを知っている二人は、咲夜のことを憐れむことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔理沙」

「ん、どうした霊夢」

 

 幻想郷のどこかを、ひたすら飛び回っている二人。痺れを切らした霊夢が魔理沙に問いかける。

 

「……目的地は、どこ?」

 

 一瞬困った表情を浮かべた魔理沙だったが、すぐに誤魔化し、

 

「目的もなく、ただゆらゆらと空を舞う……そうゆうのも旅の醍醐味じゃあないか?」

 

 ドヤ顔で言い放った魔理沙に、霊夢は一瞬、いやかなりの時間どう反応したら良いのか分からなくなり頭を抱える。

 その後、数十秒経過してようやく霊夢が口を開く。

 

「『冬が居続けている』と『春が奪われている』どっちのほうが有力だと思う?」

 

 どうやら、魔理沙の迷言に反応することを諦め、この異変を解決しようと考えていただけだった。

 渾身の名言を棒に振られ、少し肩を落とす魔理沙だったが、すぐに立ち直り、

 

「春が奪われている?」

 

 勘で答える。

 

 霊夢は、そんな魔理沙の答えを聞き、一度首を傾ける。

 

「……誰がなんの理由でそんなことを?」

「さぁ? そこまでは分からないぜ」

 

 例によって全てが勘だよりの異変解決となってしまったが、霊夢に悲観の表情は見えない。

 

(意外と……慣れてしまうものね)

 

 既に見慣れた空の風景も、血に塗れた淡い思い出も、全てが眉唾のように思える。

 

 

 

 

 

 『博麗霊夢』彼女はこの幻想郷の平和を守る二代目博麗の巫女である。

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、博麗神社で雪遊びをしていたレミリアと咲夜は――

 

 

「出来たわ、『運命を写す雪だるま』略して『運命写雪(ヘルカタストロフィ)』」

「色々と雑ですね」

 

 咲夜のツッコミを無視し、レミリアはせっせと作りあげた雪だるまに手をかざし、少し力を込める。

 すると、目の前の雪だるまがどろりと溶け始めた。

 それにどんな意味があったのか、咲夜には理解出来ない。しかし、その雪だるまに向けられたレミリアの真摯な眼差しに思う。

 

「行くわよ、咲夜」

 

「はい、レミリア様」

 

 何も分からなくても、理解できなくても、この人について行くことだけが今の私に出来る最善の仕えなのだろう、と。

 

 

 

 

 

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