二度の人生を得たら世界に怒られ英霊になりました…。 作:チェリオ
『今まで原作に沿う形で進めて来たのですが、内心無理に進めていたり、設定がごちゃったりしてどうしようかと悩んでいまして、つい最近になってオリジナルの展開を含んだ物語を頭の中で構築しましたのでそちらを採用しようかと』
と考え、書き直しました。
内容が大きく変わりますが、これからも楽しんで読んで頂けたら幸いです。
1612年前後にかの有名な劇作家、ウィリアム・シェイクスピアによりアーサー王伝説の作品が発表された。
物語はひとりの少年が魔術師マーリンに拾われるところから始まる。
少年の名はサーウェル。
平凡な家庭に生まれた彼は争いごとに村が巻き込まれ、両親を失ってしまう。
たまたま少年を見つけたマーリンは魔術適正の高さと魔力量の多さを見極め、自らの弟子として育てる。
サーウェルは自身を強化する事と土属性の魔術に長けており、青年と呼ばれる年代になる頃には円卓の騎士並みの実力を得ていた。
魔術を教えられたサーウェルはマーリンに勧められるまま、アーサー王主催の大会に出場してガウェインに当たって敗退する。
肉体強化を行えば互角に近い戦いは出来たのだが出場したのは剣術大会。魔術の使用は控えたのだ。
大会終了後。対戦相手だったガウェインが戦い方に疑問を抱いて非公式に試合を挑んだのだ。
結果は引き分け。
この驚くべき結果に円卓の騎士の半数以上が彼を騎士として手元に置いておくことを王に進言。
料理が得意であったことから料理人として働き、王に見込まれてからは王専属の料理人として仕えた。
騎士団を挙げての黒きドラゴン退治では大きな深手を負わせて勝利に貢献し、不仲だったモードレッドとアーサー王の間を取り持ったりと色々な働きを見せる。
物語の最終章ではランスロットとギネヴィア王妃との不義の恋で崩壊し始め円卓からアーサー王の最後まで描かれる。
それまでのアーサー王伝説であればモードレッドが反乱を起こすのだが、この物語では違うのだ。
アーサー王が反乱を起こしていないモードレッドを殺そうとするのだ。
信じていたランスロットの裏切り。
裏切りにより命を落とした騎士達。
修復不能なほど崩壊した円卓。
これらの事により王は疑心暗鬼になってしまった。
悲しみに不安に苛まれた王はモルガンが関わっているモードレッドを怖がり恐れた。
この時には仲は良好でお互いに信じあっていた。
だからこそモルガンが唆してモードレッドが裏切ったら?
もう耐えきれる自信はない。円卓どころか心が崩壊してしまう。ならばいっその事……。
そんな不安に飲み込まれてしまった王は兵を挙げてモードレッドを討つ事を決意。
信頼しきっていた王からの仕打ちにモードレッドは愕然とした。
何故こんな事になったのだと項垂れていたモードレッドを救おうと駆け付けた人物―――サーウェルはモードレッドの前で騎士の誓いを立てて王を裏切る事を宣言した。
サーウェルの思いは仲の良い二人の殺し合いを何としても阻止すること。
その為にはまず戦いを止めなければと動き出したのだ。
交渉に取引と何度も打診したが聞き入れられず、最終的に戦へと発展してしまったが。
アーサー王は歴戦の騎士達を連れ、サーウェルは騎士姿のゴーレムを大量に用意し戦った。
結果はアーサー王の軍勢の半数以上を喪失させ、ゴーレムは全機消失というものになった。
カムランの丘でサーウェルが戦っているのに籠っている訳にはいかないと戦いに参加したモードレッドは、アーサー王との一騎打ちを挑む。
アーサー王は剣と槍を振るい未だ躊躇っていたモードレッドを圧倒し、倒す寸前まで追い込んだ。
最後の最後にサーウェルがモードレッドを庇い、槍を受け止めたところをモードレッドの一撃を受け、それが致命傷となり命を落とすことになる。
サーウェル自身もモードレッドの身代わりとなった際の一撃で命を落とす。
最後を看取ったモードレッドは残っている騎士達と斬り合い、戦いの果てに命を散らした…。
この作品はシェイクスピアが発表したものではあるが、大本は彼の友人が残した記録より書き起こしたものである。
友人は資産家で、ロンドンへ渡る道中出合った老人である。
老人の名はウォルター・エリック。
莫大な資産を保有していたエリック家最後の当主。
彼も変わった人生を歩んできた。
若い頃の記録はほとんど残っていない。
出生記録や両親が若い頃に亡くなったという記録しかなく、この頃は何をしていたか全くつかめない。
青年期もまた然り。
彼の名が出て来たのは五十歳頃である。
ロンドンに移住してきた彼は莫大な資産をまるで湯水のごとく浪費し始めたのだ。
それも全部演劇関係にだ。
何かしら公演があると知れば連日詰めかけたり、複数の劇団のパトロンになったり、新しく建設する劇場建設費の援助などなど。当時の演劇関係の人物からすればありがたい話だろう。無茶な話以外は二つ返事で資金を回してくれるのだから。
特にシェイクスピアとはパトロンと言うよりは友人関係を築いていたようでかなり親しく、そして多くの支援を行っていたらしい。
そんな舞台狂いの彼がシェイクスピアと出会ってから十五年程経つと、演劇関係以外にも資産を用いるようになった。
――『アーサー王伝説』の発掘作業。
アーサー王伝説はただの物語と思われている反面、実際の事だと研究している方々がいる。
ウォルターはとある地域の土地を購入し、大規模な人員を用いて発掘事業に着手。
その際に発掘された物はすべて目を通し、いつも手帳に何かを書き記していたらしい。
発掘作業は三年に及び、その後は掘り起こした地を元に戻して売り払い、前と同じ日々を繰り返した。
この事に作業に従事していた労働者は何も出てこなかったんだなと当時の新聞記事で語り、世間も金持ちの無駄遣いと笑っていた。
二年後、彼の死後にシェイクスピアがあの作品を発表するまでは。
遺言に則り、ウォルターの屋敷の管理することになったシェイクスピアは彼の屋敷を一般公開した。
屋敷には掘り起こされた土の一部に数々の発掘された品々が並べられ、厳重な警備が配置されていた。が、正直発掘された品々はアーサー王伝説と関係なく、それほど価値あるものではなかった。
一体の木造人形を除いては…。
当時の一流人形師を巡り作らせた一品で当時では見られない程精密できめ細やかな造形に拝見しに来た人々は見惚れて時間を忘れるほどだったそうな。
その人形は生前にウォルターが書き残していたメモ帳に記載されていた“モルド”という物語に登場するゴーレムの軸の模造品らしい。
モルドとはサーウェルの手により創り出された最高傑作のゴーレムで、他のゴーレムと違い意志を持っていたと作品で語られている。戦闘自体も可能だが本来は給仕用に造られたもので、造られたきっかけはモードレッドを揶揄う為と言う悪戯が理由との事で、外観はモードレッドそっくりだとか。
他にもウォルターが残した手帳にはサーウェルに関する記述があり、ほかにも何かしら発掘したのではないかとアーサー王伝説の研究科が探していたりする。
こうした事からウォルター・エリックは資産家やアーサー王伝説の研究者として知られ、シェイクスピア関係の番組などで取り上げられることになる…。
まぁ、彼の変わった人生の中で一番変わっている事を知る人はいないのだが…。
床も天井もない漆黒の世界。
存在するのは薄っすらと輝く私と私が腰かける長椅子。
そして左右に立てられた姿見の鏡。
ハァ…これはどうするべきなのでしょうか…。
僕は平々凡々な生活を送っていたと思う。
別段高い目標もなく、ドラマチックな人生も歩んでいない。
普通に働き、何の目標もなくただ生きて、小さな喜びと小さな不幸を呪いながら大きな変化のない変わり映えのしない日々を過ごしていた。
死後に転生なんて体験をさせられるまでは…。
訳が分からないまま、映画などで見た事ある昔のヨーロッパで資産家の息子として生を受け、新たな人生を歩いて行くことになるのだが、元が元だけに平凡にその日その日を過ごして来た。
別に何かがしたい訳でもないし、これで良いかと暮らしていました。
けれどさすがに暇すぎました。
テレビも普及していないこの時代には現代のように娯楽が少ない。
本を読んだりもしましたが歳を重ねるごとに目が悪くなってきましてね。45歳辺りになると文字がぼやけて読めないのです。
どうするかと悩んでいた頃に演劇の話を耳して劇場まで足を運び観覧。
久々の心躍る娯楽にすっかりのめり込んでしまいました。
ただ劇場まで自宅が遠かったのと、住んでいる地域では劇場が少ない事が難点でして、50歳手前でロンドンへ移住しようと思った訳です。
大きな馬車を数台購入し、いざロンドンへと向かっていた道中、意外な人物と出会い意気投合。
まさかあのシェイクスピアに出会えるとは夢にも思いませんでした。
……少々言動や行動が大仰な芝居がかっていて胡散臭さはありましたが…。
どうやら彼らもロンドンへ向かうらしく、ならばと相乗りを提案して、行くまでの間は彼の話を延々と聞きました。
それからは彼が公演したものもそれ以外も見まくった。パトロン活動も始めて多くの人と関わりを持って前世に比べて充実した日々を送ったと自負しています。
そんな生活が続き、新しい趣味でも見つけたいなぁとぼやいたところ『脚本を書いてみるのは如何かな?』とウィリアムに言われたのだ。
当時の私はすでに50を越えたおじさん――いや、お爺さんと言っても良いような年齢。今更脚本家としてデビューする気もないし、自身の文章能力が高く無い事は百も承知。だから適当に返事を返して流した。
けれども頭が待ったをかけた。
『別段人に見せずとも良いのではないか』と。
つまり自分だけの小説――ゼロからオリジナルを書くのも良かったが二次小説を書いてみるのはどうだろうか思ったのだ。
あの時代は現代日本より神話や伝説が身近だったような気がする。
私は数ある伝説の中で【アーサー王伝説】を手に取った。
そこから毎日のように設定を考え、ストーリーを構築し、閃いたアイデアをアイデア帳に書き込んだ。いつも持ち歩いているノートを覗き見ようとしたウィリアムとの攻防は楽しかった。
サーウェルと言う主人公の名前を決め、大まかな流れを書き込み、あとで隙間を埋めていく。
料理が得意だったり、魔術師としての才覚を持って居たり、ゴーレムを作れたりと色々書いたさ。
アーサー王伝説と関わりあるとされる地域の一部を買い、発掘作業も行って資料集め……は、あまりうまくいかずにお土産に掘り起こした砂を大量に持って帰ったっけ。
他にも作品に登場するゴーレムの見本に木製人形の設計図を書き、職人に見せたら変態か変人と言われたのだが何故だろうか?
二年をかけて書き上げたメモ帳はもはや黒歴史。
………良し、封印しよう。
さすがに自分で捨てるのは気が引けたので信用できる人物に処分して貰おうと遺言を書き残した。
もう歳だったし、身体も悪くなっていましたからね。
他にも家の事も頼んだりもした。代わりに残った資産を自由に使ってくれと…。
誰も黒歴史を自由にしていいとは言っていなかったのですが、何故作品として発表しているんですかねぇ!!
知識で得た内容は亡くなった友人に捧げる作品として発表された事には感動した。そこまで想っていてくれたのだと。されど黒歴史は勘弁してほしかった。
その結果、私は二度目の生を終えてここに居る。
――英雄の座…。
僕にはこんなところに居座る資格なんてないのですがこれもウィリアムのせいです。
転生なんて言う貴重な体験はしましたが基本的にただ人である私が英雄である筈がない。
今やアーサー王伝説の一部となり、サーウェルが英霊になるのは理解しましょう。
納得もしましょう。
受け入れもしましょう。
ですが僕と儂まで英霊の座に居るのはおかしいでしょうに。
僕、金城 久は左へ視線を向ける。
そこにある姿見の鏡には久の姿はなく、黒いコートを着込み、シルクハットを被り、天辺に赤い水晶が付いた杖を持った儂、ウォルター・エリックがこちらを見つめている。
次に右へ視線を向けると漆黒の鎧と槍に鉈のような剣を装備した私、サーウェルが微笑みを向けて来る。
僕も私も儂もなんでこうも揃って椅子に腰かけてるのはどういうことなのでしょうねぇ。
こう座っている間にも聖杯なるものから多彩な知識が流されてくる。
出来れば僕も儂も戦いなど参加したくはないものなのです。
まぁ、騎士であった私は別なのでしょうけど。
え?戦うのは好きではないと。
そうでした、そうでした。
そう書きましたね。
誰かが呼ぶ声がする。
出来れば平和な日常を謳歌したいですが致し方ありません。
儂が仕出かしたことで生まれた私なのです。
自分の尻を拭いに行かないと怒られそうですし…わざわざ私のような不忠者を呼んでくださった方に申し訳ありませんから。
まもなく、召喚される事を理解して瞼を閉じる。
もし、万に一の確率でも出会えるならアイツは殴ってやろう。
そう心に決めて。
サーウェルは呼び出しに答える。