二度の人生を得たら世界に怒られ英霊になりました…。   作:チェリオ

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第11話 「全面戦争 初戦」

 「んー…おっかしいなぁ」

 

 月夜が照らす夜空を上半身は鷲、下半身は馬の幻獣“ヒポグリフ”に跨って眺める黒のライダーことアストルフォはぽつりと漏らした。

 

 聖杯大戦を行うに当たってユグドミレニア一族は長い年月を費やしてきた。

 当主のダーニックは大聖杯を奪取してからこのルーマニアのミレニア城砦の地下へと隠し続け、呼び出すサーヴァントを選定し、召喚するに必須となる聖遺物を獲得。

 年月もさることながら膨大な資金も費やし、持てる全てを出し切るようにこの戦いに挑んでいる。

 大量生産した魔力タンク兼歩兵戦力のホムンクルスに、稀代のゴーレムマスターが生み出したゴーレム軍団。

 ルーマニアの地で絶対的な力を得るヴラドⅢ世を含めた世界に名を轟かす英霊達。

 敵は大聖杯を手に入れようとミレニア城砦に攻め込むしかなく砦を持ち、防衛に周るだけの黒の陣営は有利――に事を運ぶ予定だった。

 

 狂ったのは黒の陣営の一人、ロシェの裏切りからだ。

 ロシェはダーニックの指示を無視して別のサーヴァントを召喚、アストルフォとの戦闘後に赤の陣営に寝返った。さらには黒のアサシンのマスターと連絡が途絶、シギショアラの街で補足したものの赤と黒の陣営同士の衝突になってしまい見失ってしまう。

 

 予定していたサーヴァントは七騎から五騎へと減少し、ゴーレム軍団を得ることは不可能となったわけだ。

 

 ここまででもかなりの痛手を被ってしまったというのに、赤の陣営は追い打ちをかけるように予想外の手段を用いてきた。

 一個の都市ごと浮かべたような巨大な空中要塞。

 地上には数千もの竜牙兵が闊歩し、空中は竜翼兵が要塞を護るように飛行している。

 要塞ごと移動し、大軍を率いて現れた時には絶望すら感じた者は多かったろう。

 けれどサーヴァント達もダーニックも諦めておらず、持てる戦力を持って迎撃を行っているのだが、予想外に状況は黒の陣営に傾いている。

 

 『ライダー。状況を報告しなさい』

 

 マスターのセレニケ・アイスコル・ユグドミレニアからの念話に反応しながら戦場を一望する。

 開戦時とそうは変わらない戦況に不思議そうに首を傾げる。

 

 「報告って言ってもさっきと何ら変わりないよ。至って順調だよ」

 

 真下で繰り広げられている竜牙兵とホムンクルスの大軍同士の激突は拮抗状態を保っているが、後方より支援していた赤のアーチャーは黒のセイバー“ジークフリート”と黒のバーサーカー“フランケンシュタイン”が抑え込み、黒のアーチャー“ケイローン”は師弟関係にあった赤のライダー“アキレウス”と接戦を行い、周囲を焼き尽くす高火力を放つ赤のランサーは黒のランサー“ヴラドⅢ世”が抑え込むどころか優勢に戦いをしている。

 残る赤の陣営のセイバーにバーサーカー、アサシン。そして裏切者の黒のキャスター“サーウェル”の姿も確認されていない。一騎当千のサーヴァントをこの状況下でも隠す理由が分からずに、ダーニック達は困惑している。

 ただ赤のキャスターだけはあの空中要塞を維持、またはコントロールする必要が有りそうなのであそこに居るだろうと予想は出来る。

 では他は何故?

 疑問が自身からも発生するがひとまず放置しておこう。

 

 「ボクは予定通りやれば良いんだよね?」

 『勿論よ。行きなさい私のライダー』

 

 念話越しにマスターがに邪悪な笑みを浮かべている姿を想像できる声に苦笑いを浮かべる。

 帰ったらまた舐められるんだろうか…。

 がっつりと精神が削られるような感覚に襲われるが、今気にするのはそっちではないのでとりあえず放置しておく。

 ニカっと笑みを浮かべて突っ込んできた竜翼兵の間をすり抜けながら、馬上槍を思いっきり振り回す。

 人であればかなり厄介な相手である竜翼兵もサーヴァントの前では雑兵と変わりなく、振るうたびに数体が砕け散る。

 脆すぎる。

 脆いのだがあまりに数が多すぎる。

 負けることはないのだが飽きは来る。

 

 「もう!全然減らないよぉ―――良し。こういう時はっと」

 

 これが赤のランサーなら黙々と倒して行ったかも知れないがアストルフォは面倒になっている。

 多く持つ宝具の中からお目当てのものを探し出し、高らかに小さな角笛を掲げる。

 

 「それじゃあ一列に並んで。行くよぉ恐慌呼び起こせし魔笛(ラ・ブラックルナ)!」

 

 真名を開放すると角笛は巨大化し、アストルフォに巻き付くように展開された。

 周囲を囲むように展開していた竜翼兵は、現れた宝具を危惧してか一気に距離を詰めようとするが、サーヴァントからしてみれば遅すぎる動きで焦る必要すら感じさせないものであった。

 

 「散れ!」

 

 吹かすと周囲の竜翼兵が音波に飲み込まれ、一瞬で数百の竜翼兵が粉々に粉砕された。

 障害物のない空間をヒポグリフが駆け抜けて、アストルフォは空中に浮かぶ要塞へと接近したのだが…。

 外壁上に一人の女性を視認した。

 興味深そうに眺めるドレス姿の女性はサーヴァントで間違いないだろう。

 しかも空中要塞に居るという事は赤のキャスターの可能性が高い。

 

 「赤のキャスターとお見受けする。どうかお覚悟を!」

 「外れだ。我はアサシンだ。が、魔術にも多少心得があってな―――失墜(おち)ろ」

 

 周囲の空間に陣が描かれ、咄嗟に魔術万能攻略書(ルナ・ブレイクマニュアル)を手にする。

 紫がかった電撃のようなものが自分とヒポグリフに襲い掛かるが、魔術万能攻略書により発生した対魔力によって霧散させた。

 本当は別の名前だったんだけどどうにも思い出せず、仮の名前を付けたがこれでもAランクの対魔力が得られる。

 赤のアサシンは感心したような顔で短く息を吐いた。

 

 「これは驚いた。我の魔術を防ぐとは」

 「ボクの方にも備えはあるからね」

 「ではこれはどうかな?」

 

 ぱちんと指を鳴らすと今度は先の数倍もの陣が複数現れ、周囲を囲むと眩い光で覆われた。

 目つぶしという訳ではなく、先ほど以上の電撃の攻撃により目が焼けるような光が発生しただけだ。威力は比べ物にならないほどで魔術万能攻略書(ルナ・ブレイクマニュアル)の対魔力を貫き、ヒポグリフとアストルフォに大きなダメージを与えた。

 電撃が止むと同時にヒポグリフは消え、アストルフォは頭から地面へと降下する。

 何の術もなく頭から激突して煙幕のように土ぼこりが舞い上がる。

 

 「イタタタ…たんこぶが出来ちゃうよ」

 

 普通の人間なら死んでいた所だがサーヴァントにしたらこの程度では死ねないし、寧ろダメージになっていない。

 頭をなでなでと摩りながら上を見上げると何もなかったように浮遊する要塞が見える。

 現状どうしようもない事に対してどうしようかと悩み始めると、遠くから近づいてくるエンジン音が耳に届く。

 

 

 振り向くと自身へと速度をあげながら突っ込んでくるキャンピングカーが映った。

 

 

 「うわぁあああ!?」

 

 猛スピードで蟹走りの如くドリフトしながら迫ってきたキャンピングカーを何とか避け切るが、慌て過ぎたのか顔面から地面に突っ込んでしまった。

 ぶつけた鼻頭を抑えながら振り返ると、タイヤ痕を派手に残して停車するキャンピングカーよりサーヴァントが降りてきた。

 

 見忘れる訳がない。

 聖杯大戦初のサーヴァント同士の戦いを行い、自分が相手を務めた元仲間。

 

 「元気そうだね君」

 「そちらは随分とボロボロだけどね」

 

 立ち上がり、馬上槍を構える。

 相も変わらず鉈のような剣を構えて対峙するサーウェル。

 背を向けたキャンピングカーより怒声が響く。

 

 「オイ。お前が先に出んのかよ」

 「ここは私に任せて頂けますか?モー…セイバーは先へ」

 「……チッ、敵城の一番乗り済ませてるから後から追って来いよ」

 

 短くそれだけ会話を済ませるとキャンピングカーは再び発進して猛スピードで戦場を駆けて行く。

 残った二人は見つめ合いながら膠着状態を保つ。

 止まったままでは埒が明かず、アストルフォは頬を掻きながらぽつりと言葉をかける。

 

 「一応聞くけど赤の陣営として参戦したんだよね?」

 「はい。赤の陣営側に付いて―――いえ、赤のセイバー陣営(・・・・・・・・)に加わってここに立っております」

 

 妙な直しに疑問を抱いて首を捻る。

 何と無しに理解した。

 薄っすらとした勘程度だけど気のせいじゃないと思いたい。

 

 「う~ん、ちょっとこれは勘なんだけどさ。君達もしかしてボク達と仲間になれるんじゃないかな?」

 「可能性は無きにしもあらずと言ったところでしょうか。勿論現状は不可能ですが…」

 

 少し残念だなぁと呟きながらも望みが無いわけではない事に笑みを零す。

 正直言えばあの日の事を後悔していた。

 あの少年は助けを求める者の瞳をしていた。それをマスターの命とは言え無理やりにいう事を聞かせようとした自分。断ったところで令呪を使われただろうというのは言い訳だ。

 ボクは英雄としてあるまじき行為をしたと思っている。

 それを防いでくれた彼には感謝しているのだ。

 

 「それでそれで君はボク達と戦いに来たと」

 「我が主君の命はそれに近いですが、ここに来たのは私情」

 「と、いうと?」

 「貴方との決着を付けに来ました」

 

 困ったような表情で語られた言葉よりその表情自体が多くを語っていた。

 ごちゃごちゃと考えるなんてらしくない。

 負けず嫌いの騎士が自分を指名して現れたんだ。

 ならばやる事は一つしかない。

 

 「そっか。そうなんだね。―――良し!」

 

 元からそれしかないと言われればその通りだが、心持がだいぶん変わって感じる。

 今は凄く晴れ晴れとした気持ちで槍を振るえる。 

 

 「元騎士王専属料理人兼騎士で、現在ロシェ・フレイン・ユグドミレニア様のサーヴァント、サーウェル!貴殿に一騎打ちを申し込む者なり」

 「シャルルマーニュが十二騎士が一人、アストルフォ!受けて立とう!!」

 

 不敵に笑い合った二人は飛び掛かり、振り下ろした得物同士が激突して辺りに余波で薙ぎ払う。

 まるで一緒に遊んでいるかのような無邪気な笑顔を浮かべて…。

 

 

 

 

 

 

 モードレッドは懐かしさのあまりニヤケ面を晒してしまう。

 アイツが先陣を切るなんてあの時(・・・)以来なんじゃないか?

 

 「何か面白い事でもあったの?」

 

 唯一同乗している(・・・・・・・・)ジャック・ザ・リッパーが首を傾げながら疑問を口にする。

 英霊でもないただの殺人鬼のジャックに悪感情しか抱いていないモードレッドだが、今は気分が良くて普通に「おう」と肯定した。

 赤の陣営も黒の陣営もぶつかり合っていて自分達に対応することは出来ず、ただ敵地をドライビングするだけというのもつまらない。暇潰しがてら昔話を聞かせてやるのも良いかも知れないな。

 

 アレは何時だったか…。

 そうだ。

 ブリテンの地に黒いドラゴンが現れた頃だった。

 人気の少ない地に巣を作り、大人しくしていれば何もなかったかも知れないが、ドラゴンは上空より狙いを定めて人間を襲い出した。

 時には食事。時には遊び道具として多くの民を殺した。

 王は騎士を送りつけたが、ドラゴンの硬い鱗に覆われた表皮を貫けずに敗退。

 次は円卓の騎士を含んだ大規模な討伐隊を差し向ける事となり、俺やランスロット、ガウェインを含めた円卓の騎士が五名が討伐隊に組み込まれた。

 討伐隊には当時は鉄で出来ていた鉈を主武器としていたサーウェルも居り、見た時は驚いたものだ。

 道中の休息の時に声を掛けると「騎士としてでなく調理班として同行している」との事だった。

 まぁ、ドラゴンとの遭遇まで日数があったし、道中芋か干し肉だけの食事からサーウェルの飯にランクアップしたと思えば食事が楽しみになったという事でそれほど気にしなかったが、考えてみればおかしなことばかりだった。

 

 何故行軍中のサーウェルは他の食糧班と行動を共にせずに陣形の中央に居るのか?

 何故いつも隣にガウェインが監視するように居たのか?

 何故マーリンがにやにやと笑みを浮かべていたのか?

 

 答えはドラゴンと遭遇後、王の口から告げられた。

 

 ―――サーウェル。ドラゴン討伐の先陣を切る事を命じる。

 

 あの時のサーウェルの驚きようと言ったらもう思い出しただけでも笑っちまうよ。

 キッチンでは冷静沈着で調理中は真剣な表情を崩さないアイツが目を見開いて口をあんぐり開けてからおろおろと狼狽えるんだ。笑っちまうだろ?

 

 Q:私は調理班として呼ばれたのでは?

 A:―――すまない。そうでも言わないと実戦を嫌っている事から道中逃げ出しそうだったのでな。

 

 Q:ドラゴンの装甲は剣では貫けぬと聞きましたが?

 A:―――マーリンから聞いている。何でも貫通特化の魔槍を保有しているらしいな。

 

 Q:魔術強化によって近接戦は行えますが肉体的に得意という訳ではありませんので…。

 A:―――魔槍を使用後、魔術での後方支援を任せよう。

 

 何とか逃げ道を探しては口にしても、王により一刀両断にされ、結局は渋々先陣を切らされることになったんだ。

 槍っつても投擲用の槍だった事もあってアイツは投げたら速攻で下がろうとしていたよ。

 何故分かるかって?

 足はドラゴンでなくすぐ振り向けるようにしてたし、腰がもろに逃げ腰なんだよ。新米の騎士でもあそこまで酷くねぇってのに。

 そして奴は言われるがまま槍を投擲したんだ。

 

 「で、ドラゴンは死んじゃったの?」

 「いや、生きてたよ。アイツ肝心なところでミスりやがってな。胴体を狙っていた筈なのに右翼に当てちまったんだよ」

 

 一撃で仕留めそこない、それまで余裕を見せていたドラゴンは目の色を変えて襲って来たさ。

 なにせ逃げようにも翼を砕かれて飛ぶことも出来ないし、槍は翼だけでなく右腕まで貫いてしまったんだからな。

 手負いの奴ほど恐ろしいもんはない。

 必死な抵抗に俺達円卓の騎士も本気で斬り掛かり、サーウェルの魔術による支援を受けて討伐するには討伐したが想定していた以上に被害は大きかった。

 あのドラゴン退治以降アイツは戦場に赴いた際には決して臆するような事はしなくなったんだ。

 もう二度と自分の愚かな行動で味方に被害を出さないようにと。

 

 「へぇ、そうなんだぁ」

 「っと、無駄口が過ぎたな。テメェ、やる事忘れてねぇな!!」

 「うんと………解体?」

 「違ぇよ馬鹿!」

 

 ようやくミレニア城砦に接近し、数体のホムンクルスが立ち塞がるがモードレッドは城砦にしか目を向けていない。

 ジャックの方は解体しようかとホムンクルスしか見ていないが、無駄な事に時間を裂いている暇はない。

 

 「俺達がやる事はあん中にある大聖杯の捜索だ。邪魔する奴は倒せば良いが、逃げる奴は放っておけ!良いな!!」

 「解かったよ。邪魔する奴だけ解体すれば良いんだよね」

 「――――それで良い」

 

 舌打ちしながらとりあえず肯定しながらモードレッドは鎧を装着して天井を突き破って外へと躍り出る。続いてジャックも飛び出し、二騎は立ち向かってくるホムンクルスだけを切り裂き、城内へと侵入を果たした。

 全ては他の赤の奴らと黒の陣営を出し抜いて自分達が大聖杯を手に入れる為に。

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