二度の人生を得たら世界に怒られ英霊になりました…。   作:チェリオ

13 / 25
第12話 「全面戦争 動く第三勢力」

 「ウゥアアアアアア!!」

 

 フランケンシュタインは避ける事も躱す事もしないどころか概念すら持っていないように、アーチャーに対して我武者羅にただ前へ進むべく駆け抜ける。

 最悪だとアタランテは苦虫を潰したような面で、弓を構えては矢を放つ。

 英雄・英霊であるサーヴァントであるからしてただの人間相手なら前衛を行える。

 殴るだけでも一国の軍隊でも相手に出来る自信がある。

 得物を手にし、魔力供給を安定させれるならば三千世界とて一騎で滅し切れる。

 だが、サーヴァント相手ならばいけない。

 誤差の範囲内で同じ土俵に立つ彼ら彼女らの戦場ではそうはいかない。

 

 「これだからバーサーカーは!!」

 

 目前まで迫ったウエディングドレスを着たフランケンシュタインの一撃を躱し切り、距離を取ろうと後ろへと跳躍する。

 同時に振り抜いて立ち止まった標的に二、三発矢を撃ち込んでおく。

 どうせ痛みなど感じてないのだろう。

 どうせ何事もなかったように突っ込んで来るのだろう。

 頑丈な肉体を無防備なまま晒し、重鈍な凶器を振り被ってこちらの命を絶たんと向かってくるのだろう。

 

 せめて足を止めようと力を込めた一矢を膝へと放が、矢は直撃する寸前で叩き落された。

 忌々しくも足を止めていたフランケンシュタインの横をすり抜け、接近するジークフリートへ矢を向ける。

 

 「すまないが――ここで倒させてもらおう」

 「厄介な!」

 

 弓兵でありながらも現状狂戦士と剣士の二騎の相手をしなければならない。

 ちらりと横目でカルナの方向を見るがあちらはあちらで戦っている。

 正直この戦場は赤側が不利過ぎる。

 サーヴァントの数が足りないというのにシロウ・コトミネは赤のバーサーカーの出撃を渋っている。さらに大規模な攻撃手段を有している空中庭園は移動と防衛するばかりで自ら戦闘に参加する意欲を感じさせない。

 さらにこちらの有力な二騎が押されているという事もある。

 神性持ちあるいは神造兵器でなければ傷一つ受けることの無いアキレウスに、魔力消費は激しいが大規模な火力を誇るカルナ。

 サーヴァントの中でも高い戦闘能力を持つ二人でも黒の陣営を押しきれない。

 向こうには場所がルーマニアという事で補正が入って通常以上に強くなっているヴラド三世と、名前までは知らされてないが神性スキルを持ち、アキレウスと対等に渡り合えるサーヴァントが居るらしい。

 当初ならカルナが抑えてアキレウスで敵サーヴァントを複数抑えるという策で行けたが、現状それも叶わなくなってしまい八方塞がり。

 後はシロウ・コトミネが言う作戦が上手く行くことを願うばかり。

 

 接近してくるジークフリートは距離を詰めながら剣を振り被る。

 フランケンシュタインのように振り被って足を止める気はないらしい。

 後ろに距離を取ってもそのままの勢いで詰めてくるか…。

 覚悟を決めなければならないだろう。しかしながらただでやられる気はない。

 そんな思いを抱きつつ弓を振り絞ったアタランテはちょうど中間に落ちた影に気付いて手が止まる。同様にジークフリートとフランケンシュタインも警戒しつつ立ち止まる。

 空から何かが振って来て、勢いによって砂ぼこりが立ち、確認がし辛い。

 お互いに何があるか分からない状況で迂闊に動けず距離を取って、砂ぼこりが晴れるのを待つしかない。

 

 「アイタタタ…どんだけ吹っ飛ばすんだよアイツ」

 

 目を凝らして見つめていると土ぼこりの中から姿を現したのは、腰を強打して摩っているアストルフォであった。

 不利だった状況がさらに上がって最悪となる。

 ただでさえ二騎を相手にしていたというのにここに来てさらにもう一騎追加など対応仕切れるわけがない。幸い落ちてきたアストルフォは状況を理解しておらず無防備。

 好機と見たアタランテはすかさず矢を射るが、咄嗟に前に出たジークフリートが身を挺して庇う。

 

 「うぇええ!?ちょ…大丈夫!?」

 「問題ない。動けるかライダー」

 「勿論動けるさ」

 

 矢が通じていない。

 舌打ちする余裕もなく迂回するようにフランケンシュタインが迫る。

 ここまでだろう。

 一旦撤退を視野に入れて行動しなければ殺られる。

 

 「石壁よ」

 

 小さな呟きが耳に届き、振り向くとそこには漆黒の鎧に真紅のビロードマントを靡かせた騎士が立っていた。

 フランケンシュタインの目の前に地面より壁が生え、突然の事に足を止めさせる。そして次の瞬間には壁の中腹より横向きに壁が生えてフランケンシュタインの腹部に直撃して吹っ飛ばす。

 

 「貴様は黒のキャスターだな」

 

 直に会った事は無いがシロウより報告は聞いていたので、すぐにそれが黒を裏切ったサーヴァントだと理解した。

 

 「えぇ、そうですが…嫌な所に出てしまったようですね」

 「前衛を任せれるか?」

 「無理ですね。今の私では一騎が精々」

 

 セイバーのような出で立ちだったために多少期待したが、やはり現状は変わらないか。

 

 「ですので―――石棺よ」

 

 すぐ近くで地面が盛り上がり、あっと言う間に棺のような形へと変貌する。

 

 ―――起きよ。

 棺の蓋が開いて中より騎士の鎧を着用した隻腕の青年が姿を現す。

 ―――戦闘態勢。

 脇にあった剣を手に取り立ち上がり正面を見据える。

 ―――正面の二人を敵対勢力と視認せよ。

 瞳が動いて相手をしっかりと捉える。

 ―――隣の女性は仲間だ。 

 ちらりとこちらへ視線を向けて来る。

 

 「ゴーレムマスターだったな」

 「逐一命令せねば動きません。それと性能はサーヴァントに劣ります」

 「何もなかった先ほどよりずいぶんとましだ」

 「では、私は支援に回ります」

 

 数では互角だがこれがどうなる事か…。

 向こうもアストルフォを新たに含めてこちらと戦う気満々らしい。

 視線を合わせて戦闘に備える。

 

 先に動いたのは黒の陣営だった。

 敵の先鋒を務めるのはフランケンシュタイン。

 馬鹿みたいにまた正面より突っ込んで来る。

 対してサーウェルは焦る事もなく周りに目を配り、短く息を吐き出して微笑んだ。

 

 「下がれベディ!―――石槍!!」

 

 フランケンシュタインの進行方向に待ち構えるように地面より土の槍が生え、槍先を得物で薙ぎ払う為にも足が止まる。

 その横をライダーが走り抜ける。かなり高い突進力で突き進むが、同じ要領で土の壁が何枚も展開され…。

 

 「アイタァアアアア!?」

 

 顔面から突っ込んで行った…。

 バーサーカーでも立ち止まるだけの知性を持っていたのに、あちらは考え無しかと呆れながら槍先を薙いだフランケンシュタインの膝に矢を撃ち込んだ。

 唯一突破したジークフリートが剣を振り被る。

 迎撃するはサーウェルのゴーレムだが、真っ向から斬り勝とうとはしていない。

 躱したり、受け流したりして足止めに専念させて動きを鈍らせている。

 

 ―――いける!!

 前衛としては弱々しいがそれをカバーし得る能力と技術。

 しかし油断して気を抜けば一気に瓦解する。だからその前に方を付けなければならない。

 

 意気込みを胸に次の矢を構えた。

 

 ―――ガァアアアアアア!!

 

 森からここまで届いた咆哮に手が止まり、この場に居る全員の動きが止まった。

 その叫びは全員の胸中に不安を抱かせるには充分な異質な叫びであった…。

 

 

 

 

 

 

 ミレニア城砦近くにある森の中に、聖堂教会の神父であるシロウ・コトミネの姿があった。

 通常のマスターなら自身のサーヴァントを前面に押し出して、身を隠すのが上策である。下手に前に出ても敵性サーヴァントに補足されれば、一部の例外を除いて殺害されるのは必至。

 戦場から離れていると言っても危険地域で、いつサーヴァントが向かってきてもおかしくない状況で、彼は悠々と散歩でもしているかのように歩いている。

 別段死にたがりという訳ではなく、ここを歩いているのは待ち合わせをしているからに過ぎない。

 

 「お待たせ致しました。頼んでいた物は出来てますか?」

 「勿論です。こちらで宜しいかな?」

 

 ようやく出会えたシェイクスピアとジーン・ラムに微笑みを向けながら頼んでいた品の催促を口にする。

 さっさと戦闘地域より離れたいシェイクスピアは頼まれた日本刀を持って、足早に近づいて差し出した。この日本刀はシェイクスピアのエンチャントにより強化された物で、これならサーヴァントを仕留めることも可能となる。

 受け取った日本刀を握り、刀身を鞘より覗かせて日本刀の状態を確かめると満足気に頷いた。

 

 「要求通り…それ以上ですね。どうですキャスター。今からでも私の下に来ませんか」

 「急な話ですな。しかもその言い方ではまるでマスターを裏切ってと言わんばかりではありませんか」

 

 「貴方は聖杯に願う望みではなく、その過程を閲覧したいのでしょう。なら私は特等席を準備できますよ」

 

 その提案はシェイクスピアにとって渡りに船であった。

 なにせ彼は指摘された通りに聖杯への願いではなく、誰かが手にするまでの工程に興味があるだけだ。

 獅子劫達と共に前線近くに行くよりは空中庭園で眺めていた方が身は安全だし、何よりこの物語を観測しやすい。

 

 「なるほど確かに確かに。それはとても魅力的で心が躍ります」

 「なら―――」

 「ですが残念ながら私は応じることが出来ない。なんとも悲しく惜しい事ではありますが、貴方とはここでお別れのようだ」

 

 風が吹いた訳でもないのに草木が騒めいた。

 同時に駆け抜ける足音に反応して刀を鞘より抜き放って、躊躇う事無く振るう。

 激しい金属音と火花が散った。

 敵対者を視認すると紫色の鎧を着た騎士であった。

 

 「そういう事ですか」

 

 後ろに跳躍しながら懐に忍ばせていた黒鍵を指と指で挟んで複数本構えるが状況を理解して投擲する前に動きを止めた。

 目の前のランスロットタイプのゴーレムもそうだが、右斜め後方に銃器を構えた獅子劫とガウェインタイプのゴーレムが剣を構え、左斜め後方には銃器を手にしたモルドとロシェが待機しており、完全にシロウは囲まれていた。

 

 「貴方は黒の陣営に戻ったという事でしょうか」

 「先生から貴方は信用できないと仰られました。ならそれはボクの敵です」 

 「貴方がたをこちらに受け入れるのを認めてしまったのが裏目に出てしまいましたか。まさかこうも味方から刃を向けられるとは…」

 

 交渉の余地のないロシェに苦笑を浮かべ、獅子劫やラムにも視線を向けるがどちらも似たような反応だ。

 

 「出来れば殺さずに済ましたい。投降してくれると楽なんだが」

 

 冷静かつ容赦のない瞳がこちらを睨みつける。

 熟考する余裕はなさそうだ。

 しかしながら投降や誰かの言いなりになる気はない。

 シロウ・コトミネにも叶えたい大望があり、それは手の届く位置にまで引き寄せられておるのだ。

 諦めきれる筈もない。

 

 「で、どうするのかしら?たった一人でサーヴァントを相手に……訂正するわ。魔術師三人とサーウェル特製のゴーレム三機を相手にするつもりかしら」

 「確かに分が悪いですね」

 

 例え日本刀を持っていても数の有利と地の利を得た相手に勝てる保証はない。

 構えていた手をぶらりと下げて抵抗の意志は無いように見せる。

 

 「残念ですがここでお別れのようです」

 

 諦めて死を選んだような言葉に油断せず、獅子劫はトリガーに指を掛け、脳天へと狙いを定めた。

 シロウ・コトミネはここで終わる。

 イレギュラーさえ無ければその筈であった。

 

 「本当に残念で仕方がありませんよ。味方陣営を殺してしまうかと思うと心が痛みます。ですがこれも人類の救済の為――――バーサーカー」

 「ガァアアアアアア!!」

 

 木々の間より何者かが跳び出してシロウの前に着地した。

 異常な身体能力に呼称したバーサーカーというクラス名。

 理解した獅子劫とラムは示し合わせたかのように木々で姿を隠す。

 それがどれほどの意味があるかなどは承知のうえで…。

 

 「クソッ!俺達の行動なんて予測済みだったって訳か!!」

 「いえ、元々彼女は制御が難しく連携が取れないので控えさせていただけでしたが、それが光明と成ったようです」

 

 「そろそろアサシンが目的を達成させるところでしょうから良い頃合いです」

 

 戦場を知らないロシェでもコレは不味いことは理解している。

 例えサーウェルのゴーレムが三体あろうともアレには勝てないと察している。

 

 「これは不味いですよ!」

 「言われなくとも解ってる!こういう時は逃げるぞ!!」

 

 獅子劫の判断に従って一目散に逃げだすマスター達を掩護するようにモルドはスモークグレネードを辺りに投げて離脱する。

 慌てる様子もなく見送ったシロウは安堵の吐息を漏らす。

 

 「逃げますか。良いでょう――私は追わないでおきましょう」

 「私ハ―――ワタシハ…」

 「お行きなさい。あちらには貴方が探している者、欲している物がありますよ」

 

 シロウの言葉を耳にしたバーサーカーは目を見開いて、示された方向を充血した瞳に睨みつける。

 遠くに見える古城…。

 目標を捉えたバーサーカーは喉を潰さんばかりの咆哮を上げ駆けだした。

 鮮血で染まり、所々が破れている青のバトルドレスを纏った彼女は、漆黒に染まる聖剣とみすぼらしい槍を手に走り続ける。

 自らの望みを叶えるだけを願い、仲間と共(・・・・)に戦場へと遅参するのだった…。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。