二度の人生を得たら世界に怒られ英霊になりました…。 作:チェリオ
――咆哮が聞こえた。
それは聞こえたか聞こえないかの僅かな声。
勇ましくも悲しくもある魂の叫び…。
僅かでも聞き取ったモードレッドはミレニア城砦内より外を見つめる。
窓より咆哮が聞こえた方向へと視線を向けようともその姿は映らない。代わりに憎らしい奴らが微かに映る。
舌打ちしながら駆け出す。
「ここでもないねぇ。あれ、何処に行くの?」
駆け出したのを防衛戦力であった武装したホムンクルスを解体したジャック・ザ・リッパーは、首を傾げて疑問符を投げかける。足を止める様子がないことに慌てて追い掛ける。
「ねぇねぇ、どうしたの?」
「うるせえ!テメェは聖杯を―――ッ!?」
探しとけと言い終わる前にモードレッドは足を止める。
走っていた廊下に影が落ちる。
月明かりが雲によって遮られたのなら気にしない。が、月明かりを一部遮った物の影は雲では無く、見ただけでも人工物の類だと理解する。
振り返って窓より上を見上げるとそこには降下を始めた空中庭園の姿があった。
何をする気だと眺めていると空中庭園の下に建っていた屋敷が上部から崩れ、引き寄せられるように空を舞う。…いや、引き寄せられるようにではなく、実際に引き寄せられている。
「――チッ!」
目の前で奪われる大聖杯。
遠くから聞こえるあの人の悲痛な叫び。
自身の願いを叶えるのであれば迷う事無く大聖杯へと駆けるべきだ。
苛立つモードレッドは舌打ちひとつ慣らし、大聖杯を後回しにして後者へと向かおうとする。
「大聖杯は任せる。俺は別にやる事が出来た」
「やる事?」
「あぁ、ワリィな…」
立ち止まりそれだけ告げられたジャックはキョトンと驚き、にっこりと満面の笑みを向ける。
「良いよ。なら行ってくるよ」
「――任せた」
ジャックは空中庭園が吸い上げている方へと走り出し、モードレッドは窓を突き破って駆け抜ける。
あの人の下へと向かう為に。
―――悪夢か。
ロシェは先生に頼まれた事柄を完遂出来なかったという罪悪感より、背中にビシビシと感じる圧を発するサーヴァントに対して悲痛な悲しみを覚える。
森の中を駆ける獅子劫 界離にジーン・ラム、ウィリアム・シェイクスピアに続いて走り続けながら、ちらりと背後を振り返ると、青色のバトルドレスに手には聖剣らしき武器に鎧こそ違うもののモードレッドに瓜二つの顔立ちが瞳に映り込む。
何度も目にしたあの青いバトルドレスに手にする聖剣エクスカリバー。
モードレッドに瓜二つのその顔。
悲痛と苦しみに歪む表情の
邪険にされたモードレッドと騎士王の間をとりなし、意地で早食いを開始した二人を諫めたり、マーリンの厄介事に巻き込まれたりする日々。
色々面倒な目にも合いながらも調理場で繰り広げられる騎士王とモードレッドのやり取りを穏やかな笑みを浮かべて眺めていた
先生。
先生がその日々やあの最期をどう思っているのかを察する事は出来ないが、一つだけ分かる事がある。
あの人と先生を絶対に戦わせる訳には行かない。
いや、あのような騎士王を見せる訳にはいかない!
「斬り捨てろ!!」
足を止めて命令を発する。
今にも追い付こうとしていたアルトリアは上段より斬りかかったゴーレムの一撃を防ぎ、
「アァァ…アア!」
弾き飛ばしてゴーレムを正面より見据えたアルトリアは信じられないものを見たかのように、目を見開き慄いた。
それが一体何を意味していたのかをロシェは知る由は無かった。
が、それこそ最悪の選択を取ってしまった瞬間だった。
血涙を流し始めたアルトリアは憎らし気に表情を歪めてゴーレムを睨みつける。
その夢で見て来た表情と大きく異なる禍々しい顔に短く悲鳴を漏らしてしまう。
「ソウカ…貴公マデ私ヲ裏切ルカ……ランスロット卿!!」
叫びあげて聖剣を高らかに掲げて何かをしようとしたが、その前に甲高い発砲音と同時に後方へと吹っ飛んで転がった。
何事か理解できずに辺りを見渡したロシェは、デグチャレフPTRD1941を片手に全力疾走してきたモルドに抱えられ一気に獅子劫達と合流させられる。
「離脱します」
「駄目だ!!アレは先生に出会う前に何とかしないと」
「ゴーレム如きでサーヴァントを倒せるならこの聖杯戦争は当に決着がついてます。冷静になって下さい」
「―――ッ!?……すみません」
淡々と言われた言葉に熱くなった心が覚め、冷静になって謝罪を口にする。
先を見つめると森を抜けたところで獅子劫達が、ここに来る前に調達した八人乗りの大型車へと乗り込もうとしているところであった。
「遅いぞ何してた」
「叱咤は後に。出してください」
森の方へ視線を向ければアルトリアは立ち上がり、先ほどしようとしていたように聖剣を振り上げた。
何をする気なのかは理解できないがさせるのは不味い。
ロシェは素早くランスロットを模したゴーレムに時間を稼ぐように命じる。
倒す事は不可能だとしても遅延行為なら多少は出来るだろう。
振り上げられた聖剣は地面に深々と突き刺され、周囲は真紅に染まる。
赤々と輝く森の中に薄っすらと何かが…誰かが浮かび上がった。
それは騎士だ。
軽装備の鎧に剣と盾を手にした騎士。
否、それだけではない。
体格を一回りも二回りも大きく見せる鎧を着込んだ重装備の騎士。
騎馬に跨り槍や自軍の紋章が描かれた旗を手にする騎兵。
己の身長より長い槍を手にする騎士。
様々な装備を付け、得物を手にする騎士団。
時間を稼ごうとしたゴーレムは
「出すわよ」
六導 玲霞の声が社内に響くと車は全速力で走り出す。
見た目に反して荒々しい運転に車内は大きく乱される。
あっちこっちに転がりそうになったロシェはモルドによって無事だが、ジーン・ラムも獅子劫 界離もウィリアム・シェイクスピアも床の転がって抗議の視線を向けていた。
「おい!なんて運転するんだ!!」
「あら?貴方のサーヴァントに教わったのだけれど」
「教わる相手を確実に間違えている気がするわ」
「吾輩もそうは思いますが、今はアレから逃げることが先決でしょう」
「それで何処に向かうのかしら?」
「ミレニア城砦へ。あの爺さんが上手く事を運んでくれることを信じてだけどな」
当初の予定とは狂い、応用を利かすと獅子劫に連絡してきたウォルターを信じて敵地へとロシェたちを乗せた車は進むのであった。
ミレニア城砦は混乱の真っただ中にあった。
戦場にサーヴァントが出払っている状態での、赤陣営の空中要塞での奇襲。さらに大聖杯の奪取などを敢行されれば当然と言えば当然だろう。
フィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニアは弟のカウレス・フォルヴェッジ・ユグドミレニアと共に当主のダーニック・プレストーン・ユグドミレニアの下へと向かっていた。
「どういう事だ!何故ここに居るのだ!!」
曲がり角の先からゴルド・ムジーク・ユグドミレニアの怒声が聞こえ、曲がり角より顔を覗かせるとそこには怒りを露わにするゴルドと不審げに通路よりダーニックの室内を睨んでいるセレニケ・アイスコル・ユグドミレニアの姿があった。
何事かと二人に並んで中へと視線を向けるとダーニックと対面している一人の人物がそこに居た。
誂えられたスーツにシルクハット、杖を手にした老人はその鋭い眼光と嘴のような鷲鼻をダーニックからフィオレ達の方へと向けた。
かなりの高齢者のはずなのに姿勢は一切の乱れなく、長年かけて得た力強さが瞳に籠っていた。
「落ち着け。話を続けようか」
それはゴルドに向けられたのか、あの老人に向けられたのかは分からないがダーニックは話を続けるつもりらしい。
「誰だよあの爺さん」
「ウォルター・エリックと言ってたわ。何でもサーウェルの一面のひとつとか」
セレニケが出した名前にフィオレは思い出す。
確かアーサー王伝説を研究していた人物で、サーウェルの存在を調べていた資産家。
一面のひとつの意味が理解しきれなかったが、今重要なのはそこではない。
そのサーウェルの関係者が何故ここにいるのかだ。
ウォルターは静かに口を開いた。
「儂らからの提案は一つ。赤側のバーサーカーを倒すまでの共闘」
「我らを裏切り、奴らを裏切った貴様たちを信じろと?」
「信じろなど烏滸がましいことは言わないさ。ただ利用しろと言っておる」
まさかの言葉にフィオレを含めて眉を歪ませた。
すでに二度に渡り黒の陣営と戦闘を繰り広げたサーウェルの使いが、共闘を口にすれば当然そうなる。
特にセレニケとフィオレは戦ったサーヴァントのマスターとなれば尚更だ。
だがそれを口にすることはない。
空気は読めるし、今交渉している相手はダーニック。
なら黙って静観が適切だろう。
そう判断した二人を差し置いてゴルドが憤怒を露わにして一歩も二歩も前に出る。
「ふざけるな!貴様らの力を借りずとも我らは――」
「――吠えるな若造」
部屋中に響き渡る怒声を静かに放たれた言葉が消し飛ばした。
言葉に込められた威圧に鋭い視線が向けられたゴルドは息を呑み口を閉ざした。
黙り込んだのを確認してウォルターは続ける。
「本来の計画であれば儂らは戦闘のどさくさに両方へ攻撃を仕掛けて乱戦に持ち込んで、大聖杯を奪う計画じゃったがあの赤のバーサーカーを見たらそれどころでは無くても。あれは中々儂らに因縁深い存在で放置できん」
「だから倒すまでの共闘か」
「それにもはやユグドミレニアには現時点で勝機はないじゃろう?
ユグドミレニアは大きな力と資金を持っておる。始めであればユグドミレニア一族の勝機は揺るがないと思っておったが、現状はもうそうではない。
赤側がここに大聖杯がある事を知っており、奪う手段を模索していた事からあのうさん臭い神父めは同じぐらい前から準備を進めていたと見える。
すでに大量の資金を消費し、防衛線を有利にする砦は崩壊。戦力であるサーヴァントは数で負け、多を占めるホムンクルスは大きく数を減らされた。そして止めと言わんばかりに大戦の要である大聖杯を奪われた。
これから大聖杯奪還の為にサーヴァントを動かしても、あの赤のバーサーカーが召喚した大量の騎士によりミレニア城砦は蹂躙され、マスター達は皆殺しに合うであろうよ」
何の感情も無く、淡々と突き付けられる事実をダーニックは静かに聞き続けた。
表情には忌々しく思うところがあったのだろうが、訂正や批判は一切せずにありのまま受け入れた。
「確かに少しでも戦力が欲しい状況ではあるな」
「儂らを後方に置けとは言わぬ。あの赤のバーサーカーを倒すために力を貸す―――いいや、貸して貰いたい」
上から“貸せ”でも対等に取引するのでもなく“貸してほしい”と減り下った言葉に深々と頭を下げた行動に、ダーニックは微笑む。
「ふふっ、良いだろう。赤のバーサーカーを倒すまでの共闘だ」
「良いのですかダーニックおじ様」
「こうなってしまっては致し方ない。それにこのままでは我がユグドミレニア一族の悲願が潰えてしまう」
質問に簡潔に答えたダーニックは四人の間を通り過ぎて何処かへと向かおうとする。
っと、その前に部屋を出た辺りで足を止めて、ウォルターへと振り返る。
「最前線を任せる。精々役に立って貰うぞ」
「畏まった。役に立たせてもらおう」
それだけ言うと歩みを続けて去って行った。
交渉が済んだウォルターも早々に部屋をあとにしようとしたが、その前にフィオレは気になった事があり呼び止める。
「一つ質問があるのだけれど…」
「何かなお嬢さん」
こちらに向けられた表情はゴルドに向けられたものと違いとても穏やかな表情であった。
だからと言って彼に対する警戒心は消えることはない。
「貴方は赤のバーサーカーを見たからと仰られました。しかし現れてからここに来たにしては早すぎる。貴方は何をしにここへ来たのですか」
予想は出来る。
だからこそ聞いてみたい。
ウォルターは少し考える素振りをして、一人納得したように頷いた。
「儂の肉体は土くれで出来ており、改造するには容易く再度作る事は可能。乱戦となれば敵地に忍び込んで使い捨ての駒として指揮官を潰すのに向いていると思わんかな?」
笑いながら答えられた内容にタラリと冷や汗ひとつ流す。
もしも赤のバーサーカーが現れずに自分の所に来ていたら…と怖がったわけではない。
そんな事を百も承知であったダーニックが二人っきりで交渉していた事実。
何故と疑問も沸くが、どうやってダーニックを交渉の場に付かしたかの方が断然気になり、同時にこの老人が恐ろしいものに見えた…。
咆哮が聞こえたのはモードレッドだけではなかった。
ミレニア城砦より森に近かったサーウェル達にはより良く聞こえていた。
声の主を察するだけでなく、森で作戦を実施していたマスター達が失敗した事も…。
苦虫を潰したような面を晒し、殺気を向けて来たアタランテから跳躍して距離を取り、ゴーレムへの命令権を自分に戻しておく。。
それらの事にジークフリートもフランケンシュタインもアストルフォも不審に思って攻める手を止めた。
「貴様…裏切ったな」
「伝わったようですね」
身の危険を感じながらもそれ以上にマスターとの繋がりを確認し、無事だという事に安堵する。
マスターが無事なのは良いが自身がいま最も危険な事には変わりない。
後方には
完全に挟まれた状況に表情が歪みそうになる。
焦りを出さぬように気を付けながらアタランテの言葉に答えて行く。
「裏切りに裏切りを重ねる――信用を一切合切失う行為ですが、あの神父とアサシンにはモルガンに似た嫌な感じがしたんですよ。ああいう類は絶対何かしら厄介な事を仕掛けてくるでしょう」
「だから我々を裏切るか」
「貴方達というよりは神父を裏切ったが正解なのですが、まぁ同義語としてとられるでしょうね」
会話を続けながらこの状況を打破しようと思案する。
前方の黒のサーヴァント達を蹴散らしてこの場を脱出―――不可能だ。生前の私ならいざ知らず、現状の私では接近戦に持ち込んだ時点で敗北する。
なら後方の赤のサーヴァントを倒す―――無意味だ。例え倒せたとしても黒のライダーに追い付かれるし、疲弊した上で三騎を相手にすることになる。
黒の陣営に戻るか―――あり得ない。私は裏切者で、さらに裏切りを重ねた事を察している彼らが私を受け入れる筈がない。
とりあえずこの場を生き残る為に赤のアーチャーに今は共闘しようと持ち掛ける―――無駄だな。私ならそんな相手を囮にして撤退を行う。
どれだけ思案しても打破する方法は浮かばない。
焦りで冷や汗を掻きそうになる。
「さて言い残す事はあるか?」
「たくさんありますがそれら全て聞いてもらえますか?」
「時間稼ぎなら待つ気はない。それに私が待ったところでお前は死ぬだろう」
「潰されるか斬られるか貫かれるかされるでしょうね」
会話を長引かせても無意味。
なら命を使い潰す覚悟で彼らに少しでも手傷を追わしてモードレッドに託す。
それしかない…。
そう思い込んだ瞬間、黒のサーヴァント達の表情が変わり、戦闘態勢に変わった。
後ろから放たれた強弓に、剣を構えて突っ込んできた黒のセイバー。
絶体絶命のピンチにサーウェルは覚悟を決め―――次の瞬間にはその覚悟は無駄に終わっていた。
「…何故?」
漏れたのはそんな一言。
赤のアーチャーがサーウェルに向けて放たれた矢は、通り過ぎた黒のセイバーの一振りで弾かれた。
何がどうなっているか理解できなかったサーウェルに不用意にアストルフォが近づく。
「マスターからの指示さ」
「一体どういう…」
「なんでもウォルターって人が交渉しに来て、赤のバーサーカーを倒すまで共闘することになったんだってさ」
「……そうか」
同じ魂から生まれたというのに理解しかねる。
否、同じ魂が基でも生きてきた時代も経験も異なればこうも違いが出るのかと納得し、サーウェルはアタランテに向き直る。
共闘すると聞いてもこちらにも唸り声を向けているフランケンシュタインを気にしながらだが…。
「形勢は圧倒的不利だな」
「逃げられると困ります。黒の陣営に助けてもらった感謝に首のひとつでも提供したいところですからね」
「それは無理な相談だな」
強気に不敵に笑ったアタランテはある方向を指差した。
警戒しつつそちらに視線を向けると何かを聞き取り、感じ取った…。
地面が揺れる。
地震や爆発などによる揺れではなく、規則正しくリズムを刻む。
一つ一つは微かなものでも群となり、力強く踏みしめられた足音…。
隊列を組んで進む騎兵に歩兵。
見覚えのある旗を掲げた一団に寒気を畏怖を抱き、サーウェルは二歩も三歩も下がった。
不味い…不味い、不味い不味い不味い!!
血の気が引く思いに駆られながら一団の進行方向を確認すると、取り戻したかのように顔色は戻り、さらに険しい表情を晒す。
「ゥウウウ…」
「なにアレ?何処の騎士団?」
騎士団の中より騎兵が真っ先に突っ込んで来る。
対して身構える黒の陣営より先にサーウェルが石槍を複数地面より生やして槍衾を形成する。勢いを殺しきれなかった騎馬は石槍に突き刺さったが、騎士達は馬に刺さると同時に飛び降りて槍や剣を手に襲い掛かって来た。
そのどさくさに紛れてアタランテは姿を消していたが、もはや気にする余裕はない。
「撤退です。貴方がたの要塞前まで後退しましょう」
「ウゥ?」
「賛成だな。アレだけの数を相手にするのには不安がある」
「ってちょっと待ってよ。アレ全部サーヴァント!?」
驚きの声を挙げるアストルフォの言葉に焦りは大きくなる。
あの時の騎士王は酷く心を病んでいた。
なにせ子と公言しなくても少なくとも良好な関係を築いたモードレッドを、危険だと認識するほど精神が疲弊していたのだ。狂気に支配された彼女はカムランの丘に到着するまでに多くの者を殺した。
道中に村があるなら背後から討たれるかも知れないと焼き払い、旅人や商人が並んで歩いていると敵と認識して攻撃させたり、行いに付いて行けずに隊列から離れた者には裏切者として首を刎ねた。
歩けば歩くほど死人が出来、彼女に従う騎士達は忠誠心のみで狂剣を振るう悪鬼羅刹と変貌して行った。
そんなものがこの世に現界してしまえば世界は跡形もなく蹂躙され続けるだろう。
ミレニア城砦の黒陣営だけで済めば良い。
だが、予想ではあるが騎士団はそのまま突き進み、近くの街や村を潰して行くだろう。
それだけはさせれない。
聖杯大戦に無関係な人を巻き込む巻き込まないとかではなく、騎士団の皆にも騎士王にもそのような事をさせたくない一心でだ。
「先の魔術で何とか出来ないのか?」
「出来るのは多少の時間稼ぎでしょうか。陣地を構築して迎撃できれば良いのですが…」
「仕方ない。乗って!!」
アストルフォは幻獣のヒポグリフを呼び出し、後ろに乗るようにサーウェルに促す。
その警戒心の無さには考えるところがあったものの、先に行って準備をしなければいけないサーウェルには渡りに船。従って後ろに飛び乗る。
同時にベディヴィエール型のゴーレムを石棺に入るように命令して地中に戻しておく。
飛翔して駆けてミレニア城砦へと戻るジークフリートとフランケンシュタインよりも先に向かう。
心に焦りが生じているサーウェルに対してアストルフォは笑っていた。
それが妙に気になりサーウェルは首を傾げた。
「なにがそのように面白いのですか?」
「だってさ。君、ボクと最初に会った時のこと覚えてる?」
「勿論ですよ。出合い頭にマスターを狙い、足を消されたのですから忘れる訳がないでしょう」
「ウッ…そこは忘れておいてほしかったかな」
乾いた笑みを浮かべながら頬を掻く。
皮肉を込めた冗談はそこそこにサーウェルは微笑む。
「今は…
「覚えてくれてたんだ。っふふ、頼りにしているよサーウェル!」
「こちらこそ
二人は同じような笑みを浮かべる。
ただ……。
「ところでボク男だよ」
「―――え!?」
その発言でサーウェルの表情は驚きにより膠着するのであった。