二度の人生を得たら世界に怒られ英霊になりました…。 作:チェリオ
今年もどうぞよろしくお願いいたします。
空中庭園より脱出した黒陣営のサーヴァントと共に“ルーラー”ジャンヌ・ダルクは下に広がる光景に魅入る。
多くのホムンクルスが死骸となり大地を覆う。
されど無表情で命令を与えられて動く事しか出来ない彼女・彼らは最期の一瞬まで武器を振るい命を溶かす。
騎士風のサーヴァントの一振りで薙ぎ払われ、臓物の一切合切を撒き散らした。
地獄絵図だ…。
いや、英雄譚などで彩られた戦場だろうが歴史の教科書に乗っていないような小さな争いでも否応がなく繰り広げられてきた殺し殺されの命のやり取り。
自身が関わった戦場でもそうだ。
有り触れ、慣れる事の無い戦場。
「これは酷い…」
多くの骸が転がる。
絶望的な状況下でジャンヌはさらに絶望的な願いを抱いていた。
赤の陣営は確実に止めなければならない。
シロウ・コトミネは単なるマスターではなかった。
前回の聖杯戦争を生き残ったサーヴァント。
そんな彼は大聖杯を用いてナニカを成そうとしている。
死者が…。
生者の様な死者が。
アンデットの様な怪異が。
人間の様なナニカが世界を変えようと動いている。
身命を賭しても彼の計画は阻止せねばならない。
しかしながらルーラーの特権をもってしても彼を―――彼らを止める事は自身単騎では不可能極まる。
すでにシロウ・コトミネ…否、真名天草四郎時貞は赤の陣営に所属しているサーヴァントの大半を支配下に置いている。
赤のセイバーと赤のキャスターが黒の陣営と行動を共にしていただけ戦力が減少していても、一騎で五騎………天草も含めれば六騎を相手取るなど無謀以外の何物でもない。
ゆえにジャンヌは黒の陣営と協力して赤の陣営を倒そうと画策している。
黒の陣営には全サーヴァントが揃っている上に、赤の二騎が加わって数的には上回っている。が、現状地上がたった一騎で押されている状況から芳しくない。
下手をすれば地上のサーヴァントは討ち取られ、ミレニア城砦に残るマスター達は残らず刈り取られるだろう。
そうなれば地上だけでなく庭園に突入したサーヴァント達も宿主を失って時間経過とともに消失する。
忌々しそうに戦場を眺めていたジャンヌは突然の眩いほどの輝きに目を覆う。
「うおっと!?ナニコレ!」
「あれは…宝具!?」
アストルフォのヒポグリフに相席させてもらったジャンヌはミレニア城砦近くより放たれた宝具と、駆けていくサーヴァント二騎を捉えて希望はまだあるとミレニア城砦へと急行する。
彼の野望を止める為に。
懐かしい輝きにアルトリアは苦悶の表情を浮かべる。
輝きを発したのが自分が想う聖槍であるならば、持ち手は彼で間違いないだろう。
想い浮かべた相手に対し、補給し続けられている魔力を持って宝具を起動させて放つ。
何もかもを呑み込む暗闇が輝きに向かって伸びて正面から激突する。
一時は均衡を見せたが向こうを押して暗闇が相手ごと飲み込もうと突き進む。
しかしそうはいかずに押し止められた。
強い意思と誇りを感じて握っていた手が若干緩んだ。
出力が弱まって宝具は止まり、向こうも同様に輝きが消え去り静かな夜へと戻る。
彼は倒れたのだな。
また私の手によって…。
悲しみに身を焦がすような思いを抱きながら、再び騎士達を呼び出そうと―――。
ナニカが飛び出した。
死角から現れた訳ではない。
彼に意識を集中していた為に認識するのが遅れた…。
素早く剣を構えて現れた者を睨みつける。
しかしそのナニカは分かれて一つは宙へ舞い、もう一つはそのまま突っ込んで来る。
突っ込んで来るナニカは馬だった。
生物ではなく全身を土で作られた彫刻の様な馬。
この土細工には覚えがある。
瞬時に繰り返された懐かしさを払うように薙ぎ払い、宙を舞ったナニカを睨みつける。
「テメェ、何してやがんだ!!」
振り下ろされた一撃を剣で受け止め、力任せに押しのける。
着地した相手に戸惑いその名を口にする。
「モード……レッド…なのか…」
「ハッ!他の誰に見えるんだってぇの。狂化されてそこまで耄碌したか!!」
「―――ッ、モードレッド!!」
思い返される狂った激情に身を任せて斬りかかるが、側面からモードレッドより先に降りたジークフリートが先に斬りかかる。
意識を集中していただけに予期せぬ奇襲に動きが乱れる。
そこを狙ってモードレッドも混ざって猛攻がアルトリアを襲う。
二人共最優のセイバークラスであるがそれ以上にずば抜けた技量を有している。
だというのに二人の猛攻を凌ぎながら、乱れた体制を立て直した。
「…手強い」
「ったく、バーサーカーだってのにしっかりしてるじゃあねぇか…クソが!!」
「こちらの連携が上手くいっていないのもあるだろう」
連携が上手くいかないなら互いに邪魔にならないように好きにやるだけの話だ。
左右に分かれて斬りかかる。
挟撃にさすがのアルトリアも傷を負い始め、させまいと挟撃から誘導や移動することで方向を限定して斬り合う。
決して手は休めない。
少しでも時間を与えれば騎士達を召喚する宝具を使用される可能性がある。
そうなれば作戦は失敗。
サーウェルは無駄死にとなってしまう。
絶対それだけは避けなければならない。
ジークフリートの一撃を流して距離を取ろうとしたアルトリアに急接近する。
足を止める事無くその勢いのまま下段からの斬り上げでエクスカリバーを弾く。
両手は握り締めたまま上にあり、モードレッドの眼前にはがら空きの胴が晒される。
…軽い。
否、軽すぎだ。
率直な感想を抱いき、これは誘いの一手だと直感で悟った。
嫌な勘は当たり、背後より隠れていた騎士達が得物を手に斬りかかって来る。
騎士を切り払うのは簡単だ。
振り向きながらひと薙ぎに出来る。が、逆に王に背中を晒せば上段からの斬り下ろしでやられる。
逆もまた然り。
王に一撃を入れれば背後より串刺しにされる。
どうせ殺られるなら王を止める事を選ぶ。
衝撃が覚悟を決めたモードレッドを襲う。
それは正面からでも背後からでもない。
側面からの体当たり。
押し退けられたモードレッドの視界には背中で騎士達の攻撃を受け止め、王の一撃をその身に受けながらもお返しにと左腕を切り裂くジークフリートの姿が…。
「テメェ!」
「決着を」
「―――ッ、言われなくても!!」
押し退けられ崩れた体制を瞬時に立て直し、もうジークフリートは視線から外す。
狙うは王の首のみ。
「貰った!」
「まだ!」
跳びながら斬りかかるモードレッド。
左手は使えないが右手でエクスカリバーをしっかりと握り締めて斬り捨てようと振るう。
朝日が顔を覗かせ、闇夜の終焉を告げる。
世界は大地は太陽に照らされ、瞬間的に世界はオレンジ色に染め上げられる。
世界がブレた。
一瞬であるがオレンジ色に染まった光景がカムランの丘に重なったのだ。
モードレットを切り裂こうとした一撃が止まる。
僅かな隙。
この隙こそが勝敗を決した。
遅れてしまった一撃がモードレットに届くよりも先にクラレントがアルトリアを斬り捨てた。
切り裂かれた表皮より鮮血が飛び、モードレットは赤く染まる。
「王よ。貴方の負けだ」
淡々と告げたモードレット。
その表情はどこか曇り、瞳には一筋の線が出来上がっていた。
満足気にアルトリアは笑う。
「あぁ、貴方の勝ちだ」
徐々にアルトリアの身体は光の粒子となり風景に溶けてゆく。
消え去るその瞬間まで決して目を逸らさない。
「ありがとう…私の――――」
ふわりと粒子が舞い、朝日の中に消え去った。
残ったのは荒れた戦場とモードレッドと座り込むジークフリートのみ。
朝日を見つめながらぽつりと呟く。
「ったく、手間焼かせるんじゃねぇよ…」
勝ったがなんとも後味の悪さに胸が軋む。
カムランの丘と違って勝利者となったが勝利の余韻などは存在せず、なんとも言えぬ思いだけが漂った…。
アルトリアの消滅と同時に騎士達の動きが鈍り、同様に身体を光の粒子へと変えながら消え始めた。
赤く染まった大地から空へと粒子が舞う。
幻想的な光景が広がる様子に興奮気味にシェイクスピアは文章を殴り書き、光景を眺めるよりも任務を優先するモルドはシェイクスピアが付与を加えた弾丸を撃ち尽くす勢いでトリガーを引く。
王が消滅した事で戦闘目的を無くして消滅を受け入れているが、待っている時間が惜しくて仕方がない。
「道が出来ました」
「行きます!」
「了解致しました。援護致します」
ロシェが駆け出し、撃ち尽くしたKPV重機関銃を投げ捨てたモルドはホルスターに収まっているデザートイーグルを確認し、スコーピオンとMP5を手にして後に続く。
周囲には立ち尽くして消滅を待っている騎士がいる。
彼らはもはや戦う気など無いが、可能性がある以上はマスターの安全性を確保する為に排除するのが良いだろう。
道は出来ているので近い騎士だけを排除し、ロシェが駆け抜ける前に安全性を確保していく。
向かう先にはフランケンシュタインの近くで倒れ込んでいるサーウェル。
サーウェルは死に体である。
腹部からロンゴミニアドを引き抜いてから消滅のカウントダウンが始まっているほどに。
ただそれは即座の消滅ではない。
回復不可能な風穴があいてしまったが為に供給量以上に魔力が漏れ出しているという結果、魔力がキレて存在を維持できなくなり消えるというもの。
「先生…先生!」
必死に走り、倒れ込むようにサーウェルの下に辿り着いたロシェは呼びかけながら、まだ消え去っていない身体を揺するが目を開けてはくれない。
背後から自作のゴーレムに入ったままのウォルターと金城が、屈みこんで様子を伺う。
「どうゆう状況なのです?」
「えっと、やはり魔力が漏れ出ている感じです」
医者が触診するように触って魔力の流れを確かめ、予想していた通りだと悔しそうに顔を歪める。
人体であるならば血管や損傷部に処置をし、表皮を繋ぎとめるなど雑ではあるがやりようはあるのだ。
しかし彼はサーヴァントで人体に対する治療が如何ほどの効力を持つというのか。
「宝具を引き抜いたせいなのでしょうけど…」
助けるなんて到底無理だ。
ロシェは自身の力量と知識からそう判断する。
そもそも治療しようにもどうやって塞げばいいのか見当もつかない。
絶望漂う様子にウォルターは気に押せずに口を開く。
「なら簡単じゃな。穴が空いているのが問題ならば塞げばいいだけじゃろう」
「そんな簡単なことでは…」
あからさまに首を傾げて問うウォルターに泣き出しそうになりながらロシェは否定するが、カカッと笑ってニヤリと微笑む。
その様子に疑問符を浮かべながら見上げるロシェに、仕方ないですねと金城が小さく笑った。
「簡単じゃろうが。
ウォルターの何気なさげに言われた一言に固まる。
理解し切っていないままに言葉を続ける。
「儂らはこやつに関係しておるから出てきたわけではない。基本魂が一緒なのじゃ」
「生活環境と体験してきたことが異なって性格は違いますけどね」
「でもどうやって!?キャスタークラスのサーヴァントでもいれば話は別ですけどもここには先生しか…」
助けを求める様な視線を向けるロシェは、金城 久とウォルター・エリックの魂を収めた無機質で表情なんて有って無いような泥人形より言わんとすることを察する。
何という重圧だ。
何という責務だ。
何という………。
不安を口に、戸惑いを言の葉に、恐怖を表情に出そうとするも音は出ず、顔は歪むばかり。
「君がやるしかないよ」
手が震え、喉は痙攣を起こしたようにひくつき、呼吸をしようとすれば過呼吸で短い呼吸音が漏れる。
苦しそうに悶えるロシェの肩に二人が手を置いて震えを止める。
「儂らを構築しとるのはサーウェルに馴染みのある時代の土。それに儂らの魂を混ぜるだけの事。そう難しく考えるな」
「出来ますよ。貴方はサーウェルの弟子…なのでしょう」
二人の優し気な声色と温かく肩に置かれた手、そして寝るように消失するサーウェルを見て覚悟が決まった。
何をどうやっても先生を助けるんだ。