二度の人生を得たら世界に怒られ英霊になりました…。 作:チェリオ
小規模なサーヴァント同士の戦闘ではなく、各陣営が参戦した聖杯大戦の名に相応しい大規模戦闘が行われたミレニア城砦周辺は見る影もなく荒れ果てていた。
敵を迎え撃つはずのミレニア城砦そのものは半壊し、防衛機能は完全に消失してただの大きな屋敷としか機能していない。
魔力供給源兼戦闘要員として大量生産していたホムンクルスは三分の一にまで減らされ、製造する為の工房は戦闘の影響で設備の大半が破損。戦力の増強は短期では不可能な状況に追い込まれた。
これだけでも黒の陣営にとっては痛すぎる被害だ。
しかしこれだけ終わってくれればまだ良かったというもの。
黒の陣営であるユグドミレニア一族の当主、ダーニック・プレストーン・ユグドミレニアが最高戦力であった黒のランサーのヴラド三世と融合し、世界に災いをもたらす化け物として討伐されて死去。
聖杯大戦に勝利する為には必要だった最高戦力と総指揮官を同時に失う事態に加え、最良のクラスであるセイバーであったジークフリードも消滅してしまった。
ジークフリートは協力体制を取った
戦力をがたがたにされた上に大聖杯の強奪を許してしまうという不始末。
ダーニックの後継者だった事で現在のユグドミレニアの総指揮を執る事になったフィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニアは頭痛が起こる頭を軽く抑える。
勿論やられるだけではなく赤の陣営にも被害は出た。
赤のバーサーカーの撃破に、大量の竜牙兵を倒した………が、竜牙兵に至っては媒介さえあればいくらでも数を揃える事が出来るので被害に入るかどうかは相手の媒介の貯蓄具合によるので何とも言えないが…。
それにしても気が滅入る。
こちらのサーヴァントはアストルフォにフランケンシュタイン、ケイローンの三機。
赤の陣営には四騎のサーヴァントが居り、中にはヴラド三世でも手を焼くほどの英霊が二騎もいるのだ。
戦力的に非常に不利になっているというのに、向こうは大聖杯を持ち逃げしたので今度はこちらが攻め込む事になる。
空を飛行する空中庭園にだ…。
アストルフォならヒポグリフに乗って飛行できるが、他の二騎は空を駆ける事は出来ない。
勝率はほぼ0に近いだろう。
さらに追い打ちをかけるように黒の陣営内部でも乱れが見える。
私と弟のカウレスは問題ないのだけど他の二人は正直不味い状態になりかけている。
自らのサーヴァントを失い、ホムンクルスを製造したゴルドは何処か覇気がなく、今はただただ言われた仕事を熟しているだけの存在となってしまった。
ユグドミレニアの悲願に一切の興味がなく、我欲の強いセレニケに至ってはアストルフォにご執心で、彼を失うような攻撃に参加するぐらいならアストルフォを連れて逃げ出す可能性が高い。
一応監視を付けているが有って無いようなものなので、動き出す前に何か豊作を考えなければ。
いや、悩みの種と言えばもう一つある。
「貴方がたはこれからどうするのですか?」
振り返りながら瓦礫に腰かけて煙草を吸う黒と赤が混ざり合った第三陣営のマスターが一人、獅子劫 界離に問いを投げかける。
彼ら第三勢力は赤との戦闘に協力してくれたが、完全な味方と言う訳でもないだろう。
問われた獅子劫は煙草を咥えたまま、後頭部を困り顔のまま掻く。
「どうする…か。多分だがアンタら黒の陣営と協力していく―――と思う」
どうにも歯切れの悪い解答に首を傾げる。
彼らは黒側からも赤側からも裏切者の集まり。
先の戦いで第三陣営はサーヴァントを討ち取った事実から和解は難しいはず。
ならばこのままこちらと協力体制を敷いたままにすると思っていたのだが…。
「ルーラーからは何も?」
聖杯戦争の裁定者であるクラス“ルーラー”。
そのクラスが与えられた英霊ジャンヌ・ダルクは天草四郎時貞を世界に影響を与える敵とみなし、かなり弱まった黒陣営にもその協力を要請してきた。
どのみち黒陣営と戦わねばならないのでこちらにもルーラーにも利がある。
だから要請を受けるのにそう時間が掛からなかった。
「協力要請は受けたよ。うちのセイバーも赤側のアサシンを倒すまでなら協力するって言っていたしな」
「なら他に何か問題でも?」
「まぁ、ちょっとな。兎も角後はキャスター…いいや、サーウェルが目覚めてからだな」
こちらの内部事情も散々だが、どうやらあちらも問題が起こっているらしい。
ただそれがどういったものなのかは解りはしない。
はっきりと口にしなかったことから口にし辛いという事なのだろう。
無理に聞き出す事はしない。
現在サーウェルはロシェの
部屋に移してから三時間近く目を覚まさず、心配しているロシェがずっと側に付いたままだ。
「目覚めれば良いのですが…」
「大丈夫だろう。万が一にも起きなかったらセイバーが宝具でも使って叩き起こしてくれるって」
笑いながらそんあ冗談が言える彼が酷く羨ましく思える。
それだけ余裕があるのか、本当にそうしかねないのか分からないが…。
一応城砦内で撃たないで下さいねと注意して、側で控えていたケイローンと共にカウレスたちの様子を見に行くのであった。
サーウェルは目を覚ました。
何が起こり、どうなってしまったのか。
自分が覚えている範囲の記憶を呼び起こし、自分が
どうやら死に間際の私をロシェ君が救ってくれたようだ。
身体に魔力を巡らして調子を確認する。
流れに問題はない。
聖槍が刺さっていただけに詰まり、乱れ、潰されていた事を考えれば問題がない事こそ問題なのだが…。
生前通りとは言わないけれどもそれに近いぐらいには流れが良い。
これは漏れた穴を塞いだだけでなく、ゴーレム作りで教え込んだ回路で出来る限りで繋げたのだろう。
まぁ、それだけではないが…。
左手を誰かが握って温かく、顔を向けて確認すると眠りながらぎゅっと手を握り締めているロシェ君の姿が…。
「お目覚めですね」
部屋の隅で直立に立ったまま待機していたモルドが、顔を動かした事で起きた事を知って起動した。
ロシェ君を起こさないように左手はそのままに上体を起こす。
起動したモルドは声を掛け、ベッド脇に寄って立ち止まる。
「察しましたがロシェ君が直してくれたようですね」
「はい。お加減は如何で?」
「魔力の流れに問題はない。寧ろ全盛期に近くなっている」
「それは何よりです」
何より…か。
モルドの言葉を口の中で転がし、静かに飲み込んだ。
確かに燃費も格段と良くなり、魔術の行使も以前に比べて使い易く、これなら近接戦に挑んでも問題ない。
しかし…しかしだ。
もう彼らの声は聞こえない。
ロシェ君はゴーレム作りの腕はかなり上がっているが、だからと言って私の乱れた回路を組めるほどではない。
身体に沁み込むように、作られた回路と元々あった回路を繋げたのはウォルター・エリックと金城 久がサーウェルの魂に同化した事もあったのだろう。
そのおかげなのか身体に魂が良く馴染む………そんな感じがしないでもない。
「……せんせい?」
ぼんやりとした瞳で顔を上げたロシェがサーウェルを視界に捉えた。
先のモルドとのやり取りで起こしてしまったのだろう。
見つめていた瞳に光が灯り、目元には溢れんばかりの涙が貯まる。
「先生!!」
強く呼ぶ叫ぶと同時に腰辺りに抱き着き、わんわんと泣き始める。
優しく…本当に優しく頭を撫で、泣き止むまでしっかりと受け止める。
「先生…もう…もう一人で行かない下さいよ」
「えぇ、勿論っと断言したいところですが今までが今までに信用はないでしょう。ですが命を救われた恩があります。二度と勝手な真似はしないと誓いましょう」
安心したかのように泣きながらも笑みを浮かべ、うんうんと何度もうなずく。
目元が腫れるまで泣き、ようやく落ち着いた事でサーウェルはちらりと扉の方に意識を向けていた。
何者かの気配が扉の向こうからする。
魔力探知の類を使った訳でなく、普通に足音が近づいてそこで止まっているのが分かったからだ。
相手も隠すつもりがないらしい。
「それで何用でしょうか」
そう声を掛けて扉の方へ視線を向けると、ゆっくりと開いた扉より一人の少女が姿を現した。
黒のサーヴァントには居なかった顔だ。
ボロボロとは言え黒の陣営の本拠地に赤のサーヴァントが紛れ込んでたとして、こうも堂々と姿を現すとは考えにくい。
と、なると候補は一騎に絞られる。
「始めましてですね。私はルーラー、ジャンヌ・ダルクと申します」
やはりと呟きながらどこか王に似た面影のあるルーラーを見つめる。
するとロシェが警戒の色を浮かべながら、護るように立ち塞がり、表立って動いていないがモルドも隠し持っている銃に手を伸ばしていた。
そんなモルドを手で制し、ロシェの肩に優しく触れる。
「ルーラーは聖杯戦争の裁定者。いきなり仕掛けて来るとは思えません」
だから大丈夫だという想いの籠った言葉を聞き、ロシェはさっと横に避ける。
間からロシェが退いた事に笑みを浮かべるものの、戦闘態勢を維持しているモルドには警戒は解いてはいない。
少し近づくも一定の距離で立ち止まる。
「私は貴方とお話に来ました」
「話と言いますと?」
「私が対処すべき事案は赤の陣営であることは明白ですが、それでも確認は必要ですから」
「査問…と言う訳ですか」
「協力してくれますよね?」
「勿論です。マスターに危害が加わらない限りは―――ですがね」
殺意の籠ったサーウェルの視線を真正面より受けたジャンヌは一度目を瞑り、開くとしっかりと瞳を見つめながら大きく頷いた。その反応にサーウェルは他に言う事は無く、視線を緩めてジャンヌの言葉を待つ。
「では、早速―――――」
クキュルルルルルルルr~…。
お互いに真面目な表情で向き合っていた中で、誰かの腹の音が鳴り出した。
多少頬を赤らめながら表情に出さないように恥ずかしさを堪えているルーラーを見れば出どころは一目瞭然。
ここで口にするのは簡単だが、口にしないのがマナーというものだろう。
あえてスルーして聞かなかった事にしてしまえば彼女の羞恥心も多少は和らぐ筈だ。
何の反応もないサーウェルになんとも言えない表情を浮かべたが、コホンと咳払いすると再び真面目な表情に戻る。
「では―――」
クウウウウウウウゥ…。
話を再度やり直したら腹の音まで再び鳴り始めた。
今度こそ真っ赤に染まり、恥ずかしさから俯いて何も言いだしてや来ない。
これでは真面目な話など無理だろう。
「まずは食事にしましょうか?」
苦笑いを浮かべながらサーウェルはロシェとモルド、そしてジャンヌを連れて調理場に向かうのであった。