二度の人生を得たら世界に怒られ英霊になりました…。   作:チェリオ

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 十日に投稿遅れて申し訳ありませんでした。


第18話 「次の戦争の為の準備」

 聖杯大戦が開始される前と今では状況が大きく異なった。

 ルーマニアでヴラド三世を召喚し、事前に用意を行ってきた黒の陣営ことユグドミレニア一族優勢かと思われ、魔術協会と聖堂教会は協力体制を敷いて事に当たると息巻いていた頃の面影は今はない。

 裏切者(サーウェル)予想外の事態(ジャック)によって二騎が指揮系統を離れ、戦力が減少したまま聖杯戦争の火蓋を斬り、拠点だったミレニア城砦の大部分とサーヴァント数機を失った。

 赤側も単独行動に出た組(モードレッドにシェイクスピア)が出た事以外に聖堂教会のマスターが前回のサーヴァントで、他のマスターを操ってサーヴァント掌握したりと当初の予定は消え去った。

 混沌とする両陣営で自分が一番運があるのではないだろうかとジーン・ラムは思い返しながら紅茶を口にする。

 マクベスを召喚しようとして作者であるシェイクスピアを召喚したときはどうしたものかと頭を悩ませたが、彼の行動によって操られることもサーヴァントを取り上げられることもなく、なんやかんや戦闘に参加してもこうして怪我一つ追う事無くここに居る。

 自らの手で勝利を掴むことは出来なくとも、何とかなりそうな気はする。

 

 ミレニア城砦での両陣営の戦いが終了した翌日。

 今後の話を詰めるべく、残存している黒の陣営と第三勢力となるジーン達はミレニア城砦内の会議室にて顔を合わせていた。

 真面目な話をするべき場であるのだろうけど、流れている空気は何処か異端なものと化している。

 

 両陣営の中央に座る“ルーラー”ジャンヌ・ダルクは赤の陣営の動きを看過できないと、赤側――シロウ・コトミネに対して敵対する事の表明と協力の要請を口にしてから、何杯目か分からないシチューに舌鼓を打っている。

 耳は傾けているもののそれほど興味がないのか器に口を付けてシチューを啜り、分厚いパンをかっ喰らうなど食事をしているモードレット。

 自分は食事していないもののジャックに仲睦まじく食べさせては、ほっこり微笑み合っている六導 玲霞。

 シェイクスピアに至ってはテーブルの端で上機嫌に紙に文字を綴って顔すら上げない。 

 そんなシェイクスピアに紅茶を出したり、おかわりのシチューを装ったりパンを持って来たりするエプロン姿のサーウェルに、サーウェルから離れたくないのか付いて回るロシェ・フレイン・ユグドミレニア。

 話し合いに真面目に参加しようとしているのは獅子劫 界離ぐらいしかいないのではないか。

 私はもう見守るだけで良いのではないかと思う。

 

 まぁ、それは黒の陣営も同様であるが…。

 自分のサーヴァントが脱落した事にやけ気味なのか酒を飲み、サーウェルが用意した摘まみを口にしているゴルド・ムジーク・ユグドミレニア。

 ボーと呆けているのかそれとも何かしらの意図があるのかは分からないが、ずっと小さく唸っているだけのフランケンシュタイン。

 ジャンヌとモードレットの食事量に驚きつつ、何故か張り合う様に食べ始めたアストルフォ。

 話し合いに参加どころか会議室に訪れもしていないセレニケ・アイスコル・ユグドミレニア。

 まともに話し合いに臨んでいるのは前当主ダーニックの後継者で現在ユグドミレニア一族の指揮を執っているフィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニアと彼女のサーヴァントであるケイローン、そしてカウレス・フォルヴェッジ・ユグドミレニアの三名だけだろう。

 

 「こんな空気で切迫した状況だ。堅苦しい物言いは良いだろ?」

 「えぇ、こちらとしても率直に話を進めたいところです」

 

 獅子劫とフィオレの言葉で話し合いが始まった事に気付いたジャンヌはゴクリと飲み込んで、食事の手を止めて姿勢を整える。

 やっと始まるのかとサーウェルが焼いたばかりのクッキーを口にする。

 

 「私達はランサーを含め二騎ものサーヴァントを失い残るは三騎士のみ」

 「こちらも似たようなもんだ。サーヴァント数で言ったら四騎だが、知っての通り戦闘可能なのは三騎だけでな」

 「どちらにしても天草四郎時貞と敵対するには戦力が足りない」

 「なら共闘するのが一番手っ取り早い訳だ」

 「奴を倒す前の一時的な共闘」

 「倒した後にまた殺し合いだな」

 

 お互いに微笑んでいるのだが、漂った雰囲気が笑ってはいない。

 それを感じ取ってカウレスが引きつったような笑みを見せる。

 気持ちは解かるが“なるようになれ”の精神で眺めているジーンは表情をゆがめる事すらなかった。

 

 「ルーラーとして天草四郎時貞は止めなければなりません。それと同じく彼女の…彼女達(・・・)も問題視しております」

 

 ジャンヌはそう言うとジャックに険しい視線を向ける。

 聖杯によって召喚されるルーラーは捌くためのルールが決められている訳ではない。

 呼び出されたサーヴァントにその采配は任されるわけだ。

 ジャンヌにとって魂喰いをして一般人にまで手を出していたジャックは裁くべき対象なのだろう。

 天草四郎時貞を討伐するのに共闘することで数は揃った。

 あとはここで一騎斬り捨てれるかどうか…。

 私達にとっては戦力が減少する訳だが、拒めばルーラーを敵に回す可能性が発生する。

 答え難くて獅子劫は困ったように笑みを浮かべるばかり。

 咄嗟に動きを見せたのはサーウェルただ一人である。

 

 「私に敵対しますか?」

 「止む無しとなればですが…交渉の余地はおありで?」

 

 やらせないという確固たる意志を見せたサーウェルに引き続き、食事をしていたモードレットも止めて剣を手にしていた。

 頑なに頷く気配の無いジャンヌと一触即発の睨み合いが続く。

 黒側にしてみればここで戦闘が起こって共闘する側の大幅な戦力低下は避けたいところだ。

 下手に遺恨が残ったりすると背後から討たれる可能性も出て来るので、出来れば穏便に済んで欲しい所。

 視線が集まる中、ジャンヌが口を開く。

 

 「罪には罰を与えなければなりません」

 「それは理解します。が、今処罰するは戦力の低下を意味します。そんな愚行を見逃すわけにはいきません」

 「貴方は彼女達を護ろうと…いえ、違いますね」

 「私は我がマスターを生かすために最善の手を打っているだけです。下手に戦力低下でマスターを危険に陥れる訳にはいかない」

 「つまり共闘を終えれば罰しても良いと?」

 「後であるならば如何様にでも。未知の脅威よりは眼前の脅威を排除すべきですから」

 「解かりました。天草四郎を止めた後にしかるべき処置はさせて頂きます。それで宜しいですね」

 

 大きく頷いた事で危険は過ぎ去った。

 だが、これからが本題だ。

 

 「あー…どうやってアレに追い付くかだがアテはあんのか?」

 「はいはーい、ボクならすぐに追いつけるよ」

 

 突如として割り込んだアストルフォに眉を顰める。

 確かに飛行能力のあるライダーであるからには追い付ける…ただそれだけだ。

 

 「一騎であの空中要塞を攻略できますか?」

 「……無理だね」

 「しかも敵にはアーチャー…そちらのアーチャーの言う通りなら名高き狩人アタランテの迎撃が考えられます」

 「それに天草四郎を含めた全員を相手にすることになるので、この場合は“全員で”と言う事ですよ」

 

 最初の勢いは何処に行ったのかケイローンとサーウェルに言葉を重ねられるたびに、小さく大人しく不貞腐れて行った。

 落ち着いたアストルフォに変わってフィオレが口を開く。

 

 「移動手段は問題ないです。飛行機をチャーター致しますので」

 「なら移動手段は問題ないな」

 「けど要塞攻略のカギはやはりアストルフォと言う事になるでしょうね」

 

 付けていたエプロンを取って、アストルフォに近付いたサーウェルは懐よりナニカを取り出し、それをそのまま差し出す。

 

 「これを」

 「ほぇ?」

 

 差し出された筒状の金属を受け取ったアストルフォは首を傾げた。

 ぎゅっと握り締めた瞬間、筒の先より先の鋭い槍が伸び、魔力の帯び方から理解してギョッと驚いて目を見開く。

 

 「ちょ、これって宝具じゃないか!?」

 「えぇ、宝具ですが何か?」

 

 噛み合っていない二人の会話に、参加していないようだった全員が視線を向ける。

 それもその筈。

 共闘すると言っても宝具の一つを敵となる相手に渡しているのだから。

 ユグドミレニア側は怪訝な顔をし、モードレットあたりは呆れたようで納得したような表情を浮かべて食事に戻った。

 

 「単騎で飛行できる貴方は機動力があり、小回りがある。要塞には防御機構が備わっていると推測されれば当然ながらそれの破壊を担当するでしょう」

 「そりゃあそうだけど…良いの?」

 「必要でしょうから。狙いをつけて投げるだけでその宝具は起動します。私の逸話通りの槍ですから外れますけど必中しますよ」

 

 外れるのに必中とは可笑しなことを言う。

 冗談のつもりなのか、真実なのかは解からないがとりあえず槍状から最初の筒に戻し、アストルフォは腰に下げた。

 話し合いはさらに続くが、後は獅子劫に任せてサーウェルはフィオレに一室使用許可を取り、ロシェとゴルド、そしてアストルフォを連れて退席するのであった。

 

 

 

 

 

 話し合いが続く。

 それは今後を左右する大事な事だとは理解してはいる。

 が、正直に言えば興味がない。

 僕は何処かズレているらしいがそれこそどうでも良い事だ。

 部屋を後にしたボク達は元々キャスター用に用意されていた工房に訪れていた。

 アレだけの被害を被ったミレニア城砦であるが、地下工房であったここは比較的に被害は少ない。

 ロシェがここを訪れたのはサーウェルの手伝いと師事を受けるためにある。

 現在サーウェルは消耗している。

 本人は聖槍が抜け、ロシェが万全ではないが修復し、金城とウォルターの二人の魂が一つに戻った為に全盛期に近いステータスにまで戻る事に成功したのだが、それでも単騎で赤のランサーことカルナや赤のライダーことアキレウスを高い勝率で討ち取るのは難しい。

 消耗しているのが彼が生み出した戦力。

 円卓の騎士を模したサーヴァントとも多少であるが戦えるゴーレム達。

 最初に生み出したベディヴィエールはアタランテと共に闘った際に破損して修復しなければならず、ロシェに指揮権を渡していたランスロットとガウェインはアルトリア・バーサーカーによって粉々に破壊されて消失。

 修復作業もしなければならないが、まだ未完だった四騎目となるトリスタン型のゴーレムの完成と、材料の量的に最後となる五騎目のゴーレムの制作を急がなければならない。

 それと同時に空中要塞攻略時にアストルフォの支援になるように飛行型の簡易ゴーレムを何機か作る予定もあるので中々に大変だ。

 大変だと思いながらロシェは満面の笑みを浮かべている。

 何しろゴーレムが大好きな少年だ。

 師匠であるサーウェルの工程を見える上に習える機会なんてこれからの方針云々よりも大事であった。

 そして今はそれらとは異なるゴーレムを作成しているのだが…。

 

 「そうそう。そこはもっと滑らかに。くびれはもう少しあった方がいいわ」

 

 幸せそうだった表情が、ある人物の声を認識するとあからさまに嫌そうな顔に変わる。

 ロシェの先には話し合いに参加していなかったセレニケが居る。

 今制作されているのは彼女の為のゴーレム。

 あの女の私用の為のゴーレムに先生が手を煩わされている事実に腹が立つ。

 

 「ロシェ君」

 「――ッ!!はい、なんですか先生」

 

 クスリと微笑みながらサーウェルがロシェを呼んだことで、表情を先生用の笑顔に変えて見上げる。

 

 「彼女が求める水準は高く、要求は事細か、そして決して手を抜く事は無い。私はゴーレムマスターとしてその要求の悉くを完遂すべきだと思うんだ。どれだけ彼女の事を君が嫌っていたとしてもだ」

 

 先生の瞳から熱意を感じる。

 確かにセレニケの熱意は妥協がない。

 ゴーレムマスターでもある先生としてはやり甲斐のある仕事なのだろう。

 

 「例え変態チックな望みの為だとしても…ね」

 

 そこはやっぱり思うところありだったんですね。

 けど止める訳にはいかない。

 先のゴーレムマスターとしての誇りもあるとは思うが、そもそも今制作しているゴーレムはアストルフォの代わりとなる彼女の玩具である。

 アストルフォに対して強い執着を持っている彼女は失う危険性の高い最終決戦において姿を消す可能性が出てきた。

 空中戦を行えるアストルフォは空中要塞攻略において必ず必要となる存在であるのと同時に、これ以上の戦力低下は勝算自体が少なくなってしまう。

 そこでセレニケが求める容姿に自分を慕いながらも簡単に心を手に入れないという非常に面倒な精神を持った泥人形で代用して貰う事に。

 最初こそ難色を示していたものの、モルドで確かめた食感は人間と変わらず、さらに彼女の好みである美少年を形だけ作ったところ好評で、快く数十体ほどで手を打ってくれたのだ。

 ちなみにモデルは円卓の騎士の面々を幼くした容姿である。

 後、王のショタモデルを作ったところ、モードレッドに殴られてしまった…。

 

 そして件のアストルフォと言うと…。

 

 「ねぇねぇ!似合ってるよね?似合ってるよね!」

 「とてもよくお似合いですよ」

 

 新たなマスターとなるホムンクルスに女装させては同じ衣装姿で見せに来るを繰り返している。

 セレニケからアストルフォを預かったのは良いのだが、マスターを誰にするか問題があった。

 他の黒の陣営のほとんどはサーヴァントが健在で、唯一失ったゴルドとアストルフォは性格上合わないと判断。生き残ったホムンクルス達の中で一人魔術を行使できる珍しい個体が居たのでとりあえずその子をマスターに据えたのだ。

 ジークフリートが倒れた付近にて負傷していたところを救助されたので、アストルフォによって“ジーク”と命名。

 製造されたばかりだから幼いと言えば当たり前なのだが、彼は他のホムンクルスに比べて幼く少年に見える。顔立ちも男らしいという訳もなく中性的で整っている。

 アストルフォと共に女装していても違和感がない。

 …まぁ、ロシェからしたら別段興味も無いからどうでも良さそうな視線を向けるだけなのだが…。

 

 「…アストルフォのショタ版もよろしく」

 「追加ですね。構いませんがジーク君のは良いんですか?」

 

 呆れるほどの欲を発揮しているセレニケだが、どうしてかジークに対してはそう言った感情が働かない様だ。

 少し悩みながら険しい表情を浮かべる。

 

 「何でかしら。彼を見ていると愛でて壊したいというよりはただただ壊したくなるのよ」

 

 不思議そうにつぶやかれても同意できないし、する気も微塵もない。

 テキパキと要求を満たす造形をこさえて、少年サイズのゴーレムを作り上げていく。

 意思を植え込む作業があるものの、少年と言う小さなサイズで戦闘用に考えなくていいので簡単に出来る。これが戦闘用になると意思で動く分、作業が複雑化して時間が足りなさ過ぎるらしい。しかもモルドより下のレベルの者しか出来ず、サーヴァントに対してほんの少しの時間稼ぎが出来る程度。

 労力に対して成果が伴わない。

 

 「あの時二体を失わなければ…」

 「悔やむのは後で良いでしょう。今はゴーレム作りに集中しましょう」

 「はい、先生」

 

 バーサーカー戦の後悔が過るが、先生にゴーレム作りに集中しましょうの一言に、意識はゴーレム作りに切り替わり、決戦に向けてロシェは夢の様な時間を過ごすのであった。


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