二度の人生を得たら世界に怒られ英霊になりました…。   作:チェリオ

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 前回投稿出来ずすみませんでした…。


第21話 「三つの戦争」

 私は全ての子供達が幸せでいる世界を望んだ。

 これこそが私が聖杯に望む願いであり、自身が抱く願望である。

 セミラミスは馬鹿にしたように嗤い、天草は苦笑を浮かべた後に微笑んだ。

 何が可笑しい?

 何故そのような顔をする?

 間違った事は言ってはいない筈だ。

 悪しき願いではない事の筈だ。

 願ってはいけない願いでは決してない。

 

 天草四郎は私の願いも叶うと言ったが、どうも胡散臭く感じる。

 セミラミスの罠に掛かったとはいえ、敗者となった元マスターに尽くす義理も無し。

 新たなマスターの指示の下、空中庭園外延部にて敵の迎撃に当たっていた。

 向かってくるのは鈍重な鉄の塊。

 的としては大き過ぎ、とても機敏とは言えない動きから外す事の方が難しそうだ。

 そう思ってもそうは簡単には事は進まない。

 敵に回ったルーラーによって矢は弾かれ、思いのほか破壊することが出来なかった。

 そこに焦りはない。

 ルーラーが居る一機は気になるものの、このような手段で勝負に出ているとは考えにくく、別に本命が有る筈だ。

 私の予想は見事に的中し、敵のライダーにより空中庭園の防衛術式が破壊され、小さく素早い鉄の塊にて侵入された。

 さらに上空より二騎のサーヴァントが降下して、一騎はカルナと対峙し、もう一騎は私の元へとやって来た。

 

 私に戦いを挑んできたのは幼き子供らしい姿のサーヴァント。

 サーヴァントの容姿というのは私にとってあまり意味がない。

 多岐に渡る条件により最盛期で召喚される者も居れば、まだ精錬された技巧を持ち得ぬ未熟な時の状態で呼び出される事も有り得る。

 彼女がいかに幼い姿で現れようとサーヴァントである以上、見た目=子供という事にはなり得ない。

 私は容赦なく矢を放つ。

 アサシンらしい機敏さと、小さな子供の体躯を用いて翻弄するかのように動き回る。

 精神的にではなく物理的に当てにくい。

 が、当てにくいだけで当てられない訳ではない。

 武装は短刀であることから近づかずに、距離を保ち続けながら撃てば良い。

 案の定、放った矢は彼女の右肩を貫いた。

 子供が苦悶の表情を浮かべる。

 僅かに躊躇いも生まれるが、相手がサーヴァントであると再認識したらそれもなくなった。

 

 この程度の揺さぶりでどうにかする気だったのかと思っていると、新手が二騎ほど姿を現す。

 瞼を閉じたままで起きているか寝ているか怪しい赤毛の男(トリスタン)

 隻腕ながら鋭い視線を向けて戦意を見せる青年(ベディヴィエール)

 魔力こそ感じるもののサーヴァントではない。

 だが、魔術師や単なる人間ではなさそうだ。

 そして戦場で一度見ているから何となく察せれる。

 アレはサーウェルが作ったゴーレムであると。

 

 赤毛の男が弓を構え(本来の攻撃再現不可の為)、隻腕の青年が剣を握り締めて突っ込んでくる。

 挟み撃ちにするように反対からはアサシンの子供が迫る。

 状況としては追い込まれてはいるが、絶体絶命の窮地とはかけ離れている。

 強弓を放って隻腕の青年の胴を吹き飛ばし、迫りくるアサシンの攻撃に冷静に対応する。

 背後には弓を構えた赤毛の男が居るが、アサシンと斬り合っていれば射線が重なって中々撃てないだろう。

 多少ナイフが掠るのを覚悟で接近し、蹴り飛ばすと同時に矢を放って赤毛の男の頭部を砕く。

 最後に蹴られた衝撃により転がったアサシンに弓を構える。

 手をついて跳ねるように立ち上がった瞬間、矢を三本ほど放つ。

 一本がナイフを弾き、二本目が右太ももを射抜き、三本目が跪いたアサシンの胸元を貫いた。

 終わった…。

 そう思っていると倒れ込んだアサシンは目を見開いて立ち上がる。

 まだ動けるかと弓を再び向けると、何やらぶつぶつと呟いてアサシンは体内より破裂するように膨らんで弾け、周囲に濃厚な霧をばら撒いた。

 勢いよく撒かれた霧に巻き込まれ、周囲を警戒しつつ弓を構える。

 サーと霧が流れ、空中庭園とは異なった景色が広がっていた。

 場所は古く、さびれた都市だろうか。

 周囲に霧が掛かり、街全体がどんよりと淀んで見える。

 ゆっくりと見渡し、ゆっくりと歩き、ゆっくりと観察することでアタランテは理解した。

 馬車に轢かれるが、誰も気にせずに放置される女の子。

 ゴミでも捨てたかのようにどぶの様な水路を流される赤子。

 お金も食べるものも持っていなかったのか頬はコケ、身体は骨と皮で構成されたかのように細身となっている少年。

 ありとあらゆる原因と死因を持って、身を護る力もない弱者の少年少女に加えて、泣く事しか自身を表現するすべを持たない赤子までもが、そこらで死に絶えては誰もが気にも止める事がない。

 まるでそれが当たり前のようにちらりと見て、近づかないように避けて通り過ぎてゆく。

 

 なんだこの世界は?

 なんだこの街は?

 なんだこの光景は?

 

 理解した。

 これがあのアサシンの心象風景…。

 彼ら・彼女らにある思い出…。

 悲しくも救う事すらもはや叶わぬ子供らを前にアタランテは一歩も動くことが出来なくなった。

 

 「貴方も私達を殺すの?」

 

 突如目の前に現れたアサシン………否、容姿の原型となったより幼い少女が問いかける。

 もはや彼女に彼女・彼らを殺す事は出来ない。

 そっと両手を伸ばして抱き締める。

 敵なのだから、願いを叶えるためには倒さねばならない。

 しかし知ってしまった以上、もはや倒すどころかこの子らが報われる事を祈らずにはいられない…。

 

 

 

 

 

 

 「クソがぁ!!」

 

 吐き捨てるように悪態を付いたモードレッドは苛立ちを隠すことなく剣を振るう。

 殺意に怒気が混じった一撃はセミラミスに恐怖を与えるには充分過ぎた。

 舌打ちしながら飛び退き、鎖や魔術で牽制して距離を離させる。

 自分が恐怖してしまった事に嫌悪を現し、セミラミスは同じかそれ以上の殺意を向ける。

 モードレッドはセミラミスと対峙している。

 室内に踏み込んだ瞬間、マスターであり獅子劫は弾き出され、今やモードレッドとセミラミスの一騎打ち。

 無論武人としての一騎打ちを受けたのではなく、宝具“驕慢王の美酒(シクラ・ウシュム)”にて猛毒のフィールドを整えての魔術戦に徹している。

 巨大な大邪に猛毒の戦場、魔術による攻撃にて全方位に気を向けなければならない程危機的状況だというのにモードレッドは荒れたままだ。

 セミラミスに想うところはあった。

 だが悪態を付いたのはそれが理由ではない。

 寧ろ悪態を付きたい相手はセミラミス以上に、仲間である男であった。

 

 「サーウェルの糞ったれが!!」

 

 口から洩れた感情にセラミラスは首を傾げながら、攻撃の手は緩める事は無かった。

 毒を撒き散らす大蛇が迫るも勢い任せに斬りかかる。

 そんな攻撃の仕方では搦め手を得意とするセミラミスには届かない。

 何処からか伸びた鎖がモードレッドの足に絡まり、僅かだが動きが制限され、即座に断ち切ろうと剣を振り上げるも、大口を開けた大蛇が猛毒を撒き散らしながら迫る。

 スッと一機のゴーレムが割り込み、舞う様な滑らかな動きで鎖を断ち切るとそのまま大蛇の射線上から退く。

 感謝の言葉より苛立ちが募り、少しズレると勢い任せの一撃を大蛇に喰らわせる。

 

 「視界に入んじゃねぇ!!」

 『助けたのに悪態を付かれるとは…相当嫌ってるんだな?』

 「ったりめぇだろうが!!」

 

 怒りが頂点に達しているモードレッドは、ゴーレムに魔力を流して起動させている獅子劫にまで怒声を飛ばす。

 サーウェルは獅子劫にゴーレムを一機渡していたのだが、その渡した一機がモードレッドを荒れさす元凶であった。

 別に作りが悪かったとか不具合があったとかではないし、入力した動きは今までのゴーレムでも一番良い。

 なにせ円卓の面々よりも付き合いが長く、動きも幾度となく見て来たので再現はほぼ完ぺき。

 現状のステータスで作り出した物では最高傑作とまで言ってもいい。

 

 そう…サーウェルが一番付き合いが長い人物と言えば一人しか居ないだろう…。

 “花の魔術師”の異名を持ち、アルトリア・ペンドラゴンに剣術を教えた魔術師…。

 真っ新なローブから覗く整った顔立ちの青年。

 柔和な笑みを浮かべながらも振るう剣技は洗練され、見惚れるほど綺麗な動きで研ぎ澄まされた刃は確実に相手を断ち切る。

 魔術師である筈なのに見せつけられる剣技の数々に一層苛立つ。

 

 「なんでマーリンなんだよ!!」

 

 悪態を付きながら迫って来る鎖を弾き飛ばすマーリンを模したゴーレムを睨みつける。

 ただこれを本人に言うと「では他の円卓の方なら良かったですか?」と聞かれ、それはそれで結局文句を口にするのだが…。

 

 「厄介な蠅が二匹。煩わしい」

 

 物腰は柔らかでも言葉には怒気が含まれ、どれほど鬱陶しがっているかが伺える。

 それを察せれただけでも多少溜飲が下がる想いだ。

 

 「ッハ、運動不足なんじゃねぇのか?腰が重すぎて椅子から離れられないんだろ?」

 「抜かせ!」

 

 濃くなる毒霧を切り払い込み上げる血反吐を無理やりに抑える。

 セミラミスがこの一室に撒き散らした毒は非常に強力で、気を抜けば血を吐き散らしながらその場に倒れ込んでしまいそうだ。

 それを耐えているのはモードレッドの根性と毒などの外部からの干渉を僅かながらも緩和できる“不貞隠しの兜(シークレット・オブ・ペディグリー)”のおかげである。

 と言っても時間が経てば経ち程、こちらの身が持たない事は明白なので、肉体的にも精神的にも早急に決着をつけなければならない。

 玉座に腰かけたままのセミラミスと正面より対峙する形で立ち止まったモードレッド。

 すかさず鎖が伸ばされるもマーリン型のゴーレムは弾き飛ばす。

 

 「そろそろ終いだ!カメムシ女!!」

 「吠えるな小娘」

 

 真正面からとは馬鹿正直に過ぎる。

 「バシュム!」と大蛇を呼ぶとモードレッドの進路上に跳び込み、真正面から飲み込もうと大口を開ける。が、モードレッドを捕らえるよりも先にマーリン型のゴーレムが間に入り、バシュムと正面衝突した。

 左手は上口の牙を防ぐために使い、右手は剣を突き刺して下顎を閉じないように力を籠める。

 出来ればバシュムの突進を押し留めるつもりらしいが、ゴーレム一体で止められるほど軟な生物ではない。

 しかしほんの数秒でも押さえれたのなら良い程度の時間稼ぎ。

 本命であったモードレッドの宝具“我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)”がバシュムによって死角になった位置より放たれ、いち早く察したセミラミスは玉座より飛び退いて宝具を回避する。

 玉座は周囲ごと吹き飛ばされ原型どころか塵一つ残さずに消え去り、周囲には発生した煙で視界が酷くさえぎられる。

 悪態一つ漏らして警戒する。

 この視界の悪い状況で、何処から来るのかと睨みを利かせていたセミラミスに影が落ちる。

 それが何なのか理解して見上げると、我が麗しき父への叛逆を放つために不貞隠しの兜を解除して飛び掛って来たモードレッド

の姿だった。

 

 「小賢しい!!」

 

 セミラミスの周囲より鎖が現れ、モードレッドを捕らえようと伸びる。

 空中に居るモードレッドには回避の手段など無い。

 勝利を確信したその瞬間、背中に衝撃を感じると同時に腹部に熱を持った痛みが発生する。

 視線を降ろすと腹部より剣先が飛び出し、背後より貫かれた事を理解した。

 

 「…き、貴様…」

 

 背後には左半身が消し飛んでいるマーリン型のゴーレムが立っており、最後の力を使い果たしたのかボロボロと崩れて土くれへと還って行った。

 かなり損傷していたが為に力は足りず、完璧な不意打ちをしたというのに剣先がギリギリ抜ける程度の攻撃しか出来なかったのは悔やまれるところである。が、現状を考えると僅かな間だけ気を逸らさせた事こそが重要。

 視界より外してしまった危険性に気付いて、背後のゴーレムだった物よりモードレッドに戻すと目を離してしまったがゆえに多少逸れた鎖を弾き、上段に剣を振り上げたモードレッドが眼前まで迫っていた。

 

 「くたばれ!!」

 

 その一言の下、重い一撃がセミラミスを切り裂いた。

 確実に霊基を砕いた一撃にモードレッドは満足げに微笑み、悲鳴と苦悶の表情をあげるセミラミス。

 しかしそれで終わる筈もない。

 切り裂かれて血飛沫を上げたセミラミスは周囲に魔法陣らしきものを展開し、自身やモードレッドの足元に魔術を撃ち込む。

 爆発が起こり、煙が周囲に舞い上がる。

 「しゃらくせぇ!」と煙を剣で払うと、そこにはセミラミスの影も形も存在しなかった。

 小さく舌打ちをして、剣を肩に乗せる。

 

 『やったか?』

 「いや、逃げられた。けど霊基は砕いた。そう長くは持たねぇよ」

 

 逃げられたのは悔しいが二重の意味(・・・・・)でスッキリできたモードレッドは晴れやかな笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 アキレウスは空中庭園内部を疾走する。

 先ほどまで師であるケイローンとの死闘を行い、かなりのダメージを負っている。

 神性を持つサーヴァントでもない限り、ダメージを負う事の無いアキレウスが警戒していたのは、黒の陣営で唯一の神性持ちであり、神性抜きにしても高い知恵と技術を持つケイローンだ。

 ゆえに自分と誰が真っ先に戦うかとなればケイローンが出てくるのは必至である。

 アキレウスにとっては父であり、兄であり、親友である恩師。

 その関係性から少しでも躊躇ってしまえば確実に死ぬ。

 だから手加減無しで殴り合った。

 激しい一騎打ちの末、勝つことは出来たが一杯食わされた気分だ。

 恩師に勝ち、消え行く間にて“天蠍一射(アンタレス・スナイプ)”にて持っていた不死を削られてしまった。

 ケイローンには勝つことが出来たが、不死を奪われた事で神性関係なくダメージを与えられるようになってしまった。

 端から策として頭にはあったのだろうと思うと、してやられたと思う他ない。

 が、不死を奪われたからと臆するような男ではない。

 今も走り回って敵サーヴァントを探している。

 その結果、内部に侵入していたマスター達を引き攣れたサーヴァント達と接敵したのである。

 

 「侵入者発見っと、戦士らしい奴は居なさそうだな」

 

 視界に映った侵入者のほとんどはホムンクルスや細身のゴーレム、それと魔術師が少々。

 サーヴァントが居るには居るが戦闘が出来そうなのは唸り声を挙げているバーサーカー(フランケンシュタイン)ぐらいだろうか。

 唸るバーサーカーに、銃器を構えるゴーレム。

 警戒しながらマスター達を護ろうとするゴーレムやホムンクルス達。

 その中でどう見ても戦士には見えないシェイクスピアがマスターであるジーンに押される形で最前線に立たされる。

 

 「戦えるようには見えないが、お前さんからか」

 「いえいえ、私は戦闘は空っきりでして、こうして文字を綴るのが精いっぱいなのですよ」

 

 なら何で出てきた?と顔に出すも口には出す事は無い。

 相手はサーヴァント。

 ならその行動に何かしら意味が合ってもおかしくない。

 警戒しながら槍を構える。

 対する溜め息一つ漏らしてシェイクスピアは笑みを零す。

 

 「貴方という戦士は後悔をした事はありますか?」

 「どういう意味だ?」

 「数々の戦場を駆けた大英雄アキレウス。しかしながらあの時ああすれば、こうずれば良かったなどの後悔はなかったのですかと聞いているのです」

 「ねぇな」

 

 “もしも”なんて事を考えだしたらキリがねぇ。

 それにものと次第によっては戦友や戦った強敵に対する侮蔑になることだってある。

 即答したアキレウスにシェイクスピアは面白そうに笑った。

 

 「えぇ、えぇ、そうでしょうとも!戦士としての貴方に後悔なんて物はない。――――けど、アキレウス個人としてはどうなのでしょう―――ねぇ?」

 

 シェイクスピアが持っていた本よりページが光り舞い、囲むように辺りに散らばる。

 景色が変わった。

 空は黒く淀み、地面は血を啜ったように赤黒く、空気は重苦しい。

 正面に立っているのはウェディングドレス姿のバーサーカーではなかった。

 

 「アキ…アキレウス…」

 

 声がした方向に視線を向ければ、一人の女性が立っていた。

 身体を覆うにしては面積の少ない鎧を着用し、筋肉質な肉体を晒している。

 戦士として高い能力を誇りながら、女王としての高潔さや義理難さを持つ。

 そして唯一といって良いほど後悔を抱いている相手。 

 瞳が血走り、あらん限りの憎しみの籠った瞳がアキレウスを捉える。

 

 「アキレウスウウウウウゥ!!」

 

 叫びながら拳を振り上げて突っ込んでくる彼女に対し、アキレウスは微動だに動こうとしない。

 躱す事も、反撃する事も出来るが、素振りすら見せはしない。 

 

 俺は受けなければならない。

 心の底から思って出た発言だが、それは彼女を大いに傷つけ、誇りを踏み躙ってしまった言葉。

 彼女の怒りは理解出来る。

 ならば発言を撤回すれば良いと大概の者は想うかも知れないが、それだけは絶対に出来ない。

 例えそれが穏便に事を済ます最善策であったとしても、俺の想いは変わらずにどうようの言葉を彼女に抱いてしまうのだから。

 だから撤回はしない。

 恨み、憎み、殺意を抱くのならばそれを俺は受け入れなければならない。

 そう思っている。

 

 振り上げられた拳が何度も叩き込まれる。

 無抵抗だったアキレウスはそっと拳を握り締める。

 

 「けど、これは違うよな」

 

 アキレウスは振り被った一撃をギリギリで躱し、渾身の力を込めた一撃を返した。

 相手があのアマゾネスの女王ならば絶対に反撃はしなかったろう。

 しかしこの相手の拳は彼女に比べて軽すぎたのだ。

 馬鹿にしているのかと怒りが全体に渡り、その感情を込めた拳は打撃を与えるだけでは物足りず、殴った対象の腹部を貫いた。

 

 「馬鹿にするのも大概にしろよ」

 「バーサーカー!!」

 

 突き刺さった拳を中心に周囲の光景はぼやけ、彼女の姿は薄れてそこには先と同様にフランケンシュタインが立っていた。

 マスターのカウレスの叫びに反応することなく、ガクリと俯いたまま動かない。

 拳を引き抜くと肉片と機械類の混合物が周囲に撒き散り、受け身を取ることなくフランケンシュタインは地べたに転がった。

 動かないバーサーカーから視線を逸らし、腹立たしい事を仕出かした(宝具)シェイクスピアを殺意を持って睨みつける。

 

 「テメェ…アイツを侮辱した覚悟は出来てるだろうな」

 「やや、これは非常に不味いですぞ!」

 

 あんな一撃をシェイクスピアが受ければ、一瞬で粒子になって消し飛んでしまうだろう。

 ロシェがモルドに指示を出すと拳銃を向けるも即座に槍で右腕が斬り飛ばされ、距離を取ろうとすれば右足が蹴り折られ、勢いを殺せずに転がる周る。

 魔術師が追加の指示を出し、ゴーレムやホムンクルスが襲い掛かって来るが一振りで瞬殺して殺意を向けている目標たるシェイクスピアに矛先を向ける。

 一撃で霊基を砕く。

 

 怒りとは時として強い力となるが、思考能力を低下させる。

 それは強ければ強いほど比例し、周囲への警戒や即座の判断能力を低下させる。

 ゆえに彼は見逃し、敵に反撃の間を与えてしまったのだ。

 強い怒りと共に踏み込もうとしたアキレウスに背にナニカがしがみ付いた。

 

 「アァアアアア!!」

 「まだ動けたのか…」

 

 ボロボロの片腕を引き抜いて、中を通っていたコードで首を絞めつけて来るフランケンシュタイン。

 背中に取り付かれれば手が回らない。

 転がっているフランケンシュタインの武器が起動し、周囲に黄緑色の雷撃が放出され始め、宝具と理解してからは動きは迅速だった。

 現在不死を奪われた状態で宝具の直撃は如何に大英雄でもただでは済まない。

 巻きつけられたコードを緩めようと引っ張り、背中にくっ付いたままのフランケンシュタインを壁にぶつけて剥がそうとするも中々剥がれようとしない。

 

 「チッ、放―――」

 「させる訳には参りません」

 

 足元から声がすると同時に上半身だけのモルドが身体を引き摺ってアキレウスの足首を掴んでいた。

 見上げて来る瞳がチカチカと点滅し、モルドの背中が勢いよく膨れ上がると破裂し、サーウェルが仕掛けとして組み込んでいた魔力を込めた無数の小さな鉄球が周囲に撒き散らされる。

 モルドより発せられた信号により、ゴーレム達がマスター陣を伏せさせて自らを盾にして護るが、遮蔽物もなく対処が遅れたアキレウスはもろに受けてしまう。

 不死をケイローンに取り上げられ、こんなちんけな魔術が込められた人型のクレイモア(モルド)でも多少のダメージを負ってしまう為に、槍を振るって弾き飛ばす。

 跳弾となって飛び散った鉄球がホムンクルス達を貫いて機能を停止させていく。

 

 「バーサーカー!!」

 

 その中で一人のマスター(カウレス)が叫び、手の甲にあった令呪の一角が消失したのを目撃した。

 転がっていた戦槌(メイス)は直立し、より強い放電を撒き散らして、フランケンシュタインがまとわりつく。

 

 「―――磔刑の雷樹(ブラステッド・ツリー)!!」

 

 当たりを照らし尽くす光が放たれ、黄緑色の電流が大樹のように聳え立ち、周囲を巻き込んでダメージを撒き散らす。

 中心地に居たアキレウスは勿論だが範囲内にはマスター達も居る。

 彼らには磔刑の雷樹(ブラステッド・ツリー)から身を護る術はない。

 そんな彼らを救ったのはようやく合流出来たジャンヌ・ダルクであった。

 盾になるように立つと旗を掲げて、放たれた磔刑の雷樹(ブラステッド・ツリー)でマスター達が焼き尽くされないように防ぎきる。

 

 「大丈夫ですね皆さん」

 「ックハ、やってくれる…」 

 

 身体を焼かれ、ダメージ的にもきつくなっているアキレウスは一言呟き、対峙しているジャンヌに槍先を向ける。

 

 「まだ続けますか?」

 「……愚問だな」

 

 鋭い視線が交差する。

 まだ槍は振るえる。

 足は動く。

 なら問題は無い。

 英霊として最期の一瞬まで自身の為に戦い続ける。

 そう力を籠めるアキレウスはカウレスと同じように、令呪を消費した少年(ロシェ)を見た。

 

 「ルーラー!防御を!!」

 

 突然の叫びの意図に気付いた時にはもう遅すぎた。

 壁をぶち抜いてのロンゴミニアド(最果てにて輝ける槍)が その身を焼き尽くす…。

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