二度の人生を得たら世界に怒られ英霊になりました…。 作:チェリオ
アキレウスを撃破し、セミラミスを退けた一行は最奥へと進む。
裁定者として理を外れた天草四郎時貞を止めようとするジャンヌ・ダルク。
協力しながらもどさくさに紛れて聖杯を奪おうと画策しているモードレッドと獅子劫。
サーヴァントを失っても最後まで見届けようと付いてきたカウレス。
マスターとサーヴァントの関係ではなく師弟、または親子の様な微笑ましさを漂わしているサーウェルにロシェ。
物語として記したいシェイクスピアに、仕方なさ半分に興味半分のジーン。
そして膨れっ面のアストルフォと無表情のままのジーク。
アストルフォが膨れっ面なのはアキレウスの件で想うところがあるからだ。
心を抉るようなシェイクスピアの宝具は良いとしても、サーウェルが取った戦法が気に入らなかった。
フランケンシュタインは自壊覚悟で宝具を使用したが、それは宝具ゆえの結果と彼女の意思だ。
しかしモルドのは違う。
元々自爆するのを前提に内部に仕掛けを施し、捨て駒のように使用した。
さらにアキレウス戦を決する為に宝具での攻撃を壁越しに行ったが、サーウェルはその準備を行うだけの時間があった。なら彼が合流していればフランケンシュタインは退場せず、モルドも自爆する必要が無かったかも知れない…。
全盛期に近づいたとはいえ、実力的に考えればアキレウスに勝てたかは正直分からない。
寧ろ敗北する光景が浮かぶが、どうしても“if”というものが頭を過ってしまう。
モヤモヤしたままで気持ち悪かったアストルフォはそのまま口にしたところ、サーウェルは申し訳なさそうに謝るだけで言い訳をしようとはしなかった。
謝罪と沈黙で返され、決戦前だというのに雰囲気は重苦しい。
そんな雰囲気を気にも止めてないのは歩きながらでも執筆しているシェイクスピアぐらいなものだ。
いつもはサーウェルの横に居ればご機嫌そうなロシェでさえ不安そうな表情を浮かべている。
重苦しい空気の中、ジャンヌが振り返って口を開いた。
「そう言えばアサシンの姿がありませんが…」
「退場…した訳でないのなら何処かに潜んでいるのでしょうな」
「それって漁夫の利を狙っているって事か?」
「あのアサシン単体で五騎を相手にするのは難しいんじゃない?」
「おや、今普通に吾輩もカウントされたような気が…」
この雰囲気より脱するようにジャンヌの一言にそれぞれが続いて会話が始まる。
内容はジャックの事が多かった。
アタランテとの戦闘が確認されて以降、ジャックの所在が掴めないで居るのだ。
だいたいの位置はジャンヌによって解っているのだが、詳しい位置は読めないので生存だけは確認できている状態。
しかし合流する様子はなく、マスターである六導玲霞の電話による呼びかけにも応答がない。
色々考察するも答えは出ない。
そうこう話していると巨大な扉が視界に入り、そこが終着点だと誰もが理解した。
「さて、物語もいよいよクライマックス!どのような終わりを吾輩に見せてくれるのか。非常に楽しみで仕方ありませんなぁ」
「戦う気皆無かよ」
「逆に戦わせる気があったか?」
獅子劫にそう問い返されると、モードレッドは少し唸って「無いな」と呟いた。
少し会話が続いたおかげで空気が和らいぎ、扉の前で皆が足を止める。
各々が想いを抱き、少し間をおいてジャンヌが一歩前に出て扉を押す。
広がる先には何本もの柱が乱立し、最奥には大聖杯が置かれている広い空間。
そしてその大聖杯の前には敵である天草四郎時貞が刀を腰に差してそこに居た…。
「来ましたか…」
一言呟いて静かに振り返ると、敵対サーヴァントの大半が揃っており、自分の不利さを痛感させられる。
ケイローンにフランケンシュタイン、それとサーウェルのゴーレムは居ないが、五騎を相手にしなければならない。
現状や姿を見せないアタランテに対しても小さくため息を漏らし、少し苛立ちを見せながらサーウェルを見つめる。
「別の意味で厄介な方ですね。貴方は…」
私がと首を傾げるサーウェルであるが、天草四郎時貞はサーウェルのせいで当初の目的を断念したのだ。
当初の目的とは自身とシェイクスピアの宝具にて大聖杯に接続し、機能を大きく書き換えて、全人類に対して叶う筈の無かった“第三魔法”を適応させる事。
今の人類では救済は不可能なので、生命体として次の段階に強制的に引き上げて全てを統合させる。
個人の欲を無くせば自ずと人は争うは無くす。
しかしこの計画にはシェイクスピアは必要不可欠であったにも関わらず、サーウェルの存在に惹かれて離れ、そのまま戻る事も無かったために断念せざる得なかった。
黒の陣営にとっても、赤の陣営にとっても存在するだけで忌まわしいと思われるのは彼だけだろう。
もしくは自分自身かと鼻で嗤う。
「貴方は本当に全人類を救済出来るとでも?」
「当初の予定は狂いましたが、それでも最善を尽くしたつもりですよ」
今にも大聖杯を止めようと前に出るジャンヌ。
それをモードレッドが前に出て制止させる。
「ちょっと待てよ。こいつは俺がやる」
「一騎打ちですか?」
「先に仕掛けたのはそっちだ」
視線をやると参加する気はなく紙に筆を走らせているシェイクスピアに、
三騎はモードレッドの意思を組んだが、有利な状況を無視した行動にジャンヌ一人が抗議の眼差しを向ける。
「待って下さい!これは―――」
「聖杯大戦参加者の希望です。それに良いじゃないですか。聖杯大戦の締めくくりの一騎打ち」
不満有り気なジャンヌをサーウェルが宥め、他を見渡したところジャンヌ以外は認めているようで、渋々引き下がった。
「そちらもそれで宜しいですよね?」
サーウェルが確認を取った方向には深手を負って血みどろのセミラミスが居り、傷口を押さえながら忌々しそうに頷きだけはした。ここでセミラミスが動けば傍観に徹している他のサーヴァントも相手にせねばならない。
一騎打ちで戦えるならその方がこちらには都合がいい。
戦うという意味でも、大聖杯の時間を稼ぐという意味でも…。
鞘より刀を抜き放ち、一歩前に出たモードレッドと睨み合う。
「我が真名は天草四郎時貞」
「モードレッドだ」
互いに短い名乗りを挙げ、一歩一歩と踏み出すと徐々に駆け出して両者は得物を振るってぶつかり合う。
素早く振るわれる剣技がぶつかり合うたびに火花が散る。
一刀一刀の衝撃が腕に響き、痺れに似たダメージが蓄積してくる。
解っている。
解っていた!
モードレッドに比べて天草四郎は筋力も耐久も宝具も負けている。
俊敏さは同じぐらいで勝っているのは魔力と幸運の二つ。
ただ斬り合っていては勝てない。
僅かな間だが距離を取って黒鍵を左手で投擲する。
一手にて三本ずつで計六本もの黒鍵を、走りながら斬り落とす。
「小賢しいんだよ!!」
怒声を飛ばしながら突っ込んでくるモードレッドに対し、複数方向にセットした黒鍵を撃ち込む。
正面だけでなく周囲から放たれた事で、舌打ちをしながらその場を飛び退く。
苛立っている割には冷静に周囲を見ている。
着地するまでに駆け出して距離を詰め、着地に合わせて斬りかかった。
勢いをつけた一撃と足を付いたばかりで不安定な状況での防御。
呻き声を漏らしながらモードレッドは押され、体勢を崩して一撃を貰ってしまう。
刀身が肩に食い込み肉を裂くが、霊基に至るよりも先にモードレッドの蹴りが腹部を襲い、吹っ飛ばされた天草は柱に背を強打する。
痛みで苦悶の表情を浮かべながら取り出した黒鍵を投擲する。
「―――何ッ!?」
投げた黒鍵が払われるのは予想していた。
しかし投擲した剣によって撃ち落されるのは予想外だ。
黒鍵を全て撃ち落とした剣は天草の頭蓋を貫こうと向かい、体勢を崩して避けようとした結果、左の頬肉が抉られた。
痛みと剣に気を取られた天草は眼前に迫ったモードレッドに気付くのが遅れた。
慌てて剣を振るうもモードレッドの顎を狙った肘内の方が早く、衝撃に耐えかねて吹き飛ばされる。
地面を転がる天草を追撃するモードレッドは途中で投げて柱に突き刺さった剣を抜く。
またもセットした周囲から黒鍵を射出するも、最低限弾くばかりで足も止まられない。
かすり傷は増やせても決定打には乏しい。
「人の明日を…邪魔するな!!」
「知るかそんなもん!!」
忌々しさを表情に出し、横薙ぎに切り払う。
負けるわけにはいかないのだ。
大聖杯を手にし、己が望みを叶えるためにどれだけ待ち侘びた事か。
そしてもう手が届く。
あと少し時間さえ稼げば叶えられる筈なのだ。
意地にかけてここは護り切らねばならないと手に力が入る。
文字通り全身全霊をかけた一撃はモードレッドが振るった一撃を受け止め、無惨にも音を立てて砕け散った。
刀の刀身が折られて破片が宙を舞い、へし折った剣はそのまま右腕に触れ、肘より先が地面に転がる。
ボトリと音がした。
それは間違いなく自身の右腕が切断され、地面に落ちた音。
しかし天草にとって叶う筈だった願いも一緒に落ちた様に感じた…。
零れ落ちた事による絶望が心を搔き乱し、煮え滾っていた熱意が急激に鎮火された。
眉がハの字に折れ曲がり、瞳は忙しなく動いて焦点が合わない。
奈落の底に突き落とされるような感覚をまたも味わい、天草四郎時貞はこれが悪い夢で合ってくれと祈るも、現実だと再度振われた剣が自分の肉体を切り裂く焼けるような痛みが無情にも突き付ける。
「マスター!!」
アサシンの声が…する…。
周囲にセミラミスの魔術攻撃が着弾し、砂埃によって視界が遮られ、温かさが身体を包見込むと同時に意識を手放した…。
周囲の煙がゆっくりと晴れ、警戒の色を強く周囲を睨みつける。
肩を大きく揺らしながら、呼吸は徐々に落ち着きを取り戻す。
手応えは確実にあり、致命傷を確実に与えたのは確かだ。
完全に晴れたが血溜まりはあっても天草四郎時貞本人の姿はない。
同時に死に体のセミラミスも居ない事からこの場を去ったのだろう。
「―――ハッ」
小さく声を漏らし、構えていたクラレントを肩に担ぐ。
勝ちは勝ちだ。
緊張が一気に解け、体内の空気を一気に排気する。
「勝ったんだな…」とか「これで大聖杯を…」など周りの声が耳に入りニカっと笑う。
こうしてサーウェルと共に勝利を味わったのはもしかしたら初めてではないのか?
いや、あったかも知れないが数は少ないはずだ。
そう思うとなんだか自然に頬が緩む。
嬉しそうに振り返るが、獅子劫やカウレスばかりでサーウェルの姿がない。
疑問を抱きながら見渡すと背後ではなく、離れた位置でこちらを眺めていた。
大聖杯の前で…。
違和感を覚えた。
何故奴はそこに居る?
何故周囲にロシェが居ない?
何故ロンゴミニアドを手にして臨戦態勢を取っている?
浮かんだ疑問符が一つに繋がり、モードレッドは大きく目を見開くと殺意を持って睨みつける。
「謀ったなサーウェル!!」
どさくさに紛れて大聖杯を掻っ攫うつもりが逆にそれをやられるとは腹立たしい事この上ない。
脚力にものを言わせた跳躍に、上段に構えたクラレントがサーウェルの霊基を砕こうと襲い掛かる。
ロンゴミニアドを腹部から抜いて全盛期に近いサーウェルと言えども、この距離でモードレッドの本気の一撃を防ぐのは難しい。
思った通りサーウェルは石壁を創造しようとするも間に合わない。
剣先がサーウェルにもう少しで届くと言うところで一本の矢が弾いた。
何が起こったか分かる前に地面から生えた石壁が体勢を崩したモードレッドに直撃し、弾き飛ばされるように距離を取った。
着地点に放たれた次の矢を避け、三発目を切り払いながらギリリと歯軋りをする。
「何時からだ…何時から裏切ったサーウェル!!」
対するサーウェルは悲し気に見つめ返す。
「私はロシェのサーヴァント。どんな手を使ってでも
強い覚悟を目に宿したサーウェル。
その前にアタランテとジャックが着地し、モードレッド達に対して武器を構える。
これが聖杯大戦―――否、聖杯戦争の決戦が幕を開けるのだった。