二度の人生を得たら世界に怒られ英霊になりました…。   作:チェリオ

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 投稿が遅れまして申し訳ありませんでした。
 
 夏バテによる体調不良にて投稿どころか書くことも出来ずに今日まで長引いてしまいました。


第23話 決着

 「説明して貰えるかサーウェル」

 

 カウレスは自分達と対峙しているサーウェルに向かって問いかける。

 共通の敵であった天草四郎時貞を討伐したであろう今となっては、共闘関係も解消して聖杯戦争らしく殺し合うのが道理。

 だからこうして敵対するのには驚きはしたが、取り乱す事は無かった。

 しかし取り乱してないからと言って冷静な訳ではない。

 何故奴の隣にアタランテが並んで加勢しているのか?

 あれ程大事にしていたロシェはどこに消えたのだろうか?

 多くの疑問が過りながらも表情には出さずに見つめる。

 そんなカウレスの横にはサーウェルの目的を知った上で裁定しようとしているジャンヌが並び、気に入らなさそうなモードレッドとまだよく理解できていないアストルフォが戦闘態勢を維持する。

 対して落ち着き払っているようで疑問符を浮かべているサーウェルに険しい表情で弓を構えるアタランテと今にも襲い掛かって来そうなジャックが対峙している。

 いつ戦闘の火蓋が斬られるとも分からぬ戦場でゴクリとカウレスは生唾を飲む。

 

 「説明を求められましたがまずは何からお答えしましょうか?」

 「それは…」

 「貴方がたの目的は何なのです?」

 

 どれからと問われて一瞬迷ったカウレスの代わりにジャンヌが鋭い視線を向けたまま問う。

 ジャンヌは旗を、サーウェルは聖槍を携え、鋭くはあるが殺意や敵意は向けず見つめ合い、ため息交じりに口を開いた。

 

 「私の目的はマスターが望む受肉に他なりません。ジャックも同様……ですがそちらは知りません」

 

 困ったようにサーウェルが答えて“そちら”と称したアタランテへと視線を向ける。

 言葉から意図を察していたアタランテは苦々しそうに口を開く。

 

 「私の願いは全ての子供達の幸せ」

 「全ての!?そんな事が出来ると―――」

 「したかったさ。だが、聖杯により叶えられる願いは願う者が知る方法でのみ。私にはそのような方法は思いつかなかった。ならばせめてこの子らだけでも救いたい!」

 「その子たちはジャック・ザ・リッパーに組み込まれて救う事は…」

 「一時の救いは授けれる」

 

 ジャックを見つめる瞳からカウレスも本気だと察したが、事実を知るジャンヌは思いつめた表情を晒し、アタランテが酷く悲しんだ面を浮かべた。

 ただサーウェルと当事者であるジャックはあっけらかんとした態度のまま。

 “一時”という括りでナニカをやらかす気なのだろう。

 警戒の色が強まっている中、サーウェルは二カリと笑う。

 

 「私達の目的はそれだけだ。願いが叶った暁には天草四郎時貞の願いが叶えられる前に大聖杯を破壊するつもりです」

 

 その一言を聞いた瞬間、カウレスはユグドミレニア一族が勝利するのは不可能だと理解した。

 生き残っているサーヴァントはほとんどが赤の陣営のものばかり。

 カウレスのサーヴァントであるフランケンシュタインはアキレウスとの戦闘で退場―――否、こうなるようにサーウェルの思惑通りに退場させられたのだろうな。

 奴自身は決してアキレウスに勝てるようなステータスは持ち合わせていない。

 あわよくばアストルフォの退場すら願っていたに違いない。

 自身をよく理解しているからこそあの時、こちらを囮にして不意打ちでアキレウスを屠った。

 作り上げた感情を持つ最高傑作であるゴーレム“モルド”を失ってでも結果に繋げる。

 

 「アンタ…本当に魔術師だったんだな」

 「えぇ、そうですとも。私は魔術師なんですよ」

 

 人間らしいと思い込んでいたがこいつは間違いなく魔術師よりの考え方だ。

 自分で行えない事は他から代用して熟せば良い。

 要塞攻略で宝具をアストルフォに渡したり、ゴーレムを配ったりしたのもその一環だろう。

 自分では確実に熟せないから他に熟させようと…。

 

 そんな思惑に嵌ってしまった自分を恨めしく思うも何もしようがない。

 

 何故なら裁定者であるジャンヌ・ダルクは動かないのだから。

 

 「理解しました。なら私は現状は手出し致しません」

 「その判断、感謝します」

 

 サーウェルの願いは彼女の裁定範囲外に出る事は無い。

 ギリリと歯軋りしながら睨むも、打つ手なしのカウレスはそうする事しか出来ない。

 ジークはユグドミレニアが製造したホムンクルスであるが、心の底からユグドミレニアの為に動いている訳ではない。

 現に彼の反応は「そうなのか」程度で参戦するつもりはないらしい。

 それはアストルフォも同様。

 

 「ロシェはどうしたんだ?お前さんにいつもべったりだったろう」

 

 ここで会話に入った獅子劫の言葉にそう言えばとロシェの存在を思い返すも、未だに姿を見る事は無い。

 ロシェはサーウェルを慕い、サーウェルはロシェを主と認め、互いに大事な相手と認識している。

 そんな間柄に関わらずロシェの姿は無く、サーウェルは大聖杯を護るように立って…。

 

 ようやくカウレスは気付いた。

 ロシェの居場所を。

 

 「推察していると思いますがあの中ですよ」

 

 示した方向は大聖杯。

 願いを叶えるためにもロシェがあの中に入ったと言うのか。

 生身の人間で大聖杯の中に。

 

 「やはりか。となるとお前さんが一枚も二枚も噛んでんだろうな」

 

 獅子劫は離れた位置で原稿用紙に文字を綴っているシェイクスピアに投げかけ、それを解っていたようなシェイクスピアは躍り出る。

 シェイクスピアの能力に宝具を考えればそれも可能なのか。

 天草四郎時貞がミレニア城砦に仕掛けた際に戻って来るようにわざわざ誘ったのにはその辺りの事もあったのだろう。

 

 「いやはや中々に楽しかったですぞ。なにせネタは仕込んだものの実際にそれが機能するかは綱渡り。一手でもしくじれば全てがご破算。見ている身としてはハラハラドキドキしつつ、描かせて頂きましたとも」

 

 満足そうに語り、マスターのジーンは小さくため息を漏らすも何処か他人事のような反応を示していた。

 ニヤニヤと笑みを浮かべ、

 

 「吾輩はただ見たいのだ。我が友に我が友が書き記した存在がどのような結末を辿るのか。例えそれがつまらない茶番だろうと滑稽な悲劇だろうと心動かされる喜劇であろうと―――吾輩は聖杯大戦の決着を見届けたいだけなのですから」

 

 そう告げると再び離れ、原稿の続きを書き始める。

 

 

 「戦うと言うのであれば全力でお相手するが如何する?」

 

 サーウェルの言葉に誰も動こうとしない。

 一騎のサーヴァントを除いて。

 

 「全てはテメェの思い通りってか」

 

 苛立ちを露わに一歩踏み出したモードレット。

 獲物を見つけた肉食獣のようにギラギラとした視線を向け、柄を握る手には力が籠っている。

 

 「全てではありませんがね」

 「気に入らねぇな。この俺を出し抜こうって事態気に入らねぇんだよ」

 

 声には苛立ちが伺えるのにその顔はニヤついている事に違和感を覚える。

 そして対峙しているサーウェルも困っているようだがその表情は笑っていた。

 

 「なら決着を付けますか?」

 「おうとも!」

 

 ニ騎は己の得物を構え、笑みを浮かべながら振るい合う。

 それは殺し合いというには本に楽しそうに…。

 

 

 

 

 

 

 正直腹が立つ。

 モードレットは出し抜こうとした自分をも出し抜いたサーウェルに対してそう思う。

 が、そこには憎しみはなく、今は楽しく感じながらも剣を振るう。

 振り下ろした一撃をロンゴミニアドを盾にする事で防がれ、モードレッドは蹴りを入れた反動で飛び退く。

 別に何かに気付いて距離を取ったのではなく、直感と身体が咄嗟に反応したのだ。

 飛び退いた位置には地面より槍状に変質された石が地面より串刺しにいようと伸びていた。

 

 「解かり切ってるんだよ!テメェがしそうなことぐらい」

 

 着地と同時に足に力を込めて猛スピードで突っ込む。

 何度となく手合わせした奴の動きを、脳より先に身体が反応して動く。

 正面からの突撃は地面より大量の石槍を生やして、槍衾で対応してくる。

 初見の時は回避が間に合わず結構危なかったっけ。

 そう思い出しながら突き出された直前に跳んで背後に着地しようとした。

 

 突然の衝撃を受けて口より空気を吐き出し、身体をくの字に曲げて吹き飛ばされる。

 地面を転がり、クラレントを突き刺して勢いを殺す。

 膝をついて起きると飛んで来た石の砲丸を切り払う。

 

 「そちらが解っているように、こちらも解っているのですよ」

 

 微笑みながらサーウェルは呟く。

 唾を吐き捨てながらモードレッドは何をされたのかを理解して鼻で嗤う。

 サーウェルの後方には石壁が立っており、着地する瞬間に生やされてそれをもろに受けてしまった。

 つまり着地狩りをされたわけだ。

 そして追撃してきた攻撃は左右に展開された小さな投石器のような物より放たれたらしい。

 

 「相変わらず小賢しいな!」

 「えぇ、私は弱いですからいろんな手段を持ちえないと戦えないですから」

 「ハッ―――気に入らねぇな」

 

 ふつふつと湧き上がる怒りを口より漏らす。

 笑みを浮かべているものの獰猛な瞳は獣そのもの。

 睨みつけられているサーウェルは困り顔でため息を漏らし、スーッと真面目な表情で答える。

 

 「行くぞ魔術師。テメェごと全てを食い破ってやる!!」

 「では全身全霊を用いて迎撃させて頂きます」

 「―――上等!」

 

 有言実行。

 石壁に石槍を用いた攻撃と妨害がモードレッドを襲うも、その事如くを切り払って進んで行く。

 顔面に向かってきた槍もクラレントで弾き……。

 

 「ちょっ…ロンゴミニアド!?」

 

 弾いたロンゴミニアドが地面にぶつかり跳ねる。

 一瞬だが気に逸れた隙に、サーウェルが距離を詰める。

 予想外の近接戦闘に対応が僅かながら遅れ、一撃をもろに受けてしまう。

 腹部に向けられた掌底。

 しかし、サーウェルは魔術なら兎も角格闘術の基礎も習っていないド素人。

 モードレッドにとっては攻撃というより撫でられたという感じで、防ぐまでも無かった。

 

 が、次の瞬間にはダメージにより吹き飛ばされることになった。

 

 「―――ッ、やってくれる…」

 

 掌より砂で組み上げられた棒が伸びており、腰にぶら下げていたポーチより砂が舞っている事から、掌を当ててから精製したのだろう。

 今までになかった攻撃に面食らったが、卑屈に逃げるのではなく攻めに出たサーウェルに好感を覚える。

 

 「やはり知識は尊いですね。しかし実戦で使うには経験が足らなさ過ぎました」

 「あいつらの(金城とウォルター)知識か。面白れぇ!!」

 

 新たな力を得たサーウェルは真正面からモードレッドに挑みかかる。

 地面から石壁に石槍が生え、空中では砂の棒が生成されて襲い掛かる。

 防御にも攻撃にも使われる魔術の数々に手を焼き、ダメージを負いながらモードレッドはひたすらに突き進む。

 刃先がサーウェルの身体を捉え、袈裟切りの形で皮膚を切り裂いていく。

 ……浅い。

 そう思い追撃の一撃をいれようとすると、サーウェルの優し気な微笑みに足が止まる。

 

 まるで親が子を見守るような優しく、温かな瞳。

 生前の光景が流れ、あの楽しかった日々が過る。

 切れば終わる。

 終わってしまう。

 真っ直ぐ瞳を捉えながら、モードレッドは“だからこそ”止まった足を無理に動かして踏み込む。

 

 上段に構えた一撃を思いっきり振り下ろす。

 サーウェルは避けようとするも間に合わず、防ごうと突き出した左腕を肘から先を斬り落とされてしまった。

 切り口を押さえ、流れる出血を押さえて膝を付いたサーウェルに止めを刺そうと、構えるもその刃がサーウェルを斬る事は無かった。

 

 「もう少し戸惑うかと思ったんですけどね…」

 

 呟いた矢先に何処からかロンゴミニアドが降り、地面に突き刺さった。

 そこは先ほどまでモードレッドが足を止めていた位置で、ロンゴミニアドが転がっていた位置には一本の石柱が立っていた。

 石柱を生やしてロンゴミニアドを上へと吹き飛ばし、それを計算して落下地点にて足が止まるように行動したのか…。

 

 「私の負けです…」

 「あぁ、俺の勝ちだ。そして負けでもある…か」

 

 大聖杯よりロシェが姿を現す。

 その直前にサーウェルの身体に変化が現れ、彼は一個の生命体としてここに立っている。

 つまり彼はサーヴァントから人となるべく受肉したのだ。

 同時にジャックの姿が消え、アタランテは笑顔を浮かべる。

 

 「もう良いのか?」

 「あぁ、俺はな」

 

 獅子劫にそう返すと少しばかり罰の悪い顔をする。

 自分はこうして決着を付けれてすっきりしたが、獅子劫はそうではないだろう。

 獅子劫は呪いにより魔術回路の継承を出来ず、今まで受け継がれてきた魔術回路を自身の終焉と共に終わらせることになる。

 だから大聖杯に呪いの解除を願う筈だったのに…。

 意図を察した獅子劫はぼりぼりと頭を掻き、小さく息を漏らした。

 

 「気にすんな。ただ届かなかった。それだけだ」

 

 返す言葉は小さく返事とも取れるような声を漏らすばかり。

 もう戦う空気は過ぎ、残るは問題となっている大聖杯の処分のみ。

 

 「悩むのもめんどくせえ。やるぞサーウェル!」

 「負傷者なんですが」

 

 ロシェに手伝って貰って斬り落とされた腕は止血し、片手で聖槍を握り締める。

 モードレッドはクラレントに魔力を流し、宝具を発動させる………。

 

 

 

 

 

 聖杯大戦はサーウェルを勝者として幕を閉じた。

 空にはセミラミスの宝具である空中庭園が徐々に崩れ、残骸を海に撒き散らしながら最後の瞬間まで飛行を続け消えて行った…

 武勇に優れ、知略に長け、優れた一芸を持った多くのサーヴァントが集った聖杯大戦にて勝者となったサーウェルは、大損害を被ったミレニア城砦前に立ち、失った者達を思い返していた。

 非力な身で勝ち残る為とは言え騙し討ちのような手を使って排除したサーヴァント達にモルド。

 バーサーカーとして顕現し、対峙した我らが騎士王。

 この身を救うためにその身、その人格を使用して記憶だけを残して溶けて纏まった金城にウォルター。

 失った者を想うと痛む欠損部以上の痛みを感じるも、その表情は決して曇らせる事は出来ない。

 もしここで悲壮感漂わせる表情など浮かべた瞬間には、モードレッドがガチギレして吶喊してくるに違いない。

 想像するだけでも血の気が引いて行くようだ。

 

 と、言ってもモードレッドはもういないのだが…。

 聖杯大戦のきっかけである大聖杯はサーウェル達の望みを叶えると、天草四郎時貞の願いが成就する前に破壊した。

 大聖杯の破壊はサーヴァントの帰還を意味し、魔力が付き次第残存していたサーヴァント達は座に還る。

 空中庭園最上階のベンチで瀕死の天草四郎時貞に膝枕していたセミラミスも、マスターと別れを済ませて初めて煙草を口にしたモードレッドも、書き上げた原稿を渡して庭園に残ったシェイクスピアもすでに退去した後である。

 今、ここに残っているサーヴァントはギリギリ限界しているアストルフォのみ。

 ジャンヌも少し前まで居たのだが問題視していた天草四郎時貞の望みが潰え、大聖杯が無くなった事で役目を終えたとばかりに退去し、今は依り代として肉体を提供していたレティシアという少女が居るだけである。

 

 「先生…これからどうしましょうか?」

 

 並んで眺めていたロシェ君が問いかけるも、サーウェル自身どうするか決めかねていた。

 サーヴァントから受肉して一個の個体となった身ともなれば、色々と世界のルールに従わなければならないし、何かしらのしがらみを抱える事になる。

 ロシェ君の事を考えるなら、何処かひっそりとした住処を探してゴーレム技術の伝授……のみを考えれば良いのだろうけど、肉体を得たことで寿命の概念まで得たので順当にいけばロシェ君よりも先に逝く事になるだろう。

 そうなれば外に対して興味を示さない彼はどのような人生を歩むのか…。

 考えれば考えるほど頭が痛くなりそうだ。

 ゴーレム研究するにも資金は必須で、魔術協会に聖杯大戦を仕掛けたユグドミレニア一族のうえに私と共にあちらこちらをふらふら裏切りを重ねた事から魔術の世界で信用は皆無に近い。

 魔術関連で仕事を請け負うのが難しいとなれば普通の職などを視野に入れた方が良いのか。その前にゴーレム関係なしで人間関係を構築させた方が良いのか。

 もんもんと悩み、答えを出すことなくサーウェルが渋い顔をして首を傾ける。

 

 「貴方達はどうするつもりなのかしら?」

 

 悩み続けていたサーウェルにジーンが問いかける。

 この質問には遠巻きにカウレスが聞き耳を立てていた。

 元々敵陣営で最終的には勝利を掻っ攫って行った私に良い感情を持っていない彼らは、気になっても近づく気配はない。

 特にカウレスは恨みすら抱いているだろう。

 刺さる視線を無視して答えようとするも、まだ明確な回答を描き切れていないサーウェルは質問をそのまま返す事に。

 

 「貴女こそどうされるのですか?」

 「私は元に戻るだけよ。ごく普通(魔術師の)の日常に」

 「戻れるのですね。それは良かったです…色々巻き込んでしまったからどうなるかと…」

 「本当に災難だったわ。依頼は熟せずに成功報酬はパー。欲しかった魔導書は買えないし…けど彼らよりマシね」

 

 そういった先にはセミラミスの毒に侵され、空中庭園より救出された赤の陣営のマスター達に魔力タンクとして魔術協会より集められた魔術師達の姿があった。

 雇われたり、魔術師としての使命感だったりで意気揚々に参加した彼らは、まさか操り人形にされて利用されるだけ利用されるなんて思わなかったろう。

 とりあえず毒が抜けきっていない抜け殻の様な彼らは魔術協会や聖堂教会からのお迎えが来るまでここで待機。

 同じ赤の陣営だったジーンと獅子劫は迎えと共に帰還するとの事。

 

 「私達は少しいろんな所を巡ってみようかと」

 「当てもなく世界を巡るつもりかしら?」

 「どこかで一度ロンドンに行きたいとは思ってますよ。私にとっても(ウォルター)にとってもあのコ(・・・)にとっても馴染みのある地ですからね」

 「そう…ならまた会うかも知れないわね」

 「かも知れないですね」

 

 問題を先送りにしたサーウェルはシェイクスピアが書き上げた原稿を持つジーンに微笑む。

 同時に壁にもたれて煙草を吸っている獅子劫に別れの挨拶の意を込めて軽く手を振る。

 想うところがあるだろうに煙草を吹かしながら、軽く手を上げて返してくれる辺り大人と言うかなんというか。さすがモードレッドと良い関係を保てたマスターだなと心底思う。

 さて、最低限の別れは済まし、六導 玲霞とも合流を果たした。

 ならばここに長居は無用だ。

 下手に長居をしたら、セレニケに「追加のゴーレムを」と頼まれそうだ。

 

 「では参りますか」

 「はい!」

 「えぇ、そうね」

 

 満面の笑みを浮かべて喜ぶロシェ君に、含みがありそうな余裕のある笑みを浮かべる六導 玲霞。

 サーウェルを含んだ()()はミレニア城砦…否、ルーマニアから離れるのだった。




 次回二十五日にエピローグを投稿して完結としたいと思います。

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