二度の人生を得たら世界に怒られ英霊になりました…。   作:チェリオ

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 前話から半年経っての投稿…。
 本当に申し訳ありませんでした!
 
 体調面の不調やリアルが忙しくて投稿物全体に手が回らなくなり、今日の今日まで遅れてしまいました。
 
 


第24話 サーウェルのその後

 カチカチカチとキーボードをリズムよく叩く音が室内に響く。

 それほど強く叩いているという訳ではないのだが、部屋の中は時計の時を刻む長針短針の以外に音を発する事がない静かな空間だからこそ良く聞こえる。

 画面に並ぶアルファベットと記号、数字をジッと見つめながらサーウェルは指だけは動かし続ける。

 

 願いを叶える願望器たる“大聖杯”を巡って行われた大規模な争奪戦―――“聖杯大戦”。

 召喚時にマスターのロシェ君と共に陣営を抜けて敵対陣営に協力し、さらにその陣営を抜けて大義名分を付けて元の陣営に戻り、最後には共通の敵を倒すべく協力体制になった両陣営を裏切って勝利者となったサーウェルは、聖杯大戦後は旅に出た。

 自らの脚で歩き、自らの目で見て、自らの身で体感する。

 

 サーウェルは勿論ウォルター・エリックも金城 久も味わう事は無かった体験に中々心躍った。

 ただこれはサーウェル自身が旅をしたいという訳ではなく、ゴーレムを中心に他には興味を持たないロシェ君に世界を教える目的が大きい。

 正直一応とは言え魔術師としては籠って研究に明け暮れるというのは良い環境なのだろう。

 だけど魔術師であろうと人間社会から隔離されたまま生きると言うのは不可能で、制作や研究に必要な触媒や資金は必要不可欠で、それらを抜きにしても生活環境を過ごすには関りは必須だ。

 二度に渡り名を連ねていたユグドミレニア一族を裏切り、ロシェ君自体が関わりを持っている魔術師などは少ない。

 私は勝利者として“受肉”を成した身としては、いつかは死ぬことになる。

 年齢順に考えればロシェ君を残して…。

 そうなると人間関係を構築していない上に、関心が無いロシェ君の生活は瞬く間に躓いてしまうだろう。

 ゆえに色々体験させることで世界を、関りを、人というものを。

 サーウェルとしては料理を通しての王やモードレッドとの関係、ウォルターとしてはシェイクスピアや演劇の数々によって何かしら繋がりを保てていたのもあって、そう言う大事さは身に染みている。

 金城はそう言ったのは無かったので羨ましいという想いの方が強いかな…。

 

 何にせよ旅での体験のおかげで以前に比べて外にも興味を持つようにはなったが、やはりゴーレムに向ける関心ほどではない。

 彼の成長を喜ぶと共に今後の課題として認識し、日夜頭を悩ましている。

 

 「先生!受け渡し終わりました!」

 

 ドアがノックされた後、勢いよくロシェ君がにっこりと笑いながら開けて来た。

 旅を終えたサーウェル達はロンドンに拠点を構えて生活している。

 表向きはちょっとしたレストラン。

 裏では魔術師向けにアイテムを販売している工房。

 正直どちらも趣味だ。

 魔術師向けと言っても誰でもという訳ではなく、知人か紹介を受けた相手だけ。

 獅子劫 界離やジーン・ラムなんかは様子見も兼ねて仕事道具を注文したり、セレニケ・アイスコル・ユグドミレニアが趣味用に事細かな設定と要望を書き加えたゴーレムを頼んでくる。

 今もまた獅子劫に注文を受けていた商品をロシェ君が対応し、受け渡しを済ませた所だ。

 本来なら私が出るべきなのだがこれもまた人との関りを繋げる為。

 

 「いつも代わりにすみませんね」

 「これぐらいどうって事ないですよ」

 

 聖杯大戦から五年近く経ち、あの頃に比べて身長も伸びたロシェ君は少年から青年と成長していた。

 …しているのだけど相も変わらず私にべったりと懐き、今も褒めて欲しそうにすり寄って来る。

 段々喜びを表現する犬のように見えて来て、自然と頭を撫でてしまう。

 さわさわと癖のある髪を撫でると嬉しそうに頬を緩める。

 可愛らしい反応にふわっとした手触りからずっとそうしていたい気持ちはあるも、そう言う訳にもいかないのでほどほどにして止める。

 …何故そんな棄てられた子犬みたいな目でこちらを見るのですか?

 妙な罪悪感を生じさせる視線に咳払いを行う。

 

 「そう言えば今何時でしょうか?」

 「えっと、もう13時ですね」

 「13…時…?」

 

 作業に没頭し過ぎて時間を失念していた事にショックを受ける。

 一応ロシェ君には夜更かしをしないように言っておきながら、自分が徹夜して作業していたとは…。

 魔術で誤魔化していたのが仇となってしまったと想い、これから気を付ければ良いかと問題にとりあえずの解決策を投げかけて席を立つ。

 半日以上椅子に腰を下ろして作業を行っていただけに身体の至る所が凝り固まってしまっている。

 コキコキと骨の小気味いい音を立てて解し、立ち上がったサーウェルは二階の自室から一階へと向かう。

 勿論後ろには何も言わずともロシェが追従する。

 二階は居住スペースとなっており、一階の大半はレストランとなっている。

 本当に趣味程度なので気が向いた時にだけ厨房に立って調理を行い、普段は作った数種類のゴーレムによって運営されている。

 ゴーレムと言っても外見が岩や土そのまんまのゲームや漫画に出てくるような物ではない。

 見た目は人にしか見えず、内部機構にサーウェルのゴーレム技術と金城のプログラミング技術を混ぜ込み、ゴーレムというよりはロボットに近い存在。

 しかも見た目は聖杯大戦で召喚されたサーヴァントと円卓の騎士をモデルに制作している。

 性格も寄せてはいるが中には接客業に向かない性格の者もいるのでそこらへんは多少の改変を行った。

 ブラド三世、ジャンヌ・ダルク、天草四郎時貞、アストルフォ、ケイローン、モードレッド、アキレウス、カルナ、ランスロット、ガウェイン、トリスタンなどなど。

 一般客にはそれは“人”にしか見えず、美男美女揃いの店員目当てに訪れる常連客が居るほど人気が出ている。

 というか悪ふざけでエプロン姿のヴラド公を厨房に立たせたのだが、今やそれが当たり前のように店の光景に馴染んだ事には正直驚いた。

 肉体を得たことで食事をしなければならず、レストランで食べるのが楽で良いけども、一階では割合は少ない居住スペースの台所へと向かう。

 

 「ロシェ君は何か食べたい物ありますか?」

 「先生と同じでしたらなんでも」

 「何でもという回答が一番困るんですよね」

 

 苦笑いを浮かべながら降りるとピアノの音色が耳に届く。

 今日も彼女が弾いているのだろう。

 邪魔をしないようにちらりと通り様に様子を伺うと、六導 玲霞が穏やかな笑みを浮かべながらピアノを弾き、隣では嬉しそうに聞くジャックの姿があった。

 

 聖杯大戦にて召喚されたジャック・ザ・リッパーというのは“ジャック・ザ・リッパー”の伝説に取り込まれた幼き子供達。

 彼ら、または彼女達は伝説に取り込まれてしまい、そこから解放することは不可能な存在となってしまった。

 子供達に良き世界を願ったアタランテに、ジャック・ザ・リッパー本人を引き込むためにサーウェルは一つの考えを打ち明けた。それは一時的な彼ら彼女らへの安らぎの提供。

 サーウェル同様に一時的に受肉させることで、生を謳歌する間だけでも幸せな環境で過ごさせる事。

 死ねば当然座に還り、記憶も残っていないだろう。

 正直自己満足以外の何物でもない。

 しかしジャック本人もそれを望み、悲しき子供達に一時でも安らぎを与えられるならとアタランテは協力してくれた。いや、自身の願いがもはや叶わないというのも大きかったのかも知れないが…。

 

 なんにせよジャックも、六導も幸せそうでなによりだ。

 ちなみに店に居ないジークフリートとアタランテを模したゴーレムが、二人の護衛の為に近くで待機させている。

 

 旅の最中も何処の所属かは調べなかったが、何度か魔術師の襲撃を受ける事もあった。

 全部被害もなく返り討ちにはしたが万が一という事もある。

 今はレストラン運営なども兼ねさせているけど、複数のゴーレムを作ったのも最初は防衛用の意図があったからだ。

 拠点にも防衛用の魔術も仕掛けているのである程度(・・・・)なら何とかなるだろう。

 

 時刻的には昼食だけど実質朝食という事で、軽くも量を食べれるサンドイッチを台所で作り始める。

 タマゴにハム、サーモンレタスにツナマヨ、デザートにフルーツサンドも良いね。

 短時間で楽に作れ、種類も用意出来ると調子に乗って作っていると思っていた以上に大量に作ってしまった。

 少し分けて来るかと自分とロシェ君の分をその場に残し、大皿に分けた分を六導達へ持っていく。

 

 「失礼しますよ」

 「あら?ようやく起きたのね。ジャックよりお寝坊さんね」

 「いえいえ、起きてはいたんです。起きては」

 「それはそれで問題ね。子供に言い聞かせて自分は破るなんて」

 「仰る通りですね。以後気を付けます……っと、本来の目的を忘れるところでした」

 

 嗜めるように注意を受けていると、ピアノが中断されて手持ち無沙汰になっていたジャックが、手にしていた皿を見上げて何々?と疑問符を浮かべている。

 大皿を近くのテーブルに置くとジャックが小さく歓声を挙げてくれる。

 

 「どうしたの?」

 「作り過ぎたのでお手伝い頂ければと」

 「食べて良いの?」

 「勿論ですよ」

 

 早速と言わんばかりに一つを頬張る様子に自然と二人共頬が緩む。

 美味しそうに食べてくれると言うのは嬉しい事だ。

 

 「美味しい?」

 「うん、美味しいよ」

 「けど一番は?」

 「お母さんのハンバーグ!」

 「ですよね」

 

 満面の笑みで告げられ、一応料理人としては悔しさが心に残るが、微笑ましい二人の関係に胸中が温まり、ほんわりとした気持ちでいっぱいに満たされて自然と消え去っていく。

 いつもでも仲睦まじい二人の間に居ると邪魔者感が半端ではないので、用件であったサンドイッチも渡せたことだし立ち去るとしよう。そうして戻った台所ではサンドイッチに手を付ける事無くただただ待っていたロシェ君の姿があって、先に食べててくださいと言ってなかった自分の配慮の無さに苦しむ。

 

 「えと、食べましょうか?」

 「はい。ですけど片手で食べれるのですから地下で食べませんか?」

 「構いませんが作業は埃が立つので無しですよ」

 「わ、分かってますよぉ」

 

 焦り具合から作業しながら食べる気満々だったに違いない。

 なんとも意欲的な弟子を持ったことでしょう。

 従者でありながら師と仰いでいただいている身としては勿体ないばかりの子ですよ。

 

 この建物の地下には魔術を用いて作り上げた魔術工房が存在し、ゴーレムなどはそこで制作しているのである。

 中には趣味が先行し過ぎて表に出せない物も置いてあったりするので、他者を招くわけにはいかない危険を孕む場所となってしまった。

 おちおちと友人を呼ぶことも叶わない。

 ま、私もロシェ君も友人と呼べる人間など片手で足りるぐらい………そもそも居ましたっけ?

 仕事抜きにして関りのある人物と言えばゴルド・ムジーク・ユグドミレニアだけど、それは子持ちである彼から教育の相談をしているだけで別段友人関係という訳ではない。

 …アレ?友達ッテナンダッケ?

 

 魔術工房へと降りた私とロシェ君は地下警備用に配備したフランケンシュタインとセミラミスを模したゴーレムの横を通り過ぎ、幾らか片付いているテーブルにサンドイッチを運んで対面になるように席に着くと食事を始める。

 はむりと被っては満面の笑みを浮かべる様子を眺めながら食べるのはまた格段と美味しく感じる。

 自然と頬を緩ませているとキョトンとした表情で首を傾げてきた。

 顔に出ていたかと引き締めるも時すでに遅し。

 

 「どうしたんですか先生。なにか楽しい事でも?」

 

 “私、気になります”と言わんばかりに目をキラキラさせて問いかけられても、貴方の美味しそうな様を眺めて微笑んでいましたなんて正面切って口にするのは少し恥ずかしいので、少し悩んで他の話題を提供する。

 こういった場合は彼が最も興味のある話を振ったら、水を得た魚のように生き生きして意識をそちらに全力疾走で向かうので良いのだが、そうなるとサンドイッチを食べる事も忘れて喋り出すだろう。

 話題を振ろうにも興味のあるものは地雷になりそうなので、こういった場合は本当に悩むものだ。

 

 「いえ、少々思い出し笑いを…」

 

 最終的に在り来たりな逃げを口にして誤魔化す他なかった。

 とはいえ何かしら話題は欲しいものだ。

 

 「そう言えばカウレス君とは連絡は取っているのですか?」

 「…たまに近況報告を聞きに電話してきますよ」

 

 嫌そうに…。

 ほんっとうに嫌そうに答えられた。

 

 聖杯大戦時には黒のバーサーカー“フランケンシュタイン”を召喚したマスターであるカウレス・フォルヴェッジ・ユグドミレニアは、現在はユグドミレニア一族の当主となっている。

 ユグドミレニア一族は大聖杯を前回の聖杯戦争で奪取してからは秘匿し、年月と資財と人員を大量に消費して魔術協会からの独立と当時の当主であったダーニック・プレストーン・ユグドミレニアが己の野望を叶えるべく聖杯大戦を吹っ掛けた。

 完全な敗北はしなかったものの、力を大きく削がれたユグドミレニアは滅ぼされていても可笑しくなかったが、対抗した魔術協会と協力体制を取った聖堂教会の赤の陣営を聖堂教会より派遣されたマスター兼監督役であったシロウ・コトミネ―――否、前回聖杯戦争で召喚された天草四郎時貞によって半分以上を掌握され、彼の望みを潰すのと軟禁状態にあった赤側のマスター達を救出した事もあってそこまでの事態には陥らなかったのだ。

 戦争を吹っ掛けたダーニックが戦死した事と力が大きく削がれたことでもう同じような事を行えなくなったと判断されたのも要因の一つだろう。

 それでも当主であるカウレスを魔術師の教育機関であり魔術協会の本拠地である時計塔で監視していたりするが、本人曰くそれほど窮屈な思いもせずに毎日騒がしくも飽きない生活を送っているとの事。

 以前は姉のフィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニアが次期当主として期待されていたが、魔術刻印をカウレスに渡してからは魔術師ではなく人として生活している。

 一応とは言え当主となった事もあって、ユグドミレニア一族の名を持つロシェ君を気にかけてくれているのだろう。

 

 「駄目ですよ。気にかけてくれてるんですから」

 「けどあれ単なる確認作業ですよ。もしくは面倒に巻き込まれたっていう愚痴を言うだけですって」

 「…確かに私が電話に出た時も愚痴を聞かされましたっけ」

 「でしょう。それだったら時間を無駄にせずにゴーレム作りに専念したいです」

 

 地下の魔術工房では私の技術を日々吸収しているロシェ君が作った多くのゴーレムが配備され、その中で全身全霊を持って制作している一体のゴーレムが存在する。

 サーウェルの最高傑作で聖杯戦争では作戦上仕方なく自爆兵器として扱われた“モルド”。

 本来であれば自ら修復または新規の制作を行えばよいのだけど、ロシェ君が作れるかどうかで私を超えれるかどうかの物差しとして与えたのだ。

 

 「今日も今日とて頑張りますよ!―――今日()夜更かししても構いませんよね?」

 「………そうですね。はい、良いですよ」

 

 やはり気付いていましたか。

 夜更かしは身体に悪いですが、してしまった身である限り強く言う事は出来ない。

 毎夜毎夜うんうんと頭を悩まして悪戦苦闘しているロシェ君だけど、いつもいつも酷く楽し気に作業するんですよね。

 頷きながら嬉しそうなロシェ君を眺める。

 

 何気に今の生活を気に入っている。

 サーウェルのように冒険譚に描かれる体験をする事は無く、ウォルターのように趣味に財を湯水のように使う贅沢な生活でもなく、金城のように会社の歯車として働いては休む為に家に帰ってたまに趣味で発散するような決まり切った生活でもない。

 ほどほどに稼ぎ、のんびりとした日々を趣味に走ったり、自分を慕ってくれているロシェ君に技術を教えたり、三回もの人生で味わう事の無かった子供を育てる苦労を味わう…。

 こういった日々を味わう事は無かった身としては新鮮ながら、ゆったりとした時をジャックに六導、そしてロシェ君と共に自由に生きれるというのは心地よい。

 忘れがちな想いを胸にサンドイッチと一緒に噛み締めるのだった。




 読んで頂きありがとうございました。
 そしてお待たせしてすみませんでした。

 この回で【二度の人生を得たら世界に怒られ英霊になりました…。】は完結となります。
 送られた感想の数々には大変励まされ、誤字脱字のご指摘は本当に助かりました。 
 感謝いたします。
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