二度の人生を得たら世界に怒られ英霊になりました…。   作:チェリオ

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第03話 「赤のサーヴァント」

 赤の陣営に召喚された赤のセイバー―――モードレッドは機嫌が悪そうに鼻を鳴らした。

 

 機嫌も悪くなるのもしょうがない。

 召喚に使用された媒体は忌々しくも円卓の欠片。

 自身を女と扱われることを嫌う為、召喚されてすぐマスターに「女か?」と言われ激怒。

 最後にはあのモルガンと似た雰囲気を纏った赤のアサシンとの顔合わせだ。

 機嫌を悪くするにあたっておつりがくるほどの事柄が連続して起これば当然の事だろう。

 

 その機嫌の悪いモードレッドの隣で召喚したマスターである獅子劫 界離(ししごう かいり)は運転しながら苦笑いを浮かべる。

 

 「お前さん、本当に行くのか?」

 「―――あ?」

 

 今更ながら問われた言葉に片目を吊り上げて振り返る。

 魔術師らしからぬ風貌のこのマスターを思ったよりも気に入っていた。

 と、いうのも魔術師のイメージと言えば無駄にプライドが高い頭でっかちの印象が強い。さらに宮廷魔術師を見ていれば胡散臭さまで加わってあまり好きな人種では無かった。

 

 鍛えているのであろう筋肉質の大柄な肉体に、戦いによって出来た顔の古傷。

 服装は見栄だけの無駄な装飾は省き、動き易く戦闘の邪魔にならないものを選んである。

 何より戦場慣れしているのが雰囲気で分かる辺り気に入った。

 武器も古臭い魔術道具でなくメインは銃にナイフと魔術のみの攻撃に拘りがない。

 変に凝り固まって手段を選ぶ連中よりも、こういう手段を選ばない輩のほうが戦場では生き残る。

 

 あとは…そうだなぁ。

 奸物のおもねるような類の奴でなくて安心したぐらいか。それと行動力もか。

 

 モードレッドより中々の高評価を貰っている本人はちらっと地図を確認して前へと向き直りぼりぼりと頭を掻く。

 

 「行先だよ。マジでイギリスへ向かう気か?」

 「おう」

 「理由はあれか…神父が言っていたサーウェルが召喚された可能性云々か」

 「ったりめぇだ!アイツが居るんならまず一発ぶん殴っておかないと気が済まねぇ!!」

 

 あの雰囲気がおもっくそモルガンに似た気に入らない赤のアサシンを召喚したマスター―――シロウ・コトミネ。

 所属は魔術協会ではなく聖杯戦争においては監督役に回る聖堂教会。

 監督役でありながらマスターとして派遣され、魔術協会と共に赤の陣営に加わっている。

 召喚されたモードレッドは獅子劫に連れられ、シロウ・コトミネが居る教会へと赴いた。

 

 そこで黒の陣営で真名が分かっているのはランサーがヴラド三世という事と、黒のアサシンがまだ合流していないなど簡単な現状の説明が行われた。ヴラド三世と言えばルーマニアの英雄。知名度補正も入ってかなりの強敵になるのは必至。だが、モードレッドが気になったのはイギリスでの一件のみ。

 アーサー王伝説研究家としても知られるウォルター・エリックの屋敷にて英霊が召喚されたとイギリスに拠点を置く魔術協会の者より報告が上がった。そもそもは黒のマスターの一人がイギリス入りした事から監視を始めていると、仲間割れか黒のサーヴァントに襲われ、最終的にサーヴァントを召喚して撃退したのだとか。剣を持っていた事からセイバーだと当初は思われたが、魔術を行使して監視していた使い魔をあっさりと全滅させたこと、そして容姿に装備品など鑑みてサーウェルだと断定されたのだ。

 

 獅子劫もアーサー王伝説は知っているが、何故こうもサーウェルに対してイラついているのかが分かっていない。それなのに教会を出るや否やイギリスに行くぞの一言でずっと車を運転しているのだった。

 

 「ぶん殴り優先でこのルーマニアの首都からイギリスへ向かうなんざ俺達ぐらいだろうな」

 「良いじゃねぇか。ぶん殴ったついでに討ち取っちまえば」

 「旧知の仲なんだろ?良いのか」

 「良いに決まってんだろ。それに戦場に敵味方分かれて立ってんだ。迷う暇なんかねぇ」

 「――だな。まったくもってその通りだ。いらん事聞いたな」

 

 頷いたモードレッドが座席を倒して寝る体勢に入ったことで車内が静かになる。

 ラジオでも聞くかと手を伸ばすが、それを操作するぐらいなら先に煙草を吸うかと窓を開けて懐から煙草を取り出す。

 咥えた辺りで火が付け難いと思い、咥えた煙草を元に戻してため息を吐き出す。

 

 「にしてもイギリスまで運転か。さすがに億劫だな」

 「ん?あぁ、だったら俺に任せろ」

 「ああ?運転できるのか」

 「俺の騎乗スキルはBだぜ。どんな馬だって乗りこなしてみせらぁ」

 「そいつは助かる」

 

 サーヴァントは寝る・食うなどを必要としない。

 休みを入れながらイギリスまで運転しなくて済むと思うと気が楽になった。が、獅子劫 界離はこの後、己の発言を深く…深ーく反省するのであった…。

 

 

 

 

 

 アジアのある島国には早起きは三文の得ということわざがあるらしい。

 僅かでも得るものがある……これに私は異を唱えよう。

 

 「おはようございますマスター!まだ日も昇りきっておりませんが急用にて失礼致しますよ!」

 

 気持ちよく寝ていた安眠を妨げられ、ぼやけた意識に喧しい騒音が叩き込まれる。

 眼鏡を付けていないので視界までもぼやけており、よく見る為にも安眠を妨げた怒りも込めてその対象を睨みつける。

 ぼやけた視界でも分かる大仰な動きににやついた髭面。黄緑色のスーツに左腕を隠すように羽織っている黒のマント。

 

 昨日の召喚時に戯曲マクベスのマクベス将軍を呼び出そうとして、召喚してしまった作者―――ウィリアム・シェイクスピア。

 

 ベッドより上半身を起こし、寝ぐせの付いた髪を撫でる。

 叩き起こされただけでも不機嫌だというのに、叩き起こして来た者がシェイクスピアだと分かって不機嫌さがここに極まった。

 眉が険しく歪み、大きなため息が漏れる。

 

 「おやおや、気分がすぐれぬ様子。何か煩わしい事があったかのようですな」

 「えぇ、そうよ。察しが良くて助かるわ…」

 

 言葉とは裏腹に左手の甲に装備している木製の車輪を回転させる。

 彼女の名はジーン・ラム。

 【疾風車輪】という二つ名持ちのフリーランスの魔術師である。

 魔術協会の要請で聖杯大戦に参加した赤の陣営のマスターの一人。

 

 回っている車輪は飾りでもおもちゃでもない。

 インド発祥の投擲武器の一種のチャクラム――彼女の場合は別名の【戦輪】か【飛輪】のほうが好ましいか――であり、それこそが彼女の武器。

 それが回転し始めた事は加減は置いておいて、戦闘態勢に入ったことを意味する。

 

 優秀な魔術師と言えどサーヴァントに対して戦闘態勢に入った所で戦いどころか威嚇にもならない。

 ……………目の前の例外を除いて。

 

 「おお、落ち着かれよマスター!吾輩手荒なことは――」

 「分かっているわよ。だからこれ以上騒がしくしないで」

 

 慌てた様子で両手を上げて無抵抗のアピールをするシェイクスピアにドスの利いた睨みを向ける。

 サーヴァントと召喚される者は武勇に秀でた者や知略に優れや者、魔術に精通した者などが召喚されてきた。これは聖杯戦争という戦いの場で競い合うが為に、戦いに向いた英雄たちを召喚しなければならないのでそうなる。

 そもそもサーヴァントとして呼べるのは世界に刻まれた人物達。自ずと神話や伝説に名を遺す強者がひしめいている。しかし世界に名を知らしめた人物は争いのみにならず。

 

 レオナルド・ダ・ヴィンチ、ピタゴラス、ミケランジェロ・ディ・ロドヴィーコ・ブオナローティ・シモーニ、ニコラ・テスラ、アルベルト・アインシュタイン、ガリレオ・ガリレイ、アイザック・ニュートンetc.etc.

 音楽に絵画、学問など各分野で名を広めた人物もいる。

 

 劇作家ウィリアム・シェイクスピアもその一人だ。

 俳優として、作家として成功した彼が一騎当千のサーヴァントと対峙出来る筈もなく、魔術師相手にも戦えば負けるという戦闘能力が皆無と言って良いほど弱いサーヴァント。

 キャスターのクラスを得ているものの、魔術工房も礼装の制作や使い魔を従える事も出来ない。

 唯一出来る事と言ったら固有スキル【エンチャント】を使用しての強力な付与を付け加えれる事。

 

 いつまでも回していても意味がないので車輪の回転を止めて、ベッド脇にある棚の上に置いた眼鏡をかける。

 

 「で、用件は何かしら?教会…あるいは神父からの招集かしら」

 

 予想として浮かんだものを言ってみたらシェイクスピアは首を振るばかり。

 

 「確かに神父から言伝は預かりましたが魔術協会からの事はなにも」

 「言伝と言うのは?」

 「本日予定していた集合時間を遅らせるとの事でした。黒の陣営に動きがあったようなのです!!」

 「―――そう」

 

 そう…そうとしか答える事が出来なかった。

 マスターとしてサーヴァントを従えて参戦することも出来ず、自らが戦闘に介入することも出来ないこの身では、やる事がないのだ。せいぜい赤の陣営が勝つように多少支えるぐらいだろうか。または部屋で読書でもしておくぐらいか…。

 

 なんにせよ後は待つだけ。

 赤の陣営が勝利したときに生き残ってさえいれば報酬は頂ける。

 長年欲しかった魔術書が時計塔でオークションにかけられるとの事で、報酬から最低でも三冊は手に入れれるだろう。

 今はそんな事だけを考えておこう

 

 「なにやら暗い雰囲気ですなぁ…さて、そんな雰囲気を払拭すべく外にでも参りませんか?」

 「・・・・・・・・・」

 「朝の澄んだ空気に日が昇る空の元に出ればそのような暗く重苦しい気持ちも払しょくされましょう。どうせ年をとるなら、陽気な笑いでこの顔にシワをつけたいものですなぁ!」

 「はぁ…分かったから大声を出さないで」

 「これは申し訳ない。すでに馬車の準備は整っております」

 

 窓から外を見ると確かに古風な馬車が止められてあった。

 どうやって出したのかは問題ではない。現代の街で馬車など目だって仕方がないのだ。

 

 「とりあえず馬車はいらないわ―――もしかして遠出するつもりだったのかしら?」

 「まぁ、そうですなぁ……少々、行きたいところがありまして」

 「……はぁ…いいわ。でも馬車は街から離れたところに用意しなさい。目立つわ」

 「畏まりました。では、準備が終わるまで外で待っておりますぞ、マスター」

 

 部屋から出て行ったことを確認して、ジーンは何度目かのため息を漏らす。

 普段着に着替えようとベッドから起き上がり、遠出ならとバッグに持ってきていた着替えを除く、本や魔術関係の私物をバックに入れて持って行った方がいいかしらと考える。

 

 

 

 この時、ジーン・ラムは知る由が無かった。

 シェイクスピアが黒の陣営がイギリスで戦闘を行ったという事実、親友であるウォルターの屋敷が被害にあった事、さらに赤のアサシンが捉えた黒のサーヴァントの姿を神父と赤のアサシンが話し込んでいるところに割り込んで入手したのだ。

 イギリスと言う地にウォルターの屋敷、さらには漆黒の鎧に真紅のビロードマント、鉈のような剣を持ったサーヴァントとくれば一目瞭然でサーウェルと分かった。

 

 親友が調べ、自身が作品とした英霊が呼び出された!

 

 そう思うと心が弾み、会ってみたいと思ってしまったのだ。

 つまりシェイクスピアが向かおうとしているのは……………遠出にしても限度がある。

 そして半ば投げやりだったジーン・ラムが許可した事で彼女の運命を大きく変えてしまった事は言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ【完璧な王? ぱーと①】

 

 モードレッドは初めて目にした瞬間、騎士王に見惚れてしまった。

 母からは倒さなくてはならない敵と言われたが、完璧すぎる王の姿に不可能だと悟った。

 言われた事には背くが自分の意志で騎士王の剣の切っ先の一部となる為に仕えようと……。

 

 近くで見た王は遠目で見ていたよりも完璧だった。

 我欲が存在せず、必要な物・量しか欲せず、不必要な物は存在しない。

 まさに完璧な王だと俺は陶酔していた。

 

 ある日。

 言われたのだ。

 俺はあの騎士王の血を引く嫡子。

 そう聞かされた瞬間歓喜で満たされ、王に認めないと冷たくあしらわれた時には絶望で満たされた。

 

 俺の心には憎悪しかなかった。

 全てを壊してやる。

 そう思っていた…。

 

 「凄い顔しているな」

 

 通り過ぎる騎士達が慄いて道を開けていく中、一人の青年が声を掛けて来た。

 振り向きながら隠そうともしない怒気が相手に向かっていくが暖簾に腕押し…まったく気にも留めていない。

 

 相手はサーウェル。

 王の専属料理人を務めている料理人兼騎士だ。

 なんでも噂では宮廷魔術師のマーリンの弟子であり、ガウェイン卿とも渡り合える猛者だとか。

 確かに鍛えているようだがとてもあのガウェインに渡り合える猛者には見えない。

 

 話し掛けるなと突き放したが、奴は通路の真ん中に立ちはだかって避けようとはしない。

 苛立って剣を抜きそうになった俺に「何かあったか話してみろ。少しは気が楽になるかも知れないぞ」と言って来た。

 気が楽になるなんてことはないだろうが、良いだろう。

 こいつに鬱憤をぶち撒いてやろう。

 

 ただの気まぐれに近い行動だった。

 その後はもう一人でずっと話し続けた。今まで抱いてきた想いに、裏切られたような今の心境。いらん事まで話してしまった。その間、奴は真顔で怒る事も同情する事もなくただただ聞いていた。

 話し終え、何をしているんだと冷静に思った辺りで何処とも言わずに付いて来いとだけ言われ、しかめっ面を浮かべながら後をついて行った。

 向かった先は奴の職場である厨房。

 なんでこんなところにと口にする前に席に座ってろとだけ言うと、王の夕食の準備に取り掛かり始めた。

 何がしたいのか分からぬまま、座っていると準備が出来た料理が運ばれてきた。

 鶏肉に人参、じゃが芋などの具材がふんだんに使われているシチューにカリッカリに焼かれた香ばしい匂いのパン。

 

 いつもの食事のような乱雑さはなく、盛り付け方も綺麗に整えられている。

 というか見た事もない珍しい料理に目を見張る。(アーサー王は五世紀頃でシチューが確立されたのは十六世紀以降)

 

 「どうぞ」

 

 勧められるままにスプーンを突っ込んで一口食す。

 美味かった。

 雑多ではないのは見た目だけでなく、味もだった。

 マイルドで優しい味わいと温かさが身体を温める。いや、温められたのは身体だけではない。

 食べた事のない美味しさに手が進み、食べ終わりかける頃には先ほどの怒りが嘘のように頬が緩んでいた。

 そんな事に気付かず最後の一口を口に運んでいると―――…。

 

 「サーウェル!今日の夕食はなんで…しょう……か」

 

 ――目が合った。

 変装の為か使用人の服装を着た騎士王が見た事の無い興奮気味な笑みを浮かべた様子を。

 

 ――間が開いた。

 スプーンを咥えたまま目にした騎士王に驚く俺と、俺がここに居る事に理解が追い付かない騎士王。

 一言も口を開かないサーウェル合わせて沈黙しているので静寂だけが部屋を満たす。

 

 ――感情が消えた。

 満面の笑みを浮かべていた騎士王の表情がいつもの無表情へと変わった。

 まるで感情が抜け落ちたようだ。

 

 「貴公はこんなところで何をしている?」

 「……食事をしております」

 

 あまりの出来事に怒りが湧くより混乱していて敬語で返してしまった。

 再びの沈黙。

 耐え切れず思わずパンを頬張る。

 ザクっとパンが音を立てた事で騎士王は動き出した。

 

 「―――ッ!?何故にモードレッドが食べているのですか!」

 「えぇ!?いや、俺はその…そう!サーウェルに勧められて…」

 「サーウェル!!」 

 「ふぁ!?ちょっと落ち着いてくだs――」

 

 決して見る事の無かった王の姿にモードレッドは呆然と眺めるしかなかったのであった…。

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