二度の人生を得たら世界に怒られ英霊になりました…。 作:チェリオ
マスターとサーヴァント。
パスを繋いだことでお互いの過去を夢のような形で見る事があるという。
だからこれはボクの先生――サーウェルの記憶なのだろう。
石造りで作られた工房に鎧姿ではなく薄汚れた布地の服を纏ったサーウェルと、純白のローブで顔を隠している青年らしき人物の二人が並んでいた。二人の前にある作業台の上にはサーウェルの武器である
「さぁて、ちょっとしたおさらいだよ。君に作ってもらったこの鉈の原材料は何だったかな?」
「詳しい内容は聞いてない様に思うのですが…」
「そうだったかな」
「そうですよ。いきなり豚の骨を持って来たよとか言ったら、すぐにこれで武器を作るんだとか」
「知っているじゃないか」
「豚の骨で私は納得してませんよ師匠。微妙に魔力を帯びていたの覚えているんですから。何処からどうやって持ってきたのやら…」
呆れたような視線を向けようとも師匠と呼ばれたローブの青年は全く気にせず微笑むだけであった。
そして何処からともなく木箱と大きな骨を同じく作業台の上に転がした。
大きな骨を見たサーウェルの目が驚きと興奮から見開かれる。
「これはもしやあの黒いドラゴンの骨ですか!?」
「御明察。君の言う通り君が恥ずかしくも皆の前で外して、円卓のみんなで袋叩きにして倒した黒いドラゴンさ」
「・・・・・・この鉈で頭かち割りましょうか?」
「真顔で師匠を脅すものではないよ」
本気で殺気立ったサーウェルは手に持った
箱の中身は獣の手足だろうか…。
「嫌がらせ?」
「おや?お気に召さなかったかい」
「いえ、とても強い魔力を感じる事から貴重なものと分かりますが…なんですこの切断された猫の手足は?」
「これで鉈を強化するんだ」
「師匠。前に仰られましたよね?会話はきゃっちぼーるだとか…これでは円卓の騎士と王との会話の方が成り立ってますよ」
「それ皆二つ返事しかしてないよね?否定が一切ない肯定するだけの作業を会話とは呼ばないよ。何にせよそのドラゴンの骨で強度が、その手足の爪を使えば切れ味が格段に上がる筈さ。勿論君次第ではあるけど」
「師匠に合格が貰えるように頑張りますよ」
「期待しないでおくよ」
「せめて励むように言いましょうよ」
そう呟きながらも骨と猫の手足を手に取りながらぶつぶつと思案に浸り、どうしようかと手段を模索する。
先生もこうやって魔術を身に着けて行ったのかと眺めながら、ゴーレム作りでないことに多少の不満を覚えるが、これはこれで先生の事が知れて良かった思う事にする。
――――ふふ。
ローブの青年が
あり得ない。
これは目の前で起こっている事柄でなく、サーウェルの記憶の筈である。
なのに目が合うなど…それもこちらを認識したような…。
いや、錯覚だと決めつけながらも凝視してしまう。
人差し指を立てた右手が口元に向かう。
まるで静かにと告げるような仕草。
アレはこちらを認識している。
ゾクリと背筋が凍り付くような感覚に襲われると急に視界がぼやけて意識が遠のき覚醒して行く。
私は極めて異例なサーヴァントだ。
聖杯戦争に呼ばれるサーヴァントは過去・現在・未来において世界に認知された存在。
それは武勇であったり、知略であったり、学問であったりと多種多様なもので名を馳せた人物。
私は円卓に並ぶ実力者であり、かの有名な魔術師の弟子としてアーサー王伝説に組み込まれた事で世界に認知された。
だが私は私であっても儂でも僕でもある。
多少名が知られている程度の資産家である儂とその他大勢に分類されるような僕の三つの人格によって私という存在は形成された。
そもそもが作り物の英霊。
存在しなかった筈の存在。
だからどうした?
私は私だ。
私は私を認知し続ける限りサーウェルとして生きていこう。
元々騎士道精神を大事にしてきた騎士ではないし、主を代えて主に刃を向けた不忠者であるが、マスターであるロシェ君にこの命がある限り忠誠を誓おう。
彼が私に師事を求めるのなら全力で答えよう。
例えどのような事態になっても抗おう。
そう…。
どんな事態になってもだ…。
「やっと会えたな―――サーウェル」
「久しぶりですね。まさか貴方まで召喚されているとは…。意外に縁というのは深く結び合っていたらしい」
パチパチと火花が散り、二人の視線がぶつかり合う。
対面するのはサーウェルが二度目に仕えた主であるモードレッド。
手には王位継承を示す
サーウェルには相手のステータスを見抜くようなスキルは無いが相手が円卓であるなら話は別だ。
円卓メンバーとは何度も関わりを持ち、特にモードレッドとは何度も剣を合わせた事もあって、戦い方や癖まで頭に入っている。
………一番関わりがあるのはマッシュポテト製造機ことガウェイン卿だ。
彼にはよく料理を手伝ってもらったなぁ。
逆に相手もこちらの手口は知っているのは痛いが、アドバンテージがない訳ではない。
本来持っている筈のない第三宝具。
一度きりの奇襲になるが決まれば確実に座に還すことが出来るほどの宝具。
掠っただけでもモードレッドが戦闘不能に陥る事は間違いないだろう。
ただそれを使えば自身すら座に還りそうになるだろうが…。
モードレッドの宝具と思われる
睨みつけるモードレッドの殺気が辺りを包む。
モードレッドの横に居たマスターらしき男性は離れ、ロシェ君は殺気に慄きながらも離れずに私の側で待機している。
「テメェはなんでいつもこう…いや、いい」
「言葉を飲み込むとはらしくない。言いたいことははっきり言うべきだ。これから殺し合うなら尚更の事」
そうだ…。
サーヴァントとして呼ばれたからにはこういう事もある。
仲の良い者同士が殺し合う事だって可能性はゼロではないのだ。
彼女は赤の陣営…外れたと言っても黒のサーヴァントである自分を見逃すはずがない。しかも相手は一人ではない…。
少し離れた位置にサーヴァントの反応。
位置的には私の背後を取っている事から挟撃する気なのだろう。
鋭い眼光はそのままで握っている
「なら言わせてもらうが……お前さぁ、俺を馬鹿にしてんのか?」
「まさか、君を馬鹿になどすれば後が怖い。相手の隙を作り出すために激高させるのも手だが、君の場合は怒らせれば怒らせるほど荒々しさが増し、勢いはとどまる事を知らない。そんな状態の君を押し切れるほど私は強くはない」
間違った事は言っていない筈だ。
なのにモードレッドは俯いて肩をプルプル震わせている。
向こうのマスターはこちらを笑いながら覗いている。
何故だと疑問を持っていたがそれらはモードレッドの一喝によって掻き消された。
「テメェはなんで敵と接敵しても肉を焼いてやがんだ!!」
広い草原の真ん中でお借りしている車に積み込んであったバーベキューセットを使い、牛肉と野菜を交互に刺した串を焼いていたのだが、言われてから納得して手を止めるサーウェルであった。
ロシェ・フレイン・ユグドミレニアはごくりと生唾を飲み込む。
焼いた串を乗せた皿を中央に置いた長机を挟んで赤の陣営の二組と対峙していた。
彼はゴーレムに関してなら現代の魔術師の中で随一かも知れないが、他の技能となると偏りが発生する。その中でも人に興味が今までなかったことから相手の腹の探り合いなんて言うものは持ち合わせておらず、交渉術ともなれば皆無と言って良いほどだ。
でもやるしかないのだ。
アーサー王伝説に紡がれる万全の状態のサーウェル先生であるならば英霊が二騎いた所で互角に戦えると信じれる。けれどもボクが召喚したサーウェル先生は戦闘においては大きな欠陥を持っている。
元々剣術の才能が皆無な先生は魔術により肉体を強化せねば円卓の騎士と渡り合うほどのステータスを得ることは出来ない。
逆に肉体を強化さえ出来れば円卓最強の騎士であろうとも渡り合う事が可能。
だが、先生は第三宝具を体内に無理にねじ込んだ状態で現界しており、そのせいで肉体を強化するのに大量の魔力を食うようになっている。それも全力で行使すれば三十秒と経たない間にボクを死に至らしめるほどに…。
自身にかける強化魔術以外ならば使用は可能だが、そんな状態では勝ち目はない。
ゆえにボクは交渉を持ちかけたのだ。
対面するマスターはフリーランスの
魔術師の世界では腕利きと呼ばれる術師達。
ゴーレムを持ち合わせていない現状の自分では万に一つも勝ち目のない相手だ。
ジーン・ラムは見定めるように睨み、獅子劫 界離は難しい顔をしながらも乗り気であった。
「では、お前さん方は俺達の仲間になりたいんだな」
「はい、その通りです。ボクらは黒の陣営には戻れないですし、戻る気もありません」
すでにどういう経緯があって黒の陣営と敵対したかを素直に話したロシェは赤の陣営の味方になる為に必死に頭を回す。
ここで死ぬわけにも先生を殺させる訳にもいかない。
たった一騎で聖杯大戦を生き抜くことは不可能な以上は赤の陣営に付くしかない。
この結論にサーウェルは否定することは無かった。
寧ろ、それがロシェが選んだ決定なら黙って従うとの事。
「貴方が言った事柄を事実と確かめるには時間が要るわ。下手な対応するよりはここで仕留めた方が得策」
「まぁまぁ、そう言わさんな。黒の陣営である彼がこちらに下れば得るもんも大きい。メリットはデカいさ」
「勿論ボクが知る限りのユグドミレニアの内部事情はお話いたします。が、サーヴァントの真名などは言う事が出来ません。多分黒の陣営のサーヴァントの真名を全員知っているのはダーニックだけだと思いますので」
「現代におけるゴーレムマスターの助力が頂けるんなら願ったり叶ったりだ。しかもユグドミレニアより一騎脱落させてこちらの戦力は多くなるんだからな」
「危険よ」
「なぁに、保険はかけるさ。な、セイバー」
「おうよ!変な動きを見せたら問答無用で切り伏せる」
どうやら獅子劫の方は受け入れてくれる気でいるらしいが、ラムはそうではないようだ。
注意深く観察し、妙な動きがあれば些細な事でも殺しにかかりそうな気配を漂わせる。
「私は断固反対よ!もしそっちが味方にすると言っても―――」
「あー…マスター。分かっておいでかと思いますが吾輩にかのサーウェルとの戦いを望まれているのなら結果は一目瞭然。吾輩が瞬殺されて座に還る事になるでしょう」
「…………そうだったわ」
「なにせ吾輩は魔術や戦いやらは苦手ですからな!」
爽やかな笑みを浮かべるサーヴァントに苦笑いを浮かべる。
堂々と私は戦えませんと宣言したのだが…。
案の定、獅子劫は苦笑いを浮かべ、モードレッドは怪訝な表情を、ラムに至っては頭痛を起こしたのか頭を抱えていた。
ただ一人、サーウェル先生だけは知っていたかのような当然だなと言わんばかりの態度を取っていた。
「さっきも言ったように保険だけはかけさせて貰う。良いな?」
「勿論です。早々信用は出来ないでしょうし…ねぇ、先生―――先生?」
にっこり微笑んだ先生はボクの後ろから向かい側に向かう。
モードレッドやマスター達が警戒する中、サーウェルはシェイクスピアへと近づく。
どうして自分の方に近づいて来るのか理解できていないシェイクスピアは疑問符を浮かべている。
「私が誰か分かりますかな?」
「えぇ、存じておりますとも。サーウェル殿…いえ、黒のキャスター殿と呼んだ方が――」
「言い方を変えましょう。儂の事が分からんかウィリアムよ」
「―――ッ!?その口調はまさかウォルゥツゥア!?」
最後まで喋ること叶わず、綺麗なアッパーが決まり、皆が皆呆然としている中でサーウェルだけ清々しい表情を浮かべていた…。
おまけ【完璧な王? ぱーと②】
王は完璧な筈だった…。
王との繋がりを知って喜び、王に否定され絶望したあの日。
すべてが崩壊した。
まるで無垢な少女のような笑み。
感情のまま揺れ動くアホ毛。
頬を膨らませて怒る様子。
こいつは誰だと思った俺はおかしくない筈だ。
というかあのサーウェルとか言う奴は何もんなんだ?
ぷんぷんという擬音が出そうな感じで怒っていた王を逆に一喝し、説教を始めたのだ。
円卓の騎士でも貴族でもない料理人がだ。
内容は俺に対する言葉の数々。
「貴方は本当に人の心が解らないんですか?」とか「言い方と言うものがあるでしょうに」などを淡々と言い、さすがに黙っていた王も「王としての問題です!口出し無用で」言い返すが――
「王を強調するのですかそうですか…なら王の口に直接料理が入るのは不味いですよね。毒見係を今からでも呼んできましょう。あぁ、折角温かいシチューが冷めてしまいますが仕方ないですよね。王の食事ですから」
この言葉で沈黙……というか撃沈されて俺との話し合いと相成り、渋々だったがどうして俺が王を継ぐ者として駄目なのかなどを話してくれた。確かに王が求める次代の王の理想が高い上に俺にはまったく当てはまらないものであった。嫡子としてもいろいろ言われ最後は口喧嘩。
普通王と騎士が口喧嘩とかありえないが
なんにしても怒鳴り合いして少しはすっきりしたよ。
それに関してはサーウェルに感謝している。
結果、俺は騎士としてとりあえず頑張るつもりだ。
認められるような王を模索しながらな。
さて、騎士としての務めはとりあえず置いておこう。
ここでは役職もあってないのだから。
「いや、何故ここに居るのだモードレッド」
「ここに居る以上目的は同じだと思いますが?」
机を挟んで不満そうな王とにやついた笑みを浮かべたモードレッドが向かい合って座っている。
調理台ではぱちぱちと油の跳ねる音が聞こえ、サーウェルが切った野菜を白い液体に浸けたりと料理の準備を行っていた。
「喧嘩はしないで下さいよ。殴り合いとかされたら埃が立つんで」
「なんでサーウェルはモードレッドの同席を許可したのですか!?」
「王がここで食事をしている事をばらされたくなければなんて言われたのですが断っても良かったですか?」
「―――ッ……仕方ありませんね」
なんか王の扱い方が分かった気がする。
まぁ、食事に関しては分からないでもないけど。
なんたって円卓メンバーの大半が腹に入れば何でもいい感じだし。それにいつ戦があっても良い様に早食いは基本。ゆっくり味わう事もない。そもそも料理の基本がおかしい。ガウェインとか芋を握り潰したのを料理として王に出したこともあったぐらいだ。
サーウェルにその話をしたら「何そのマッシュポテト…」と呆れていたっけ。
その後食べたポテトサラダとかいうマッシュポテトは美味しかったなぁ。
「そういや今日は何食わせてくれんだ?」
「てんぷらっていう料理で、野菜や海鮮物を油で揚げるものだそうです」
「前々から思っていたのだが何処からそのような料理を調べている?」
「師匠がどこからか
そう言いながら食材を油の中に入れ、音を立てて揚げ始めた。
じゅわ~と音を立て、香ばしい匂いが部屋いっぱいに溢れる。
それぞれ皿に分けられたてんぷらなるものが並べられ、二人の前に置かれる。
クキュルルル~…。
どちらか分からないが腹の虫が鳴いた。
「その塩を付けるかツユに浸けるかして食べるそうです」
「そうか……では!」
キリっとした表情でフォークをてんぷらに突き刺すとさくりと音を立てた。
そのまま塩を少し付けて小口でかぶりつく。
するとふにゃりと王の表情が柔らかくなり、笑みが漏れていた。
続いて自分もと突き刺してかぶりついた。
さくりとした歯ごたえの良い衣に油で揚げたのにそこまでしつこくない。それに野菜の歯ごたえも良い。
「おかわりを」
「―――ッ!?」
二つ目にフォークを伸ばしていたら、王が追加の催促をしていた。
別に競っている訳ではないが、なんだか気に入らない。
がっつくように食べ、同じくおかわりの催促をすると二人分を同時に揚げていたのか二皿出される。
さくり、さくりと音を立て食べる王を横目で見ながら、汚くない程度にそれより早いペースで食べきる。
「サーウェル。おかわり頼むぜ」
「―――む」
「良いけど結構食べるな」
野菜を切り始めたサーウェルを他所に膨れたような表情をした王に対して勝ち誇った顔を見せつける。
ペースが上がり、王も催促する。
皿が置かれるまで二人の視線がぶつかり合い火花が散る。
そして三皿目が置かれるとお互いにペースを確認し、上げては上げられ早々に平らげる。
「「おかわり!!」」
「誰が競って食えっつったよ!っていうか味わって食いやがれ!!」
最後はサーウェルの一喝にて我に返る二人であった…。