二度の人生を得たら世界に怒られ英霊になりました…。   作:チェリオ

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第06話 「第三の陣営」

 カランカランと入り口に取り付けられた鈴が鳴り、店内に来客が来たことを知れ渡らせる。

 中には商品がびっしりと狭い店内に並べられ、盗まれない様に簡単には外せない様に固定されていた。

 客は自身しか居らず、カウンターで新聞に目を向けていた老店主の険しい表情が向けられる。

 決まっていない、探し物、何が置いてあるかなどを見るのであればその視線を受けたまま店内を見て回るのだが、今回は買うものも決まっている。

 迷うことなく獅子劫 界離は老店主が居るカウンターへ足を運ぶ。

 新聞をカウンターに置いて、右手をカウンターの下に隠しながらこちらを見据える。

 

 「注文良いか?」

 

 愛想よく笑みを浮かべたが返って来たのは「……あぁ」というそっけない返事だけだった。

 物騒な物を扱う店と言っても客商売なのだからもう少し愛想を良くしても良いと思うのだが…。

 と、思ってみたが大きな体格に厳つい風体、サングラスに大きな傷跡。

 そんな堅気の人間ではなさそうな男が入って来たのならば悲しい事ながら警戒するのが当然だと納得してしまった。

 

 「AK-47にM4カービンを一丁ずつ」

 「AKは駄目だ。在庫切れだ」

 「おいおい、あそこに並んで…」

 「md.63(AIM)なら売ってやる」

 「あー…なるほどね。ならカービンを二丁、AIMを一丁」

 「アンダーにランチャー(グレネードランチャー)は付けるのかい?」

 「いや、AIMにはいらない。カービンは両方に光学照準器とサイト、それからショットガンとグレネードを片方ずつ」

 「弾も居るんだろ?」

 「勿論」

 

 銃を弾丸をカウンターに並べる老店主を眺めながらポリポリと古傷を掻く。

 なんたってこんな買い物をしてんだかと思うが、これもこれで役に立つってんだから安い買い物だ。

 通常武器ではこれから戦うであろうサーヴァントに傷一つ付けることは出来ない。

 ファンタジー系の漫画では堅固な皮膚を持ったドラゴンなんかには防御力の薄い腹ばいや目玉を狙う描写が有ったりするが、サーヴァントは例え目玉にその辺のナイフを突き立てようとしたって止められてしまう。銃もまた然り…。

 例え対戦車ライフルをゼロ距離でぶっ放したところでたじろぎもしないだろうよ。

 

 ならなんでそんな武器を買っているかというと俺達と居る赤のキャスター―――ウィリアム・シェイクスピアの固有スキルを知ったからだ。

 何でも物に文字が書けれれば強力な付与(エンチャント)を行えるとか。

 簡単に言えばその辺の小石に奴が文字を書き綴れば宝具にもなれるってこった。ま、程度は知れるがな…。 

 

 「そうだ。あとイーグルにスコーピオン、MP5なんかも欲しいな」

 「…売れるのは嬉しいがなんだい?あんた戦争でもおっぱじめる気か」

 「まぁ、そんなところか」

 (なぁ、俺はこれが欲しいんだが!)

 

 霊体化したモードレットからの言葉に耳を傾け、どの銃を欲しているか目を向けるとそこには機関銃と対戦車ライフルが置かれてあった。

 大きなため息を吐き、咥えていた煙草を老店主に向ける。

 老店主の視線が煙草の先に向けられると動かして空中に魔術で文字を刻む。

 真正面から魔術に掛かって虚ろな瞳になったのを確認して会計を済ます。

 一応時計塔より必要経費という事で請求は受けてくれるとの事だが、さすがに払ってくれるか心配になって来た。

 

 「ま、良いか。じゃあ帰るか」

 (またあの墓地に戻んのかよ)

 「この大荷物持ってな」

 

 並べられた弾薬に銃器に目を向けてまた大きなため息を吐き出す。

 それでも運ぶだけの自分達の苦労に比べたら銃器から無数とも思える弾薬にエンチャントし続けるシェイクスピアの苦労に比べれば幾らかマシか。

 そう思いながら銃器を担ぎ銃器店をあとにするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 薄暗い地下の一室。

 薄っすらとした蝋燭の灯りがひんやりとした冷気漂う空間を照らす。

 ルーマニアの共同墓地の地下納骨堂を仮拠点として待機しているロシェ・フレイン・ユグドミレニアは今この時を喜びと共に過ごしていた。

 決して狭くてほの暗い地下が好きとか、墓場などを好んでいるとかではない。

 ここには二騎のサーヴァントが一緒に待機している。

 一騎はジーン・ラムという赤の陣営所属のマスターが召喚した赤のキャスター、ウィリアム・シェイクスピア。

 そしてもう一騎は自身のサーヴァントのサーウェル。

 

 正直二人共サーヴァントとしては異例な存在である。

 魔術師(キャスター)でありながら魔術を行使出来ないというシェイクスピアに、特異な肉体強化の魔術を体内の遺物のせいで行えず複数人の魂を持つサーウェル。

 サーウェルの中にはウォルター・エリックと金城 久という二人の魂も共存しているらしく、ジーンと界離が推測するには自分と関りを持ったエリックと性質が近しい久の魂で自身の魂を補強しているのではないかと言っていたが別段興味はない。

 例え魂が三つ共存していようと四つ共存していようとサーウェルがサーウェルであるならば問題とも思っていない。

 

 「先生!これでどうでしょうか」

 「ふむ、まだ無駄が多いですね。これでは予定の半分も動きますまい」

 「そう…ですか」

 「ですがこの短期間で良く成長しています。そう焦ることもないでしょう」

 「本当ですか!?」

 「えぇ、貴方は良く出来ておりますよ」

 

 ふわりと優しく温かい手が頭を撫でる。

 心地よい感触に頬が緩み満面の笑みを浮かべてしまう。

 

 ボクは人というものに関心がない。

 ゴーレムの研究さえ出来れば人と関わりを持たなくても良いと思えるほどに。

 そうは思っても生きていく為にも研究をするにもお金は必要な訳で、魔術師でパトロンになってもらう必要性があったので付き合いはしなくてはならなかった。

 ユグドミレニアのダーニックともそうだ。

 パトロンとして資金を回してくれる代わりに幾つか仕事も請け負ったりした。

 人とは本当に面倒な生き物だ。

 言っている事と思っている事が真逆だったり、どうやって相手を欺こうかなどする奴も多く、それに対して感情や動作、雰囲気を感じ取って真偽を確かめて接するなど面倒この上ない。

 

 だけれど先生――サーウェルだけは別だ。

 この人には裏表が存在しない。

 会話するたびに難しそうな含みは存在せず。そう言ったらそのままの意味であるだけなのだ。

 ゴーレム技術を学びたいと乞うた所「良いですよ」の二つ返事だけでダーニックのように交換条件などは一切持ち込まず、ただただ教えてくれる。

 

 高く優れたゴーレム技術を無償で伝授し、裏表の策謀もなく接してくれるサーウェル先生は人で唯一好ましい人物と言える。

 それと人の手がこうも温かく、優しげだったと言うのは初めて知った。

 

 ボクは果報ものだ。

 これほどの人物と人生の中で出会えた喜びは二度と味わう事は無い。

 それがこうも若いうちに巡り合えた事を果報と言わず何と言おうか。

 

 それにしてもここの面子は先生を酷使し過ぎだと思う。

 ボクらはやむを得ず黒の陣営より赤の陣営に移り、未だ信用されていない事は理解しているが、人使いが荒いというのはどういうことなのだろうか。

 

 ここまでの道のりは長かった。

 ずっとキャンピングカーの中での生活。

 インスタント食品で食事を済ませようとしていた所を「インスタントだけでは栄養が偏る」と言い、それ以降は朝昼晩と運転時の夜食などの食事当番を請け負い、暇で死にそうだというモードレッドの相手を度々とって機嫌を直させ、シェイクスピアが剣戟の見本を見たいと言えば狭い車内でも周りに被害が出ない様に動きを見せたり、ずっと運転している界離と運転を代わったり、読む本が無くなったジーンの願いで魔術の講師を務めたりと多忙だった。

 ボクの先生だというのに…。

 

 思い出すと少し腹立たしく思い、多少なりともイラついて来る。

 

 「どうしましたか?少し集中力が乱れましたね。休憩に致しましょうか?」

 「い、いえ!すみません…少し考え事をしてしまいました」

 

 いけないいけない…先生がこう教えて下さっているのにいらない事を。

 気分を入れ替えてちゃんとしなければ。

 

 「おお!吾輩良いアイデアが浮かびました!」

 「五月蠅いわよ。静かにしてなさい」

 「いやはやこの胸の高鳴りを吾輩抑えるすべが――」

 「地下空間で叫ぶな!」

 「ふべら!?」

 

 突如として喋り出したシェイクスピアは帰って来たモードレッドの拳一閃で見事に撃沈されその場に伏した。

 落ち着こうとした矢先に別の件ではあるが苛立ちが募る。

 

 ボクはあのセイバー―――モードレッドが嫌いだ。

 

 なにせ出会った当日に先生を思いっきりぶん殴ったのだから。

 出合った初日にエリックがサーウェル先生の身体を借りてシェイクスピアに殴り掛かったその後、俺の目の前で勝手に死ぬんじゃねぇよと殴り掛かったのだ。

 話を聞いた限り先生は間違っていないとボクは思ったのですが、モードレッドは納得できず、先生も先生でその殴られた結果に納得している様子。

 先生が納得されたのであればボクに文句を言う資格はない。資格は無いがこの感情は止められない。

 

 「おうおう、お子様は今日も勉強か。真面目なこって」

 「戻ったぞってお前さん達も帰って来てたのか?」

 「おかえりなさい。そして戻らせて頂きましたよ」

 「そっか。セイバーの予想は当たってたってこったな」

 「ったりめぇだ!あんな奴の所に居残るなんてあり得ねぇっての」

 

 この墓地に到着し、数日を過ごしたボク達は二手に分かれて行動することになったのだ。

 界離とモードレッドは銃器店に向かい弾丸と銃器の入手。

 ボクとサーウェル先生、それとジーンとシェイクスピアの四人は赤の陣営の神父に顔見せに行ったのだ。

 予定では話を済ませた後、単独で動こうとしているセイバー組と離れて、そちらに合流するものだと思っていたのに先生は「あ、私も自由に動かせてもらいますね」と断り、無理やりにでもジーンも引っ張ってその場を離れた。

 今でもあの行動は奇怪に思える。

 理由を問おうとした時に帰ったらゴーレムの授業の続きをしましょうと言われて忘れていたが…。

 

 「先生は何故あの神父の誘いを断られたのですか」

 「おや?考え事とはその事でしたか」

 「いえ、考えていた事は別件なのですが気になって」

 「そうですねぇ」

 

 サーウェルは少し眉を潜めながら言い淀む。

 なにか言い難い事なのだろうか。

 手間を取らせてしまうようなら別に無理に聞く気もない。

 問いを取り下げようかと思っていると言葉が纏まったのか困ったような笑みを浮かべて口を開いた。

 

 「あのアサシンがモルガンと似た雰囲気を漂わせていたからですかね」

 「モルガンってあのアーサー王伝説に登場するモルガンですか?」

 「そうですよ。大概アレと同じ雰囲気の女性に関わると碌なことがない。さらにあのシロウという胡散臭い神父とセットならばなおのこと近づかない方が良い」

 「胡散臭い?シェイクスピアよりも?」

 「ウィリアムの胡散臭さは素のなのじゃて。で、あちらのは油断ならない胡散臭さなので」

 「ふ~ん…ま、先生が仰るのであればボクとして信じてついて行くだけですけどね」

 

 はははと笑いながら笑みを浮かべているとカタカタと奥隅で物音が鳴り、全員の視線が自然と集まる。

 視線の先にはペンを握った死人の手が動き出して設置してあった紙に文字を書き出し始めた。

 界離がそれに近付き書き終わった手を退けて書き出された紙にざっと目を通した。

 

 「さて、時計塔からの指示が来たぞ。シギショアラに向かえってさ」

 「黒の陣営が動いたのかしら?」

 「それは分からんが…どうやら魂食い(・・・)をしている奴が居る。それの対処しろだとよ」

 

 魂食いをしているならば相手はサーヴァント。

 サーヴァント同士の戦いとなると先生は…。

 

 「それでだサーウェル。アレ、出来ているか?」

 

 不安に思うロシェと不敵な笑みを浮かべる界離の視線を受けたサーウェルは一瞬固まった後にゆっくりと…本当にゆっくりと頷いた。それも凄い量の冷や汗を流しながら。

 

 「で、出来てますよ。時間が無いために一騎は不完全ですが…」

 

 よく見ると微妙に手も震えている。

 そしてちらちらと振り返る先には布が掛けられた盛り上がりがあった。

 昨夜先生が徹夜していたらしく、朝からあったのは知っていたのだが…。

 

 「ようやくの出番でしょうか」

 

 布より聞き覚えのある(・・・・・・・)声が聞こえ皆が振り向く。

 ふわりと布が舞い、中より人―――否、ゴーレムが姿を現した。

 

 後ろでポニーテールでまとめた金髪。

 翡翠の宝石のような輝きを持つ鋭い眼光。

 ピシリと燕尾服を着こなした女性。

 

 穏やかに笑みを浮かべた彼女は右手を胸に当てながら会釈する。

 

 「サーウェル様の給仕用ゴーレム“モルド”。

  只今を持ちまして職務に復帰致します。

  皆さまどうぞよろしくお願いいたします」

 

 見た目はモードレッドそっくりでも中身は正反対なモルドに皆が目を奪われた。

 そして青筋を浮かべたモードレッドによって制作者のサーウェルは宙を舞う事になったのである…。




 次回は一月十日投降予定。

 では皆さま、少し早いですが良いお年を

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