二度の人生を得たら世界に怒られ英霊になりました…。   作:チェリオ

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第08話 「シギショアラでの攻防戦 其の弐」

 街中に響き渡る金属音…。

 それも二か所ぐらいから聞こえる。

 つまり(シェイクスピア)アイツ(サーウェル)も戦い始めたって事だろう。

 クソが!!

 何俺より先に始めてんだよアイツら。

 

 「おいおい…罠かこりゃ?」

 「知るかよ。あっちはあっちで何とかすんだろ」

 「あのキャスター大丈夫か」

 「サーウェルなら心配ねぇよ。確かにあいつ自身は弱くなっちまったが魔術が使えない訳じゃない。それにアイツの宝具」

 「宝具?あー、そりゃあ一緒に居たんだから知ってるか」

 「片腕さえ使えればやつは何とかするさ。使い方ミスったら俺達までお陀仏だがな」

 「敵より危うい味方って…」

 

 ニカっと笑いながら言い放つモードレッドに獅子劫 界離は後頭部を掻きながら肩を竦める。

 昼間までは機嫌が悪かったのが今では嘘のようである。

 というのも現代の街並み見物しようと思っていたというのに何処か見覚えあるような古い建物ばかり。

 後からマスターよりこのシギショアラは古き良き街並みを売りとした観光地と聞いてがっくりと肩を落とし、期待を大きく裏切られた憂さを晴らすようにやけ食いを行っていた。

 食事的意味でなく精神的意味で消化不良を起こしたモードレットにとってサーヴァント同士の戦いなどそれらを解消するものとなってしまった。ゆえに戦いが始まると分かると先を越された苛立ちはあるものの楽しみで仕方がない。

 好戦的なモードレッドに対して呆れよりも頼もしさを感じる。

 短く息を吐きながら頬を緩める獅子劫は、物音も立てずに数十メートルもの距離を詰められた事にも、ナイフが切り裂こうと喉元に突き付けられた事にも気が付かなかった。

 気付いたモードレッドは獅子劫を斬らないギリギリで剣を振り抜いてナイフを弾き飛ばした。

 まぁ、気付いていない獅子劫からしたらいきなりモードレッドに剣を向けられたので驚いてそのまま腰を付いてしまった。何事かと問うよりも背後にした足音に顔だけを向ける。

 

 月夜に照らされた綺麗な短い銀髪を僅かに揺らし、あどけない表情を浮かべる少女。

 とても可愛らしく、美しい少女ではあるが異様な違和感が漂う。

 腹部や背中、太ももを露わにした露出が非常に多い服装もそうだが、殺人鬼が出没している街でこの時刻を一人で出歩いている事も弾け飛ばしたナイフを持っていた事も、掠めたと言えど切り傷を受けて泣き言一つ漏らさない。

 何もかもが異常な少女。

 

 「生憎そいつは俺のマスターでな。こちとら暇してたんだ。相手なら俺がしてやるよ」

 「音一つしなかったな。黒のアサシンか」

 

 ズボンに付着した土を払いながら立ち上がり、辺りを見渡して見るがマスターらしき人影は無し。

 モードレッドはナイフを弾き飛ばした辺りから鎧を装着し、戦闘準備を済ませている。

 ならばマスターとしてやることは決まったし、サーヴァントはサーヴァントで殺し合うだけだ。

 

 「セイバー。俺は人払いの結界と奴さんのマスターを探して見るが…」

 「おう。こっちはこっちでやるさ」

 

 離れていく様子を確認することなく睨み合う。

 否、暗殺者のサーヴァントなど一騎討ちで戦えば勝ち目は最優のサーヴァントであるセイバー。それもこの俺が負ける事なんざあり得ない。が、アサシンの強みは気配遮断による奇襲。霊体化しようと攻撃する際には実体化するので自分に対しては何ら問題なく対処し得ると豪語出来るが、今警戒を緩めてマスターを狙われれば護りようがない。

 ゆえに気を抜く事無く睨みを利かしているのだ。

 そんな視線を気にもしていないのか掠めた傷口を不満そうに見つめている。

 

 「斬られちゃった。酷いことするね」

 「なぁにが酷いだ。魂喰いしているテメェに言われたくねぇよ」

 「良いじゃない別に―――ねぇ?」

 

 ニタリと邪悪な笑みを浮かべると同時に形状が手術用のメスに似たナイフを投げつけてきた。

 投げつけられた二本のナイフは正確に鎧の隙間。

 視界を確保する為に覗いている眼球へ…。

 剣を振るってナイフを弾くとアサシンは笑みを浮かべたまま後方へと跳んで霧の中へ(・・・・)と消えて行った。

 先ほどまで周りに霧などは無かった。

 つまりアサシンの宝具かスキルの類と推測されるが別段何か変わった様子は………いや、足に違和感がある。麻痺しているとか痛みがあるとかではない。ただ僅かに重いのだ。ならこの霧の効果は俊敏の多少のダウンか。

 

 ―――中々やるね。

 

 霧で視界が塞がれ、気配を遮断しているのか位置が解らないし、声も辺りに拡散しているようで特定する要因にならない。

 姑息なアサシンに苛立ちを露わにし、モードレッドは声を荒げる。

 

 「抜かせアサシン(暗殺者)風情が!つかテメェ本当に英霊か?殺人鬼の間違いじゃねぇのか」

 

 ―――あれ?よく分かったね。

 

 「なに!?」

 「……私達はジャック・ザ・リッパー」

 「―――ッ!?切り裂きジャック(・・・・・・・・)だと!!」

 

 背に乗りかかり、耳元で囁いたアサシンに驚きを隠せないまま剣を振るうがあっさりと後方に退くことで避けられる。

 まったく殺気を感じられなかった。

 つまりのこのこ姿を現して言葉を投げかけただけなのだろう。

 ふざけた奴だ。

 それよりも未だに驚きを抑えきれない。

 自ら真名を明かした事よりもこいつが切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)という事実。

 辺りを再び見渡すが姿どころか気配すら掴めない。

 

 顔側面でスンスンと匂いを嗅がれた音がするまでは…。

 

 「テメェ!」

 

 今度は剣を振るうよりも肘打ちを喰らわせてやろうとするがまたも避けられ霧の中へと姿を消す。

 しかも今度は消える直前に六本ほどナイフを投げつけて来やがった。易々とナイフを剣で叩き落すがモードレッドのヘイトはすさまじい勢いで上がり続けている。

 

 ―――あぁ!やっぱりだ。やっぱり女の人だ。

 

 何かが頭の中で弾けた。

 怒りが込み上がるどころか逆に冷静に戻れた。

 笑みさえ漏れ出て来る。

 

 ―――それなら…それなら…うん、そうしよう…。

 

 「ハッ、舐めるなよクソガキが!――――赤雷よ!!」

 

 霧の中より声が拡散するがもはやそれすらどうでも良い。

 兜を解除して素顔を晒して獣のような獰猛な笑みを浮かべ、周囲に赤い雷撃を放って霧を霧散させアサシンを無理やりに炙り出した。

 きょとんとしたアサシンに剣を向ける。

 

 「終わりだアサシン!」

 「アハハハハ!()だよ!まだお腹空いているんだもん!!」

 

 セイバー(モードレッド)アサシン(ジャック・ザ・リッパー)は各々の得物を握り締め、獲物を狩ろうと猛スピードで突っ込んだ。

 荒々しく獰猛な一撃一撃が必殺足りえる剣戟をジャックは軽やかな身のこなしとナイフで何とか捌いて、威力こそ低いが手数と小回りの利くナイフの猛攻で攻める。

 斬り合いを続けるがこの二人が斬り合いだけで終える筈も無く、隙あらば片や拳や蹴りを使い、片や投げナイフを用いて斬り合いから乱雑な何でもありの殺し合いと変わり果てる。

 このような戦いが長く続くはずもなく、アサシンの表情には徐々に焦りの色が濃くなってきた。

 投げナイフは数が減るばかりで有効打を与えられず、避け切れない一撃を何とかナイフで捌いている為にナイフを伝わって腕にダメージが蓄積してきた。そしてモードレッドにはダメージらしいダメージは無い。

 先ほどのような笑みは消え去り、無表情となったアサシンは距離を取ってモードレッドをただただ見つめる。

 急に下がったことに警戒し追撃に出ることなく観察する。

 

 「これじゃあ私達が負けちゃうね」

 「ったりめぇだ。テメェが俺を相手にした時点で勝ち目なんざねぇんだよ」

 

 ―――フフ、それはどうかな?

 

 また霧が発生し、辺りを埋め尽くしてアサシンを覆い隠した。

 

 ―――此よりは地獄。私たちは炎、雨、力――殺戮をここに。

 

 ゾワリと身の毛がよだつような感覚に襲われ、危機感を募らせた。

 これが何を意味するのかは解らない。しかしモードレッドの直感と経験が危険性を訴えかけている。

 赤雷を再び放って霧を払う。

 

 「解体聖母(マリア・ザ・リッパー) !」

 「チィイイ!!」

 

 一瞬だった。

 黒い霧を纏ったアサシンが異様な気配を漂わせ斬りかかって来る様子が視界に映ったのは。

 自身が回避し得るギリギリを見計らって剣を投げ、魔力放出を用いた爆発的加速を用いて一気に後方へと飛び退く。

 大きく悲痛な声が聞こえた気がしたがそれよりも今は距離を取って体勢を整えるのが先決だ。

 飛び退くために踏みしめた地面は勢いに負けて砕け、アサシンの霧とまではいかないが土煙でその場を覆っていた。

 

 「―――痛い…痛いよぉ…」

 

 土煙の中から右肩の三分の一ほど切り裂かれて鮮血を流し、傷口を押さえながら苦悶の表情をするアサシンが現れた。

 予想以上に上手くいった事に安堵の息を漏らす。

 よくアイツ(サーウェル)とは手合わせもしていた。

 剣術の才能がないと見切りをつけていたアイツは魔術やその場のものを利用して仕掛けて来やがる。

 その中でも一対一の模擬戦で奇襲を仕掛ける事を得意としており、似たような手も使われてきた。いつも同じではなくアレンジや策の一部として使われていたが、今回はそれらを受けていたおかげで対処しきれたわけだ。

 

 「素直に喜べねぇがな」

 「…うぅ…痛いよおかあさん」

 「さてと、後は―――って待ちやがれ!!」

 

 トドメをさすだけだと壁に突き刺さった剣を回収し、涙を浮かべるアサシンに近付こうとすると、アサシンの姿は霊体化してこの場から消え去った。

 あの状態で仕掛けて来るとは思えねぇ。

 つまり逃げられたのだ。

 アサシンであるからして気配遮断を用いられれば捜索は困難。というか不可能に近い。

 追い詰めた獲物を逃がしてしまったモードレッドはわなわなと肩を震わし、街中に響き渡る荒々しい叫び声を挙げた。

  

 

 

 

 

 

 六導 玲霞(りくどう れいか)はソファに腰かけてカップに口を付ける。

 彼女は黒のマスターの一人、相良 豹馬(さがら ひょうま)にアサシン召喚後に生け贄にされる予定だった。

 だけど召喚されたあの子(ジャック・ザ・リッパー)は私を殺さなかった。寧ろ生きたいと願った私こそマスターと認め救ってくれたのだ。

 右手を奪い令呪を自身に移させて、持っていた資料と彼の言葉から聖杯戦争(聖杯大戦)と魔術師の知識を得て、あっさりと殺した。

 魔術師でないからジャックの援護は出来ないが、魔術師で無いからこそ出来る事もある。

 魔力の供給が出来ない事から一般市民に溶け込んだり、自身の容姿に経験からあの子のごはんを手に入れる為に人気のない場所に誘い込んだり。

 この生活は嫌いではない。

 いや、逆に今の方が幸せを感じている。

 元々は裕福な家柄であったが幼い頃に両親が亡くなってから転落人生を味わってきた。

 流されるままの人生であったが今は違う。

 殺されそうになる直前まで生きる事すら希薄だった自分があの子の母親のように過ごしていると幸せを願うほどにまで考えが変わった。

 私達はマスターとサーヴァントの主従の関係ではなく、お互いに親子として認識している。

 あの子にとって私が母親であるように、私にとってあの子は我が子なのだ。

 

 「遅いわねジャック…」

 

 時計を見つめるといつも以上に遅い事に心配が募る。

 この街でも多くを殺し、警官たちが集まり始めたし場所を変えようとしたのだが、また魔術師が来たとの事で最後の食事に出かけたのだ。

 いつもならさっくり殺して余っているのなら心臓を土産に帰ってくるのだが…。

 不安に襲われながらも待つしかない六導は帰って来たあの子の為に夕飯を用意しておこうと立ち上がってキッチンへと足を運ぶ。

 冷蔵庫の中には皿に乗せられた魔術師の心臓がラップをかけられて置かれている。

 これは魔力回復用だから置いておいて、残りの食材を見渡し、ハンバーグを作ろうと頷く。

 材料を台に置き、ボールやら調理器具を用意する。

 

 「―――おかあさん」

 「お帰りなさいジャック―――ッ!?どうしたの!大丈夫?」

 

 音もなく声が聞こえた。

 振り返らずともそれがあの子の声だと言うのはすぐに分かった。

 帰りが遅い事から心配していた分、声が聞けて安堵感が込み上げてくる。

 想いは心に留まらずに表情から溢れ出る。微笑みを浮かべながら振り返るとそこには血だらけのジャックが苦しそうに座り込んでいた。

 慌てて近づくが怪我を目にして動きが止まる。

 効果があるかは別として小さな怪我なら人間に施すような簡易な治療は行える。だがジャックの怪我は自分では手が付けられない。

 肩が三分の一ほど斬られ、手で押さえているものの鮮血が溢れ出る。

 自身が魔術師であれば回復の魔術をかける事も可能であったろうが、魔術師ではない六導には手の施しようは無い。

 

 「やられちゃった…ごめんね」

 「良いの。良いのよジャック」

 

 血で服が汚れるのをお構いなしに優しくジャックを抱きしめる。

 傷口に触れぬように、彼女を包むよう優しく…。

 触れ合った温もりが多少痛みを和らげ、幾らか表情が緩和された。

 

 「どうしたら良いかしらね」

 「残っている心臓を食べたら少しは治ると思う」

 「そう。なら今日はそれを食べて我慢しましょう。すぐに移動したいけれど見つかっちゃうわね。ごめんね。私に魔術が使えれば良かったのに」

 「おかあさんのせいじゃないよ。私達がおかあさんの言う事を聞いていたらこんなことにならなかったんだから」

 

 痛くて仕方が無い筈なのにジャックの声色はとても優しく、私に対する想いでいっぱいだった。

 本当にこの子はいい子なのだ。

 優しく頭を撫でてにっこりと微笑む。

 

 「―――ッ!?離れておかあさん!!」

 

 いきなり突き飛ばされて驚きを隠せなかったが、怪我を負った肩を庇いながらもう一方でナイフを手にして臨戦態勢を取るジャックの姿に全てを悟った。

 ジャックの視線の先には出入り口の扉があり、鍵をかけてあった筈なのにゆっくりと開かれた。

 そこには漆黒の鎧を纏い、真紅のビロードマントを靡かせた騎士が立って居た。

 

 「君が黒のアサシンか―――手負いのようじゃが追い込まれた獣ほど厄介よのぉ…―――とはいえ放置する訳にも行かないでしょうこれは」

 

 ころころと口調が変わる騎士にジャックはじりじりとにじり寄る。

 素人目でも分かる。

 今のジャックではアレには勝てない。

 だけど逃げるに逃げれない。

 いや、ジャックだけなら逃げ切れる。

 私が居るから逃げれないのだ。

 あの子は本当にいい子だから…。

 

 「おかあさん!?」

 

 六導はジャックを庇うように騎士に立ちはだかった。

 勿論目の前の騎士がこの行為により情けをかけて来るとは思えない。

 寧ろマスターが自ら前に出た事で仕留めに掛かるだろう。

 これで私は殺され、ジャックは逃げる事が出来る。

 でもあの子は優しいから泣いちゃうだろうし、敵討ちを考えるだろう。

 ならばその前に令呪を持って…。

 

 「やれやれ、女人は斬りたくないのだが」

 

 騎士――サーウェルはそう呟き、グライデンを握り締めた…。

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