「君はいったいどうするの?」
目の前にいる少年が問う。正直すぐには答えられない。過ちを繰り返さないと、そう誓っておきながら未だに争うことから離れず、それどころか楽しんでいる自分がいる。だが俺は――。
それは、少し暑くなってきた日の昼だった。俺は庭の芝生で昼寝をしていた。普段なら保護区でするのだが、今日ばかりはそうはいかない。なぜなら俺以外に人がいないからだ。というのもマリカとアメムラは買い物へ、ヤタノは元いた洞窟を見に行っている。ヤタノに俺のところへ来てよかったのか尋ねたことがあるが、「神器は人に使えるものだと思っているから」と言っていた。ならなぜ洞窟に行くのかを尋ねたが、そちらは「自分がやりたいだけ」とはぐらかされた。それにしても別世界の俺が言っていた内の2つ目が引っかかる。俺たちのこの世界にだけは繋がるのに、それ以外には繋がらない。エンプネイスが関係しているのか、それともまったく別の、理のようなものの影響なのか。おそらくあいつはもうこちら側には来ないだろう。だがこれだけ関わってしまったんだ。何かしらの影響があったっておかしくは――。
「何を考えてるの?」
「うぉわぁ!」
急に肩をたたかれながら声をかけられ驚いてしまった。軽く飛び上がった俺の前にいたのは、少し小さめの少年だった。だが不思議と年下という雰囲気はなく、初対面であるという気もしなかった。
「あーとぉ・・・何か用・・・ですか?」
「うん。君にね」
俺に・・・と言われても、何かやらかしただろうか。この雰囲気で"あのこと"ではないだろうが、であればいったい何の為に来たというのだろうか。というかこの感じ、どこかアメムラやヤタノに似ている。とそこまで考えてから気付く。
「あんた、まさか三種ノ神器の・・・?」
「そ、僕が三種ノ神器の1つ、八尺瓊勾玉だよ」
なるほど、通りでアメムラとヤタノに似てるわけだ。初対面だという感じがしなかったのもそのせいだろう。
「まあ、とりあえず、家の中にどうぞ」
「それじゃあ遠慮なく」
少しだけ歩き、玄関に入るとすぐに、彼は辺りを見回す。いったい何が不思議なのかと思っていると、こちらを向いて聞いてくる。
「・・・これ、誰が装飾してるの?誰が掃除してるの?」
「ん、装飾はここに来たときに皆でやったけど、掃除は俺がやってるかな」
「うっそ!?ここ全部一人で!?」
そんなに驚くことなのだろうか。一週間で順番に部屋を掃除し、三週間休んでまた一週間で順番に掃除するということをしているだけなので、そこまで苦労はしない。まあ、多少広すぎる気がしなくはないが。
「なんか飲むか?」
「いや、特には」
「そうか」
そう言いつつ彼の目の前に座る。そのまま目線で用件を促す。
「僕、実はあの村に行ったんだ。言い方は悪いかもしれないけど、君の因縁の・・・ね」
あの村。そして俺の因縁。ということはつまり、俺がおよそ8年前に壊滅させて・・・いや、壊滅させた、故郷のあの村。良く言えば、マリカとレイナに出会った場所。今もなお逃げ続けている、俺がこれまでで最も重い罪を作った場所。恐らくどこかでアメムラかヤタノのどちらか、或いはその両方に会い、話を聞いて見に行ったのが一番可能性が高い。しかしそんなことはどうでもいい。いったい何の為に?そう思いつつその先を聞く。
「確かに誰もいなかった。あの村は君によって壊された。けどね、その周りの村は正直それで良かったって、そう言っているよ」
「・・・それで・・・良かった・・・?」
「そう。彼らも殺したのはよくないと言っているよ?けどそれ以上に、無意味に食料を強奪したりする彼らがいなくなって、生活しやすくなった。近辺の村が協力して、交渉しに行って駄目だったら壊滅させよう、なんて話も出てたらしいから、手間が省けたって言う人もいるね。殺したのはよくない。けど、それで救われる人のことも考えてみたら?」
そう、彼の言うとおりだ。俺は殺したという事実のみを受け止めてしまい、その後のことを考えていなかった。救われた人のことを考えてみれば、多少意識は軽くて済んだ・・・・・・はずだ。
「君はきっと、そのことから人を・・・生き物を殺しづらくなった。少なくとも人を殺さないと誓った。でも、今の話を聞いて、多少変わるんじゃないかな?この後、君はいったいどうするの?」
彼が問う。正直すぐには答えられない。過ちを繰り返さないと、そう誓っておきながら未だに争うことから離れず、それどころか楽しんでいる自分がいる。だが俺は、俺はそれでも――
「それでも俺は人を殺さない。けど、もし誰かが襲われていたり、困らせていると思ったときは容赦しない。過ちの正し方なんて、正解はないと思う。だから俺は、俺の方法で償う」
「俺のしたことは罪じゃなかった――とは考えないんだね」
「どんなことをしていたとしても、村の人だというだけで無差別に全員殺した。一人残さずな。であれば当然罪だろう」
「面白い、気に入ったよ!」
少し笑いながら、彼は言った。
「改めて、僕は八尺瓊勾玉」
「僕は君が死ぬまで一緒にいるよ」
「ありがと・・・て、うわぁ!?」
二つの声が聞こえて、見渡してみれば少年と少女がいた。よくよく見れば同じような顔で、後から聞いた話では八尺瓊勾玉の性質的なものだということだが、知らないときにいきなりやられたらびっくりするものだ。そんな不意打ちで驚きの声をあげる俺を見て笑う彼を見ながら、心のどこかで、或いは魔力の流れで感じていた。
――とてつもなく大きい、"無"の恐怖感を。
第11話<地獄の始まり>
ついに始まる地獄の陽炎。なぜ世界は襲われるのか。そんな思いを秘めながら彼らは戦う。