カゲロウ・ソードワールド   作:壱ノ瀬 葉月

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 作業に区切りがついたイチハ。彼はかなり疲れていたので・・・。
※入浴シーン有り※


第14話<命の洗濯>

 ここ最近、と言っても3日程度だが、かなり忙しい。その理由というのは、当然黒影剣士団のことだ。市街長のもとへ出向いて話をし、書類を書いたりとか、これから先使うことになる拠点へ荷物を移したりとか。

 言ってみると少なく感じるが、書類はともかくとして荷物が多いし重い。ベッドは最低でも38人分はあったし、大机もいくつかに分かれてはいるものの多い。距離は歩いて20分あったので余計に疲労がたまる。何人かは新旧両方の拠点の護衛にまわしているし、周囲の状況確認などにも人数を割いているので、実際荷物を運べる人数は10人に満たない。

 しかし、その作業全てが今日終わった。ということで夜は、「皆で宴をしよう!」と言う話になっており、着々と準備されているのだが・・・。

「疲れた・・・寝たい・・・風呂入りたい・・・」

「心の声、漏れてるよ」

 そう言いながら俺の隣に座るのは皆の投票で副団長となったマリカだ。今は普段に比べるとかなり軽い服装だ。

「イチハは最初から無理しすぎなのよ。もうちょっとゆっくりやればいいのに」

 苦笑しながら彼女が言う。

「引き受けたからにはやらないとって思ってな」

「まあ、その気持ちはわかるけどね」

「団長、準備できましたよ!」

 食堂のほうから呼ぶ声がする。俺は立ち上がり、マリカへ手を差し出して言う。

「じゃあ、行こうぜ」

「うん」

 俺の手をとり、立ち上がる。そのまま皆のところへ行くのだった。

 

 

 

 宴の後、俺は風呂へ向かった。拠点の風呂は大きいわりに設備が整っており、なぜかは分からないがお湯もすぐに溜まるらしい。この大きさはもう浴場と言っていいだろう。そのひとつ前の脱衣所で服を脱ぐ。ここも広いが、ただひとつどちらにも同じ問題がある。それはというと。

「あれ、イチハ。あなたも?」

「ん、ああ。マリカもか」

 男女分かれていないことだ。風呂だと言えばそれが普通なのだが、浴場だとするとおかしい。

 ――なにか対策しないとな。というかこれは・・・俺が出た方がいいな。

 そう思い至り、脱ぎかけだった服を着直して出ようとしていると、不意にマリカが声を掛ける。

「ねぇ、一緒に入ろ?背中流すよ」

「・・・・・・ふぇ?」

 唐突に言われたその言葉には戸惑うしかなかった。まさかマリカが「一緒に入ろ?」なんて言うとは思わなかった。逆に俺が「入ろう?」なんて聞いたら嫌がって出て行くと思えるくらいだ。

「何?私じゃ嫌なの?」

 少し不満そうになって聞いてくるのでつい慌ててかぶりを振る。

「い、いやそういうことじゃなくてな・・・あのー、お前がそんなこと言うとは思ってなかったもんでさ」

「私でもそのくらい言うわよ。好きな人には・・・だけどね」

 後半の小さく呟いたことには気付かない振りをしつつ、急いで服を脱ぐ。

「なら、さっさと入っちゃおうぜ」

「あ、先に入ってて。ちょっと時間かかるから」

 そう言われたので、服を脱いだ後浴室に入り髪を洗っていると、そのうち扉が開く。ついそちらのほうに目線を向けてしまい、マリカの姿が目に入った。

 ヴィルや街の男たちと話すと、この年齢になってしまえばどうしてもやらしいと思われても仕方のない方向へと話題が行くことが少なからずある――この原因は完全に相手側だと自信を持って言える――のだが、聞いてみるとこういう状況で想像しているのは、大体の人がタオルを巻いているものだ。

 しかし、マリカは巻いていない。つまりは裸だ。白く透き通るような肌や、かすかに主張する胸、控えめなくびれ、普段は下ろしているが今は後ろで束ねている青い髪など、とにかく美しい体全てを見せ付けてくるかのようだ。

 先ほどの発言もあるし、これは意識してなのか。それとも「タオルを巻く」というのはただ単に理想、想像の中の話と言うだけなのか。

 そんな余計なのか必要なのかわからず、だんだんどうでもよくなることを考えながら髪の泡を落とした後、体を洗っていると、マリカが近づいてくる。

「ほら、背中洗うよー」

 そう言いながら彼女は自らの手を俺の背中にあて、洗い始める。やはり自分で洗うのと人に洗ってもらうのは違う。普段は無理して全体を洗っていると言っていい。それに人にやってもらうと、手が直接触れていたり、洗い方が丁寧だったりするので、人の温もりや優しさを感じることができる。たまにはこういうのもいいと思うのだが、やはり男の性というやつだろう、同じ男に頼もうとは思わない。半分くらいが洗い終わったところでマリカが声を出す。

「・・・イチハの肌、女の子みたい。なんか特別なことやってるの?」

「いや、なにもやってない」

「そうなの?不思議ね・・・はい、お湯掛けるよー」

 と、優しく泡を落としてくれるマリカ。礼を言った後、「お前にもやってやろうか?」と聞いたのだが、「次に入ったときでいい」と言われた。果たして、次一緒に入ることはあるのだろうか。入るとしてもいつになるのだろうか。

 

 

 

 隣同士で座り、湯船に浸かる。正直に言おう。かなり緊張する。

 戦う前の緊張とはまた違う、今まで経験したことのない感覚だ。恐らく顔もいくらか赤くなっているだろう。気分を紛らわせるのと、顔をさりげなく隠すために俺は子供らしく顔半分を沈めて息を吹く。

 そんな俺の様子を見て、マリカはくすりと笑った。だが、その笑顔はすぐに別の感情で染められた。うっすらと、目に溜まる涙を見て、俺は無意識に彼女へ手を伸ばし、優しく抱きしめる。一瞬だけ固まるが、すぐに俺の背中へ手を回し、肩へ顔を埋めてくる。マリカが手を離すそれまで、俺は彼女の頭を撫でていた。

「ごめんね、でも急にどうしたの?」

「い、いや・・・泣いてたから、自然と・・・迷惑だったか?」

 すると彼女はゆっくり頭を横に振る。

「そんなことない、むしろ嬉しかった。この3日間、ずっと寂しかったから」

 ずっと寂しかったということはつまり、彼女は、俺がいない――正確にはほとんど話していない――3日間、泣くことを我慢していたということになる。3日間でこれでは、1週間、1ヶ月あいたらどうなってしまうのか。きっと、帰って来た瞬間に涙を流しながら飛びついてくるくらいにはなるだろうか。さすがにそれは想像のしすぎかも知れないが、自分の中でも否定はできない。

「悪いな、気付かなくて」

「ううん、いいの。こうやって気付いてくれたんだから」

 そう言って笑顔を浮かべるマリカ。その顔から、俺はあることを思いつく。

「そういえばだけど、俺だけで活動してたら多分皆心配しっぱなしだろうなー。だとしたら護衛を誰かに任せないとだよなー。でも誰かやってくれる人いるかな・・・」

「わ、私!私やる!」

 やはり乗ってきた。顔をかなり近づけるほど強く主張してくる。その様子をみて魔が差した俺は嫌がらせをする。

「いや、お前副団長だろ?副団長が護衛やっていいのか?」

「うぅ・・・むむむ・・・」

 結構本気で悩む。冗談だったら諦めるだろうと思ったのだが、副団長としての役目と俺を護衛したい――多分内心は「イチハと一緒にいたい!」なのだろうが――という気持ちどちらを優先すべきかだろう。

「わかったわかった。護衛はマリカに任せるよ。副団長は今の団員なら誰に回しても問題ないだろうしな」

「え、本当!?やった!」

 喜びながら彼女は飛びついてきて、そのまま押し倒され、結果的に俺は湯船に沈められることになるのだった・・・。




次回<殺人鬼>
 街の平和と安心は、突如として崩される。
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