いつも通り目を覚ます。首を動かして時計を確認する。普段とだいたい同じ時間だ。体を起こし、そこで違和感に気付く。視界が変に狭い。原因はすぐに分かり、髪の毛が長いからだった。だが、俺はここまで伸ばしていない。それに後ろのほうも重く感じたので、手を回してみると予想通り後ろも髪が伸びている。それになんだか手も小さい。
他にもいろいろ違和感はあったが、とにかく自分で見たほうが早いだろうと鏡へ向かう。そしてそこに映ったのは
――どこからどう見ても女の子だった。
「なんだこりゃああああああああああああああああああああああ!?」
俺から発せられた絶叫は、寝ている団員を起こすどころか、この部屋へ向かわせるのには十分すぎたらしい。数十秒後にはマリカが扉を突き破る勢いで部屋に入ってきた。
「何してるの!?・・・って誰?イチハは?」
「いや、イチハは俺」
「・・・ええ!?いや、イチハは男よ?!あなたみたいな女の子にはなりきれないわ」
「え、いや・・・だから・・・・・・あっ」
どうやら本気で別人だと思っているらしい。・・・いや、よく考えてみたら性別が変わってるなんて事は信じられるはずがない。その事実に遅まきながら気付き、げんなりとする。そのしぐさから癖を見抜いたのか、警戒状態から徐々に普通に戻る。が、そこでは止まらず、だんだんと笑顔になり――部屋に来たときとほぼ同じ勢いで飛びついてきた。
「かっわいいー!!」
「は!?ちょ、おまうわぁ!?」
いつの日だったかに感じた光景だが、そのときとは違い、俺は床に頭を打ち付けてしまったのだった。
その後俺の部屋にほんの数人、マリカ、レイナ、クロト、ミルキに来てもらい、まず団員にどう説明するかを話し合った。
「普通に説明するんじゃダメなの?」
「一度それも考えたんだけど、すぐに理解はしてくれないと思うの」
「けど伝えないのも士気に関わるでしょう?言わないよりかは言ったほうがいいと思うわ」
レイナの発言に俺とクロト、ミルキが頷く。すぐにクロトが言う。
「言ったほうがいいって言うのは僕も思う。けど、もしかしたらだけど一部の人が・・・ねぇ?」
「そうねぇ・・・そこまで小さくはないけど、ごく少数の入団してる女性達に比べたら弱そうに見えるからね」
彼女達から見ると、16から18歳くらいに見えるらしい。見た目も一応はレイナ、マリカより年上を維持できていたのですこし安心していた。にしても、引っかかることがいくつもある。
昨日はミルキの開発したゴーレム――あいつ自身は《マナガルム》総体は《ゴーレム・コア・ユニット》(魔道用語で自動人形の核部品というような意味合い)にでもしようかと考えている――を見に行った。その帰りに見かけた白髪の少女。彼女は「お前」を殺して「あなた達」を救うと言った。お前は俺のことだとしても、あなた達の検討がつかない。あの場にいたのは俺とマリカだけ。では一体誰を指していったことなのだろうか。あれが単なる幻覚、幻聴とは思えない。近いうちにまた現れるだろう。そのときに分かればいいのだが・・・。
「・・・ハ?イチハ?聞いてるの」
はっと我に返ると、マリカが覗き込んできていた。随分と深く集中してしまっていたらしい。別に嘘をつく必要はないので、真実だけを言う。
「悪い、聞いてなかった」
「まったく、難しいこと考え始めるとすーぐコレなんだから」
不貞腐れたようにマリカが言う。その様子を見て他3人が笑う。それに釣られ、俺達二人も笑う。先に笑い終わったレイナが仕切りなおす。
「とりあえず、皆には言うってことにしたけど、組織の中だけに留めておきましょう。で、その次の問題」
次の問題と言っても、何かあっただろうか。と考えるとすぐに思いつく。
「あ、服か」
「それと、お風呂とお手洗い。クロト、ちょっと確認してきて」
「・・・何を?というよりどこで?」
「・・・じゃあ私達があっち向いてるわ」
と言ってこちらに背中を向ける。同性――まあ、見た目は異性なのだが――とはいっても、恥ずかしいところはある。が、それは今は我慢するべきだろう。立ち上がり、クロトがズボンに手を掛けて――。
結果として、風呂などは女性で、服はレイナのものを借りることになった。今の体では少々大きいが普段の俺のよりはずっと小さいし、まあ貸してくれるだけマシだろう。
こうして、18年の人生初――というより全人類初の、元男性が女性として生活する日々が始まったのだった。この際、正直に言おう。早く元に戻りたい。
次回<虐殺者>
いつかの少女が、姿を現す。