カゲロウ・ソードワールド   作:壱ノ瀬 葉月

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 彼は、真に安らげる場所を見つける。


第21話<安心する場所>

 これは、傷が回復したクロトから聞いた話だ。俺達が走っていった後、あの少女、ジャックは話しかけた。

「久しぶりだね、兄さん。生きてたんだ」

「君もね、ジャック」

 一見まったく似ていないが、兄妹だという二人は、しばらく話をした。だが、俺の主観では、その内容は再会した兄妹の会話とは思えない。憎みあった敵同士のような気がする。

「まさか、兄さんが《深淵の暗殺者》なんて呼ばれてるとは思わなかったよ」

「そうだね。でも、君よりはマシなんじゃないかな。罪の無い人間を訳も無く殺して、しかもばらばらに切り刻んでるんだからさ」

「かもね。・・・じゃあ、無駄話はここまでにしようか、兄さん。ひとつ聞くけど、なんであの人と一緒にいるの?」

「僕がいたいから。ただそれだけだよ」

「ふーん・・・そうなん・・・だっ!」

 瞬間的に攻撃を仕掛けてきた。不意打ちはジャックの得意技であり、そのまま複数回攻撃を受けるも、隙を見て離脱。そのままこちらに帰ってきたとのことだ。

 彼女の性格上、逃げた敵は追いかけないが必ず殺しに来るとのことで、俺達黒影剣士団は、最大限の警戒体制を敷くことになった。

 とは言っても、全員で一日中出来るわけがないので、半分ずつのメンバーで8時間から10時間での交代にしている。そしてちょうど、俺も休憩時間だ。

 

 

 

「そろそろ大丈夫かなー・・・」

 俺は今脱衣所にいる。女の子の体ではあるが、この前、風呂場を男女分けたので、その辺の心配はしていない。が、今は別のことが心配だ。時間帯的にもう出ているだろう。服を脱ぎ、籠に入れて風呂場に・・・と、そこで思い出し、髪を縛ってから改めて入る。体を洗い、湯船につかる。今は一人だ。ちょっと体を浮かせてみようかなぁ・・・と考えかけた時、扉が開く音がした。そして足音。音を立てないようにこっそり見ると、青い髪。黒影剣士団で青の髪を持つ女性は一人しかいない。

 体を洗い終わったらしく、足音がこちらに向かう。すぐ横で浸かる音がしたと思うと、体がそちら側に引き寄せられ、その後すぐに頭を撫でられる。顔を向けると、マリカと目が合った。嬉しそうなその表情に、思わず苦笑をもらしてしまう。その行為に身をゆだねていると、だんだんと眠くなってくる。しばらくは耐えていたが、そのうちに限界が来てしまい、そのまま眠ってしまった。

 

 

 

 翌日、目を覚ましたのはマリカの部屋だった。それが分かったのは、右に視線を移したときに見える部屋の配置や寝台の状態からだ。綺麗好きで、部屋にこだわる彼女は、イザヴェル近くの家に住んでいたときとほとんど変わらない配置と雰囲気だ。たまに一緒に寝ていた――風邪の看病をしているときに「一緒に寝て」とよく言われるからだったが――あの頃と同じように、自分の部屋よりも不思議と落ち着く。お風呂で撫でられていたときの眠気も、もしかしたら俺と彼女だからこそかもな・・・そう考えながら左に目をやると、マリカがこちらを見つめていた。

「おはよう」

「おはよう。昨日はありがとな。重かったんじゃないか?」

 マリカが運んだという前提で聞いてみる。返ってきた答えは案の定だった。

「そんなことはないよ。思ったより軽かったし」

「へぇ・・・軽いんだな、この体って」

「・・・・・・ねぇ、イチハ」

 マリカが少し甘い声で言う。意識しているのかは分からないが、俺をドキッとさせるのには十分だった。が、この後の言葉でさらに焦った。

「私と、付き合ってくれないかな?」

「・・・一応聞いておくが、それは「着せ替えに付き合って」とかじゃないんだよな?」

「いいね、後でやろうか、それ。・・・ってそうじゃないよ!」

 かなりの勢いで起き上がりながら訴える。その様子に対して、少し笑ってしまう。で、着せ替えなどの意味での「付き合って」でなければ、後はあの意味しかない。

「それは本心か?」

「どういうこと?」

「その想いが、この体が可愛いからっていうのと勘違いしてるんじゃないかってことだ。俺を好意的に見てるのは前から皆に伝わってる。可愛いものが好きって言うのも分かった。だからこそ、確認したいんだよ」

 もしそうだとしたら、元に戻った瞬間に「別れよう」と言われることになる。言い出した彼女の判断なのだからそれを嫌だとは言わないし、言われてもなんとも思わない。が、そのせいで変な後悔だけはさせたくない。させるくらいなら、ここで止めたほうが良い。そう思ってのことだったが、彼女は少し大きく息を吸い、少しの間溜めて、言う。

「本気だよ。私は、イチハが好き。イチハを支えてあげたい。だって、イチハは色々溜め込んじゃってるもん」

「いや、そんなつもりは・・・」

「溜め込んでるよ、絶対!たまに辛そうな顔してることもあるし」

 自覚していない疲労も、周りは気付いているらしい。そしてそれを一番心配してくれていたのはマリカだった、というわけだ。この黒影剣士団を作る前は同居人、作ってからは仲間としてみていた。いや、自分からそう意識してきた。だが、これからはもう、そんなことをする必要ななくなった。

 俺も起き上がり、隣のマリカに近づいて自分から抱きつく。一瞬体が固まるが、すぐ背中に手が回される。

「ごめん、心配・・・かけてたんだな。こんな俺でよければ、よろしく」

「そんなイチハだからこそ、よ。私こそ、よろしくね?」




次回<剣士の致命傷>
 彼は、剣士として大切なもののひとつを失う。
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