告白され、付き合い始めてから4日後。朝起きると体は元に戻っていた。団員は喜んでくれたが――マリカはちょっと残念そうだったが――そうも言っていられない。何が原因でああなったのかは分からないが、ないはずがない。そして、俺にはたった一つだけ、心当たりがある。それはあの白髪の少女、ジャックだ。
彼女が今、どこにいるのかは知らない。だが、絶対にまた接触してくるはずだ。その時、クロトのように少しでも会話できて情報を引き出せるか、力ずくでも聞き出すか。女体化には関係していなくても、なぜ近づいてくるか、その理由くらいは聞きだせるはずだ。
そして、それから1週間後。俺とクロトは森の中にある開けた場所に来ていた。というのも、ジャックに手紙で呼び出されたのだ。一体どういうつもりなのか――。と、木の陰からジャックが出てくる。
「来てくれたんだ。嬉しいな」
「絶対に来い、そう書いたのはお前だろ?」
彼女は笑う。隠しているのかいないのか、右手には短剣が握られている。すぐに来てもいいように体勢を整えながら聞く。
「お前、何が目的だ」
「あれ、気付いてないの?噂じゃ結構勘がいいって聞いてるんだけど」
「とぼけないで、ジャック。ただ殺すのが目的じゃないのは分かってる」
「教えてほしいなら・・・勝ってみなさいよ!」
得意技のひとつなのだろう、かなりの速さで突進してくる。俺とクロトはそれぞれ横に避け、俺は二本の剣、レヴァンテインとウィンドガイアを、クロトは神器である二本一対の短剣、アランダイトを構える。
狙いは俺らしく、速度を殺さずに急旋回し、向かってくる。剣の軌道をギリギリで読み、左の剣で捌く。あいている右の剣で反撃するが、上に跳んでかわされる。落下攻撃だと読み、後ろに大きく下がる。そして出来た余裕で最大限早く詠唱する。
「フラクト、アシッド、ヴァード、バーサク、アロー、ファースト・・・グロウ!」
俺と最も相性のいい根源相、闇での低級攻撃魔法《ヴァードボム》。着地後を狙ったのだが、これも避けられる。彼女の後ろからクロトが仕掛けるが、一本目を避け、二本目は手から弾かれる。今度は俺が不意をつくが、あと少しのところで防がれる。
もしこれが本調子なら、もう少しだけうまくことを運べていただろう。やはり1週間剣を持っていなかったのが祟ったのだろう、動きが鈍っていた。が、本調子でも変わらないという気もする。小柄な体に高い身体能力があるのは相当有利だ。二人の攻撃を軽く交わしていることからも分かる。しかも疲労している雰囲気すらない。《地獄の陽炎》で初めて制御が出来た能力、《崩壊》を今出来る最大まで発動する。これで互角に持ち込めるかどうかだ。
地面スレスレから跳ね上げるように剣を振る。弾かれるが、その反動を生かして反対の剣で再度攻撃。さすがに防御は間に合わないのか、俺に攻撃を仕掛けてくる。攻撃は止めず、しかし致命傷は避けるため、腕と肩がほぼ一直線になるまで胸をできるだけ後ろへ持っていく。俺の攻撃はジャックの右腕に切り傷を作るに留まった。しかし、ジャックの攻撃は俺を大きく不利な方向へと導いた。
普段、相手から聞く音が体の中から響く。赤い液体が宙を舞い、ジャックと俺の頬や服をぬらす。少しの時間を空けて、遠くでドサリ、と音がした。後ろに思い切り跳び退り、そこで膝を突く。
「イチハ!」
クロトの絶叫が響く。俺とジャックの間に入り、時間を稼いでくれる。痛みに耐えながら詠唱し、左肩の傷口を塞ぐ。繋がりが切れた部位とを治す魔法は覚えていないが、確か一度塞いだら二度と出来なかったはずだ。が、それを恐れて出血死するなら片腕を失うほうがマシだと考えてのことだ。右手に握っていたレヴァンテインをしまい、跳び退ったことで近くになったウィンドガイアを拾う。
「うあっ!」
そこで、ジャックの悲鳴が聞こえる。そちらに視線を飛ばすと、クロトが腹を斬ったところだった。致命傷となるほど深くは無いようだが、魔法で塞いだとしてもしばらく動けないはずだ。
傷はまだ痛むが、走り、せめてもう少し動けないようにと、剣の横で思いっきり殴る。左腕がないのでふらついたが、なんとか足に当て、硬いものが壊れる感覚を確認した俺はクロトのほうへ走りよる。俺はウィンドガイアを差し出して持ってもらい、魔力で翼を作って飛ぶ。後ろからはクロトが跳んで追いかけてくる。左肩を抑えながら、拠点への空を全力で、ただひたすらに飛んだ。しかし、後少しと言うところで、俺の意識は途切れた。
第23話<前兆>
再び、地獄は始まるのか。