救護室。イチハは、ここで眠っている。救護班の話では特に異常は無く、ただ単に疲れているだけ、ということっだったのだけど、この2日間目を覚ます気配が無い。その間、私はほぼこの部屋にいる。護衛だからというのもあるけど、私自身が彼のことを心配しているのが一番だ。
きっと、二人でいる時間に慣れてしまえば、こうして顔を眺めて何かを思うこともなくなってしまうのだろう。これは予想でしかないけど、もしそれが本当だとしたら、今こうして感じられるうちにいっぱい感じておこうと思える。
何も考えず、ぼーっとしながら眺めていると、後ろからアメムラが声をかけてきた。
「マリカ、ちょっといい?こっち」
「わかった、今行く」
イチハから視線を外し、アメムラのほうへ向かう。部屋を出ると、アメムラの他にもヤタノ、ヤサカがいた。そして皆、深刻そうな顔をしている。最初に口を開いたのはヤサカだった。
「イチハから言われてたことなんだけど、一番最初に伝えてほしいって言われたことなんだ。・・・・・・で、なんだったっけ?」
幼い雰囲気の少年のような見た目で同じように幼い少年のようなことを言う。ついくすっと笑ってしまうが、すぐに笑顔を消す。続きをヤタノが引き継ぐ。
「『いずれ、《地獄の陽炎》よりも恐ろしい規模のことが起きる。少しでも準備をして備えておけ』だそうよ。死んでいたり、そうじゃなくても何かしら伝えられない状況で前兆を感じたらって」
彼は私が告白し、了承した後に「何かあったら伝えるし相談する」と言っていた。なのに彼はこうして心配をかけ、自分は他の皆の心配だけをしている。自己犠牲なんかではないはずだ。けれどいつも自分のことを後回しにして、結局周りに心配をかける。彼のそんなところも好きだし、皆も嫌だったらとっくに出て行っているはずだから好きではなくても嫌いだと言うことは無いだろう。でも皆思っている。私達を守って、一番上のイチハが死んでしまったら意味が無いと。
それでも頼っていたことに感謝を覚えつつ、3人に全員を集めるよう伝えて、副団長としての役目を全うした。今も寝ているであろう、彼の代わりに。
~~~~~~~~~
目を覚ますと、そこは救護室だった。ゆっくりと、記憶を引っ張り出す。確か俺は、クロトと共にジャックに呼び出され、その場所に行った。そこでジャックと戦闘し、左腕を失ったものの魔法で傷を塞ぎ、クロトが腹を、俺が足を攻撃して動きを封じて――そこから先の記憶がない。正確に表現すれば、記憶の断片でさえうっすらとしか出てこない。恐らく何かしらの方法で逃げ、どこかで意識を失い、ここに運ばれたのだろう。
そこまで確認できた俺は、部屋を見渡す。右側に椅子がある。起きたときに右手が外に出ていたことを考えると、誰かが近くで見ていたということだろう。その誰かも容易に想像ができる。
体を起こし、寝台から降りる。どのくらい意識がなかったのかはわからないが、動いていなかったせいで少々立ち辛かったが、代わりにこれまで感じていただるさがなくなっている。少し歩き、軽く運動もしてみる。動き辛くなっているが、ちょっと鍛え直せばすぐ戻せるだろうか。
扉の開く音がしたのでそちらを向くと、マリカが立っていた。
「おはよう」
「あ、うん・・・おはよ。起きてたんだ」
「いや、ついさっき。で、あれからどの位経ってる?」
「2日くらいかなー」
隣同士で座りながら状況を把握する。あの3人に頼んでいたことはついさっきだったとのことなので、後でどの位か確認しておかなくては。
と言うところでマナガルムが入ってくる。ミルキが時々改修しており、俺が把握している限りでは尻尾の部分に細い金属線のようなものが自由に動かせるようになっており、そこでつかめるようになっている。その場所で持っていたのは茶色い封筒に封蝋が施してあるものだった。受け取って確認すると、宛名は黒影剣士団、送り主は俺たちのいる《アキュラス領》の領主様からだった。左腕が使えないのでマリカに開けてもらい、読み上げる。
――前略、黒影剣士団の皆様。先日、《死神》と呼ばれている白髪の少女を無力化していただいたとの報告がありました。これまでの功績も含め、どこかであなたがたのうち4名に姓を授けたいと思い、この手紙を書かせていただいています。剣士団の皆様であればどの方でもかまいませんので、どなたか決まり次第返答をお願いします。 アキュラス領主 ミクリカ・アキュラス・リバー――
読み終わった後、マリカとマナガルムが、そして俺も固まる。その静寂は全員でほぼ同時に破った。
『「はあ!?」』
全員を3つに分けて話し合い、その結果を集めたところ、一人目は満場一致で俺、二人目も同じくでマリカ、三人目は《死神》無力化の一人であることからクロト、四人目は俺やマリカを支えてきたレイナとなった。そしてその事と、二つのことを相談するために領主様へ会いに行った。
その2週間後。俺たち4人の授与式が行われた。
次回<授与式>
栄光ある式で、彼らは何を思うのか。