式典当日、拠点の前には馬車が来ていた。華やかめの装飾が施され、立派なものだった。俺たち4人はそれに乗って城に向かっている。乗り心地はまあまあだが、あの距離を飛んだり自力で走ったりするよりかは遥かに良い。今、ある一人を除いては。
「だから乗りながら読むのはやめとけって言ったろ」
苦笑いしながら言ったことに対しての返答が、苦しそうな声で届いた。
「・・・それでもこんなになるとは思わなかったよ・・・・・・気持ち悪い・・・」
魔導書を読みながら乗っていたせいで移動開始8分くらいには酔っていた。俺もこうなるのを知らずに乗ったときにはクロトより短い5分程度でかなり酔い、降りてもしばらくは頭の芯のほうに違和感が残った。大丈夫だと言ったときには「クロトって強いんだなぁ」と思ったのだが、どうやら違ったようだ。
その頃レイナとマリカはというと、周囲の景色を眺めていた。
それから10分後、城のある街まで来た。アキュラス領で最も大きい街だが、全体で見ると一番大きいところからしたら大したことはなく、最も大きいのはレイネス領・・・だったはずだ。どちらにせよ俺たちには初めての広さで、全員がそれぞれの反応を示していた。
街の中を通り過ぎ、案内されたのは城の庭だった。そこには多くの人が立っていた。ここにいる人のほとんどは招待されたひとだと聞いている。それぞれがご馳走を食べていたり話していたりしていた。が、俺たちが入ったのに気付いた瞬間手に持っているものをおき、自然と真ん中を開けて全員が拍手し始めた。むずかゆい気がするが、それを我慢して歩く。
庭から階段で5段分上にある、城に入る前の玄関前の広場に立たされ、式が始まる。
本来、姓というのは貴族のような高貴なものが持つものとされていた。今でも姓を持たないものはいるが、功績を積んだものには最初の身分がどうであれ授けるようにしよう、という暗黙の了解ができている――と聞いた。ちなみに姓そのものに意味はなく、今は単純にすごいかどうかの基準と、家族かどうかが分かりやすいといった程度だ。
静かな状態から式が始まり、領主様によって、俺たちへの姓が発表された。
「レイナには『クレスティ・ナーヴァ』を、クロトには『エクスター・アーク』を与える。そしてイチハとマリカには『リーゼリヴ・ノヴァ』を与える」
その言葉にいち早く反応したのはマリカだった。
「ちょ、ちょっと待って。今、私とイチハにって言った?それって・・・」
「多分正解。・・・マリカ。こんな俺でよければ、結婚してくれ。嫌ならそれでかまわない。姓はもうひとつ用意してもらってるから」
口元を押さえ、目を潤わせながら何度も頷く。
「嫌なんてことない・・・とっても嬉しい。私こそ、お願いします」
その答えを聞き、周りの皆から大きな歓声が上がった。少し微笑み、マリカの手を掴んで口から離し、引き寄せて唇を触れさせる。そして、ゆっくりと離す。一瞬静まりかえったが、先ほどより大きな歓声があがる。俺はそちらを見て苦笑いをする。司会のほうに目線を送って合図を送る。
「それでは、食事等を再開してください。お二方の正式な式は別の日に行います」
その瞬間来た時よりの喧騒が戻る。レイナとクロトにも目配せしてそちらに向かわせてから、マリカのほうに視線を戻す。彼女は俯き震えていた。そこを無意識に抱き寄せる。片手が使えない分、いくらか強く。
「悪い、急すぎたよな」
「本当だよ、もう・・・」
静かに、しかし強く後ろに手が回される。しばらく彼女の温もりを感じてから離す。彼女は名残惜しそうにしながらもゆっくり離れ、顔を上げた時には笑顔が戻っていた。それまで笑っていなかったというわけではないが、今日の彼女は緊張からかあまり表情が変わらなかったこともあり、今の笑顔を見たらこれまでが無表情だったかのように感じるほどだ。
「行こう、無くなるかもしれないぜ?」
「もう無いかもしれないけどね」
そんなことを言いながら下の庭へと降り、レイナ達のところへ行った。
普通よりも深い眠りから覚める。目を開け、そこにいるはずの人物へ視線を向ける。
「どう?まだ細かいところは調整できてないけど、ある程度は動かせると思うよ」
ゆっくりと、左右交互に腕を動かしてみる。肘や肩、指の関節全てを一個ずつ動かすように確かめる。
「普段の生活ならこれで十分だ。でも・・・」
「実戦に使うにはまだ違和感が残る、でしょ?」
今俺がつけている義手の開発者、ミルキは分かっていたように言う。マナガルムの技術の応用とはいえ、2ヶ月でここまで仕上げてくれたのだ。そんなことは俺には到底できないことなので、多少の要求はあったとしても文句は無い。軽く伸びをしてから彼に聞く。
「で、どうするんだ?外すか?」
「うーん・・・もう一個作ってあるけど・・・・・・調整するならそっちのほうが早いね」
と言われたので、寝台に寝転がる。そして魔法をかけられ、「これ後1回はあるんだよなぁ・・・」とどうでもいいことを考えながら、もう一度深い眠りについた。
次回<真の始まり>
恐れていたことが、現実となる日は近い。