左手の義手が完成し、使うようになってから2週間。今のところは何も問題ないし、前よりも若干ではあるが動きが早くなっている。というのも、マナガルムの各部位の技術を利用して作られており、動かそうとしたときに変化する極微量の魔力を感知して動くらしい。具体的にどうこうと説明されたが、その領域になるとさっぱりだし既に覚えていない。そろそろその辺も勉強しようかと、書類を整理しながら考え、気付いたら終わっていた。
最近体を動かしていないので中庭で特訓している皆に混じって練習しようかと考える。確か今は前衛班がやっていたはずだと椅子から腰を浮かせたところでマリカが扉を叩き、入ってくる。その手には先ほどの半分程度の書類があった。やむなく座りなおし、ぼやく。
「ちょっとは運動させてくれよ・・・」
「これは来月まででいいって言ってるから、今はいいよ。早いほうがいいのはそうだけど」
「お、そうか。じゃあ行ってくるな。左側の書類は全部終わってるから!」
と言いながら、廊下に飛び出して中庭に向かう。数十秒で階段を降り、中庭に出るとそれに気付いた奴から動きを止めて礼をしてくる。それに手を上げて答えながらミンクのそばに行く。
「お疲れ様です、団長」
「お疲れ様。俺も混ざって良いか?」
「もちろんです。あ、よければあいつらを指導してやってください」
そういって指をさしたほうには何人かが他と分けられ、木剣でやりあう姿があった。ミンク曰く、結構筋が良く団長に学んだほうがよっぽど良いだろう、とのことだった。俺としては師匠ことマジシタのところへ行ったほうが良いのだが、そのために2、3年離れてその間にこちらがやられている、と言うのは俺としても恐らく彼らも嫌なはずだ。であればこっちで指導してすぐに対応できるほうがいいだろうと思い、引き受ける。その後は指導に邁進し、気付いたときには2時間経っており、レイナには軽く呆れられた。
夕食を終えた俺は三種ノ神器である三人の部屋にいた。というのも、最近胸騒ぎが大きくなってきており、もしかしたらと確認しに来たのだ。
「早速本題なんだが、前兆は?」
「結構頻繁になってきてます。明日か、もって明後日」
「場所は?」
「いくらか絞れてきてるけど、まだ広範囲。ただ、街は巻き込まれにくいと思う」
地図を用意してもらい、具体的に説明してもらうと、大きめな湖の中にある小さい島を中心にかなりの範囲へ広がっている。これで「絞れてきている」というのだから、最初は相当大きかったのだろう。事前に話し合っておいた作戦に支障はないと判断して指示を出す。
「分かった。全団員に通達。明朝から例の会議の通り行動を開始、と」
「了解です、主君」「分かった」「ほいほーい」
そういって全員が伝えに行き、俺も自室に戻り、明日、もしくは明後日に備えるのだった。
翌日。諜報部隊全員が街の皆へ外出しないよう注意喚起に行き、外部防衛班が町の周囲の警備体制を固め始めた頃。予測地点のほぼ中央に黒い雷が落ちた。その雷は地面と空中のある一点を軸としつつ、軌道部分から裂け始めた。
そこから気持ち悪いほどに湧き出てくるエンプネイスを見つめながら、背中の剣を両手で抜き、構える。後ろからも剣を抜く音や構える音が聞こえ、静まった頃に叫ぶ。
「皆・・・覚悟はいいか!」
「「はい!」」
「よし・・・・・・行くぞっ!」
その声を合図として、俺は地面を蹴って一直線にエンプネイスの群れへと突っ込んで切り込む。その一撃でほとんどの注意が俺に向く。そのまま内側に入り込み、周りに広がらないようにひきつける。
ある程度集まったところでヤタノが結界を張る。作戦会議のときに聞いた話では、例の洞窟がもっと悪霊であふれていた頃に張っていたものと同程度のものらしい。それだけ強力なものでこの広さだ。魔力どころか彼女自体に宿っている神聖力でさえも一気に消費してしまう。それを食い止めているのがアメムラとヤサカだ。ヤタノと同じく三種ノ神器であるアメムラとヤサカが魔力を生成し、ヤサカがヤタノへ送り出す。これで4日は持つらしい。
結界を張り、洩れた分を外側に残した団員が倒し、残りがいないことを確認してこちらに加勢する予定だ。それまでは内側にいる俺達で耐え抜かなくてはいけない。だが皆ならできるはずだ、そう信じて剣を振るい続けていた。
次回<あの罪をもう一度>
彼はもう一度、過ちを犯す。