カゲロウ・ソードワールド   作:壱ノ瀬 葉月

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 続けていればこうなると分かっていた。なのに――


第26話<あの罪をもう一度>

 右の剣、レヴァンテインを切り払い、3体を一気に屠る。ほぼ同時に左の剣、ウィンドガイアを右寄りに突き刺し、吹き飛ばす。3連続回転技《オービタルリング》でできた空間を即座に詰める。後ろ側のを上空――といっても――からマリカが狙撃して倒す。

 マリカが援護に来てから5分ほどたっただろうか。そろそろ後ろに下がる頃だろう。矢はまだ余裕があるはずだが、狙撃と魔力の翼を同時にこなすのには相当な精神力と集中力が必要だ。だが彼女は限界まで援護してくれるだろう。ならそれだけの仕事はしなくてはならない。少しでも早くたどり着けるように、また1体斬った。

 

~~~~~~~~~

 

 腰の矢袋から矢を取り出し、番える。思い切り引きつつ狙いをつける。定まった瞬間に放つ。

 「・・・っ」

 さっきから時々頭痛がする。事前にイチハからされた話では魔法ではなく魔力で飛ぶには魔力はもちろん、意外と集中力も必要らしい。そこに狙撃の緻密さが入るのだから消耗はかなり早い。飛行できるなら上空から近づけるとおもったのだが、そう上手くはできないらしく、飛行型がかなりでてきて困る。どういうわけかは分からないが、地上から堂々と来いということなのだろうか。

 なんにせよ彼を守るのが私の仕事であり、したいことだ。なら限界までやりきるしかない。その決意を、戦う前から固めていた私はぎりぎりまで弓を引き続けた。

 

~~~~~~~~~

 

 生きる意味。僕はいままでそれを見出せないでいた。犯罪者を殺していたのだって自分のできる精一杯とはいったが、自分の持ってる技術で少しでもいい方へ持っていける手段だったからやっていただけだ。妹とは――ジャックとは違う。彼女はただ殺しているだけだ。自分の快楽のために。同じように見られても、自分を活かすためか自分を楽しませるだけかという大きな違いがあると、自身をもって言える。

 けど、今はちゃんと意味がある。イチハ達と過ごして、平和にしていける。力を振るうことはあるけど、絶対に殺さなかったし、本当に守るために使っていた。そしてなにより、皆といると楽しい。その楽しさを味わいたい。今までも、これからも。

 昔なら思わなかったこと。けど、今なら思うこと。そして、この瞬間、今までより強く、切実に思ったこと。

 

――死にたくない。

 

~~~~~~~~~

 

 視界の左側に違和感を感じた俺は、考える前にそちらを見た。そこに映ったのは、大きくなっていくエンプネイスの姿だった。1メートル半くらいの背が3メートルほどに、不定形さを表し、不安感を煽る触手は手足のように4本にまとまっていく。そしてほぼ人型になったところで俺は驚愕した。腹部に水色の光が見えたことではなく、その先。光の中に人が――クロトが浮かんでいたことだ。

 そいつは腕状にまとまった触手を振り、エンプネイスと共に団員も何人か飛ばされる。多くは剣が折れてはいるものの無事だったのだが、一人は傷を負っていた。そしてもう一人は――体を分断されていた。

 マリカが受け止めに行くが、そんなことはもう、意識になかった。

 俺の中にあったのは、怒りだけ。仲間を喰らい、仲間を傷つけ、殺した。覚悟していなかったわけではない。だがどうしても、今まで必死に戦ってきた仲間が目の前で殺されることに怒りを覚えずにはいられなかった。そしてそれは、どんどんと大きく、激しくなる。その強い怒りの中に埋もれるように、俺の理性は薄れ、《崩壊》が発動した。その瞬間俺のどこかで、またやってしまったと思った。だがその思考もすぐに消えた。

 その後はあのときの繰り返しだろう。違うとすれば、相手が人ではないことと、俺の意識がいくらか保てていることだ。しかし俺は止めようとはしなかった。今止めればあいつは倒せない。クロトは助けられない。ならそのまま突っ込めばいい。だが、それだけにとらわれすぎたせいで――

 

――近くに仲間がいたことに直前まで気付かなかった。

 

 気付いた瞬間に意識を無理やりつなぎ、突き出し始めていた剣を止めようとしたが、もう遅かった。ジャックのときとはかなり違う、剣から伝わる、外ではなく内からの感覚。骨を折るのではなく、斬る。肉に埋もれ、切り裂く生々しい感覚。飛び散る血の生暖かい感覚。すぐ抜こうとするが、今抜けば血の流れが多くなって死ぬ。

「団長・・・イチハ、さん」

 心臓に剣が刺さったままの状態で団員が――前衛班所属のフェアが話しかけてくる。俺はそれに、答えることはできなかった。彼はつらいはずなのに、笑顔を作り声を絞り出した。

「あなたには・・・いつも・・・・・・」

 だが、その先を聞くことはできなかった。レイナとマリカが来て、彼を剣から抜いたときに全身から力が抜け、剣を落とし、膝から崩れ落ちる。後から来たヴィルに片腕をつかまれ、立ち上げられる。剣の片方はマナガルムが、もう片方はヴィルが持ち、剣士団で動けるものは全員撤退した。死んでしまった、そして殺してしまった彼らと、クロトを残して――。




次回<贖罪>
 もう、戻ることはできない。
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