既に防御することも、回避することも叶わない状態だった。奴の腕は刃のように鋭くなり、そのまま――。
金属が強くぶつかる音が響き、攻撃が来ることはなかった。その後すぐに、奴は吹き飛ばされる。すぐに左を見ると、細い剣があった。そこから辿って行くと、空色の長手袋、透き通るような白い肌、手袋より薄い空色のシャツと胸当て、黒いコート、そして――見覚えのある水色の長い髪。そして顔を見た瞬間、俺は息を呑んだ。マリカだ。だが、弓を扱っていたはずの彼女がなぜ……。
姿勢を直しながら俺の前に立ち、顔をこちらに向ける。そこにある瞳に宿っていたのは、冷たいものだった。すぐ前に向き直り、短いスカートとコートをなびかせながら囲まれつつある大軍の中へ飛び込んでいった。
あの目線。きっと嫌われたのだろう、彼女に。だが、それも仕方ない。また同じ事をしたのだから。だが、それなら助ける必要は無かったはずだ。いつも通り後ろから援護すれば良い筈なのに、危険な前線に出てきた。それはもしかして「あなたはもういらない」という事なのか。
『お前の想像していることは、多分違うぞ』
下のほうから声が聞こえる。そこにはマナガルムがこちらを見ていた。
「違う……って、どういうことだ」
『そのままの意味だ。俺の予想だが、彼女に嫌われた、もしくは自分はもう用済みだと思ってるだろう』
肩をすぼめて肯定する。彼は視線をマリカのほうに向け、続ける。
『嫌われた、というのは半分の半分くらい正解だ。呆れられているのほうがより近い。だが、あの視線の意味は違う』
俺にはそれ以外の意味を見出すことはできず、マナガルムの答えを待つ。
『怒っているんだ。自分を、自分達を頼ってくれなかったお前を。そして――お前が頼れるほど強くない自分を。俺に向かって話した。彼女は、自分が情けないとな』
その言葉にはっとする。あの時、彼女に「支えてあげたい」と言われたじゃないか。そして直接言葉にせずとも、頼ると決めたじゃないか。それなのに俺は自分で解釈を終わらせ、勝手にこんな場所まで来て勝手に死にかけた。彼女は、彼女達は何も悪くない。悪いのは俺だ。それなのにマリカは――もしかしたらマナガルムを含めて全員が自分達を責めている。自分達が頼りないから、弱いからと。
「……ほんっと、バカだよ」
手に持ったレヴァンテインを握り締めながら、呟く。だがそれは、だんだんと叫びに変わって行く。
「皆の上に立ってるっていうのに、皆の気持ちも考えず、皆を信じることもできず、自分で勝手に動いて、挙句の果てには何も悪くない自分達を責めさせて。俺はどうしようも無いバカだ!」
右手だけでなく、義手である左手さえも強く握り締める。それでも飽き足らず、俺は叫ぶ――いや、咆える。
「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
その咆哮におびき寄せられるかのように、いっせいにエンプネイスがこちらに向かう。俺の中に残った全ての魔力を放出する勢いで剣に溜め、回転技《サークルエッジ》でエンプネイスを全員斬る。それだけでかなりの範囲からいなくなり、一番近くで残っているのはマリカが主導で相手をしているクロトのエンプネイスだけだ。慣れない前線で戦闘と指示を同時にしているからだろう。隙をつかれ、マリカが攻撃されそうになる。先ほどの俺のように。なら、守るしかない。あれだけのことをしても尚、信じてくれている仲間――家族なのだから。
思い切り走り、間に割り込み、剣を振り上げる。先刻の重さが嘘のように、軽々と防御でき、吹き飛ばせる。その直後に気付く。俺はいつの間にか、《崩壊》を発動させていた。にも関わらず、自分の意思で動かせている。あの時と違い、彼女達の支援無しに、何の邪魔も無く。
「イチハ……」
後ろからマリカが俺の名を呼ぶ。姿勢を直し、振り向きながら言う。
「心の底では、お前を信じきれてなかった。お前はあんなにも信じて、支えようとしてくれてたのに」
目を見て、しっかり、はっきりと。まだ家族と一緒にいた頃に教えられた気のする、ちゃんとした方法で。
「お前のことが好きだと言っておきながら、頼らずに、自分を責めさせた。本当にすまなかった!」
しっかりと腰を折り、頭を下げる。遠くからどよめきが聞こえる。だがそれは、「今更何を」というようなものではなく、「あの人が」という意外性からだった。
少し待ち、頭を上げてから皆を見回しながら言う。
「皆にもそうだ。俺を慕い、ここまで付いて来てくれてるのに、俺は信じてなかった。信じてやれてなかった。今更気付くようなバカだ。見捨てたければ見捨てていい!」
右手の剣を胸元に掲げて眺めながら、言葉にした。
「けどもし、それでも俺に付いて来てくれるって言うなら、これからも力を貸してくれ!」
その瞬間、地面が震えるような雄叫びが上がる。思わず笑みがこぼれる。マリカと頷きあい、姿勢を整えつつある奴に向き直り、どれだけ出したか分からないが、未だに出る声を振り絞り、叫ぶ。
「全員、攻撃開始!」
次回<絆>
今、彼らの力が試される。