自分と相手以外の存在が意識からなくなる。そんな感覚はこれまでで初めてだ。命を懸けているはずなのに、不思議と高揚感が湧く。今まで何度も命をかけているからなのか?それとも、どこかで待ち望んでいたからか?
でも、そんなこと、今はどうでもいい。目の前の相手を倒す。ただそれだけを考えればいい。
動いたのは、二人同時だった。袈裟斬りで仕掛けるが、逆手に持った左手の短剣で防がれる。その動作だけでも今の身体を操っているのがクロトではないと感じる。どこか硬さを感じさせる動き。これならまだ勝機はあるかもしれない。
後ろに跳んで左からの攻撃を避け、そのまま引き絞った剣を突き出す。右手から短剣を弾き、そのまま踏み込んでより内側へ。左腕で腹へ上向きに殴る。クロトはそのまま吹き飛ばされていくが、空中で一回転して姿勢を直そうとする。だがその隙を逃さず距離を詰め、右下からの斬り上げ。身体をひねって避けられ、そのまま回転し、その勢いを利用した水平斬り。斬りかえして迎撃する。
短剣そのものは軽いが、それが威力と直結するとは限らない。
クロトの斬撃の威力を片手で受け止めきれず、剣を左手でも押さえる。刃に触れてしまうが、義手でなければ斬れていた。こういうとっさな時には手が義手であったことを幸運に思う。なんとか押さえ込み、少し拮抗したものの、弾き返す。すぐに攻撃に転じようとするが、左から蹴りがくる。回避は既に間に合わず、左手で防御する。腕を横にして簡単には下ろせないようにしてから左足を払う。体の支えを失い、地面に倒れる彼を追撃することはできなかった。それまでの疲労もあるのか、足に力が入らなくなる。横に転がってから立ち上がる彼を眺めながらなんとか立ち上がる。
不意にクロトが右手で頭を抑え、顔をしかめる。彼自身も抗っているのだろうか。きっと、今のあいつは孤独でいるはずだ。誰にも伝えられず、一人でいる。会おうと思えばすぐ仲間に会えた、今もすぐ近くにいる俺とは違う。
クロトは、いつの日だったか、殺す以外に道はないと思っていた自分を助けてくれたと言っていた。今度はみんなの力になりたいといっていた。次助けられることはないように、と。
一人で溜め込むのは違うということを、俺は皆から教わった。それをお前にも教えてやる。
「うぁぁぁぁぁあああああ!!」
叫び、これまでの疲労を吹き飛ばしたかのような感覚を感じながら、もう一度、地を蹴るのだった。
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正直、余裕な戦い、とは言えなかった。まだ不慣れな細剣でもここまでこれたのは、彼が託してくれた彼女達――三種ノ神器があるからだろう。
彼をもっと近くで守りたいからと、こっそりと細剣の戦い方を教えてもらっていた。でも、こんな風に見せることになるとは思っていなかった。
それより私の心を縛っているのは、助けた後、イチハを睨んでしまったこと。
仲間を殺したことに対して怒ったり恨んだりしているわけじゃない。……いや、きっと心のどこかでは思っているのだろう。それが彼の過去と今までの彼のちょっとしたときに見せる悲しみや後悔の表情で打ち消されてしまっているだけで。でもそれ以上に、私を――私達を頼ってくれなかったことに怒っていた。でも、あのときの彼の状態だったら殺したことを怒っているんじゃないか、そう思ってもおかしくはない。それを分かっていても無意識に睨み、何も言わずに戦場に足を踏み入れてしまった。
ちゃんと謝らないといけないだろう。そのためにも、この戦いを終わらせないと。
今までとは違って攻撃するときには相手に接近しないといけない。近づこう、そう思っても足がすくんでしまう。それでも攻撃できているのはヤサカが援護を、ヤタノが防御を、そしてアメムラが一緒に攻撃をしてくれるから。
アメムラの戦い方に、どこかイチハの動きを思い起こさせる。余裕があれば攻撃に攻撃を重ね、危ないと思ったらなるべく回避していく。彼が影響を受けた人――恐らくはマジシタ
さん――が元々彼女を扱っていたのか、逆に彼に影響を受けたのか、まったくの偶然なのか。でもそこには、私が強いと思う何かがあった。
本当は戦わないのが一番いいのだが、それでもいつか、彼の横で一緒に戦って、足を引っ張ることがないように。
「はぁぁぁぁぁあああああ!!」
今まであげたことの無い、大きな叫び声を出して恐怖を打ち払いながら、思いを込めた鋭い一撃を放った。
次回<真の姿>
本当の力が、今、顕現する――。