身体全身を、強い倦怠感が襲う。だがゆっくりはしていられない。
あれからどのくらい経ったのだろうか。クロト本人の意識なのか、憑いていたやつを追い出せたのか、彼が攻撃する直前に倒れ、戦いは終わった。直後に俺も膝から崩れ落ち、剣を杖代わりにして立っているような状態だ。この状態でマリカのところへ行っても足手まといになるだけだろう。
まだ不安は残っているが、《崩壊》を使う。
もしかしたら、崩壊なんていうのは嘘なのかもしれない。身体能力を上げる結果としてより多くのものが壊せるようになるが、破壊衝動が強い、のような。……なんにせよ、今考えることではない。
「マナガルム、クロトを運んで、処置をレイナに頼んでくれ」
『了解した。……無茶はするなよ、イチハ』
「……分かってる」
――きっと、無茶するだろうな。
そう思いながら、足を踏み入れた。
~~~~~~~~~
「……ッ!」
まだ慣れていない前線での戦闘で、かなり疲労が溜まってきていた。先ほどの回避もかなりギリギリだ。まだ3人が対応できているからいいのだが、きっと――。
「マリカ、まだ!避けて!」
ヤサカの声で、上を見る。もう、防御も回避も間に合わない。
――ここまで、なのかな。
自然と目を閉じ――
「せやぁぁああ!」
という声で、また開いた。そこにいたのは、黒いコートを翻しながら攻撃を防ぐ、赤いオーラを纏った、同じく赤い髪の少年。相手は後ろへとのけぞって姿勢を崩し、彼は膝を曲げて着地の衝撃を吸収する。立ち上がり、こちらを見る。両目にも赤い光が宿っていたが、どこか優しさを感じられる。どんな姿になっても変わらない雰囲気から、自然と声が漏れていた。
「大丈夫か?」
「イチハ……」
駆け寄ろうとするが、懸命にこらえる。戦闘中だからというのもそうだが、先ほどの睨んでしまったという後悔と、彼にかなりの負担をかけさせてしまっているという罪悪感から。彼は微笑み、頷く。まるで「全部わかってる」とでも言うかのように。前に向き直り、一言。
「やるぞ」
恐らく、初めての前での実戦と分かっていての、その言葉。
「……うん」
隣に立ち、構える。イチハが剣を左手に持ち直す。なぜわざわざ、と思っていると――。
「一緒に攻撃しよう。俺があわせるから、お前は好きに動け」
数瞬遅れて理解する。私と鏡合わせになるように行動する気なのだ、彼は。二人であわせるのではなく、片方があわせる。それはそれで難しいはずだが、彼ならできる、そんな気がする。
右足を後ろに下げ、身体を軽くひねる。ほぼ同時に、イチハが左足を後ろに下げ、私とは反対に軽くひねる。
そのまま走り始めてもずれることなく、歩幅や速度をあわせてくる。どうしてここまでできるのか、気になるところではあるけど、今は戦闘に集中しないと。
狙う場所も全く同じ――というわけではなく、完全に私の動きを真似て、自分の位置からまっすぐ前に攻撃している。恐らく威力も同じ。それでも、2つの攻撃を同時に受け、動きが硬直する隙を逃さずに追撃を入れる。イチハも、一瞬たりとも遅れることなく追撃を入れる。
「お前のは突き技が多くなる。もっと剣先と間合いを意識しろ」
早口ながらも、聞き取りやすい声でイチハが助言をくれる。
そうだった。彼はほぼ全ての武器の扱いをかなり厳しく、詳しく習ったことがあった。片手直剣しか扱わない今でも、その勘は身に染み付いているのだろう。そしてその時に、ほぼ完璧に動きを真似る技術も得ていた。だからこそ、私と動きをあわせると言えたんだ。私の動きを真似て、できていないところを指摘する。そうして、この戦いの中で私を成長させようとしている。
その後も、攻撃し、隙を見てイチハが助言をし、時折アメムラやヤタノが攻撃する。
相手は、前回よりかなり強い。三種ノ神器の力をほとんど使っていないのもあるだろうが、単純に相手が強化されている。それでもこうして戦えているのは、彼の冷静な状況分析があってこそだろう。彼がいなくなったら――。
ふっと、全身から力が抜け、崩れ落ちてしまう。ちらりとこちらを見る気配。直後に大きな声で彼女たちを呼ぶ。空いている右手に天叢雲剣、両手首に八尺瓊勾玉、背中に八咫鏡。
人として扱われること無く、笑うこともしなかった少年が、今ではこうして、喜怒哀楽を素直に表現し、全体から見れば微々たる数でも多くの人の先頭に立ち、尊敬され、一部の人の間では英雄とさえ言われる存在となっている。最初は助ける側だったというのに、いつの間にか助けられる側となり、そして、手の届かないような遠い存在へとなったかのような感覚に、無意識に祈っていた。どうか、彼がこの世界を平和にしてくれるように、と。
瞬間、三種ノ神器がより強く、暖かい光を放つ。視界を白一色に染め――戻ったときには、一つの剣へと形を変えていた。
次回<決着、そして、別れ>
ついに、戦いが終わる。しかし――。