カゲロウ・ソードワールド   作:壱ノ瀬 葉月

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仲間の存在は、力の在り方を変える。


第32話<決着、そして、別れ>

 マリカが姿勢を崩し、座り込む。その前からの戦闘の疲労もあって、もう限界なのだろう。ここからは俺一人で維持するしかない。

「皆、頼む!」

 三人全員が反応し、三種ノ神器をそれぞれの位置に纏う。まだ、何か隠されている。そんな気はするが今使えるこの状態で戦うしかない。と、動こうとした時。不意に俺のものではない思考が伝わってくる。どうか、彼がこの世界を平和にしてくれるように、と。他にも、いくつもの思考――いや、願いが、全身へ染み渡るような感覚。

 ――やってやるよ。こんな俺を信じてくれる皆を、そして、支えてくれる彼女を守るために。

 瞬間、それぞれの神器が光を放つ。それはだんだんと強くなり――目を開けたとき、右手にあったのは先ほどとは違う形状の剣だった。

 金色の縁取りがされている円盤形の水晶の周りを、同じ色の勾玉が挟み込むように囲い、薄く、鋭い刃を持っている。

「これは……」

『それが、私達の本当の姿、本当の力。《幻想剣 天羽々斬(げんそうのつるぎ あめのはばきり)》』

「幻想剣……天羽々斬……」

 手首にあった八尺瓊勾玉と背中あった八咫鏡がないということは、三種ノ神器が融合してこの姿を構成しているということだろうか。

『その通り。そして、その力は三種ノ神器全てを全力で使ったときよりも強い』

 ……どうやら完全に思考を読まれるようになったようだ。

それよりも、どうして本当の姿である天羽々斬がこうして形になったのか。恐らくは、みんなの願い――信仰の影響だろう。皆が信じてくれたからこそ――。

『三種ノ神器が真の姿となった。正解よ、主君。それよりも気をつけて。今の私達はさっきまでとは違う。かなり扱いづらくなってるわ』

 それでもやるしかない。皆がいる、

「この世界を守るためには!」

 気合と決意を強く持ち、最初の一歩を踏み出した。

 

~~~~~~~~~

 

 一歩踏み出しただけ。そのはずなのに、かなり速い。その速さ故か、残像が見えるほどだ。それでも、あのエンプネイスを消し去ることはできない。振り返り、魔力で翼を作る。そのまま羽ばたかせて浮遊し、先ほどを超えるのではないかという速さで攻撃を加えていく。普段とは違い、黄色い翼であることも相まって、より神々しく思える。

 そのまま連撃で倒すのかと思っていたが、急に動きを止め、狙いを定めるかのように剣を構える。衝撃波を作り出すほどの速度で突っ込み、寸前で防がれる。それでも諦めることなく押していく。徐々に剣先が沈みこんでいくが、これではいつ貫けるのか――いや、一回で貫く必要は無い。右手の剣を引きつつ、左手の剣――彼の愛剣であるレヴァンテインに光を宿しながら振るう。その一撃で防いでいた触手は消滅し、もう一度右手の剣を突き立てる。

レヴァンテインを手放し、柄に添える。剣のほうへ身体を寄せ、押し込むようにしながら叫ぶ。

「うおぉぉぉぁぁぁぁあああああああああああ!!」

 かなり緊迫した数秒が過ぎ、相手は消滅した。それまでの大きな抵抗が無くなり、少し――とは言っても結構な距離――進むが、すぐに止まる。しばらくはそこに留まっていたが、ふっと、糸が切れたように翼が消え、力なく落ちる。

「イチハ!」

 何とか立ち上がり、出せる全力で駆け寄る。気を失っているんじゃないかと思ってしまうほど微動だにしない。すぐ傍まで来たところで目を開け、弱々しく笑う。

「……バカ。勝手に飛び出して死にかけて。いないってわかったとき、本当に心配だったんだからね」

 視界が曇り、涙が頬を伝う。座り込み、俯く。嗚咽をこらえていると、手が触れる。イチハのものだ。義手である左手だったが、涙を拭ってから下ろす。

「ごめんな」

「もう、いいよ。生きててくれたから」

 彼はもう一度笑い、起き上がろうとする。しかし、その腕には力が入っておらずかなり震えている。そこに左手が差し出される。見たことのない人だったが、知らない感じはしなかった。イチハは戸惑いもせずにその手を掴んで立ち上がり、そのまま支えられる。すっとイチハの背中の鞘にレヴァンテインを収めている辺り、手馴れている。

「……私じゃなくて良いの?」

「お前も疲れてるだろ。無理はさせられないよ。それに、人の姿でもちょっとは道具として彼女――達がな」

「道具?……あー」

 一瞬何を言っているのかわからなかったが、一つになったアメムラ達ということだろう。こっちはこっちで女神様みたいになっていて綺麗なのは嫉妬してしまうが。

「後でちゃんと話すよ。今はここを出よう、主」

「そうしよう。出るまででいいから支えててくれ。……ていうかちょっと口調変わってるのは何で?」

 少しの間が空き、彼女が首をかしげる。呆れたというか諦めたというか、そんな感じのため息をつく彼。そんなちょっとしたことが、今はとても大切に思える。これがいつまでも続けば――。

 

 外に出ると、離れた位置ではあったが皆が待っていた。彼女の姿には驚いていたが、それよりも私たちが帰ってきたことのほうが大事らしい。すぐに全員で駆け寄ってくる。

 その時、後ろで鋭い息が聞こえ、足音がした。そちらを振り向こうとしたときには思い切り突き飛ばされていた。左手にあの剣を持ったイチハに。どうして、と思った時に、彼は地面に剣をつきたて、結界を張った。その後ろには――大量の、強い光を放つエンプネイスが。

 

 

 ごめん。

 

 

 微かに聞こえた、イチハの声。直後、一段と光を強めたエンプネイスによって結界の中が爆発によって見えなくなり、結界が消えて煙が晴れたとき、そこには地面に刺さった剣しか残っていなかった。

 つまり、エンプネイスの自爆を察知した彼は、言われても人として扱っていた彼女を意思に関係なく剣へと変えさせ――道具として扱って私たちを守った。その代償として、彼は――。

 私は絶叫した。何度も、何度も、彼の名を呼んだ。

 空からは、冷たい雨が降り、私の――私達の涙を隠した。




《カゲロウ・ソードワールド アナザーヒストリー》
次回<異世界にて>
新章始動。違う世界で、彼は出会う。
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