「あら、似合ってるじゃない」
「んー……そうかな?」
ある日の朝。拠点の玄関で待ち合わせをした。一番最初に来たのは私で、その次にレイナ。そのレイナが開口一番そんなことを口にする。全身に軽く目を通してから、
「それ、イチハに見せてあげれば良いのに。喜ぶわよ、表には出さなくても」
という。そこは表に出して欲しいところだ。……正直に出されすぎても困るけど。
私の服装は普段のものとは違い、白いリボンで髪を結わえ、肩から胸の部分が開き気味のブレザー、紫のスカート。足は太ももまでの丈がある黒い靴下に包まれている。ブレザーの間からは薄紫の肌着のように見えるシャツが覗いている。
この服、しかも一式で作ったのはミルキさんで、曰く「これを来て団長と歩けばかなり良い」らしい。どういう意味で良いのかはよく分からないが、「個人的な好みが入ってるんじゃないですか?」と聞くと目を泳がせていたので、半分くらいは彼の趣向だろう。しかし、話を聞いてみるとイチハとミルキさんはそういう系統の話も趣味が合うらしい。戦闘をする時の服――要は制服にあたるあの服だ――に採用するのはさすがに拒否したらしいが、普段着としてはかなり乗り気だったらしい。しかし、ここには人数がいないので、ここで量産する必要がないのが欠点……なのだろうか。その辺のことに関してはよく分からない。
「にしても、クロト遅いわね」
としびれを切らしたようにレイナが呟く。
「朝弱いほうだからねぇ、クロト……」
「……起こしてくる」
と言って、拠点内に戻ってから十分後。いつも通りの服装のクロトを連れて戻ってきた。予想通り、彼は眠そうにしていた。
「ふぁ……ごめん」
欠伸をかみ殺しながら謝るクロト。私が何か言おうとする前に、レイナが動いた。
「謝るくらいならさっさといこ。ほら」
クロトの手を掴み、強めに引っ張っていく。その微笑ましい光景の後につきながら、私は感じていた。胸のどこかが、戦闘や病気とは違う意味で、鈍く痛むのを。
道中の談笑に花を咲かせていると、不穏な気配を感じた。
それは二人も同じようで、自然と背中合わせで3方向を警戒する。と、私の目の前に大型の猪が現れる。確か名前は――
「カルニバル・ボア。しかも危険度最大のやつ」
と、私が思い出す前にクロトが言う。レイナは武器を持ってきていない。というのも、言ってしまえば槍自体が持ち歩きに適していないのだ。逆に、クロトの短剣は持ち運びに最も適していると言って良い。でも。
「私がいく。クロトはレイナを守って」
「……わかった」
持っていた籠と鞘をレイナに預け、今までの弓に変わる新たな愛剣、アクセラレート・フルーレを構える。細剣の中でも細い部類に入り、どちらかというと刺突に特化している。斬撃ができないわけではないが、そうすると刺突よりも剣が折れやすくなってしまう。理想は、一撃で、狙った場所を正確に、余計な動きを省きつつも最大限の威力を。
素早く近づき、関節部に突き込んで筋肉を断ち斬る。すぐ反転しもう一本の足の関節も突く。それだけで姿勢を崩し、倒れる。余裕を持って距離を取り、横から近づき、上気味に眼を突く。それだけでは死なない。が、それは想定済み。そこから剣を導線として魔法を唱える。低級火属性魔法<フラマーアロー>。内部で放たれた火の矢は、致命傷を与えるのにはそれで十分だった。呻いていたカルニバル・ボアは静かになり、そっと剣を抜く。
「綺麗だったわよ、マリカ。でも……うん」
言いたいことは分かる。最後の刺突で、少量ではあるが血を浴びてしまった。すぐに洗えば取れるだろうか。
「これは後で僕が報告しておくよ」
いつの間にかボアの死体の上に乗っていたクロトが、牙を落としながら言う。降りてきたのを確認し、目的の場所へと再度向かった。残りあと少しだったようで、2分ほどで着いた。
近くにあった川で服に付いた返り血を落とす。意外と残るかと思ったがそんなことはなく、ほとんど綺麗に落ちた。近くの木にかけて乾かしながら、食事を取る。
「最初にこういうのやろって言ったの誰だったっけ?」
と、唐突にレイナが口にする。過去の記憶を辿り、出てきたのは。
「……あなたよ、レイナ」
「あれ、そうだっけ?」
「うん。あなたが外でご飯食べたいって言い出して、イチハが3日くらいかけていい場所見つけてくれたんじゃない」
「……あー、そうだった」
「……前からこうやって食べてたの?」
私達の昔のことをあまり知らないクロトがそんな疑問を口にする。
「そうよ。二、三ヶ月に一回は行ってたかなぁ」
「そういう時って結構張り切ってたからね、イチハ。普段よりちょっと高い調味料使ったりしてたの」
知らなかった。意外と気付いてないことが多いらしい。なんとなく悔しくなってしまう。私でも知らなかったことを聞いたクロトは、ぽつりと呟く。
「食べたかったな……」
と。レイナと見合わせ、少し吹きだしてしまう。そして、レイナが安心させようとする。
「この後いくらでも食べられるわよ。別に死んじゃったわけでも、帰って来れないって決まったわけでもないんだから」
しかし、その何気ないような一言が、私たちにとっての悪魔を、再び目覚めさせるとは思っていなかった。その、悪魔の放った言葉が、私達の間で響いた。
「何?生きてんの、あいつ」
次回<執念>
白い少女は、自分の思いを露にする。