カゲロウ・ソードワールド   作:壱ノ瀬 葉月

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 小さくも恐ろしい者の口から発せられたのは。


第37話<執念>

 白髪で赤い瞳。小柄だが、全身から威圧感を放つ少女。しかし、あの時と――イチハがいたときとは違い殺気は感じない。

「ジャック……」

 クロトがかなり警戒した様子で呟き、すっと、私達とジャックの間に入る。

「あらら……兄さんに嫌われちゃった」

「前からだ。それより、まだ狙ってるの?イチハを」

「もう終わったと思ってたんだけどね。生きてるっていうなら、狙い続ける」

 当たり前、とでも言うかのようにあっさりと宣言する。軽く聞こえるが、かなりの執念を感じる。もう終わった、そう思っていたのを壊されても、すぐ次に移ろうとしているのだから。

 ふと思い至ったことを、彼女に問いかける。

「もしかして……あの場にいた?」

「いたよ。最後の虚無達、貴方達の言うエンプネイスを吹っかけたのは私」

 それはつまり、私達ごと殺そうとしたのではないか。そんな疑問が湧いた直後、彼女からほぼそのままの答えが来る。

「私は、彼さえ殺せれば他はどうでもいい。貴方達ごと死んでも、私には関係ない。私にとって、興味のない人の生死は状態でしかないから」

「じゃあ……その興味のない人を無意味に殺してきたって……そういうの?」

 ふつふつと湧き上がる怒りを抑えるように、静かに問う。しかし、次の言葉がそれを限界へと導いた。

「無意味じゃないよ。私が楽しいんだから」

 これまでの無関心というような無表情から、無邪気とも取れる笑顔を見せるジャック。

 無作為に剣を抜き、跳びかかる。かなり速い一撃のはずだった。しかし彼女は余裕を持って避ける。次も。次も。その次も。もしかしたら、私が当てないようにしているのではないか、と錯覚してしまうほどに。

 後ろに跳んで距離を取り、荒い息を整えながら構える。彼女は、余裕の笑みを浮かべながら言う。

「剣筋が素直すぎる。最近持ったばかりでしょ?あいつに助言受けたんだろうけど、貴方とあいつは根本的に違う。戦術も、武器もね。貴方はあいつにはなれないよ。それに……」

 姿が掻き消える。一体どこに。そして、背後から声。

「あいつに比べると感覚も圧倒的に鈍い」

 背中全体への衝撃と金属音が響く。視界に移ったのは、クロトが背中で私を押しながら、彼の短剣、アランダイトで彼女の攻撃を防いでいるところだった。クロトは反撃するがあと少しのところでかわされ、距離を取られる。右手の短剣を弄びながら、私の一番の弱点を指摘する。

「なんだかんだで、まだ恐怖が抜けてない。一人でそのザマじゃ、二人でも無理。あの時はマグレか、彼が合わせてくれたからって思ったほうがいいよ。じゃね」

 一度後ろに跳んでより距離を取ってから、かなりの速さで走り去る。左手で持っていた鞘に収めながら、襲ってくる無力感に、一人耐えていた。

 

 

 

「一応、主はちゃんと見つかった。けど……」

 と、帰ってきて少し経ってから、アメムラが口にする。言い淀むということは、あまり好ましくない状況なのだろうか。と思っていると、ヤサカが補足というか、説明をしてくれる。

「すぐに帰ってくる方法が、ちょっとなさそうでさ。一定の周期とある方法で世界渡れるらしいんだけど、それに気付けるかどうか。一番近い日で、こっち側の明後日かな」

「……その次は?」

「来月」

 微妙だ。一ヶ月とは、短そうで長い。その間いくつの事件に対応しなければいけないのだろうか。そしてその間、私達はどうすればいいのだろうか。

 

 ――いや、どうするかは私達で考えるんだ。

 いつまでも彼一人に頼りっきりというわけには行かない。今までどれだけ彼に負担をかけてしまったのかは分からない。この先どれだけ負担をかけるかも分からない。でも、それを軽くすることは今すぐでもできる。副団長は私なんだ。なら。

「しばらくは、私達だけで動く必要がある。何ができるか分からないけど、今のうちに探っておこうと思うの、ジャックのこと」

 レイナとアメムラ達が頷いて肯定を示す。が、すぐに疑問を問われる。

「でもさ、一体どっから調べようってのさ?」

「今、一番近くにいるでしょ?」

 クロトを見つめながら。意図せず、冷たくは無いが強制感のある声音で言う。

「あなたの妹、ジャックについて。知ってること全部教えて」




次回<情報収集>
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