「……わかった」
視線を伏せながら、クロトは言う。少し呼吸を整え、語り始めた。
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僕とジャックは、イチハと同じ村に生まれた。イチハがいたって知ったのはこっちに来て、実際に会ってからだけど。
僕たちの親は、暗殺を生業にしてて、教育にも力を入れてた。最初は二人一緒に教えられてたんだけど、そのうち僕だけになって、ジャックはいつも同じ友達と遊ぶようになった。そうやって別々にされても仲は良かったし、たまには友達とジャックと僕とで遊ばせてもらうこともあった。僕が5歳くらいの時には友達とは会わなくなって、ずっと外でぼうっとしてることが多くなった。時々、黒い靄と何かしてることもあった。多分、その頃からエンプネイスと関わるようになってたんだ。
その頃から村の何かがおかしくなってるのに気づいてた。前々から嫌気がさしてて、それが背中を押して、村の外の人に習いに行くっていうことにして逃げた。ちゃんと習いには行ったけど、正直技術に関しては教わることも、教えてくれることもなくて、常識だとかの知識を教わった。確かそれが8歳の時。
2年経って帰ってきたときには廃墟同然。死体は皆腐り始めてた。それを見たときは、やっぱり、っていうのが強かった。でも、ジャックはそうじゃなかったと思う。多分、なんで、どうしてって。イチハを殺そうとしてるのは、復讐だと思う。けど、村の皆の為ではない。それだけははっきり言える。
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「まとめずに話しちゃったからわからないところもあるだろうけど、大体そんなところ」
ざっくりとはしていたが、これまで厳しい生活だったというのが伝わってくる。イチハと同じ、もしくはそれ以上じゃないか、と勝手に思ってしまう。
その後の質問で彼の能力と、ジャックの能力の予想ができた。彼の能力は、エンプネイスを自らの体に宿す。だが、不完全なのか、自分が取り込まれてしまうらしい。対するジャックの能力は、エンプネイスを操る。先ほどの「吹っかけた」という言葉、彼が見ていたことからの予測。でも、大方当たりだと思っている。
このことに関しては、皆にはまだ黙っておいたほうが良いのだろうか。彼女の能力も、クロトの能力も。イチハがいない以上、判断するのは私になる。けど、その後の責任をとれるのだろうか。……きっとイチハに直接任せられた時には「心配するな。そうとうな無茶じゃない限りは、やりたいことをやってみろ」とでも言われるだろう。帰ってきたときも、「急にいなくなった俺が悪いんだ。よくやってくれたよ」と言う気がする。でもそれに甘えてるのはいけない。今は私が、私の力でやらないと意味がない。
しばらく悩み、クロトを見る。
「今の話は、イチハが帰ってきてから皆にしてほしい。少しの間嘘を吐くことになるけど、大丈夫?」
「その前から吐いてたも同然なんだ。ちょっと伸びるくらいは覚悟してた」
彼が辛いと感じているのか、当然の報いだと感じているのか、全く考えていないのかはわからない。あっている自信もない。でも、私はこうする。イチハとやり方が違ってもいい。私のやり方なのだから。人が違うならやり方も違う。それでいいと思う。
『ほんの少しだが、変わったみたいだな』
マナガルムがそんなことを言う。
『前は何というか、例えるなら親の後ろに隠れてついていく小鳥だった。だが今は巣から飛び立とうとしている』
成長している、ということだろうか。そう言われて悪い気はしない。今はまだイチハの真似だろうけど、いつか、もしかしたら私が指揮することになるのかもしれない。少しずつでも学んでいく必要がありそうだ。でも、イチハは?先にやってる人なんていなかった。行き当たりばったりなはずなのに、皆をここまでまとめて、こうしていなくなってしまっても維持できている。どれだけの苦労をしているのか。私にはまだわからない。
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寝台に身を投げだし、力を抜く。少しの間そうして、仰向けになる。さっき僕は、覚悟してたと言った。あれは半分嘘だ。今も、彼が帰ってきてから説明した後になんと言われるかに恐怖を感じている。彼自身が怖いわけじゃない。もし嫌われたら。お前はもういらないなんて言われたら。そんな恐怖。
少し前まで感じたことも、考えたこともない。ここの皆と関わって少しずつ変わってきているのだろう。人は変化を止められない。誰かがそう言っていた気がする。
「……考えても仕方ない、か」
そう呟き、瞼を閉じた。
次回<帰還>
彼は、異世界に別れを告げる。