「魔法を私に教えて!イチハ!」
「・・・え・・・は?え?」
急に魔法を教えてくれと言ってきたのはマリカだった。レイナなら魔法を使ったところを見たところがないのでまあ分かるのだが、マリカは魔法を使えるはず――。
「皆と一緒に戦いたいの」
「・・・あーなるほど。大体分かった。で、皆と戦うってのは?」
「皆は、ほら、前のほうで戦ってるでしょ?私みたいに後ろでちまちま回復したりじゃなくて。そうやって、魔法じゃなくて武器で戦いたい・・・かな」
「武器で戦いたい・・・か・・・」
魔術師が戦闘職に、逆に戦闘職が魔術師になるのは無理ではない。ただ、小さいころからやっていなければ、かなりの時間がかかる―と誰かが言っていた気がする。魔術師が選ぶのは片手武器系が多い。理由は片方で武器、もう片方で魔法を放てる便利さかららしい。両手武器でも放てることは放てるのだが、感覚が手で放つのとは大きく変わる。俺は二刀流でも普通に使えるが、そんな使わない。そもそも二刀流で魔法を使う場面に遭遇したことがない。
「・・・マリカは、遠距離攻撃の魔法が得意だったよな?」
「うん」
遠距離攻撃が得意ならそれを生かした武器がいい。となると――。
「・・・弓だな」
「弓?」
「ああ。遠距離攻撃の技術を応用できるし、矢は魔力で生成できるからな。当然魔力で作ったほうが本物より脆くなるけどな」
「なるほどね。でも私に使えるかな・・・」
「昔使ってたのがまだ残ってたはずだから、それ使って練習してみよう。使い方は教えるさ」
今は片手剣を愛用しているが、「とりあえず全部試してから」ということで両手剣や斧、槍を使っていたことがあった。その後片手剣で定着したので譲ったしたのだが、なぜか弓だけはそうせずに残していたのだ。
「じゃあ、よろしく」
「わかった。じゃあちょっと待っててくれ」
席を立ちつつそう言い、俺の部屋へ向かった。弓はその部屋にあるからだ。当然とっておくからにはと手入れをしていたのでまだまだ使える。まあ、使えなければそんな提案はしないのだが。サッととって戻り、マリカの前に弓を置いた。
「ちょっと立って、それ持ってみてくれ」
マリカはすぐに立って持ってくれた。
「重かったりしないか?」
「ん?大丈夫だよ?」
「じゃあ、それ、離すなよ?」
そういってから俺はマリカの傍により、とある呪文を唱えた。魔力展開型中サイズ魔法陣が腹の高さに展開し、詠唱すると足元に移動した。今から使うのは転移魔法で、意外と扱いが難しいため使おうとする術者はあまりいない術の一つだ。少し長めの詠唱を終え、発動すると目の前が青白い光につつまれ、いつも練習に使っている場所へ出た。魔導樹が全種類そろっている珍しい地形で、魔法の研究と個人的にこの地形を維持しようとここにきている。練習にも使っているが大抵は今立っているような広い平らな場所でやるし、爆発とかの破壊系魔法は使っていないので特に影響はない・・・と思っている。
「こんなところあったんだ・・・」
「俺も見たときはびっくりした。で、的はアレ。放つのはこっからな」
そういって指を指したのは人型の人形だった。動きはしないが、常に傷を直しているのでいくら攻撃しても元に戻る。あれはもちろん自分でおいたものだ。距離はおよそ200メートル。俺の使っていた弓ならとどく距離だ。
「・・・届くの?こっから」
「届く届く。うまくやらないとだけどな」
「でも使い方知らないよ?」
「だから今から教えるんだろ?」
そういってマリカに近づき、手首の辺りをやさしく持って動かしながら教えた。5分くらい経って説明が終わった。
「―――という感じだ。よし、じゃあやってみよう」
「きゅ、急に!?無理だよ・・・」
「大丈夫。最初だからいきなり当てろとは言わないさ」
そう言って少し離れる。目線で促しているとマリカもやってみようという気になったのか弓を構えた。不意にマリカの目が少しだけ緑に光った。あの色はマリカの能力である「遠視」のはずだが、今発動してどうなるのやら―――と思っていると不意に矢を放った。その矢は見事に人形の頭部に当たった。
「おおー、1回で当てるか。でもマリカ、さっきのは・・・」
「あれは《弾道予測》みたいなものかな。詠唱が必要ない魔法だから魔力もそんなに消費しないし」
「へえー・・・俺は今のところは無縁だな。まあ、習得しといて損はないか・・・」
「そうかもね。で、練習は・・・」
「ああ、やりたい時に声かけてくれればいつでもいいよ」
「やった!」
マリカの笑顔は何度見ても飽きない・・・と言うと変かもしれないが、いつでも見ていたい雰囲気があった。
「じゃあついでにもう一つ練習するか。魔力で弓と矢を作って、それを使うっていう・・・」
「無理!私そこまで器用じゃないもん!!」
「けど使えたほうが楽だ。矢がなくなっても弦が切れてもそれができれば続けられるし」
「む~~~・・・・・・」
「・・・・・・見せてやろうか?」
「・・・・・・うん」
人形のほうを向き、左手のひらを内側に向けて前に出す。そこから弓があることをイメージして手を軽く握る。弓のイメージに沿って魔力を集め、右手にも矢の形状を具現化する。ある程度実態ができたところで弓を引き、矢を放つ。弧を描いて心臓部にあたり、その部分だけが穴となる。もちろん時間が経てば直るがしばらくはあのままだろう。
「すごい・・・こんなの私にできるの?」
「できるできる。俺でさえ2週間かかったからどのくらいかかるかは見当もつかないけどな」
「イチハで2週間!?私にできるかなぁ・・・」
「慣れると簡単だよ。まずは感覚をつかむことからだな」
こうして俺とマリカは武器と魔力を駆使して戦う練習を続けた。まともにできるようになるのは3ヶ月経ったころだった。
そしてその時、世界全体に大きな異変をもたらす存在の活動が始まったことに、この頃からしばらく誰も気づかなかった。
第5話<不安定な者達>
謎の場所から迫る異変。その根源を追い求め立ち上がる3人。その場所にあるものとは・・・。