時は大戦。ルールなんてものが存在せず、神々が唯一の神を決めるために争いを繰り広げる時代。
彼らは戦う。無限に、無情に、無意味に。永遠に等しいその争いは多くの種族を巻き込み、終わりのない時を過ごしていた。
そんな時代に、無力で逃げることしかできない、ちっぽけな少年がいた。
彼の名前はリク。
リクは幼い頃に両親を失い、一人で生きていくことを強いられた。
リクは思う。こんなクソッタレな世界、生き延びて何になるのかと。
それは皆が思っていること。
その問いに答えられる者はいない。
それを考えさせないようにしたのは、他ならぬリク自身。
皆を生かし、自分も生き残るため。その一心で集落をまとめあげ、策を弄し、今日まで文字通り必死に生きてきた。
その代償は、心。
最小限の犠牲で乗り切るために、時には冷徹に指示を出す必要がある。
自分を偽り必要なことと割り切り、そうして屍の山を築き上げること四十八人。リクの心は段々と壊れていった。
そんな中、彼は一つの希望と出会う。
彼女の名前はシュヴィ。
リクがそう名付けた、機凱種の少女だ。
少女は思う。リクの『心』が知りたいと。
少女は問う。なんで『心』を閉じるのかと。
機凱種は心がない機械。本当に心がないかはともかく、ただ知りたいがゆえに質問する。それがリクの一番触れて欲しくない場所だと分からず。
出会いは最悪だった。
リクは答える。そうでもしないと生きていけないからと。
彼らの生きる世界は狂っていた。
正しく。正常に。理不尽に不条理だった。
赤く灼けた空、碧い黒灰が積もる大地、それが地平線の彼方まで続く光景。シュヴィからすれば人間が生きているのが異常なほどの、死んだ世界。
そんな世界だから。彼が壊れてしまうのに時間はいらなかった。
“永遠”に続く大戦。
比喩ではない。大戦がいつ始まったのか、もはやそれさえわからないのだから。
そして。
少女は答える。大戦の目的と、終結の条件を。
────────────────
子供の頃、世界はもっと単純だと思っていた。
勝てない勝負はなく、努力は報われるもので、全ては可能だと。
いつからだったか、本当にいるはずと信じてからは疑うことはしなかった。
正気を疑われようが、見えるものは仕方ない。
終始顔に不敵な笑みを浮かべた少年───シュヴィも信じると言ってくれた、ゲームの神に軽口で語りかける。
「なぁ……なんで、勝てねぇんだろうな……」
今まで一度として答えることのなかった少年にあえて問う。その行為に意味など無い。けれど少年にはそうする他いられなかった。
これは過去の記憶。一七九人の同胞が命以外の全てを棄て、シュヴィを喪って得たものは勝利でも、ましてや引き分けですら無い。少年に残されたのは僅かばかりの、世界の平和。
「今度こそ勝てると思った……シュヴィと二人、皆となら勝てると思ったんだ」
見る者が居れば、遂に気が触れたとしか思えない様子で、少年は虚空へと天を仰ぐ。
対面に座る少年───ゲームの神は応えない。今までと同じくただ笑みを消して、顔を伏せたような気がした。
そして時は流れ、大戦末期。
少年はそこから立ち上がり、劣勢を立て直した。シュヴィの願いに応えるように、託された遺志を果たすように。あまつさえ自分自身の手によって大戦を終わらせる。機凱種や天翼種、命ある多くの者の犠牲と引き換えに。
「……何、が、ステイル・メイトだクソが……これの──何処が引き分けだ───ッ」
その光景は数少ない、記録に残されている史実。遠い彼方から広がった光が紅い天も碧い地も白く染め上げ、天地の境を奪った。音もなく広がった光が止むと、一拍置いて空を舞う灰が宙に留まり、戦火は揺らめきを忘れ、あらゆる物は停止していた。
全ての生物、種族は無理解のままそれを眺めた。抵抗不可能、絶対的な命令に、森羅万象が呼応して世界が作り替えられていく様を。
ゲームの神はそれを
不毛で無為でくだらない、永き永き戦争を終わらせた事実。その偉業は、しかし少年にとって戦争と同じくらいどうしようもない程くだらないもので。
愛した者を喪った事実を、死なせてしまった己の不甲斐なさを、少年はただ呪うばかりだった。
「なぁシュヴィ、何が足りなかった、んだろう……なぁ」
「なぁシュヴィ、もし俺とおまえ、二人で一人だったら、さ……」
そんなもしもに意味は無いけど。募る後悔は肥大化し、朽ちた理想へと変わっていく。それでも少年は、思わずにはいられなかった。
────ああ。次こそ勝ちたいなシュヴィ、おまえと、二人で。
そうして意識が消えゆく中、対面でそれを見送るのはやっぱりゲームの神様で。少年が最後に放ったのは子供の頃から変わらない、ただ一つの願いだった。
「───なぁ、またゲームしようぜ……今度こそ、勝ってみせるから、さ……」
その神は何かを堪えるような神妙な面持ちでこちらを見ると、体を翻し。
帽子に隠れて顔の全体像こそ見えないものの、その口元だけは笑うよう、笑顔を浮かべ。
『
「待っているよ」
そう一言────…………
────────────────
「……ら……空!」
「……ん……?」
不意に隣から聞こえた声によって、意識が覚醒する。
ここはいったいどこだろうか。
そもそも自分は死んだはずではなかったのか。
「どうかしたのか?さっきからぼーっとして」
声のする方を見ると、顔も知らない男がいた。
背丈は自分より一メートルは離れていそうだ。
だが目視する限りでは、身長は自分とさほど変わらないくらいではないか。
「もしかして緊張してるのか?全く、そんなんじゃ
父さん、この男はそう言った。
自分に肉親は存在しない、いや、もういない。物心付いた時には、そういうものだと理解していた。
子供の頃、リクの故郷は機凱種によって壊滅させられてしまい、そこで生き長らえたのがリクただ一人である。
しかし今は、そんな思い出を懐かしむことより、この状況を整理するのが先だろう。
自らのことを自分の父親と言った彼なら、何か知っているはずだ。
「なぁ……ッ!」
声を発したことで、初めて自分の異常性に気がつく。奇妙な、異様なほど幼い声質。
突然の事態に驚愕して、呆然としてると、自分の体が目に入ってくる。
いつも見慣れたものとは程遠い、小さな手や腕。その姿は、明らかに成人した男性のそれではない。目の前にいるこの男との身長差だってそうだ。
体が縮んでいるのか?いや、あの声質からして子供に戻ったと言う方が近いだろう。
さらに周囲を見渡し、窓があることを確認すると、外へと視線を移す。
そこにあったのは灰が飛び交う汚れた空気などではなく、青く澄み渡った綺麗な色の空。そして、何十メートルもの高さでそびえ立つ巨大な建物。
どれも自分が生きてきた中で一度も見たとこのないような景色だ。
いや、果たしてこの状態を、まだ生きていると表現して良いものか。
「……い……おい!」
「……ッ!!」
「ほんとに大丈夫か?というか、何か聞こうとしてなかった?」
声に気づいて、視線を先程の男に戻す。
動揺の余り、自分でも気づかぬ程周りが見えていなかった。
そう思うと頭が冷え、だんだんと冷静になっていく。
一度深呼吸をして心を落ち着かせる。そして普段のようなポーカーフェイスで、いつもと変わらぬ口調で、重要なことから確認していく。
「えっと、ここはどこだ?」
「お前どうしたよ。もしかして寝ぼけてるのか?」
「いや大丈夫、それよりどうなんだ?」
「ん?ここはお前の部屋だよ。お前やっぱ寝ぼけてるだろ」
俺の部屋、そう言われて辺りを見回してみても、おおよそ見たことすらないような場所だ。
茶化すように巫山戯た答え方をしているが、この男の発言に嘘はないようにみえる。
だがこの際そんな悠長にはしていられない。
真偽を問うにしても、今の段階ではあまりにも情報が少なすぎるのだ。
今はこの言葉を信じるしか他にないだろう。
「じゃぁ外は、大戦は今どうなってるんだ?」
「大戦……?もしかして、戦争のこと言ってるのか。日本で戦争なんてしばらくしてないぞ。てかそんな言葉どこで覚えたんだよ」
一瞬、この男が何を言ってるのか本気で分からなかった。
戦争、なんだそれは。自分達がやってきたのは大戦じゃなかったのか。
大戦と聞いた時、彼はそんな物知らないと疑問を浮かべていた。
それに気になるのは“日本”という言葉。
文脈から察するにどこかの地名なのだろうが、聞いたことがない。
本当にここはあの世界の未来の姿なのだろうか。
……いや、違う。
考え方がそもそも間違っているのかもしれない。
異常なほどの思考によって、脳が焼き切れそうな勢いで頭痛が襲ってくるが、気にも止めない。
それは今思えば警告だったのだろう。
考えてはいけないと、気づいてはいけないと言っているように。
それでもなお思考を重ねた。
けして触れてはいけない、自分自身の心の内へ。
『ここはまさか別の世界なのか……?』
程なくして、一つの結論に至る。
そして分かってしまえば、頭の中を黒い
それが何なのか、リクには分からない。靄がかかったように、徐々に思考を支配していく。
過去への断罪か、
ふと、誰かが言うのが聞こえた気がした。
何人も死ねと命じ。
自分自身までもペテンにかけて。
敗者の分際で。
何故お前が。
お前に
「……っぁぁ!!」
それが誰の声か、それとも自分の内心か。
どちらでもいいが、裂けそうな喉で叫ぶ。
だが一度入ってきたものはそう簡単に消えてなくならない。
ただ生きて、生き延びて、何になるんだ。
『……煩い』
何も成しえない、何も守れない、何も持ち得ないお前に一体、何ができる。
『余計なお世話だ』
命を持ったまま、平和な場所でのうのうと、本当に良いと思ってるのか?
『……黙れよ』
ましてやシュヴィを失ったお前に
「黙れぇぇぇええ!!」
遂に完全に諦めてうなだれる。
シュヴィも側にいない、ゲームももう終わった。
なら、もう強がる必要はないだろう。
「────」
父親が何か言っているようだが、リクの耳にはもう届かない。
何を勘違いしてたか。ああそうだ、認めるよ。俺はまた負けたんだ。
こんな平和そのものの世界、自分には似合わない。
生きてる資格も、意味も、価値も、今となっては必要ないのだから。
結局一度も勝つことが出来ない人生───もう疲れた。
シュヴィは死んで……大戦も終わったことだ……いいだろ。
そしてもう一度しっかりと、かける。
────、──カチリ、と。
────────────────
「……ぃ……にぃ!」
「……ん?」
「にぃ、大丈夫?」
「……あぁ悪ぃ悪ぃ。 ちょっと昔のこと思い出してた」
「昔って?」
「いやなに、白に出会う前のことだよ」
「……」
「おい白、いくら興味ないからって、自分から聞いといて無視は流石に酷くないか。兄ちゃん泣いちゃうぞ?」
そんな会話を残し、ネットゲームに興じる。
空は一旦手を止めて物思いにふける。
『あれからもう十年以上経つのか……』
記憶を掘り起こしていた空だったが、その顔を少し曇らせる。
いつ振り替えっても、どれだけ後悔しても変えようのない過去。
もっとこうすれば良かった、なぜこうしなかった。
少し前の自分は毎日のようにそんなことを考えては悔やんでいた。
『それでも今は、白のおかげで多少変われた……のかな』
ちらりと妹を一瞥すると、視線に気づいた白が振り替えってきたので笑って誤魔化す。
白は不思議そうに首を傾げてたが、しばらくすると特に気にせずゲームへ意識を戻した。
「にぃ、サボってないで、集中して」
「はいはいちょっと待ってな」
『今のこの生活も悪くない、か……』
妹───白。十一歳・不登校・友達無し・いじめられっ子・対人恐怖症・ゲーム廃人。
転校したその日以来、家の外で着たことはない小学校のセーラー服を着用した、真っ白い髪の少女。
兄───空。現十八歳・無職・童貞・ゲーム廃人。
典型的引きこもりを思わせるジーパンTシャツ、ボサボサの黒い髪の青年。
精神年齢およそ三十六歳であり、別世界、もしくは前世とも呼べる記憶を保持している。
この二人こそまさしくゲーム内で噂される最強の存在。
『空と白』、即ち
『都市伝説』。
世に囁かれる星の数にも届くそれらは、一種の『願望』であり、『希望』であり、『夢』でしかない。
世界は混沌で、理不尽で。
目的も答えもないのに多くの者はそれを要求する。
出来ないことを棚に上げて出来ることを欲し。
意味の無いことに意味を見出そうと間違った努力の方向へと進む。
そんな自分に酔いしれ心酔し、その行為に価値を付けた結果生まれたのが『都市伝説』。
その意味に気づけた退屈してる者達に、少しだけ願いを叶えてあげる手伝いをする。果たして都市伝説は本当に迷信なのか、信用も信頼性もないどこから現れたかも不明な情報源を探さず断じるのは正しいのか。
その行為を再確認させるために、間違っているならそう気づかせるように。
こんな書き出しで、はじめてみようと思う。
『
処女作です。
小説書くことにあまり慣れてないから設定ガバガバなとこあるかもしれませんが、お付き合いよろしくお願いします!