旧き神話から新しき神話へ   作:うにゃりん

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ついに天翼種のあの娘が登場しますね(ゲス顔)



第拾壱話 大敵と不敵

 

 

 

 

 馬車に揺られること一時間ほど。

 エルキア都心からは少し離れた郊外、学舎と学寮と思しき敷地を抜けた先。

 そこに『国内エルキア大図書館』はあった。

 馬車を降りて、見上げた空の口をついて出たのは一言。

 

 

「……でっか……」

 

 

 第一印象は、ワシントンDCのアメリカ議会図書館。

 蔵書数一億冊を誇る、空達の元の世界最大の図書館だが、外観は勝るとも劣らない。

 エルキア王城に匹敵する優美かつ豪華な外観である。

 少し、今の人類種を再評価したくなる程度には素晴らしい図書館。

 素晴らしい図書館ではある、が。

 

 

「……それをあっさり……奪われ、てる件……」

 

「う、うぅ……」

 

 

 さらっと、リードを握った白の一言に、言葉なくただ頭を垂れるステフ(犬)。

 反論しようにも、事実であるため文句の一つも出てこない。

 むしろ自分でも思っていることだからか、考えれば考えるほど肯定しか出来なくなる。

 せめて空達に一矢報いたいのか、語気も荒く叫ぶ。

 

 

「そ、それよりっ!質問があるんですけど!」

 

「おう、なんだステフ」

 

「さっき、よくわからない他種族と戦うのはマズイと言ったじゃないですの。序列六位の天翼種(フリューゲル)なんて化け物とは、こんな無策に勝負してもいいんですのっ!?」

 

 

 ……もっともな疑問に思えるだろうか?

 だがあえて言おう。やはりこいつはステフだ、と。

 

 

「……いいんだよ」

 

「え?な、何ですの」

 

「あのな……しりとりで勝つのに、知識量とか関係ないから」

 

「え?」

 

「ま、いいから行くぞ」

 

 

 巨大な入り口の扉を開けて、図書館に踏み込む一同。

 そこには壁のみならず、重力に逆らって天井すら本棚にうめつくされた空間。

 無数の淡い光が空中に漂い、数十メートルはあるだろう聳えるような本棚。

 それらで構成された迷宮のように、幻想的な空間だった。

 

 

「すげ……すまん、ちょっと謝る。人類やるじゃん」

 

「……うん……」

 

 

 ここにある蔵書数を、想像するだけで空はめまいを覚え白さえ感動した。

 これだけの量の本を集めるのは、並大抵ではない。

 元の世界ですら、コレほどの蔵書数を抱えた図書館はそうないだろう。

 だがステフは申し訳なさそうに、言いづらそうな顔で。

 

 

「えー……残念ですけど、コレ、人類種(エルキア)が集めたものじゃないですわ」

 

「……はい?」

 

「乗っ取られたあと、ここまで増えたんだと思いますわ。その……学生時代来た時は、この百分の一も本棚がなかったですもの」

 

「……一瞬でも見直して損したよ」

 

 

 まあ、でも考えてみたら当たり前のことだった。

 重力に逆らい天井に立つ本棚を、人類種が作れるはずもない。

 気を取り直し本で整然と整えられた図書館を歩いていると、突然光がさした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこに()()はいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 直視することすら躊躇う、圧倒的な存在感をまとい、頭上には幾何学的な模様を描き廻る光輪。

 空力的に人を浮かせるには小さすぎる、淡く輝く羽を腰から生やした少女。

 長く流れるような髪は、風のない屋内にありながらもなびき、そのつどプリズムのように光を反射させ虹のように見せた。

 薄く開かれた眼に直視された瞬間、空はこの世界に戻ってはじめて『死』を感じた。

 視線に込められた、質量を帯びたような殺気。

 神々しいまでに美しい姿も、一撫でで絶命すると確信させる。

 逃げようが命乞いしようが、その一切が無意味と告げていた。

 

 神に創られた、神を殲滅し殲くす為の兵器。

 感情の乏しい白さえ、身をすくめて空の腕を掴む。

 ステフに至っては、床に座り込み歯を震わせなんとか泣き出すのを堪えていた。

 畏怖さえ覚えさせるソレは、空達の近くの書棚の上。

 音も重量感も感じさせることなく、降り立った。

 

 その姿を空は知っていた。

 大戦時、常に天翼種の中心に位置した存在。最強の神、戦神アルトシュの下で多くの天翼種を従え、鼓舞していた張本人。

 天翼種『最初番個体』。

 

 

「キミら、うちの図書館に何の用にゃ?」

 

 

 

 

 ───アズリール。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……語尾、にゃ……?」

 

「妹よ、たぶん突っ込んじゃいけないとこだぞそれ」

 

 

 隣でステフが気絶したのを横目に、脱力した空達は辛うじて、そう口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「え、えーと、まず自己紹介した方がいいかな。俺は」

 

「エルキアの新王と女王、じゃないにゃ?」

 

「……おや、話が早い」

 

「人類種達の新聞も一応読んでるからにゃ〜それくらい当然にゃ♪」

 

 

 幻想的な光と本体が織りなす、芸術のような図書館の一角。

 ステフは未だ気絶から立ち直らず、仕方ないので近くの床に転がす。

 お茶とお菓子が出され、テーブルを囲む空と白。そして天翼種の少女、アズリール。

 気を取り直し、なんとかペースを戻そうと先手を切った空。

 しかしアズリールに先回りされてしまい、言葉に詰まる。

 それを察したのかただ何となくか、仕切りなおした感じでおほんとアズリールが咳払い一つ。

 

 

「それで、キミら二人はどんな用件で来たにゃ?うちも暇じゃないから、ふざけた内容なら断るにゃ〜♪」

 

「……率直に行こう。この図書館をくれ」

 

 

 諦めて切り出すと、一瞬の沈黙がその場を包む。

 空の言葉に、ティーカップを持ち上げたアズリール。まさに女神を思わせる、その温和な翡翠色の瞳が僅かに閉じられ、鋭く空を捉えた。

 

 

「それは、()()()()()()()()()()()()()、と?」

 

「ああ、その通りだ」

 

「にゃは……でもこの図書館はうちが集めた本で埋め尽くされてるにゃ。知識をなにより尊ぶうちら天翼種にとって、その知識が詰まっている本、ひいてはそれが収められている書庫は命と等価と言えるほどのものにゃ〜───

 

 うちに()()()()()と申すからには、そっちは何を賭けるにゃ?」

 

 

 そう言ってお茶を口に含み、瞬間的に殺気が膨らむ。

 気絶してるはずのステフから、「ひぅ」とか細い声まであがる。

 しかし空、これに一歩も引くことなく、物の見事に動じない。

 それがただ“僅かな敵意”を示したにすぎないと理解するのに、時間はそうかからなかった。

 

 これまで幾度となく窮地に追い込まれ、死線を乗り越えてきた空にはこんなもの、危機感を覚えることすら必要ない。

 自分はもっと大きな敵意を知っている。

 もっと強く、鋭い殺気を体感している。

 この程度に臆していたら、あの世界は生きていけない。

 その経験が、実績が、空の言葉や行動に隙を見せまいと歯止めをかけ、思考をクリアにさせる。

 相手が挑発していると分かっているので、それに易々と乗るわけにはいかない。

 だからこそ平然と、いつもと同じように、普段通りの態度で淡々と告げる。

 

 

「『異世界の書』、計四万冊以上」

 

「ぶふ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」

 

「……きた、ない……」

 

「ああ……くそっ、タオル持ってくりゃ良かった」

 

「そ、それより、よ、よんまん……ほほ、本当なのかにゃ!?」

 

 

 盛大にお茶を吹き出し、せっかくの威厳が崩壊するアズリール。

 挙動不審にこちらへにじり寄って来るその態度に、若干の目眩を感じた空であった。

 タブPCを取り出し説明しようとすると、目を見開いて穴が空く勢いでアズリールはそれを凝視する。

 

 

「これ何にゃ?」

 

「この中に電子情報、ってわかるかな。四万冊分の『異世界の書』が入ってる」

 

「にゃ……っ!?」

 

「クイズゲームの勉強用に持ってたもんだが。百科事典、医学書に哲学書、科学に数学。俺らの元いた世界の、人の知りうる全ての、かなりの割合が入ってる」

 

 

 そう説明し一旦止めると、疑念の目を向けてアズリールが問う。

 

 

「……んー、キミは()()()()()()だと、言うつもりにゃ?」

 

「あ?えーと……まあそうなるのかな」

 

「嘘だにゃ」

 

 

 ドクン、と。一瞬、破裂してしまうのではと思うほど、空の心臓の鼓動が急激に早まる。

 かなり曖昧に返事したとはいえ、表情や仕草などに気を抜いたつもりは毛頭ない。

 そもそも異世界から来たことは事実だから、気づかれるはずもない。

 それを嘘だと断じる。まさかとは思うが、既にバレてしまってるのか。

 

 

「確かに、異世界からの召喚魔法とかは森精種共が得意にゃ。でも異界から生物を召喚するなら、この世界につなぎ止めておくための膨大な力が必要にゃ〜、異世界人なんてたとえ神霊種の力でも不可能にゃ」

 

「…………」

 

 

 いや、確かに言いたいことは理解できる。だがさすがに拍子抜けにも程がある。

 アズリールの指摘は出身、という部分ではなく異世界、を指したものだったのだろう。

 それを一人勝手に勘違いして内心焦っていたなんて、間抜けと言わずなんと言うか。

 

 

「……ステフ、いつまでもタヌキ寝入りしてないでちょっと答えて貰おう」

 

「う、うぅ……ば、バレてたんですの……?」

 

「話が随分違うじゃねぇか。異世界人は別に珍しくないんじゃなかったのか?」

 

「そ、そんな魔法の高位知識ないですもの……え、異世界人ってありえないんですの?」

 

 

 ……もう、ステフの話を基準にするのは止めることにしよう。

 そう決意した空、タブPCを目の前で操作して、書棚アプリを呼び出す。

 そして、電子書籍の一冊を開く。

 

 

「よく分かんねぇけど論より証拠だ、こいつを見ろ、読めるかどうか」

 

「何言ってるにゃ〜七〇〇以上の言語とその知識に通ずるうちに……うちの知らない言語、知らない世界の……百科事典……知識がこここんな、薄い板によよ……四万にゃは、にゃははは〜♪」

 

「で、どうよ。賭けの条件として」

 

 

 少し悩む素振りを見せながら、アズリールはさらりと答える。

 この一冊だけ人造言語で書かれたでっち上げという可能性もある。

 このタブPCの中の知識が全て事実だと証明しない限り。

 

 

「ま〜キミらが異世界の住人だと証明できるなら、だけどにゃ」

 

 

 当然、こうなる。だが。

 

 

「まあ、これだけじゃ足りないか。正直に言うが元の世界の人類の個体差すらよく把握してないから、こっちの奴らとの差異なんかなおのことサッパリだぞ」

 

「ならボディチェックするしかないにゃ」

 

「ふむ……場所による」

 

「性感帯にゃ」

 

「……ちなみに拒否権は?」

 

「嫌ならとっとと帰るにゃ♪」

 

「よしちょっと待ってろ……あの白さんどうしましょうか」

 

「……にぃ、グッド……ラック」

 

「なるほど兄ちゃんに死ねと申します?」

 

「諦め、て……」

 

 

 思わず逃げそうになる空に、しかし待ったがかかる。

 だが患者の体を診る医者のように、一切の他意なく淡々とアズリールは言う。

 

 

「この世界の生物は例外なく体内に精霊を、微量だけど宿してるにゃ。その有無、端的に言うと神経集中箇所を確認すれば、その種類を検知出来るけどにゃ?」

 

「くぅ……じゃ、じゃあ、下を脱がすのは禁止だ!それと、俺がマズイと思ったらすぐにでも止めてもらうからな!」

 

「にゃは〜、お易い御用にゃ♪」

 

 

 折衷案として空が条件を提示する。

 その後空は“乳首”を触られ、一人内心ホッとしてたのだが。

 その絵面に終始ステフと白がみつめる冷たい半眼を、空は冷や汗をかいて耐えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 服装を正して椅子に戻りおほんと、興奮していた顔を取り繕ろう。

 

 

「じゃあまず、勝手に程度の低い人類種(イマニティ)如きと同列視して名乗りもしなかった非礼、悪かったにゃ。うちはアズリール、よきにはからえにゃ♪」

 

 

 アズリールと名乗った天翼種の少女が、軽く一礼して手を振ってくる。

 知ってるんだけどな、と空は思いつつ乾いた笑みを浮かべた。

 

 

「……ステフ」

 

「あ、はい。なんですの?」

 

「……人類種の地位、いったいどんだけ低いの?」

 

「……控えめに言って、最低ですわね」

 

「ていうか、『言葉を喋る特技がある猿』程度の認識だにゃ♪普通の人類種には興味ないにゃ〜」

 

 

 一切の悪意なく、いい笑顔でそう言うアズリール。

 それまでのフレンドリーな態度で勘違いしそうになるが、やはりこいつも天翼種。

 自分達をひとまとめに下等生物として、何の疑問もなく、何の悪意もなく見下している。

 だからこいつらとは相容れないと思ってしまうのかもしれない。

 空は苛立ちを抑えるように握りこんだ手をしまい、平然を取り繕って疑問で答える。

 

 

「と、いうことは、俺らは人類種じゃないわけ?」

 

「いや、えっとだにゃ〜……キミらの体からは、一切の精霊が感じられないにゃ。つまり、キミらはこの世界に於いては『生命』とすら定義されないけど、構造上は確かに人類種ってことになるにゃ」

 

 

 精霊、という部分に一瞬反応する空。

 今この体に記憶が移されてるということは、同時に精霊も保有しているのではと危惧していたが、どうやらいらぬ心配だったようだ。

 だが実は、どっちにしろさして問題はなかった。

 かつてリクが幽霊として暗躍してた際、森精種随一のキレ者、シンク・二ルヴァレンと接触する為に致死量寸前の黒灰を飲み、体表に塗った。

 霊骸は体内外、全ての精霊を乱し、侵食、破壊する。

 わざと霊骸汚染されて体を乱し、識別不可能とまでなった精霊は、如何に優れた術者にもわかるものではない。

 故に空が精霊を宿してるとしても、アズリールがそれを感じることはなかったのだが、当の本人ですらその事実は知らないのであった。

 

 

「……じゃ、なに……?」

 

「“未知”だにゃ」

 

 

 話をよく理解できずそう呟いた白。

 それに答えるように瞳を爛々と輝かせて、アズリールはケラケラと話す。

 

 

「うちの知ってる程度以下の知識しかない猿なら話は別だったけど、それが異世界人だなんて、これは調べがいがあるにゃ〜!」

 

「まあ、いいけど、異世界人だって証明出来たってことでいいのか?」

 

「おっと、そうだったにゃ。じゃあゲームするって話だったけど、もちろん受けるにゃ〜、賭けるのは……何だったかにゃ?」

 

「……話聞いてなかったのか?」

 

 

 と、一瞬のラグをおいて返ってきた反応。

 思わずその場にいた空と白だけでなく、ステフすらずっこける。

 半眼で黙り込む空に、慌ててアズリールが言う。

 

 

「ご、ごめんにゃ……賭けるのは、『うちの全て』でどうにゃ!?」

 

「はいっ!?」

 

 

 図書館をよこせ、というだけの話からの飛躍にステフが声を上げる。

 空まで内心「………え、マジ?」と思う。

 図書館にある全てをよこせ、と要求して、天翼種本人まで頂く算段だったのだが。

 だが何やら予想以上の収穫が得られそうなので、黙って見ていることにした。

 

 

「た、足りないかにゃ。こうなったら国を丸ごと賭けれるようみんなに言って来て……」

 

「いや、そこまでする必要はない。俺が要求するのは“アズリール一人の全権”だ」

 

「え……そ、そんなもんでいいにゃっ!?」

 

 

 飛びつくように眼を輝かせてアズリールが迫る。

 

 

「勿論受けるにゃ!あ、あとうちが勝利したら時々でいいからお茶しに来て欲しいにゃ〜、もっと異世界のこと知りたいにゃ♪」

 

「まるでもう勝ったかのような言い分だな」

 

「にゃは、当然うちが勝つにゃ」

 

 

 なるほど、確実に勝てるから別に何を賭けてもいい、と。

 にっこりと微笑むアズリールに、空も笑って応じる。

 

 

「そ。じゃ、俺らが勝ったら、こっちも追加要求するが、いいな?」

 

「にゃはは〜どうせ無理だろうけど、好きにするといいにゃ」

 

 

 さて、想像以上にでかい穴があいた。

 そう、世界を獲る為のなかなかにでかい穴が。

 薄く笑う空の笑みに気づいていたのは、だが白だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゲームを行う場所、図書館の中央へ移動する一同。

 いかにもファンタジックな図書館の、本棚の迷路を抜けて歩く。

 道中、ふと疑問に思っていたことを空が口にする。

 

 

「なあ、なんでこの図書館を乗っ取ったんだ?たかが人類種の知識だろ?」

 

「ん〜うちの故郷、アヴァント・ヘイムは幻想種の背中にあるにゃ。食事を必要としないし、半永久を生きる天翼種(うちら)にとって、領土は本来どうでもいいものにゃ。でも何千年も知識集めをしてると、さすがに本を収納する場所に困るって問題になってにゃ」

 

「………はあ」

 

「そこで“本の重複をなくそう”っていう法案が十八翼議会(せいふ)で持ち上がったのにゃ」

 

 

 アズリールの口にした『十八翼議会』。

 確か八人の代表者と一人の全権代理者からなる、天翼種の『政府機関』だ。

 

 

「知識の共有っていう、相互に本を貸し借りすることを義務とする法案にゃ。なのにみんな猛然と反論して、議会は5:3で否決!法案は通らなかったにゃぁ……」

 

 

 ぐぐっと拳を握り熱く語り出すアズリール。

 不服そうに肩を落とし、しかも、と続ける。

 

 

「それを良いことに、みんな誰もうちに本を貸してくれなくなったにゃ〜……だから自分も本を持とうと飛び出したのにゃ」

 

「人類種の知識と知恵の中枢が、そんな理由で奪われたのか……」

 

「だ〜ってみんな酷いにゃ!そんくらい自分で調べろとか少しは本を集めて来いとか〜、何でみんな冷たいにゃ?全く……あ、ついたにゃ♪」

 

 

 図書館の中央。

 本棚に円周状に囲まれた、大きな円状のスペース。

 中央の円テーブルには複雑な幾何学模様が描かれ、一対の椅子が向かい合っていた。

 

 

「勝負の方法は知ってると思うけど『しりとり』……ただし、これを使うにゃ」

 

 

 円テーブルの上に、そっと手をかざすアズリール。

 テーブル上の幾何学模様が光を放ち、収束するように中心へ。

 無数の魔法陣が浮かび、対面する2つの椅子の前に、宙に浮いた水晶を出現させる。

 

 

「……これは?」

 

「『具象化しりとり』用のゲーム装置だにゃ」

 

 

 ほらほら早く座るにゃ、と急かす。

 促されるままに空が座り、アズリールがその対面に座る。

 

 

「天翼種は“戦闘種族”。通常のゲームは苦手で、加えて言えば興味もないにゃ」

 

「『十の盟約』があるのに?」

 

「いやあちまちましたゲームをしていると、どうしても『さっさとこいつの首を切り落としてしまえば早いのにまどろっこしいにゃぁ』と思って……こんな面倒なルール作ったあの小賢しいガキいつかファッ。おっと失礼♪」

 

「「「やだ、この“種”怖い」」」

 

 

 懐かしく楽しい思い出を振り返るように、爽やかな笑顔を浮かべて。

 にゃはは〜と可愛げに笑うアズリールに、顔をひきつらせる三人。

 ステフなんかは無意識に、自分の首をかばう。

 だがそれが本来、正しい反応。こんな化け物、『十の盟約』が無ければ目を合わせるどころかそれこそ、出会うだけでゲームオーバーだ。

 

 

「だけど天翼種同士でも諍いはあるにゃ~、その際使われるゲームがこれにゃ」

 

 

 宙に浮かぶ水晶に触れるアズリール。

 ルールは単純。言葉の語尾を頭につく言葉で繋げ、交互に言い合う。

『既出の言葉を口にする』『三十秒答えない』『継続不能』のいずれかで負け。

 本当にただの、しりとり。

 

 

「“知識の勝る者が勝つ”。知識収集を生業とする私達の解決法だにゃ♪」

 

「……ふむ、言葉は何語でもいいのか?」

 

「勿論、ただし実在しないもの、架空のもの、イメージがないものは具現化出来ないにゃ。デタラメな言葉や現象を口にしても“無効回答”になるから、注意にゃ」

 

「『継続不能』ってのは?」

 

「具象化しりとりだから、口にしたものが『その場にあれば消え』、『なければ出現する』。そういうルールでしりとりを行えばどうなるか……わかるにゃぁ?」

 

 

 ……なるほど。

 ゴリラと口にすればゴリラが現れるわけだ。

 予想していた通りとはいえ、なんとも面白そうなゲームだ。

 

 

「ちなみに俺が『女』って言ったら?」

 

うち(プレイヤー)以外の女性が消えることになるにゃ」

 

「世界の女全員が消えるわけじゃないのか」

 

「その点は大丈夫にゃ。言葉が具現化した、もしくは消滅した架空空間に一時的に移動するだけにゃ」

 

 

 だけ、の割には凄まじいことしているように思えるが。

 苦笑して、ともあれ、とアズリールが言う。

 

 

「プレイヤーに直接干渉して続行不能にすることは出来ないにゃ」

 

「プレイヤーに、だな?」

 

「にゃは」

 

「じゃあ白、こっちゃ来い来い」

 

 

 ちょこちょこ、ぽすっと、定位置。空の膝の上に座る白。

 その行為になんら疑問を抱かず、にっこりと、それこそ天使を思わせる笑顔でアズリールは構える。

 

 

「俺らはいつも通り二人でやる」

 

「もちろん、無力な猿の身で、死なない程度に楽しませてもらうにゃ♪」

 

「……へっ!?ちょ、え、死ぬんですの!?」

 

「ゲーム中に起こった事は現実には反映されない。終了すれば元通りにゃ♪」

 

「いや、冷静に考えたら私、この場にいる必要なくないですの!?一方的に危ないだけ───」

 

 

 やっと理解した様子のステフ、狼狽して叫ぶ。

 だがステフは眼中にないらしく、アズリールは隣に浮く水晶に手をかざす。

 それに倣うように空と白も、自分の隣の水晶に手をかざし、応じる。

 

 

「それじゃ」

 

「ああ───ゲームをはじめよう」

 

「……かかって、くるの……」

 

「話を聞きなさいなああああああああああっ!」

 

「……ステフ、おす、わり……」

 

「ぎゃ〜逃げられなくさせられたぁッ!もういやですわぁああ〜ッ!」

 

 

 盟約が働き、ステフは忠犬らしくぺたりとおすわりさせられる。

 魔法陣が広がり、円状の空間を覆い尽くすように広がる。

 おそらく、この瞬間元の世界からは隔絶された別の空間に移動したのだろう。

 即ち、ゲームがはじまったことを意味した。

 

 

 

 

 




わからない人のために説明すると、今回出た天翼種は原作5巻に登場するアズリール先輩、自称ジブリールの姉。
映画にも少しだけ登場しましたし、何ならアニメ最終話のラストにイラストだけは出てました。

ジブリールは出ません。アズリール出したかったんだ、許せ。
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