旧き神話から新しき神話へ   作:うにゃりん

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お待たせいたしました、ようやく具象化しりとり開幕です。
どうにか1話で纏めようとした結果かなり文字数が増えてしまい、おそらく過去最長です。
ではどうぞ、ツッコミどころ満載だと思いますが。



第拾弐話 宿敵と強敵

 

 

 

 

「さて、それじゃ先攻は譲ってやるにゃ。好きな言葉を言うにゃ♪」

 

「ふむ。そうだなぁ……じゃぁ手始めに……『水……いや、『精霊回廊』」

 

 

 ケータイをいじって、空が水晶に手を乗せて口にする。

 人間には感知出来ない、だが魔法を使える全ての種族のその源が消滅する。

 白は心配するように、その言葉に疑問を抱く。

 

 空が初めに言おうとした言葉は、『水爆』。異世界の知識で知り得る限りの最強の攻撃。それを初手に使う意味は即ち、自爆同然の相打ち狙い。

 だが空はそんな白の手をしっかりと握りしめ、落ち着かせる。

 

 ただの天翼種相手であれば、それでも良かっただろう。こちらが一手目に自爆しようと、それを全力で阻止しに来るのは目に見えてる。だがアズリールの表情を見て、その考えを改めた。

 まぁ所詮、()()()()()()()ではこの化け物に傷一つ付けられなかっただろうが。

 

 

「これはまた、いきなりだにゃ〜」

 

「魔法が使えちゃ、どんなイカサマされるか分かったもんじゃないしな。それともなに、不都合?」

 

 

 へらへらと笑って言う空の顔に、白が危惧するような色はなかった。

 安堵する白。そしてアズリールは、少し落ち着かない様子でそわそわする。

 

 

「にゃぁ……多少は動きづらいけど、しりとりでは必要ないにゃ。ま、ちょっと……落ち着かないにゃ」

 

「ああ……ケータイの電波が立たなくなった時みたいな感覚か」

 

「ケータイってなんにゃっ!?さっきの薄い箱と関係がっ!?」

 

「近い近い顔近いっ!俺に勝ったら教えてやるよ」

 

「……にぃ、この人」

 

「ああ、なんか一周回って面白く思えて来たな。ってアズリール早く次」

 

「はっ!そ、そうにゃ。じゃあ無難に『馬』で」

 

 

 瞬間、部屋に一匹の馬が出現する。

 ブルルル……と至近距離で唇を鳴らされ、ステフはずさっと下がる。

 だが特に気にせず、空も続ける。

 

 

「なら『魔法』っと」

 

 

 アズリールは意味がわからなかったのか疑問符を浮かべる。

 必要のない行為に思えるだろうか?だが人類種の空達にとっては、不可欠な言葉。

 即ち、ゲーム開始前からこの架空空間に魔法でイカサマを施されてた可能性。

 その場合感知すら出来ないこちらの勝ちの目は、低いどころの話ではなくなる。

 

 

「ずいぶんと慎重だにゃ〜……ん〜もう、うちもわざわざそこまでそこまでしないにゃ」

 

「まあ一応、な」

 

「……にゃは、面白いこと考えるにゃ〜。でもあんまりうちを飽きさせないでくれにゃ?『牛』」

 

「安心しろ、飽きさせはしないさ。『始祖鳥』」

 

「にゃ〜なら、うちを楽しませろにゃ!『兎』」

 

「ほう、それがいつまで続くかな。『ギフチョウ』」

 

 

 間髪をおかず、互いに言葉を返してく。

 しかしアズリールの顔が一瞬、笑顔のまま固まる。

 

 

「……にぃ、マニアック……すぎ……」

 

「い、いいだろ他に思いつかなかったんだから」

 

 

 振り返る白にたじろぐ空。

 そのまま目配せするように、二人は回答者の役目を交代した。

 

 

「ぐぬぬ……『ウグイス』」

 

「じゃあ……『水牛』で」

 

「にゃっ!?『ウォンバット』」

 

「……『闘牛』……にぃ、どうした?」

 

「白、逆におまえはなんで牛ばっかだ」

 

「ちょ、ちょっと空!白!こいつら、どとどうするんですのぉぉぉ!?」

 

 

 ふと声がした方を見ると、今まで召喚した生物に追い回されるステフ。

 しかも悲しいことに、牛と水牛と闘牛は別物のイメージだったらしい。

 3頭の牛に囲まれ涙目になるステフに、もはや軽く同情すら覚える。

 

 

「もういやですわぁああ!!」

 

「んーもううるさいにゃ〜『有象無象』っと」

 

 

 ステフを追い回していた生物達が消滅する。

 し、死ぬかと思いましたわ、と言いながら倒れ込み肩で息をするステフ。

 しかしそれを口にしたということは何を意味するか、アズリールはその時気がついていなかった。

 

 

「……逃げ、た……?」

 

「にゃっ!?ま、待つにゃ!今のはちょっと黙らせようと────」

 

「言い訳がましいぞ。別にルール決めて始めたわけじゃないんだ、諦めろ」

 

「にゃあぁぁ〜〜〜〜〜ッ!!」

 

 

 えっ、とわけがわからず首を傾げるステフ。

 空達とアズリールの間で交わされた、動物縛り。ゲームの勝敗とは全く関係ないが、お互いの知識量と勝負強さを推し量るには十分だった。

 しかしアズリールは逃げる形で、それも無意識で別の言葉を選んでしまった。ゲームを続けていく上でこれ以上の屈辱はないだろう。

 だがそんなこと知らないステフは、突っ込むように叫ぶ。

 

 

「どうでもいいけど、なんで私が巻き込まれないとならないんですのよ!」

 

「すまんすまん……んじゃ『海』っと、どうだ?」

 

 

 突然、燦々と太陽が照らすリゾートビーチのような場所へと景色が変わる。

 美しい白い砂と複雑な岩、ブルーを超えて瑠璃色にすら見える輝くような砂浜。

 元の世界で気に入った景色。行ったことはないためあくまで写真で知ったものだが。

 

 

「うぅ……まあ付き合ってやるにゃ。『水着』」

 

 

 瞬間具現化した言葉に、全員が水着姿になる。

 なる、が。

 

 

「アズリール、おまえここから水着だけ残して服を消す言葉の難しさがわからんのか」

 

「にゃっ!?ダメだったかにゃ!?」

 

 

 そう、水着は確かにみんな着用した。

 服の下に、だが。

 水着を着るイメージは、イコール着替えるイメージではない。当然今まさに着ている服は消えず、そのままの状態で残る。

 

 

「あ、あなたがたねぇっ!ふざけないで真面目にやろうって気はないんですのっ!?」

 

「落ち着けって、心配しなくともおまえが思うようなことにはならねぇよ。『逆光』」

 

 

 抗議するステフを軽くあしらって、空は続ける。

 もちろん本人達にふざけてる気は全くないのだが、彼らの普通はステフに当てはまらなかったようだ。

 アズリールもまた、真剣な眼差しでステフを凝視する。しかし頭の中は、どう遊んでやろうかというものばかり。こちらは完全にふざける気しかないらしい。

 すると何かに気付いたアズリールが、あっと気の抜けた声を出すと。

 

 

「つまり水着が残ればいいにゃ?『上着』でどうにゃ」

 

 

 瞬間、言葉が具現化し、その場に存在するものを消す。

 即ち、全員の下着を含めた服が消滅し、その更に下に着用していた水着のみが残る。

 

 

「よーしアズリールッ!今度は合格だぞっ!」

 

「……アズリール、オメガ、ぐっじょぶ」

 

「あ、あなた方何がしたいんですのよ……」

 

 

 呆れたようにステフがそう呟いた。

 親指を立ててこの状況を絶賛する兄妹に、軽く目眩を覚える。

 アズリールを倒す算段でもあるのかと、期待した自分が馬鹿だったとばかりに頭を抱える。

 

 

「何って、海といえば水着だろ?ほれ今はこの状況を楽しめって」

 

「……ポロリしても、逆光……問題、ない」

 

「そんな心配してませんわよっ! あああもう!」

 

 

 ステフの叫びを他所に、ゲームは進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、更に数時間の時が流れる。

 そこは既に言葉では言い表せない空間だった。

 ジャングルのような原生林の中に、モアイとピラミッドが立ち並ぶ。

 その中央には、テンガロンハットをかぶってカレーをむさぼる空と、その膝の上で猫耳とマフラーをつけてお菓子をむさぼる白。

 そして、椅子の上で腹を抱えてはしゃぐアズリール。

 

 

「んじゃ〜次は『バッファロー』にゃ」

 

 

 アズリールによってブモォーと鼻息を荒くして現れると、すぐさまステフに向かって突進していく。

 泣き叫びながら逃げ回るステフを眺めるアズリールは、まさに面白い玩具を見つけた子供のような笑顔で楽しんでいた。

 

 

「あんましステフのこといじめてやるなって。『落とし穴』」

 

 

 はあ、とため息をついて、空は先ほどからもう何度目かもわからないフォローを入れる。

 地面にぽっかりできた大きな落とし穴へ、バッファローが吸い込まれるように落ちてゆく。

 だが空の注意など全く聞いてない様子でアズリール。

 

 

「だってあれ、期待通りの反応するから面白いにゃ♪『薙刀』」

 

「フォローするこっちの身にもなれっつの、てか刃物はさすがに洒落にならん。『大破』」

 

 

 にゃはは〜ときちんと話を聞いてるのか疑いたくなる笑顔で、ステフへ向けて薙刀を投下するのを、空が壊し阻止する。

 アズリールがステフを狙うのは、特に理由があるわけでもなく、ただの暇つぶしでしかない。

 いや狙うという表現なぞ、烏滸がましい。

 そこにいたから。

 要はその程度の認識しかないのだ、天翼種にとって自分たち人類種は。

 

 

「嫌ならわざと負けてもいいにゃ〜?でもどうせ退屈だし、何日でも、何ヶ月でも付き合ってもらうにゃ♪」

 

 

 そう、さわやかに言ったアズリール。

 しかし本当にそうするつもりだとわかる、底冷えするような言葉に、絶望以外の何も汲み取れなかったステフ。

 もちろん今の言葉だって、アズリールにとっては挑発したつもりですらないだろう。

 ただの事実を、思いの馳せを淡々と述べたにすぎない。

 それを十分に理解しているからこそ、空は内心舌打ちをする。

 

 こんな奴らでも大戦時は死んでほしくないと思った。

 人間を滅ぼすものでさえ、誰であろうとそうであってほしいと願った。

 しかし結果的にそれは叶わなかった。他ならぬ自分自身がそうさせてしまった。

 そんな昔のことと断じてしまうのは簡単だが、それでも空は今でも考えている。

 だからもう同じことは繰り返さない。そこに迷いはない。そのためにすべきことがある。

 空は挑発的な態度で、だが変わらずのんきに答える。

 

 

「悪いが俺らそんなに暇じゃねぇんだ、使い手のない道具にいつまでも付き合う気はねぇよ」

 

 

 その一言にピクリと、反応するアズリール。

 

 

「……もしかして、喧嘩売ってるつもりにゃ?」

 

 

 かかった、と内心空がほくそ笑む。

 

 

「喧嘩って言葉もっかい辞書で調べてこい。喧嘩ってのは、同レベルの奴がやるもんだぞ」

 

「へぇ……自覚があるのは感心にゃ」

 

 

 そう呟くアズリールの目には、初対面の時向けられた殺気があった。

 アズリールがその気になればいつだって空達を『続行不能』に出来る。

 そうしてないのは、ひとえに遊び。軽い気まぐれであり、知識を得るためでしかないのだ。

 だが空はそんなアズリールをなおも嘲笑うように。

 

 

()()ってのは、力の有る無しじゃない。何もできないってことだろ。例えば───

 戦うしか能がないのに暴力を禁止されちゃったやつらとかさ?それはさぞ楽しい永遠とお察しするよ」

 

「……そんなに戦いたいなら別に、応えてあげてもいいにゃ?『発火』」

 

 

 そして水晶に手をかざして、超然と空達に言い放つ。

 瞬間、空達が囲うテーブルの周辺が火の海へと変わる。

 当然アズリールはそんなもの気にもとめないレベルだが。

 

 

「人類種じゃこの程度でも致命傷になりうるにゃ?」

 

「……にぃ」

 

「くっ……俺から離れるなよ白」

 

「異世界人と言っても所詮人類種。猿知恵じゃ、うちには勝てないにゃ〜」

 

 

 空が見たアズリールの顔。そこにあったのは友好的なものではなく、知識上の天翼種。アズリールはその態度とは裏腹に空達を信用も評価も一切していなかった。

 興味深い本に対して抱く程度の感情と同等であり、つまり好奇心にすぎない。

 だがアズリールの天真爛漫な笑みをじっと観察し、その表情の裏に気付くと空は失望混じりに呟く。

 

 

「アズリール、おまえは何にそんな怯えてる」

 

「うちが……怯えてる?」

 

 

 突然向けられた言葉に、アズリールが顔をしかめる。

 たかが人類種が何を言いだすかと思えば。

 アズリールには分からない。

 それを説明するように、空は納得がいったのか口元を振るわせつつ語りかける。

 

 

「なるほど、だからいつまでたっても変わってねぇんだよ鳥頭」

 

「にゃはは〜キミら、うちの何がわかるってのかにゃ?」

 

「いんや何もわからねぇよ。何も理解出来んし、する気もない。けど正直見てられないから、教えてやるよ」

 

 

 何を、と疑問符を浮かべるアズリールは知らない。

 自分が何と戦っていたのか。

 自分が誰を相手にしていたのか。

 目の前にいるこの男がどういう存在なのか。

 

 

「すまん、行くぞ白っ!」

 

「……ん、わかっ、た……」

 

 

 空は白の手をより強く握りしめ、走り出す。

 

 

 

 

 

「さぁて、ラストの大博打だ。『()()』」

 

 

 

 

 

 瞬間、視界が暗転する。

 空がイメージしたもの。それは元の世界にいた時のものではなく、遠い記憶。

 6000年以上前の古の大戦のとある廃墟。

 シュヴィと共に訪れた、壊滅した森精種の廃都。

 木を編んだ独特な建物は軒並み崩れ、醜く焼け焦げた痕が今も残っていたが、その廃墟は色鮮やかな草花に覆い隠され、さながら雅な庭園のよう。

 だがそれは、あくまで廃墟の中の話。

 

 

「たとえ天翼種でも、この嵐は応えるだろ?」

 

 

 言葉を叫ぶ直前、なぜ空達が走り出したのか。

 アズリールと距離を取ったのか、その答えがこの事態。

 降灰量の増えた黒灰が互いに反応しあい、碧い光の渦となる現象。通称“死の嵐”。

 これに遭遇すれば、どう対処しても灰に含まれた霊骸が防護服すら貫通して汚染される。

 空のイメージによって二人は廃墟内に身を潜めたが、距離が離れているアズリールはその外。もろに死の嵐が直撃した。

 

 

「くっ……『黒灰(こくはい)』」

 

 

 すかさずアズリールは対処にあたる。だがそこまでは想定の範囲内だった空。

 

 

「……『(いくさ)』っ」

 

 

 その言葉で具現化されるのは、森精種同盟と地精種同盟の艦隊。

 そのイメージは、アルトシュ陣営を包囲展開し睨み合っていた連合艦隊が互いの切り札である『虚空第零加護(アーカ・シ・アンセ)』と『髄爆(ずいばく)』を警戒した膠着状態。全勢力の全面衝突、最終決戦の直前。

 そして空はあえて、アルトシュ陣営をイメージしていない。

 イメージなど不要。何せ天翼種はこの場にただ一人、いるのだから。

 

 敵は森精種と地精種の全戦力なのに対し、その矛先はアズリールのみへと向けられる。魔法を封じられた上に、守ってくれる味方も存在しない。

 このまま時間が経過すれば、アズリールがやられることは明白。

 

 

「たしかに、これをまともに受ければうちもただじゃすまないにゃ。けど」

 

 

 だがなおも無駄なことを続ける空達をあざ笑うようにアズリール。

 森精種と地精種。自分一人ではさすがに脅威となりうるが、それだけでは足りない。

 すぐにでも攻撃を開始させるには、あと一種族が必要不可欠。引き金がこの場にはいないことを、空は失念していた。

 撃つまでに時間を与えてしまえば、やることは一つ。

 

 

「殺られる前に殺るだけにゃ!『最終番個体(さいしゅうばんこたい)』」

 

 

 ゾクッと。

 空は心臓を掴まれたような錯覚に陥る。

 

 状況は把握不能、だがそれは想定以上の最悪な状況だということだ。

 疑問に優先順位を設定───何が起きた、何が起きてる、何が起きる、以上だ。

 まずは心の『鍵』を確認。……大丈夫。意味不明でもかかってる、辛うじて。

 ならこの状況を一秒、いや万分の一秒でも速く把握しろ。じゃないと何をされても、詰む。

 最悪と告げる内心を抑え付け空は苦虫を噛み潰したような顔でそれを見る。

 

 

「おやぁ?ここはどちらでしょう?」

 

 

 天翼種───最終番個体『ジブリール』。

 

 

 

 

 

 違う。

 違う、違う違う違う混乱してる思考が空転して噴出する疑問が待て待て、落ち着け!

 焦りに内心毒づく。今は悩んでる場合じゃない。

 

 ふぅ、と息を吐いて落ち着かせようと自分に言い聞かせる。

 そして、全て予定調和だったように不遜、不敵、余裕に満ちた顔をする空。

 そこから誰が察することが出来るだろう。

 今まさに、心臓が破裂する勢いで脈打ち、思考を総動員させているなどと。

 

 

「っ……ジブちゃん、あいつらにゃ!」

 

「アズリール先輩?それと、人類種ですか……?」

 

 

 アズリールがまんまと罠にかかったと見るや、即座に言葉を紡ぐ。

 

 

「『忌敵(いみがたき)』」

 

 

 ただ言うだけでは意味が無い、その言葉はジブリールがこちらを認識しなければ使えなかった。

 瞬間、言葉の対象となったジブリールが、この場から消え去る。

 その起きた事実に、アズリールは驚きを隠せない。

 が、何かを企むよう笑い、意趣返しのように。

 

 

「にゃは……『強敵(きょうてき)』」

 

 

 眼前に迫る森精種と地精種を、その一言で消し去る。

 狙いが不発に終わるも、それでも諦めない表情で勝利を得ようともがく。

 それに続けて、空。

 

 

「『機械(きかい)』」

 

 

 現れたのは、実に四八〇七機の機凱種。

 それは膠着状態から攻撃の引き金になり、さらに星を穿つ一撃を模倣するため投入された全機。

 アルトシュを殺したその力の全てが来る。

 そこまでの理解に至ったアズリール。だがそう易々と倒される気はない。

 

 

「『生贄(いけにえ)』」

 

 

 機凱種の在り方。大戦時の行動があったからこそ出たその言葉で、五機を残した機凱種が消滅。

 そう五機は残った。だがたったそれだけがなんだと言うのか。単独では大した威力も出せない故に、囲まれるという心配もない。

 神に創られ、神を殺す為創られた戦闘種族。天翼種をその程度でどうにかできると思えたなら、まさしく白痴の極み。

 

 

「……満足かにゃ?そうやってせいぜい、無駄な足掻きを続けるにゃ」

 

 

 何を出そうとアズリールには効かない。それどころか何をしようにもそもそも消されてしまう。

 意地を張り、知恵を巡らせ、工夫を凝らし、死力を尽くしてなお足りない。

 人類種が天翼種に勝つことなど、できない。

 人が天に届く道理などなく、それは覆らぬ不変のルールだと。

 それを再認識した空達がどんな表情をしてるのか、アズリールが目を凝らすとそこに絶望にまみれた顔はなく。

 

 

「いや、これで充分だ」

 

 

 絶望的状況など何処吹く風か、不敵に笑う空。

 この具象化しりとり。基本的には普通のしりとりとルールは変わらないが、敗北に関するものでただ一点。即ち、『言葉の語尾に“ん”を付けてはならない』という縛りは存在しない。だが“ん”の言い合いになっては知識量的にこちらが不利。

 それは空が保有する知識の中でもトップクラスの、自爆にもならない本当の切り札。彼女を倒すならこれだと初めから決めていた。

 

 意識を逸らし相手を少しずつ誘導しながら、空は待っていた。この状況が揃うことを。この言葉が来ることを。

 

 

 人類種には特殊な能力も魔法もない。

 だからこそ知識を武器に戦っていける。

 何ももって生まれぬ故に、何者にもなれる、最弱の種族。

 

 天翼種と人類種との間に立ちはだかる、絶望的なまでの性能差。果てしなく高い壁。

 だが、無限ではないその壁を。

 

 今、最弱の種(じんるい)が超える。

 

 

 

 

 

 ────借りるぞシュヴィ、()()()()()!!

 

 

 

 

 

「【典開(レーゼン)】───『偽典・焉龍哮(エンダーポクリフェン)』───ッ」

 

 

 

 

 

 突如、空の手元へ光が集束していく。それは星の形を変える程の力。

 【十六種族(イクシード)】位階序列十位『機凱種(エクスマキナ)』。その特殊な性質で受けた攻撃を秒未満で解析し、即座に同党の武装を設計する。

 龍精種(ドラゴニア)の王にあたる『焉龍』アランレイヴが自己崩壊を代償にして放つ咆哮、『崩哮(ファークライ)』。この力はそれを模倣・再現した攻撃であり、シュヴィが有した最大火力。

 碧い爆光が地殻を抉り取り瞬間的に蒸発、赤く気化した大地に小規模な地殻津波を引き起こし、数千度に達する超高熱の土砂を瞬時に成層圏まで届かせる。

 たとえ再現元の龍精種であろうと、直撃を受ければ無事では済まない一撃。

 忘れてはならないその一撃は、あの天翼種(ジブリール)にさえ防護魔法を展開させたのだと。

 

 

 ────その至近距離からの全力投射。魔法も使えないその状態で耐えられるなら耐えてみろよ天翼種。

 

 

 集束した光。精霊はただ一点、アズリールへと向けられる。

 天翼種の本能が、叫んでいた。

 その“力”、全てを焼き尽くす光の嵐が襲って来る。

 砲口から噴かれた迫り来る光にアズリールは眼を剥き、そしてそれは背後からも感じる。

 振り向けばそこには空と同じ、いや本来の構えを取ってこちらを狙う機凱種。そう、先ほど残った機凱種達。

 

 

(───囲まれた───そんなわけが───今度は避けれな───)

 

 

 精霊回廊を失い魔法を封じられた彼女に、それを防ぐ手立てはもはや残っておらず。

 また死の嵐をくらった体では、その攻撃を耐えることは不可能。

 もはやアズリールに、勝利への道は残されていなかった。

 

 信じられないと言わんばかりに驚くアズリールだが、それも無理もない。

 序列が絶対的なものであるこの世界で。

 戦いが禁じられ、ゲームで全てが決まるこの世界で。

 序列で十も己を下回る“人類種を相手”に、よもや殺されるなど。

 そんな微塵も、考えてすらいなかったことを受け止められるはずがない。

 

 驚愕するアズリールに『偽典・焉龍哮(エンダーポクリフェン)』が直撃する。

 だがその事実を認めようとしないアズリールは最後まで諦めず、抵抗しようともがく。それはただの悪足掻きにしかならないものの、そうさせるのは彼女の天翼種としての矜恃故にだろう。

 そして程なくして光に妬かれ、その意識を白く染めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……死にましたわ」

 

「おう。もしかしなくても発火と死の嵐か」

 

「いいですの!?もう一度言いますわね!?死にましたわ!死ぬかと思いましたわ、ではなく死にましたわっ!大事なことなので三回も言いましたわぁっ!?」

 

「でも生きてる。『死ななきゃ安い(しなやす)』って言葉が格ゲーにはあってだな?」

 

「だから、死んだんですのよッ!!」

 

 

 もう我慢の限界だった。

 今という今こそこの男にあらん限りの怒りを解き放つ時が来た。

 空の胸ぐらをつかむ勢いで迫ってステフが口を開くと同時、空が言う。

 

 

「けど、ステフがいなきゃ、負けてた」

 

「え……」

 

 

 誰かが引き起こされる現象を引きつけなければ。

 アズリールが言ったように、空と白は容易く継続不能に追いやられた。

 

 

「そしてそのおかげで、アズリールが手に入った。人類種を救う一役をおまえが担った」

 

「……え……あ……」

 

「ありがとな、ステフ。キツイ役回りばっかでスマン」

 

 

 ぽんぽんと頭を撫でる空に、一瞬前までの噴火直前の火山のごとき怒りが、霧散していく。

 怒りとは違う理由で顔を赤くし、うつむき指をからめる。

 

 

「え……あ、うん、え、ええ……そ、そう、ですわね」

 

 

 そうごにょごにょとまくしたて、表情を緩めるステフに、白。

 

 

「……にぃ……王様……から、こましに……転職?」

 

「失敬な。ステフが特別扱いやすいんだよ」

 

「聞こえてますわよぉおおおおお!ああああああ〜もおおおやっぱり貴方嫌いですわぁぁあ大っキライですわぁっ!」

 

 

 ステフは神を呪った。

 唯一神よ、何故暴力を禁止したのですか、と。

 今ここに、命をなげうってでも殴りたい男がいます、と。

 

 

「……負けたにゃ」

 

 

 そう言ってこうべを垂れるのは、さっきまでの惨状が嘘のような。

 ゲーム開始と同じ図書館の中央に佇むアズリール。

 空は自分達がそうして来たように、手を差し伸べて笑う。

 

 

「ほれ、倒れたらさっさと立てよ。次があるだろ?」

 

 

 一拍。奈落より深い絶望の眼で、空と白を見やる。

 思い出すまでもない。この感情は、アルトシュ、主を討たれた時と同じ、紛うことなき『恐怖』だった。

 そう、あの時も。全てを突破され、全てを読まれ、全てをかいくぐられた末、主は討たれた。

 何故我々は敗れた。何故我々は生き残った。何故我々は生きている。

 ……まるで理解出来ない。

 そして今まさに負けた理由も。《答》は未だ見つからない。

 たかが人類種に敗北したなど。

 

 

「なんで負けたかわからないって顔だな」

 

「っ……」

 

 

 今まさに考えていたことを指摘され、苦悩に顔を歪める。

 その気になれば人類種などいつでも殺せると、そう高を括っていたはずなのに。その時には既に手遅れで、逆に追い込まれていることにすら気づけなかった。

 そもそもそうさせなかったのは、自らの心が、天翼種としての本能が、終わらせるにはまだ惜しいと押さえつけていたからに他ならない。

 

 

「途中で気付いて、ヒントは与えたつもりだが。そこから何も学ばないのは、おまえの怠慢だぞ」

 

 

 だがそう悩んでるのを他所に、あいつらは数度言葉を交わして、表情を見てそこに行き着いたらしい。

 人類種にわかって、自分にはわからない。

 それがアズリールにはたまらなく痛く突き刺さる。

 どれほど知識を集めても、その疑問だけはいつまでたっても解決することがない。何が間違ってるのかも何が正しいのかもわからないまま、ただ《答》だけを求め続けた。

 なんなのだ。どういうことなのだ。まるで意味がわからない。

 

 

「一回勝ったくらいで調子に乗るなにゃ!……うちが怯えてる!?知ったような口聞いて。人類種にうちの何がわかるにゃ!!」

 

 

 懇願するように叫ぶアズリールの声、はじめて吐露した本音は、濡れて感じられた。

 頼むから誰か教えてくれ、と。

 自分達は何のために生きるのか。

 何のために生き延びて。

 何を探して生きて。

 何を見つければ生きたことになるのか、教えてくれ、と。

 主を失い負けた自分には一生分からない《答》を探した。

 

 

「アズリール。別にな、()()()()()()()()()()()()んだぞ?」

 

 

 えっ、と気の抜けた声を出すアズリール。

 理解とはただ知識を記憶して増やすことではない。

 実践して、身を打って、骨まで沁みてようやく、生じるものだ。

 アズリールが理解し得なかった『未知』。それは『可能性』だったのだろう。不可能を、可能足らしめる性質。

 強者故に。けして失敗せぬ故に。けして負けぬ故に、理解能わぬもの。

 

 

「『不完全』であるからこそ、『可能性』がある」

 

 

 不完全性。それは完全であろうとするということ。

 不完全故に、未知を、未来を、希望を掴もうとする。

 でもそれは理解したりするものじゃなくて、自分で動いて何かして初めてわかる。

 何もせずにただ存在する知識を理解することしかしなかったアズリールが、終始気付けなかった《答》。

 理解しようとして、いつまでも理解できなかったもの。

 自分はとんだ勘違いをしていたらしい。

 

 

「にゃは、にゃははは……くっだらない、理解っちゃえばなんてくだらない話にゃ」

 

 

 ようやくアズリールの中で全てが繋がり、笑みがこぼれた。

 顔を伏せて、もはや笑うしかない。

 

 

「……やっと……わかった?」

 

「……うん、本当にその通りだったにゃ。うちはただ怯えてたのにゃ」

 

 

 負けたことがない故に、初めて負けた時から徹底して恐れた、未知。

 敗北した時点で、不完全性を手にしていた。

 なのに完全を求め、完全であろうとしたから初めての『敗北』、初めての『挫折』に耐えることができなかった。

 完全と思っていたからわからないものに負けた。ただそれだけのことなのに。

 これが笑わずにいられようか。

 六千年探した答えが、『答えなどない』と来た。

 

 

「数千年探したものが『振り出しに戻れ』とは……しかもそれを会って間もない人類種に教えられるとは、参るにゃ。永遠を生きるのも疲れるにゃ」

 

 

 出来ないことに理由を付ける必要などない。

 そう、そこからどうしていくのか。それを自分で考える。

 自分で探して、自分なりの答えを見つける。それが彼らの答え。

 それが出来る、そうわかっただけで十分。

 

 

「と、言うわけでアズリール、盟約に従い今日からお前の全ては俺らのものだ」

 

 

 そう言う空に、アズリールはようやく賭けの対価を思い出す。

 だから、と続けるよう空。

 パンっと、音が響いた。

 

 

「俺らとゲームをしようぜ」

 

 

 手を叩いて、笑顔で空が言った。

 

 

「俺らをこの世界に呼んだテト。“神様”に挑むんだ」

 

 

 それは果てしなく、気が遠くなるゲームだろう。

 本当にあるかも疑わしくなる勝機を探し出す。ゴールの見えぬ荒野を彷徨うように、何処へ向かっているかも、自分が今何処にいるのかさえもわからなくなる。

 きっと、楽しいことばかりではない。

 今までと同じように。いやもしかすると今まで以上に、辛い日々になるかもしれない。

 だが今までと決定的に違う、明確な答えが用意されたゲームだ。

 そこにどうたどり着くのか。

 どう挑むのか。

 少なくともこれまでとは劇的に変わる。

 永遠に、退屈させないゲームだ。

 

 

「この世界、もっともっと面白くしてやるよ。ついて来れるか?アズリール」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にゃは……にゃははは、にゃははははははははははッ!!」

 

 

 心から六千年ぶりに。いや、もしかしたらはじめて、本心から笑った。

 笑いすぎて、涙さえ零しながら顔をあげる。

 頬を伝った滴を拭って、アズリールはただ遠く天を仰いだ。

 

 ───アルトシュ様。うちの新たな主、見つかったにゃ。

 

 言葉には出さず心の中でその事実を反響させる。神霊種から一転、天翼種である自分のこれから仕える者が人類種となる。客観的に見れば異常に思えるが、しかし今の気分はそれほど悪くない。

 空から差し伸べられた手を取って、アズリールが見せたのは。

 

 

「これからよろしくにゃ、空ちゃん、白ちゃん」

 

「おう、頼りにしてるぞ。なぁ白?」

 

「……ん、よろしく……」

 

 

 心から楽しそうな、ただただ純粋な笑顔だった。

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか。
最後に『偽典・焉龍哮(エンダーポクリフェン)』撃たせることはずっと決めてました。

一応補足として威力の解説。
東京に撃ったイメージ
焉龍哮:クレーターになる
天撃:海になる
虚空第零加護:日本海も太平洋と表記される
髄爆:北京にビーチが出来る
(原作者、榎宮さんより)

後半二つとか頭おかしいですね。当たればジブリールどころか神霊種すら倒せるらしいです、当たるかどうかは別として。

ゲーム後の会話けっこう無理矢理詰めたんで許してくだぁせぇ……。
感想待ってます!
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