まあ可愛いから許す。
それと具象化しりとりについて感想でいくつか疑問点を指摘されたので、前話の文章を少し補足改訂しました。
【
その身体的特徴の差異から無数の部族が存在し、長年その部族ごとに内戦状態にあった。
統一性のない小国の島々だったが、突如“巫女”と呼ばれる者の登場によってわずか半世紀足らずで平定、併合されていき、世界第三位の巨大海洋国家となった。
しかしアズリールと同じ天翼種が、単独とはいえ挑んだ結果、負けたと報告を受けたらしい。
森精種達───エルヴン・ガルドでさえ、過去五十年東部連合に四回挑み、いずれも敗北している。
東部連合はゲームの対価として『ゲーム内容の記憶消去』を要求する。
優れた五感を有する種族がゲーム内容を記憶から消してまで隠匿し、挑んでくる相手に事前情報を全く与えない。その一切が不明なのだ。
記録や資料がなければ探りを入れることも対策を練ることも出来ず、ゲーム開始後にその場で状況を把握、理解して挑むことを余儀なくされる。
対して挑まれる側の東部連合は完全に熟知した、自分達に圧倒的有利なゲームで迎え撃つ。
そんなただでさえ初期状態の“見えない変数”の差が歴然で、魔法も身体能力もチートな高位種族が勝てないときた。
世界最大国に太刀打ち出来るという事実。下位種族が勝負を仕掛けたところで、結果など火を見るより明らかだろう。
しかしそれではいずれ誰も勝負してこようとはしなくなる。当然だ。
心を読めると豪語する獣人種が使う正体不明ゲーム、負けても大した痛手にならないような大国で尚且つ正体を暴ける自信のあるような者達でもない限り利益が得られないのは目に見えてる。たとえまぐれで一度くらい勝てたとしても、その後目をつけられるため何をされるかたまったものではない。
だが実際には半世紀で世界第三位の大国へとのし上がっている。いたのだ、そんな無謀な勝負を繰り返した種族が。
「なるほど、馬鹿かこの国は」
「ちょっ、失礼ですわねっ!」
「ああそうかなら訂正する、馬鹿か先王は」
「余計に酷いですわよっ!なんなんですのさっきからっ!」
この国、つまりエルキアはここ十年東部連合に対し国家戦をこちらから八回も仕掛け、その全てで敗北を喫している。
種族が、国家が、持ちうる全ての智と策を張り巡らせて行うのが『国家総力戦』。それが対国家戦、『国盗りギャンブル』。
エルヴン・ガルドすら挑んで四回負けてる相手に、国土の半分を賭けて八回も仕掛ける。無策ではないにしろ無謀としか言えない突撃で、結果国土の半分が奪われてる事実をどう庇えと言うのだろうか。
何より本来ならエルキアは今の倍の国土があった。内政に苦しむ現状にとってそのことは重くのしかかる。
ましてやそれを行ったのは、ステフが正しいと信じた常識的な人格者のはずだ。国民に愚王と罵られているものの、無意味にそんなことをするような本物の愚か者とは違う。さすがにそのくらいはもうわかっているつもりだったが、これに関しては理解出来なかった。
「うちが知ってるのはこのくらいかにゃ〜、あんまりめぼしい情報がなくてごめんにゃ」
如何にもバツが悪そうに謝るアズリール。もちろんこれらの情報だって決して無駄なのは何一つないし、今の人類種では知り得なかった有益な情報ばかりだ。
だが空達が最も欲していた、東部連合が行ったゲームの内容やそれに関する情報が手に入らなかった。獣人種攻略のための突破口は未だ掴めない。
アズリールは己の不甲斐なさを恥じた。知識を尊ぶ種族と豪語してるにも関わらず、肝心な時にわからずじまいで役に立たないとあっては申し訳が立たない。
空達が己の新たな主となって、アズリールはあらん限りの知識を披露した。
特にもったいぶったりもせず、少しでも必要と感じたり空達が知らないであろうと思った情報は開示した。だが実際には、情報は圧倒的に不足している。
アズリール自身、これまで獣人種など興味なかった為か、知識不足を感じたことはないし集めようともしなかった。それを差し引いても、この事態は想定外だ。
こちら側から仕掛けるには穴が見つからない、いや
「……アズリール、東部連合のゲームの記録、あるにはあるよな?」
図書館を一瞥してそう問いかけると、アズリールは苦い顔をしながら頷いた。
あると言ってもどの種族がいつ何を賭けてどちらが勝利したという結果しかなく、それまでの過程や背景はわからない。
歯ぎしりして僅かに俯くが、空達はそれらが揃ってれば充分だと言い、動き始める。
「あ、あのー……な、何する気ですの?」
ステフは手を挙げて質問するが、それはアズリールも思ったことのようで、二人とも未だ要領を得ないといったふうに首を傾げる。
たしかにこの国には情報が圧倒的に少ない。そしてアズリールからの情報も決定打には足り得ない。しかしそれが諦めていい理由にはならない。今わかっていることから調べ推測し事実へと至ることは出来るし、それこそ普段からしてきた自分達のやり方である。
一人おいてけぼりを食らってただポカンとこちらを見つめるステフを軽くあしらうように、空は本棚の山へ向かう。
「なに、ちょっとした調べ物だよ」
そう言って本棚の中へ消えていく空を、白はもちろんアズリールも急いで追いかけた。
────────────────
「……アズリール、次のくれ」
脱力した身体をだらしなく椅子に寄りかからせ、本をぼうっと眺めながら空はそう呟いた。
あれから数日が経過した。空は相変わらず一切手を休める気配がないが、一方で空の膝の上で、本に埋もれ寝息をたてる白。その横では気絶するように床に倒れるステフ。
だが無理もないだろう。
昼間叩き起こされ仕事をこなし、街を歩き回りアズリールとの
「……ん……あれ、ソラ?まだ起きてたんですの?」
目を覚ましたステフが目をこすりながら体を起こすと、視界に入ってきたのは寝る前と変わらず本に向き合う姿の空だった。
特にこちらを確認することもなく返事すらしない空に疑問を抱く。まあ、集中してる様子だし単に周りの声が聞こえてないだけだろう。そう高を括るが、時計を見て現在の時刻を知るとステフはみるみるうちに青ざめた顔になる。
「そ、ソラ、まさかずっと寝ないで作業してたんですの!?」
大声を上げるとようやく空も気づいたのか振り返り、何当然のこと聞いてんだ?と言わんばかりの顔をしながらきょとんと首を傾げる。
だいたいまだ始めて“たった5徹”しかしてないのに、そんなに驚くことなのだろうか。最低でもあと数日は起きてられるというのに。いや、起きていなければならないのに。
ステフが何やらガヤガヤと騒いでいる様子だが、本のページを捲り地図をにらむのを止めず、上の空気味に答える。
「あーステフ、起きたんならなんか簡単な飯でも頼むわ」
「話聞いてましたの!?寝てくださいと言ってるんですのよッ!!」
「叫ぶなよ、頭に響く……」
その後も心配そうに喚くステフを諭すと、文句を言いながらもしぶしぶ部屋を去った。
それを見かねたアズリールは本を渡しつつ横から提案する。
「空ちゃん、うちが言うのも変かもしれないけど、さすがに休憩はした方がいいんじゃないかにゃ?」
「……大丈夫だよ、限界が来ても最悪ぶっ倒れるだけで死ぬことはない」
「何か理由でもあるにゃ?今の空ちゃん、焦ってるようにしか見えないにゃ」
「……」
焦ってる。傍から見たら今の空はそう映るらしい。
そんなつもりはない、と思い自分の状態を確認する。なるほどたしかにこの疲労感や脱力感、空腹感といったものは平常時とは程遠い。普通の者からしたら理由がなければここまで出来ず、たとえあったとしてもはっきり言って
さすがの空も、本を読み漁る前はずっと起きてる気などまるでなかった。だが今はそんなこと言ってられない。そう思わせるだけの事実に気がついてしまったのだから。
「獣人種以外にも倒すべき種族は存在するにゃ。今のままだとキツいなら、なにも拘ることないのににゃ〜……あっ、べ、別にやり方を否定してるつもりじゃないにゃ」
「落ち着けって、言いたいことはわかる」
アズリールの言う通り、獣人種を手に入れる意図は特にないのに、空は東部連合へ攻め入ることを拘っている。
もちろんいつかは戦わねばならぬ相手ではあるものの、生半可な気持ちで挑めばまず間違いなく返り討ちにあうことは確実。
攻略しやすい国や種族がないわけではないが、それらと比べれば東部連合は難しい方であろう。
そんな尤もな疑問に、けど、と付け足すように空は言う。
「難しいってだけで投げ出すようじゃ、ゲーマー失格だろ?」
「にゃはは〜、そういうことならうちは手伝うだけにゃ♪」
そう、別にどこだっていいのだ。世界制覇のための足掛かりを作るならどこだって。東部連合はたまたま選ばれたにすぎない。
だが今となっては、もう引き返せないというプライドが自らを突き動かす。それに加え、人類種が失ったものを知ってしまったから。奪われたものは自分達の手で奪い返すしかない。
と、思考を巡らせる空に、変わらずあっけらかんとアズリールが呟く。
「空ちゃん。質問のついでにもう一つ、聞いてもいいかにゃ?」
「ん、え?突然なんだ?」
「この世界の知識、空ちゃん達はどうやって調べたにゃ?」
虚をつかれた空が、思考を中断させてアズリールを見る。
アズリールが聞きたいのはおそらく、具象化しりとりで発した言葉の詳細だろう。
それっぽい言葉かあるいは異世界の知識から言葉を選んだのか、その言葉がこの世界でどういった意味を成すのか理解してて使ったのか、理解してるなら何処から知ったのか。それらは当然出てくる疑問だ。
こう言っては何だが、現存するエルキアの書物で得られる知識はこの世界の一般常識程度でしかない。ましてや大戦時の情報などほぼないに等しいはず。
ならば情報源が必ずある、そう考えるしかない。
だがその真実を事細かに説明することを、空は躊躇う。話して自分の秘密を知ってもらえば、幾ばくか今より気が楽にはなるだろう。それほど空の抱えてるものは大きい。
でも、それでも。空にはその一歩が踏み出せない。
アズリールがまだ信用出来ないだとか信じてもらえないという心配はない。それはここ数日共に過ごしただけで充分理解した。それらの葛藤が空の心を取り巻く。
「もしかして言いづらいことにゃ?」
「……すまんな。今はまだ、それは言えない」
そんな曖昧な言葉で濁してしまうのも、頼りたいと思ってしまう心の弱さからだろう。
「いつかは話してくれるならいいにゃ。うちはちゃんと待てる女だから……なぁんてにゃ♪」
空の目を見て、アズリールは直感的に良くないものを感じ取った。この話題を今は振ってはいけない。それが理解できてしまった。
聞きたいことは山ほどあるが、空の行動を妨げるようなことは出来ない。表面上は対等な関係でも、アズリールはあくまで従者。最初こそ接し方に戸惑っていたが、今は命じられるがままといった感じだ。
今の自分にできることはないと、もう何回目かの結論に達したところで、諦めて全身の力を抜く。
アズリールは良くも悪くも天翼種の中では特に、他の種族への興味を示さない。
人類種への評価は今まで通りだし、身近にいるステフに対しても少しぞんざいな扱いをする。だが出会ったばかりの傲慢な態度とは対照的に、空達の言葉を尊重するようになった。
性格が変わったわけではないものの、確実に良い方向へと動こうとしている。にこにこと、無邪気に笑う笑顔は以前の思惑混じりのそれではない。今のこの関係は、アズリールにとって案外、気に入ってるのかもしれない。
「ま、そのうちステフが飯作ってくるだろうし、そしたら少し休むか」
空が少し疲れたように笑う。アズリールもそれ以上は追求するべきでないと思い、口を噤んだ。
────────────────
その後ところ変わって、いまやステフの寝室となった王の寝室。そこにステフ、空、白、アズリールの四人が揃っていた。
どこか言いづらそうに、しかし意を決したような顔つきで鍵を見せるステフ。
それは死期を悟った祖父からステフが譲り受けた、この国の希望。『いつか、心から
未だに何処の鍵かはわからないが、それでも、少しでも二人の役に立てばと、おずおずとその鍵を渡した。
鍵を受け取った空と白は、顔を見合わせてため息一つ。
「なあ、これもっと早く渡して欲しかったんだけど」
「ステフのくせに……」
これである。この二人に渡すべきかなどと考えてた自分が馬鹿らしく思えてくる。だが本当に、無駄ではなかったとすぐに知ることとなる。
そこからの二人は早かった。ステフが二年以上気にしていた謎を、ただの暇つぶしのように、あまりに気楽に、あまりにもあっさりと。先王が必死に考えたであろう仕掛けを、さらりと解いてしまった。
ゴゴゴゴゴゴ、と。動き終わった本棚の向こうに登場した鍵つきの扉に、ステフから貰った鍵をさして回すと、上品な金具が軋む音と共に扉が開かれる。
そこは、窓もない書斎だった。
本で埋められた木製の本棚と、情趣を漂わせる小物。長い間、誰にも触れられてこなかったのがわかる、埃のかぶった机と椅子。先ほどの大掛かりな仕掛けの音が完全に消え、辺りに静寂が訪れる。
その書斎から皆感じたであろう
喉を鳴らし空が緩慢に書斎の扉をくぐると、中央の書斎机の、開かれていた本に目を留める。埃のかぶって読めないそのページを、一度だけ撫でる。
『人類種の最期の王ならぬ───再起の王の為、是を遺す』
現れた文は、言葉なく立ち尽くすには充分すぎる、力強い字で書き出された文章。
『我は、賢王に非ず』
愚王と罵られた男の、生涯に渡り他国と行った無数の勝負。
東部連合との八度に渡る勝負も含めた、無謀に挑み、儚く負け、その手の内を暴くことに徹した男の全て。
『むしろ稀代の愚王として名を遺すだろう。だが我は、我ではない再起の王の為、筆を執り記す。願わくば我の浅薄で惨めな足掻きが、次なる王の力と成らんことを信じて』
今のままでは遠からず人類が自滅すること。自分の行為がそれを早めること。それらを承知の上で、負けるのを前提に攻勢に出ることを決意し。
愚者を演じきり、東部連合をはじめとする他国の記録。稀代の愚王と蔑まれた男の、文字通り命懸けの綱渡りだったであろう生き様が、そこにはあった。
自国民からも他国からも愚者と罵られ、愚者を演じ続けて、その手の内を暴くことに徹する。その心の内にいかほどの覚悟と、再起の王を信じて止まぬ、人類種への信頼があったのか。
彼は賭けたのだ。
序列最下位の人類から他種族を圧倒する者が現れるという、限りなくゼロに等しい、だがゼロではない可能性を信じて。
名誉、名声、誇り。積み上げた恥と敗北の、己の生涯を必勝の一撃を託すために賭けたのだ。
「……あいつの血族はどうしてこう……お人好しすぎだろ」
空が感慨深くボソッと呟く。さいわいにも聞かれていなかったようで、その言葉を拾う者はいなかった。
「なあ白」
「……ん?」
「エルキアの元領土、絶対に取り返すぞ」
「ん、もちろん」
ケータイを取り出してタスクスケジューラーを起動させる。
指を滑らせて入力するは、迷うことなくこの一文である。
『目標・東部連合を飲み込む』
そして流れるように二言目には、ついでにと書き出しステフの意を酌んで一言。
『ついでに、
言い訳はしない。言いたいことがあるとするなら、世の中には夏休みというものが存在するらしいこと。私も欲しかった。
感想待ってます!