旧き神話から新しき神話へ   作:うにゃりん

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原作沿いだと、どこが必要でどこが必要ないか判断が難しいですね。
文字数はだいたいこのくらいが基準で統一するつもりです。
なので原作にある部分が増えればその分長くなると思います。



第壱話 終わりと始まり

 

 

 

 

 

「……ぁー……死ぬ死ぬ……あ、死んだ……ちょっと……早くリザってくれ……」

 

「……足でマウス……二つ、は、無理あった……」

 

「そう思うなら早く頼む……つか今何時?」

 

「……えと……まだ、夜中の八時……」

 

「何日の?」

 

「……ニートに、関係……ある、の?」

 

「あるだろっ! ネトゲのイベントの開催日とかランク大会とかっ!」

 

 

 とっくに昇った太陽が遮光カーテンから落とす光だけがぼんやり照らす部屋。

 その部屋の中でパソコンにかじりつき、視線も合わさず会話する二人。

 片やもう仕事すら可能ないい大人、片やまだ中学生にすら達していないうら若き子供

 本来こんな時間こんな場所にいるなど、社会的にも問題しかないのだが、二人はあえてそこに触れるように言う。

 

 

「……にぃ、就職……しないの?」

 

「……おまえこそ今日も学校、いかねぇだろ?」

 

「……」

 

「……」

 

 

 その言葉を最後に、二人の間には沈黙が訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───テロンッ。

 

 

「……にぃ、メール」

 

「四画面四キャラ操作してる兄ちゃんに何を要求してるか知らんが、そんな余裕ねえっ。

 つうかどーせ広告メールだろほっとけ」

 

「……友達……から、かも?」

 

「……誰の?」

 

「……にぃ、の」

 

「はは、白、冗談でもやめてくれ。にぃちゃん泣いちゃうぞ」

 

「……しろの……って、言わない、理由……察して……欲しい」

 

 

 兄───空。

 繰り返すが、十八歳・無職・童貞・ゲーム廃人。

 自慢ではないが、()()()では彼女はおろか、友達すらいない己に届くメール候補に「友人」などというカテゴリーはあろうはずもない。

 そしてそれは白にも似たことが言えるため、その説は却下される。

 

 

「……うぅ……めんど、くさい」

 

 

 だがそう言いながらも、完全に無視出来るとまだ決まっていないため、我慢するように無理矢理体を動かす白。

 その異常な記憶力を発揮して、メールをあっさり発掘する。

 

 

「……音はテロン……3番メインアドレスの着信音……これ、かな?」

 

 

 【新着一件───件名:『  』達へ】

 

 

「………?」

 

 

 こく、と小首を傾げる妹。

『  』、即ち「空と白(ふたり)」に届くメールはさして珍しくはない。

 対戦依頼、取材依頼、挑発的な挑戦状、etc……いくらでもある。

 そのほとんどが無視しても問題ないものばかりなので、確認しても空に伝えることなく定位置に戻るのが通例、のはずだったのだが。

 

 

「……にぃ、これ……」

 

「セーブよし、ドロップ確認よし……えっとなんだ……うん?なんだこれ」

 

 

 間違いなく、確実にセーブされたのを確認して、五日ぶりに画面を閉じる。

 白に呼びかけられてパソコンからメーラーにアクセスすると、兄もそのメールの特殊性に気づく。

 その内容に半ば無意識の中訝しげにポツリと呟いた。

 

 

「……何で『  』が()()だって知ってんだ」

 

 

 確かに、ネット上で空白複数人説は存在するものの、あくまで仮説にすぎず、確信を持って言えるほど根拠のあるものではないので特に騒ぐ者はいなかった。

 だが問題だったのはその件名ではなく、本文に書かれた部分だった。

 本文にはURLと共に、添えるように一言だけ。

 

 

【魅了されたよ、君ら兄妹、()()()()()()()()()()()と感じたことはないかい?】

 

 

「……なんだこれ」

 

「……」

 

 

 少し、いや、かなり不気味な文面。

 そして見たことのないURL。

 URLの末尾に「.JP」などの国を表す文字列はない。

 特定のページスクリプト、つまりゲームへの直通アドレスで見かけるURL。

 

 

「……どう、する?」

 

 

 あまり興味はなさそうに、妹が問う。

 それに対し、空は熟考する。

 もちろんタチの悪い嫌がらせという可能性は充分にありえる。というか、むしろその可能性が一番高いだろう。

 だが万が一というものもある。

 正体を知られてるかもというのもあるがこの文面に関してのみ言えば、問題なのは別口にあった。

 今まで一度として空白の、いや自分の記憶に踏み込んできた者はいなかったし、誰かにそれを教えたこともない。

 それもそのはずで、普通大戦などの単語を言われたところで頭のおかしい人にしか見られない。

 目を背けたくなるが、確固として自分に残る現実として存在している。

 それがわかると、知っているというにも捉えられる文面に、そんなあるはずもない期待にほんの僅かながら試すように。

 

 

「まぁ、ブラフだとしてもノッてみるのも一興か……」

 

 

 そう判断し、URLをクリックする。

 しかし現れたのは至ってシンプルな、オンラインチェスの盤面。

 空が軽く失望混じりにふっと息を吐くと、隣で見てた白が完全に興味を無くした目で一言。

 

 

「……ふぁふ……おやす、み……」

 

「待てって、『  』あての挑戦状だぞ。相手が高度なチェスプログラムとかだったら俺一人じゃ手に負えないって」

 

「……いまさら……チェスとか……」

 

「いや気持ちはわかるけどさ、『  』に負けは認められない、だろ?」

 

「……うぅぅ……わかった」

 

 

 だがゲームの挑戦と聞いては、逃げるような真似をするわけにいかない。

 そうしてチェスを打ち始めた白は、手番を重ねていく。

 

 チェスは『二人零和有限確定完全情報ゲーム』である。

 運が介在する余地がないこのゲームは、原理上明確な必勝法がある。

 ただし十の百二十乗。無量大数以上の局面すべて把握出来ればの話だ。

 

 

『…チェスなんて…ただの……マルバツゲーム』

 

 

 そう、実際白はグランドマスターを破ったプログラム相手に、先手後手入れ替えて二十連勝している。白にとってチェスなど、今更ゲームにすらならない。

 だが、今回ばかりはそうはいかないようだ。

 

 

「……!……味方の、退路を絶った……?」

 

 

 驚愕に突然動きを止める。

 五分の四は閉じられていた目を見開き、画面を凝視する。

 空はその打ち方に違和感を覚える。どこかで見たことのあるその打ち方に思考を持ってかれるのを振り払って、気にしないように白を諭す。

 

 

「待て白」

 

「……にぃ?」

 

「プログラムは、常に最善の手を打つ。

 だが、こいつはあえて悪手で誘ってる、人間だ。それを相手プログラムのミスと判断したお前のミスだ」

 

「……うぅ」

 

 

 確かにチェスの技量において、いやほとんどのゲームにおいて。

 (いもうと)(あに)を圧倒的に上回る技量を誇る。

 スペックの差と一言でくくってしまえばそれまでだが、そう言いたくなるほどの力を持っているのだ。

 その姿はまさしく天才ゲーマーの名にふさわしいもの。だからこそチェスで白が負けることなど万に一つもない。

 だがこと駆け引き、読み合い、揺さぶりあいなど“相手の感情”という不確定要素には疎く、その分野に関してだけ言えば常人より上手い程度。

 それを見抜くことにかけては、空は白を大きく上回る力を発揮する。文字通り常人離れして、上手かった。

 

 

「落ち着け、白が技量で負けるはずない。揺さぶり、誘いは俺が読む。空と白、二人で空白だ。

 『  』(おれら)に勝てる奴がいるか、見せて貰おうじゃねぇか」

 

 

 故にこそ『空白』。自分の力を過信することなく、互いの得意分野で手を取り合う。二人で一人のプレイヤー。だからこその無敗。

 これこそが『  』(くうはく)という都市伝説の真実。何年も続く姿で、最強のゲーマーの正体。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『チェックメイト ユー・アー・ウィナー』

 

 

 

 

 

「「はぁあああぁぁああ~~~……」」

 

 

 長い沈黙の後、大きく息を吐く二人。それは呼吸さえ忘れるほどの勝負だったことを語る。

 

 

「すごい……こんな苦戦……ひさし、ぶり。相手……ほんとに、人間?」

 

「ああ、誘いにノらなかった時の長考、仕掛けた罠の不発の時の僅かな動揺。プログラムじゃないことは確かだ。案外グランドマスターかもな」

 

「……どんな、人だろ」

 

 

 グランドマスターを完封したプログラムを、完封した妹が、対戦相手に興味を抱く。

 それは空も同じだった。だがそれ以上に、対戦中に感じた違和感が妙に引っかかって、頭から離れなかった。

 

 あの打ち筋、戦術はどこか見覚えがあるものだ。

 駆け引きを駆使する手はプログラムでは再現できない領域にあるため、覚えがあるとするならそれは過去の対戦相手ということになる。

 自分は確かに相手を知っている、それだけは確信したが、どうにも思い出せない。

 白が苦戦するほどの勝負ができる相手、自分では到底届かない領域にいる人物なんて、忘れるはずもない。

 しかしどれほど考えても、そんな人物に心当たりがなかった。

 

 

 

 

 

 そんな二人を他所に、程なくして再び。

 

 ───テロンッ

 

 というメールの着信音が響いた。

 

 

「今の対戦相手じゃねぇの?ほら、開けてみろよ」

 

「……うん、うん」

 

 

 勝負の熱が抜けず、嬉しさを隠しきれない様子の二人。

 しかし届いたメールにはただ一言、こう書かれていた。

 

 

【突く所がエグいね、一体どんな思考してるんだい。それほどまでの腕前、()()()()()()()()()()()()()()?】

 

 

 そのたった一文で、ついさっきまで楽しそうにしてた二人から表情が消える。

 二人の脳裏をよぎるのは、文面通りと言える記憶の数々。

 

 高すぎる知能により疎まれ、妬まれ、僻まれ、居場所なんてなくいじめられ。その見た目も相まって気味悪がられ、兄以外に一緒にいられる人物がいなかった白。

 自分の心に思考が上手く機能できないまま体だけは成長して、同年代の相手は精神的に見れば自分より幼い者ばかりなため接し方が掴めず、この世界に順応できなかった空。

 自分達を理解しようとする物好きもなく、関わることすら回避しようとする世間。

 そんな思い出すだけで腹が立つ過去。

 

 

『大きなお世話様どうも。なにもんだ、テメェ』

 

 

 知ったような口を利くメールの送り主に、半ば八つ当たるよう強めに問いかける。

 それを送るのを見計らったようなタイミングで、ほぼ即座に返信がくる。

 いや、返信と呼べるのかわからない、答えになっていない文面が届く。

 

 

【けして良くは感じてないはずだ。君達はその世界をどう思う?楽しいかい?生きやすいかい?】

 

 

「……どう思うか、だって?」

 

 

 文面を読んだ空がボソッとこぼす。

 相手が誰かまだわからないが、こんな奴に改めて聞かれるまでもない。

 ルールも目的も不明瞭な中、七十億ものプレイヤーが好き勝手に手番を動かす。

 勝ちすぎても負けすぎてもペナルティ。

 世界が変わろうと、どこにいても知性がある者達のすることは同じ。

 ましてやこちらは皆等しく人間なのに、それでも絶えぬ争い。

 勝利条件はわからず逃げるしかない世界。

 こんなもの以前と何も変わらない、人生(クソゲー)

 

 

【単純なゲームで()()()()()()()()があったら───】

 

 

 再度届いたメールに二人は顔を見合わせ、目配せして確認する。

 そこにあるのは憧れ、期待、そしてそれらとは全く異なる忌々しげな顔。

 

 

【よいかい?目的も、ルールも明確な、()()()()()があったら、どう思うかな?】

 

 

 完全な無表情になると、その文について想像する。

 今の世界には不満しかないが、別の世界へと逃げ続けるようではやってることは変わらない。

 それにもし仮に行ったとして、そこが今より良いという保証もない。それはこれまでの経験で十分痛感した。

 空はキーボードに手を置くと、最初に届いたメールの文面をなぞらえるように皮肉混じりに返す。

 

 

『ああ、そんな世界があるなら、俺達は生まれる世界を間違えたわけだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【

   見

   せ

   て

   ご

   ら

   ん

    。

     】

 

 

 そう返信が返ってくると、空は顔をこわばらせる。

 白も頭にハテナを浮かべて、そのメールを一心に見つめる。

 

 

『どういう意味だ』

 

 

 流れるような手つきでキーボードを打ち込み、すぐさま返事を送信する。

 そこには怒りや驚愕とは違う、焦りの表情が伺えた。

 

 

 

 

 

 ───その刹那。

 

 

 

 

 

 パソコンの画面に微かなノイズが走り、次第に広がっていく。

 部屋中の電子機器と呼べるもの全てが侵食され、ノイズへと画面を変える。

 ウイルスと呼ぶにはあまりに急速すぎるスピードで部屋の景観を一転させたその現象。だが唯一メールが表示されていたその画面だけは残され、動き始めた。

 部屋全体にも、ノイズが走り始める。

 

 

『君達はまさしく、生まれる世界を間違えた』

 

 

「なっ!?」

 

「……ひっ」

 

 

 スピーカーではなく、間違いなくその唯一の画面から『()()』が返ってきて、自分達へ話しかける。

 画面からは白い腕が生えて、導くようにその中へと引き込んでいく。

 

 

『僕が生まれ直させてあげよう───君達が生まれるべきだった世界にっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 視界が急激に明るくなる。

 もう長い間外に出てなかったせいか、自然の光に目が追いつかない。

 だが目以外は機能してるので状況は理解出来る。強く吹く風とこの浮遊感、そしてようやく慣れてきた目を見開くとそれが想像通りだったとわかる。

 

 

「なん……なんだこれぇえええっ!」

 

 

 

 視界の果てで空を飛ぶドラゴン。

 地平線の向こうの山々の奥に見える巨大なチェスのコマ。

 何処かのゲームに登場しそうな、ファンタジーの中の景色。

 まだ目が正常に機能していないと信じたくなる数々に呆気にとられる。

 どう考えても自分が知る『地球』のそれではない。

 いやむしろ本当に地球じゃないのかもしれない。

 どことなく既視感がある、この光景。

 

 

「っていやいやマズいだろ、どうすんだこの状況ッ!」

 

 

 だがそんな呑気に思考している場合ではない。自分達が落下の最中にいると思い出すのに数秒。

 驚愕や動揺と、それ以上の焦りに脳が加速し状況を整理しようと動く。

 必死に自分を落ち着かせようとする空と対照的に、テンション高めにとびきり笑顔で呼ぶ声がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ようこそ、僕の世界ヘッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何がそんな嬉しいのかと問いたくなる笑みを振りかざし、同じく落下しながら『少年』は叫ぶ。

 

 

「ここが君達が夢見る理想郷【盤上の世界・ディスボード】ッ!」

 

 

 空に遅れてようやく状況を把握した白。普段あまり開かれない目を、本日何度目かという具合に見開くと、その目尻にうっすら涙を浮かべて兄を強く抱き止める。

 

 

「……あ、あ、あなた……誰っ」

 

「僕?僕はテト、あそこに住んでる。“()()”?」

 

 

 こんなわけのわからない状況で、その上わけのわからない相手に会話する余裕なんてないのだが、それでも精一杯今の心情をそのまま伝えてヤケクソ気味に叫ぶ白。

 だが少年は一切態度を変えることなく、こちらのそんな対応を面白がる感覚で楽しそうに笑った。

 

 

「────ッ!!」

 

 

 その顔に、姿に、空は言葉を失う。

 間違えるはずない。自分のよく知る、その神様。

 かつていた、自分の過ごしていた世界に存在した、ゲームの神様。

 だがそんなのは今は知ったことじゃない。

 

 

「ってそれよりオイ、コレどうすんだよッ!地面が迫って───うぉおおおお、白ぉッ!」

 

「……っ」

 

「この世界は『十の盟約』によって全てが成り立っている」

 

 

 

【一つ】この世界におけるあらゆる殺傷、戦争、略奪を禁ずる。

【二つ】争いは全てゲームによる勝敗で解決するものとする。

【三つ】ゲームには、相互が対等と判断したものを賭けて行われる。

【四つ】“三”に反しない限り、ゲーム内容、賭けるものは一切を問わない。

【五つ】ゲーム内容は、挑まれた方が決定権を有する。

【六つ】“盟約に誓って”行われた賭けは、絶対遵守される。

【七つ】集団における争いは、全権代理者をたてるものとする。

【八つ】ゲーム中の不正発覚は、敗北とみなす。

【九つ】以上をもって神の名のもと絶対不変のルールとする。

 

 

 

 そこまで聞き、眼前に迫ってきている地面を目に叫ぶ。

 

 

「だからそんなこと言ってる場合か!もう地面が……」

 

「にぃ……」

 

 

 白の手を抱き込むように、意味が有るのかはわからないが、自分を下にする。

 空の胸の中で今にも消えそうな声で白がつぶやく。

 そしてついに地面にぶつかるというところで、二人の体は急停止した。

 小さなクレーターを作り、ゆっくりと地面に着地する。

 そんな二人に、神を名乗る少年は、楽しげに告げる。

 

 

「そして【十】みんななかよくプレイしましょう」

 

 

 そう告げると、どこかへと消えてしまう。

 

 

「また会えることを期待してるよ。きっと……そう遠くないうちに……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんだったんだありゃ……?」

 

 

 

 そう思いながら立ち上がると、見慣れない光景に唖然とする。

 空に島、龍、地平線の山々の向こうに巨大なチェスのコマ。

 つまり、落ちてくるとき見えた変な世界の景色。

 何処か懐かしい、その景色。

 地球ではないだろう、世界。

 

 ここに来るまでに感じていた違和感が、パズルのピースのようにハマっていく。

 あの神様、『テト』と名乗る少年。

 

 

「おい……嘘、だろ……」

 

 

 掠れたような声で呟くと、靄がかかったように思考を阻んでいく。

 久しく忘れていた、感じていなかった、自分が自分でなくなっていくようなこの感覚。

 憑き物のように自分を取り巻き、蝕んでいく()()をあえて無視する。

 この後のことはまだ分からないが、今はまだ倒れるわけにはいかない。その信念が、空を突き動かす。

 既に聞こえなくなったテトの声がしていた方向へ視線を向けると、一言だけポツリとこぼす。

 

 

 

 「……ふざ……けるな…………」

 

 

 

 怒気を含んだ言葉は誰に聞かせるわけでもなく、消え入る。むしろそれは、自分に向けられたものだろうか。

 思考が散漫になっていき、自分の状態も分からなくなる。

 それでも一つだけ確かなこと。

 間違えるはずもない。だってそれは。

 

 今自分達がいるこの場所、この世界は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(リク)が……元、いた…世界……』

 

 

 

 

 




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