旧き神話から新しき神話へ   作:うにゃりん

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ごめんなさい調子乗りました早くなるかもとか嘘ですねはい。きっちり2ヶ月経過してるし。
今回空が若干チートじみてるけど、まああの大戦を生き延びたわけだし動きが普通じゃなくてもおかしくないよね。



第拾玖話 優勢と劣勢

 

 

 

 

 

 ゲームの開始が告げられると、観戦席から返ってきた反応は多種多様。銃撃戦というジャンルに絶望する者。そのバカゲーっぷりに呆れる者。

 そしてここにも、油断のない気配で落ち着き払った少女が一人。

 

(……フィー、見えてる?)

 

(はぁい、感度良好、クラミーのお目々、ばっちり頂いてるのですよぉ)

 

 人類種のクラミーと違い建物内に入ることができないフィーは視界を共有した上で思念会話。エルヴン・ガルドで生まれたクラミーは身に染みていることだが、他の種族からしたらたまったもんじゃないだろう。

 するとぴくりと、魔法の気配に反応したいのが視線を動かす。そして気づく。“他種族の監視”という存在に。

 

 今回行われるゲームで盟約の条項に盛り込まれているのは、プレイヤー及び人類種の記憶のみ。クラミーが内通している森精種と何らかの魔法によって情報を共有してるのだとしたら、このゲームの全てがエルヴン・ガルドに知られていることになる。

 自分達が圧倒的不利という状況を理解した上で、打てる手は事前に打つ。先王のような無鉄砲とは違った。本気で獣人種に勝つつもりで、そのための策を講じているのがわかる。

 

(この男……どこまで用意周到なのだ……ッ!)

 

 これで東部連合はあからさま過ぎる不正は出来ない。

 ゲームはまだいい。これまで秘匿してきた内容を知られることは痛手だが、それでも致命傷には程遠い。何故ならこのゲームにおいて獣人種が負けることはないのだから。

 だが、イカサマの正体までエルヴン・ガルドにバレたら。どうにでも対策を取られ、今度こそ東部連合は終わる。

『わかりやすいチートしてみろ。テメェらのゲームのイカサマまでバレるぞ』。

 椅子の上で目を閉じる男の薄い笑みが、そう語っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 架空の東京を、ビルの合間を縫うように駆ける一同。群がって来る獣耳のNPC達を巧みに回避し撃破しながら、空は未だゲームを理解しきれない二人に教えを説いていた。

 

 

「今のがヘッドショットだ。当たれば一撃必殺、偽装工作もしづらいし上に“討ち取った”という分かりやすい報告になる。だがこれはなるべく狙うな」

 

「えっ、でもソラは先程からずっとそれで仕留めてますわよね?」

 

「俺のはゲーマーとしての癖だから気にすんな。初心者には的が小さくて狙うのが難しいし、そもそもこんな技術必要ないからな」

 

 

 従来の実弾を使ったガンゲーと違い、用いられる銃から発射されるのはエネルギー弾。着弾した位置が急所である必要はないため、基本的には胴体狙いがセオリーと言える。

 ならばなぜ空はわざわざ説明したのか。その答えこそ、このゲームの肝となる『跳弾』と『部位破壊』にある。

 

 

「よし白、銃の性能報告」

 

「……全部、おおまか……単位は、メートル……で」

 

 

 と言い添えてから、すーと白が空気を吸って。

 

 

「弾速毎秒三〇〇、射程約四〇〇、風重力影響無し、直進性、跳弾性能あり、限界跳弾回数は射程に比例して無限、跳弾角度は入射角度に比例で、単純────」

 

 

 と、一気にまくし立て、はぁ、と息を吐いて一言。

 

 

「……つか……れ、た……」

 

 

 計測よりも喋るのが、という様子の妹の頭を、空がわしゃわしゃ撫でる。だが全くもって意味がわからなかったのか、ぽかんとしたままステフとアズリールの表情が固まった。さすがに二人には難しすぎただろうか。

 

 

「あーすまんすまん、今のはただの確認。要は何か遮る物があると弾が跳ね返ってくることだ、覚えとけ」

 

 

 それともう一つ、と空が銃を狙い定め撃つ。

 マズルフラッシュ。そして爆音を伴って飛翔した桃色の弾丸がNPCのスカートにかすり、NPCは消えずに小さなハートを散らせてスカートだけが消し飛ぶ。

 二人の、いや白を含めた三人の冷たい視線を背中に感じながらも、空は気にせず続け様に上着、靴と照準を合わせ消してゆく。

 

 

「こうやって、身に付けた服や装飾品だけに着弾すると当たったモノは消えるが当たり判定はかからない」

 

 

 最も警戒しなければならないのが、この『部位破壊』。空とて気づいたのは偶然だった。NPCが消えるのと服が消えるのに、一瞬のラグがあること。その僅かな違和感を神経質なゲーマーの目が察知したのだ。

 胴体を狙うという行為は、服が密集している場所を撃つことに他ならない。ただ狙撃し合うだけなら単純に相手を撃ち抜くか襲いくる弾丸を回避するしかないが、部位破壊が可能となればそこに新たな選択肢が考えられる。

 

 すなわち、防御。このゲームでは着ている服を叩き付けることで()()()()()

 

 着弾時に弾が消えるか跳ね返るかの判定は、おそらく当たったモノが身に付けられるかどうかだろう。盾に使えるかの判定は服なら脱衣時、装飾品ならそのままといったところか。だからこそ、素肌を晒している頭部や手脚は着弾したかの判断が分かりやすい。

 いづなが撃たれたふりをして不意打ち、なんて古典的な罠を仕掛ける可能性もあるから念の為に話したが、二人の理解度を考慮するなら言う必要もなかったかもしれない。

 

 

「アズリール、設定されてる身体能力はどんなもん?」

 

「魔法が使えない、ってのは“うち自身”の否定みたいなもんにゃ。たぶん物理的な限界ギリギリなんじゃないかにゃぁ……」

 

「てことは今のアズリールにならいづなは互角に渡り合えるってわけだな」

 

 

 想定内の設定とはいえ余裕がなくなったことに内心焦る空。いや、余裕など東部連合に挑むと決めた時から感じていないが。

 アズリールは『あんなのと互角……』と嘆いてる様子だが、いくら天翼種が馬鹿げた性能であろうと魔法が一切使えない状態では格段にパフォーマンスが落ちる。この仮想空間という状況下に限った話なら獣人種は他のどの種族をも圧倒し得るのだ。なぜなら獣人種には『血壊』がある。

 

『血壊』────物理限界に届く身体能力を有する獣人種の、その中でも更に一部の者だけが使える力。使用時は瞬間的には物理限界をすら突破する。

 獣人種だけに許された、他種族を食らうための武器。その唯一無二の武器を、自分達のテリトリーで使えないはずがない。

 

 

「まあ、()()()()で勝てると思っててくれるならやりようはいくらでもある」

 

 

 空の口元にうっすらと笑みがこぼれる。

 彼等は自分達の得意分野である『身体能力にもの言わせた戦闘』を行う舞台に引き込んだつもりなのだろう。だから彼等は気づかない。いや、気づけるはずもない。このゲームなら、万に一つも此方に負けはないことを。

 

 

「用意はいいな?」

 

「……しろ……ばっちり……」

 

「わ、私あまり自信が無いのですけど……」

 

「落ち着けステフ。お前ならやれるさ」

 

「まーなんとなーくだけど、了解したにゃ♪」

 

「よしっ、なら手筈通り頼むぞ」

 

 

 不安の残る返事だが、心配には及ばない。これまでそうだったように、これからもそうであるように。人類種は人類種らしく、弱者なのだから弱者らしく、いつも通りに。

 さあ、そろそろ始めよう。

 

 

 

 “獣狩り”だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空達から数百メートル離れたビルの八階。小さな窓が一つあるだけの倉庫に、いづなは身を潜めていた。

 敵は四人、自分は一人だ。それが不利とは思わないし、加えて最も警戒していた天翼種がゲームの理解に乏しいのは嬉しい誤算と言える。

 

 油断はしない。だが自信はある。元より負けるつもりなど毛頭ないし、ゲーム内容を考えれば圧倒的に此方に分がある。だからこそ、焦らずまずは敵の戦力分析に徹していたいづな。

 そのいづなの視界がふと、桃色の閃光によって染まる。一瞬遅れて轟音と衝撃が訪れたことにより、その正体が空の手から投げられた『ボム』だと理解する。だがこのボムは今までとどこか違うように感じた。

 空達がボムを使う姿は数回ほど目撃したが、それはあくまで威力や範囲を確認するためでしかない。しかし今の一撃はいづなが息を潜めるビルを揺らした。

 

 まさか、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ありえない。そんなはずはない。頭では分かっていても、湧き上がる感情がその事実を受け入れることを拒絶する。

 ゲームが開始してから今の今まで、いづなは空達から距離を取り観察に徹していたのだ。後をつけてくる様子はなかったし、呼吸以外は物音を立てないよう努めた。たとえ獣人種の五感があっても特定は不可能なはず。

 

 

(この足音は────空、です)

 

 

 だがそこから目を逸らすわけにはいかない。いづなは警戒レベルを僅かに引き上げる。遠くに聞こえる乱れた呼吸と床を蹴るような足音が、このビル内を徘徊するNPCから空が逃げているのが分かる。だが近づいてくる足音はあまりにゆっくりで拙く、とても脅威とは思えなかった。

 いや空だけではない。白もステフも、人類種など戦力としてみてすらない。

 どんな卓越したゲームの腕があろうが人類種の反応速度ではいづなに近づくことも、近づかれるのを察知することさえ不可能。それにどのみちこれで終わりだ。

 

 獣人種の五感をフル稼働させ、倉庫外のフロアを駆ける視界に入らない空へと引き金を引く。

 爆音と閃光を散らせて銃口から飛び出した弾丸は、正確無比に、僅かに開け放たれた扉の隙間を縫って飛翔。壁に当たりハートを散らせながら跳弾して、確実に空の額を射貫かんと迫る。

 空には見えない場所からの、偏差まで織り込んだ跳弾を利用した曲芸射撃。万に一つも外すことはなく、着弾は逃れられない。

 ───そう思っていた。

 

 

(……どうなってん、ですッ!?)

 

 

 毎秒三〇〇メートルの亜音速で撃ち出される弾丸を正面に捉えると、空は体を大きく仰け反らせやり過ごす。いづなが不可能と判断した回避を空は見事に成功させた。

 でもどうやって。そもそも人類種には、たとえ目が追い付いたとしてもそこからの回避行動が間に合わない。まさか偶然かと、念の為に再度空へ銃口を向ける。

 二度の跳弾を経て放たれた弾丸は、今度は空の胸元へ。だがなおも空はそれに反応し、真横に跳ぶことで危機を脱する。多少動きが大袈裟すぎる気はするものの再び成し遂げた完璧な回避に、いづなはこれまでの認識を改める。

 

 人類種の身体能力は高くない。それはシステムが、視てから動き出したら避けられないと証明しているため間違いない。つまり空は、()()()()()()()()。予備動作は弾が視界に入る前から既に始まっている。此方が狙いを定める間はあんなにも非力そうだったくせに、ひとたび発砲すれば身に纏う気配はまさしく歴戦の猛者そのもの。

 無論、何度も撃ち続け弾幕を張ればいつかは当たるだろう。だが近づいてくる空の不気味な笑みが、得体の知れない恐怖を抱かせる。故にリスクを冒してでも直接戦闘で仕留めるべきと判断。部屋を飛び出し時間をかけず速攻でかたをつけにかかる。

 いづなを見た空は反撃に出る様子もなく、むしろ予定通りであるかのように一目散に来た道を引き返した。階段を駆け下りる空の背中は明らかに丸腰。そんな隙だらけの相手をいづなが見逃すはずもなく、跳弾を駆使して狙撃する。だがこれも軽快なステップで全て躱してしまう。

 まるで後ろに目でも付いてるんじゃないかと錯覚させるノールックモーション。なるほどやはり回避に関して言えば一級品だ。できれば今ので倒したかったが、わざわざ自分から撤退してくれたのに追いかける必要もない。冷静になった思考がいづなをその場から去らせ、次の拠点を探すために動き出させる。

 

 だから気づけなかったのだろう。

 このゲームが始まって、初めていづなは敵に背を向けた。それは奇しくも先程空に対して隙と思った状況と同じであった。

 

 

「よし白、行ってこい!」

 

「……了、解……」

 

「な……ッ!?」

 

 

 それは一瞬の出来事だった。いづなが空達に背中を見せたほんの数秒。その数秒で、いづなの元には視界を覆うほどの弾丸の嵐が訪れた。いづながそれらを避けられたのは獣人種の身体能力があったからこそ。もしあと一瞬、一秒でも反応が遅れていたら、降り注ぐ弾丸に全身を撃ち抜かれていただろう。だがそれもつかの間、白は次の攻撃の狙いを定める。

 着地する位置を予測し放たれる追撃。再び回避を余儀なくされたいづなは、反射的に跳んだ。砕けるような力で床を蹴ると、逃走用の別階段を目指すべくそのまま曲がり角を駆使して白の視界から外れる。だが白はそれすら読んでいたのか、壁に跳弾させることで避けられた弾丸をいづなの進行方向に転換する。

 

 見えない場所から追尾するかの如く次々と降り注ぐ弾丸。相手は白。いづなが最も警戒していなかったプレイヤーだ。だというのになんだこの射撃精度は。どうにか反撃に出たいが、白の悪魔的な偏差射撃が銃を構えるだけの隙を与えてくれない。しかも同時にNPCを倒すものだからエネルギー補充も万全。逃げ道が徐々に塞がれ、ぞくりと背筋に悪寒が走る。

 どうにか駆け足のまま階段を跳び上がり、扉を蹴破って屋上に逃げようとする。だがそこにはタイミングを見計らったように移動してくる人物が二人。

 

 

「ちょっ、アズリールさん待っ……ひゃっ!?」

 

「作戦通り。流石は白ちゃんってとこかにゃ?」

 

(───嵌められた、です!?)

 

 

 驚愕に喘ぐいづな。前から来るのはアズリールと、アズリールに抱えられたステフ。これはまずい。屋上へ行くのは危険すぎる。けれど後ろからは白が迫るというのにビル内へ戻るという選択肢は実質的にない。ならば、ここまで来たらやれることは一つ。隙を見てこの二人のようにビルからビルへ移動するしかない。

 現状最もヤバい相手は天翼種であるアズリールだ。討ち取れるならそれが一番理想的だが、時間がかかりすぎるしその前に白が追い付くから難しいだろう。この場合狙ってくる弾を迎撃するだけでも上出来と言える。なにより一番の悪手は、逃げることばかりに気を取られて何も対策をしないこと。そして背中を見せることだ。いづなは屋上に出るや否や、迷わずアズリール達のいる方へ正面から突っ込む。

 

 アズリールが銃を構えるといづなはボムを投げつける。これは目くらまし。迎撃しても爆発に紛れて逃走を許してしまう。即座に断じると、アズリールは爆発の範囲外ギリギリまであえて避けに行く。その間にいづなは跳躍。ボムの爆発による爆風を利用して屋上を横断する。

 いづなに脱出のタイミングがあるとするならここしかない、最適と言える瞬間。だがそれ故にリスクも大きかった。足場のない空中へ、アズリールとステフが左右から狙う。いかに獣人種の身体能力があろうが、空は、飛べない。回避行動が大きく制限される中、たった数回のアクションでこの二人の集中砲火を捌かなければならない。

 

 爆音に隠れて微かに聞こえた発砲音はステフから二発。連射というには些か少ないが、ゲーム自体初めてなステフの限界を考えれば今はこれでもギリギリなのだろう。なぜならステフは愚直なまでにいづなしか見ていない。やって来るのは当てるために全神経を集中させた二発。だがいづなは体を捻り、目視で避ける。

 遅れてアズリールからは四発。ステフより弾数は多いが、初撃を最小限の動きで避けられたおかげでいづなの余力は十分。次も避けられる、そんな確信があった。

 そして真っ先に飛んできた一,二発目は、だがいづなに向けられてはおらず。いづなの服の隙間を縫うようにかすめ、通りすぎる。この弾は避ける必要はない。いやむしろ、避けようとしてはいけない。動いたら当たってしまうと気づくと、慣性の法則に従って動く体を無理矢理引っこ抜いて止めた。元々軌道上になかった弾丸は、そのままいづなを素通りし空を切る。

 だが────

 

 

(もう避けられねぇ、ですっ!!)

 

 

 本来動けるはずだった体に急ブレーキをかけた結果、当然力は逃げてしまう。今のいづなに、アズリールの三,四発目を避ける術はない。

 咄嗟にいづなは腕を大きく振り上げた。軌道上にひるがえった振袖の袂にアズリールの弾丸が鋭く突き刺さり、消し飛ばす。

 弾丸ごとハートを散らせて消えるそれは、事前に聞かされていた通りの防御。だがそれは既に想定済み。そしていづなには他にもまだ誤算があった。この場でいづなを狙撃していたのは白、ステフ、アズリール()()()()()()ことに。

 

 

(ここまでが、計画通りだとしたら、です!?)

 

 

 ばっ、と顔を下ろせば、いづなが今まさに脱出したビルの入口付近から空が銃口を向けているのが見えた。白の攻撃から始まる一連の流れは、全てこの三点同時攻撃に収束される。

 空が囮として登場し、また攻撃もせず引き返したのも、いち早くビルの下に陣取るため。そして屋上から脱出を図るいづなを真下から狙撃するためだった。

 

 空から放たれる弾数、およそ五発。反撃、不可能。回避、不可能。ならばもう一度防御をと二枚目の振袖を犠牲にするが、いかんせん数が多い。ゆえにいづなは体勢を崩したまま、両足の靴を脱ぎ捨て弾丸にぶつける。

 満身創痍。盾代わりにするための服もほとんど残ってない。それでも()()()()()()()()()()凌ぎ切り、隣のビルへ降り立つ。そのまま即座に跳ね起き、本物の四足獣さながらに駆け去っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……仕留め……はぁ……そこね……た……」

 

「白のせいじゃないですわよ。取り逃したのは私達ですし」

 

「そうそう、誰かさんの弾はあっさり避けられてたし、あれはもう仕方ないにゃ〜」

 

「あの……なんで私なじられたんですの………」

 

「気のせいじゃないかにゃ♪」

 

 

 まだ爆煙が立ちこめる屋上で、白は激しく呼吸を乱していた。いくら精密機械のように動き、コンピューターも真っ青な演算を行おうとも、その身は僅か十一歳のただの少女だ。まして向こうでは兄妹揃ってヒキコモリ。現実のステータスがそのまま反映されるこのゲームにおいて、白の体力は壊滅的にない。

 打って変わって屋上までアズリールに抱えられて来たステフと、存在自体がチートじみたアズリールはまだ余裕があるといった様子だ。だからこそ自分達が仕留められなかったことはよほどショックだったのだろう。二人の表情は、口から出た言葉に反して随分と険しかった。

 

 

「でも空ちゃん、あいつ逃がして良かったにゃ?うちなら白ちゃん一人抱えても十分追いつけるのに」

 

「……なら逆に聞くが、いづなが血壊をしてきたらお前一人で勝てるのか?」

 

「うぐっ、そ、それは……」

 

「言ったろ、()()()()()()()()()()()()んだよ」

 

 

 そう答えるのは、下からいづなを狙撃していた空。戦闘を終えたアズリールが、白とステフを抱えて空が待つビルの一階、入口付近まで運んできた。

 ゲーム開始前、空がアズリールに話したのは“一対一で戦うな”というもの。白が体力を切らした今いづなを追いかけたところで、白はまともな戦力になり得ない。だがそんな此方の事情を知らないいづなは、追い詰められれば容赦なく血壊を使うだろう。すると誰一人としていづなを相手にできるものはいなくなる。

 

 そう、大衆の目には空達が圧倒的に優位に立ってるように映ったことだろう。 だがその実、空達はいづなに接近された時点で“詰む”のだ。

 彼等は自分達の勝利を微塵も疑ってないし、人類種ごときに後れを取るとも考えてない。故に切り札を切るのは本格的に危険を感じた時のみ。逆にピンチでもない限りは素の力だけで戦うことを選ぶ。それは彼等なりの、東部連合という世界三位の国に所属する者としてのプライド。そしてそこにしか、人類種の付け入れる隙はない。

 

 

「まあ第一目標は達成できたし、ひとまず移動するぞ。アズリール、白を休ませる為にそのまま抱えといて────ッ!!」

 

 

 ────パァン。

 

 

 空が最後に目にしたのは、最悪を告げる弾丸だった。

 

 

 

 

 




見事な死亡フラグ回収、詳細は次回。
次こそはきっと早く更新してみせますわ……。
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