旧き神話から新しき神話へ   作:うにゃりん

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途中まで書いてたのが1回消えて心折れかけてたけどどうにか気合いで書きました。
待ってくれてた人達には申し訳ない。今回ちょっと文字数少なめです。



第弐拾壱話 戦略と力

 

 

 

 

《観戦フロア》

 

 

 

 

 

(……無事アズリールと会えたみたいだけど。どう見る、フィー?)

 

 

 

 クラミーはここに来て一人で攻勢に打って出たステフの意義を汲もうと、相方のフィーに意見を求める。

 流れは今、完全にいづなの元にある。この劣勢をひっくり返すにはなりふり構っていられないというのも頷けるが。

 フィーは少しばかり逡巡をみせた後、生徒を諭す先生のように、共有した視界から見た自身の見解を述べる。

 

 

(ん〜、作戦としては理にかなってると思いますけどぉ、勝率って意味ならかなり無謀なのですよぉ)

 

(ええそうね、私も概ね同じ意見よ。正直、あの子が天翼種に敵うとは思えない)

 

(どうでしょう。案外本当にただの時間稼ぎなのでは?)

 

 

 フィーの言葉に同意しながら、ステフのことを思い浮かべる。このゲームが始まってからの、彼女の行動を。

 動きは鈍臭いし、武器の扱い方一つまともに出来やしない。おまけに空が撃たれた時はただ呆然とつっ立ってるだけ。

 お世辞にも運動が得意とは言えないだろう。

 なのに。

 

 

 

 ステフは本気だ。

 本気であの化け物(アズリール)を相手取ろうとしてる。

 

 

 

 白の記憶を持つクラミーだから、ステフが白をどう思ってるか俯瞰的に見ることができたし、その抱く感情も痛いほど理解できた。

 戦力に扱われない。

 そんなの、悔しくないはずがない。

 

 彼女に天翼種と渡り合う力などない。実力はきっとこのメンバーの中じゃ一番劣る。

 けれど、ステフの表情に恐怖や諦めの色は見られない。むしろそこにあるのは真剣さそのものだった。

 

 

「……殺る気満々って顔しちゃって」

 

 

 モニターに映るステフを見て、不意に口から零れる。

 否定的なその言葉と裏腹に、クラミーの口元は綺麗な弧を描いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

 

《ゲーム内》

 

 

 弾丸が、路地裏を走るステフのこめかみをかすめて奥へ飛んでいく。避けたなどと油断は出来ない。

 足を止めたら殺られる。走れ。

 ボムを煙幕代わりに地面へ叩きつけ、その間に移動する。

 

 

「はっ、はっ……走り続けるのって、やっぱキツいですわね……はぁ……」

 

 

 巧い────分かっていたが、ステフは改めて見て実感し、そして確信する。

 ゲーム開始時とは比べ物にならないほど、アズリールの射撃精度が明らかに上がっているという事実を。

 

 お互い初めてのFPS、スタートは同じ。片やステフなんて未だに当てるだけで精一杯だというのに。こんなところでも、改めて種族の性能差を感じさせられる。

 けれどそれを言い訳に逃げるようでは、空に怒られてしまう。ないものねだりをしても仕方がない。外してくれるなんて期待はとっくに捨てた。

 

 技術も身体能力も経験の差も、あくまで配られたカードの一つにすぎない。

 多少の戦力差なら努力次第でいくらでも埋められる。

 そう教えてくれたのは他ならぬあの二人だ。

 

 

 

「……戻って、きた……大丈夫、ゆっくりだけど追いかけてきてますわ」

 

 

 決戦の場は、白と別れた廃ビル。

 コンクリート剥き出しで、外からでも中が丸見えな荒々しい壁。崩れ落ちた瓦礫の山。強い力を加えれば抜け落ちそうな床。そして戦いの邪魔になるNPCはいない。

 必要なものは全て揃っている。何よりこれだけの悪条件、ステフはもとよりアズリールも動きにくくてしょうがないはず。

 

 

「あとは私の立ち回り次第、ですわね……」

 

 

 今のアズリールはまだ攻撃も単調だし走って追いかけて来ないが、それは此方が逃げに徹していたから。

 おかげでビルまで誘い込むことに成功したとはいえ、力を温存してることには変わりない。

 

 アズリールの表情は真剣とは程遠い。明らかにステフが逃げ惑う様をみて楽しんでいた。

 完全に舐められてる。

 

 

 そんなの、()()()()()()()()()

 

 

 弱いのは事実だ。今更それを否定するつもりもない。だがせいぜい油断してくれればいい。白達のため、エルキアが勝つためだったらそんなものいくらでもくれてやる。

 

 

 ────ゴォォウッ。

 

 

 室内で轟いた爆音に、とっさに資材の後ろに隠れ、息を潜める。入口付近に目を移すと、ドアを蹴破ったアズリールが爆煙を切り裂いて向かってきていた。

 

 

「来た……っ」

 

 

 ステフは手始めに、アズリール目掛けてボムを投げ込む。アズリールはすぐさまそれを察知。即座に迎撃すると、再び爆煙を生む。

 

 炸裂したボムが閃光と爆音を上げる中、爆発に紛れて二発の銃弾がアズリールを襲う。

 当然回避するかに思えたが、アズリールは後ろに下がるどころか飛んで来る方向に迷わず突っ込んだ。

 

 迫り来る弾丸には目もくれず、爆煙の先に向かって弾を撃ち込もうと銃口を構えるステフを捉える。そしてついに当たるかという直前、アズリールは体を捻り二発の弾の間を縫うように目視で避けた。

 

 

(弾を見て突っ込むとか、やっぱ頭おかしいですわね……)

 

 

 驚愕に喘ぐ。いづなといい空といい、戦闘慣れしてる者の考えは理解に苦しむ。どうしてそんな発想が出てくるんだ。

 

 混乱しつつも、しかしステフの思考と感覚は動き続ける。場所が割れた以上、もうここに留まる必要も意味もない。即座に断じるとその場にボムを投げ捨て、一階を後にする。

 

 階段に逃げ込み、そのまま駆け上がるステフ。勿論ボムの準備は怠らない。

 

 

「アズリールさんは、と……いえ、さすがにもう追って来てますわね」

 

 

 背後にアズリールの気配を感じ、咄嗟に階段下までボムを落とす。すると直後に四発もの銃弾が飛んで来た。そのうちの一発がボムへ直撃し、周囲を巻き込んで爆発する。

 

 もし今ボムを使っていなかったら。その先を考えてしまい、血の気が引くのを感じる。

 

 幸い階段内は狭く、爆煙が充満して此方の姿を隠してくれるため、それ以上の追撃はなさそうだった。流石のアズリールも未だ上ってこない。安易に踏み込むのは危険だと、本能で察したのだろう。

 その隙にステフは二階に飛び込む。三階に続く階段を探すと、先程同様にまた隠れる。

 

 

「けどこのままじゃ、ジリ貧になるだけですわ……」

 

 

 アズリール相手に、同じ手がそう何度も通用するとは思えない。

 二階へ上がってきたアズリールは続けざまに二発、三発とある程度あたりをつけて撃ち込む。射出された弾は瓦礫に当たり、跳弾。四方八方へと飛び交い、フロア全体を駆け巡る。

 

 やはり対応するのが早い。ステフは位置がバレることを覚悟でボムを投げると、すぐさま階段を上る。

 

 

 

 

 

 

 

「近づくな、とでも言いたげだにゃぁ……」

 

 

 遠ざかる背中を眺めながらそう呟く。別に不満なわけじゃないが、逃げられてばかりいても味気ない。

 少し遊ぶか。そう思い足に力を入れると、アズリールは階段まで一歩で踏み抜く。その速さは衝撃で床にあった瓦礫までも飛び散るほどに。

 

 階段を上るとステフへ肉薄する。その際またボムが飛んで来るが、横に動いただけのアズリールの顔をかすめ、下に落ちる。

 

 

「ま、まず……ッ」

 

 

 ステフの目視しうる範囲内にアズリールの姿が映る。

 直感が警告する。

 文字通り、一瞬と呼んですら生温い刹那の判断に、引き金を絞る。だが────

 

 

「狙いが甘いにゃ♪」

 

 

 その弾丸は正確に、狙いすましたアズリールの銃弾に迎撃される。

 放たれた発砲音は二発。一発目はステフの弾丸を迎撃するため。そして二発目こそ本命。

 

 再度閃くアズリールの銃口。だがステフ、今度は銃口に向かって左足を突き出す。ハートを散らし、左足の靴が砕け、銃弾と一緒に消滅する。

 

 

(発射されたら絶対に回避できないッ!撃たせちゃダメですわッ!!)

 

 

 ボムを地面に叩きつけるように投げ、爆発する前にステフは後ろへ跳ぶ。

 階段内で、至近距離のボム。その意味を瞬時に理解して、アズリールは地面に付くより早くボムを処理する。

 閃光と爆音が上がる。

 

 想定より早い爆発。僅かにステフが巻き込まれて上着を一枚失う。

 

 

(くっ……こんなの、いったいどうすればいいんですのよ……ッ!!)

 

 

 急いで三階に逃げる。

 いよいよ本当にジリ貧だ。

 

 ステフはひたすら足を動かし、思考を続ける。ボムで煙幕を作りながら、脇目も振らず次の階段だけを目指して。

 

 遅れて追いかけてきたアズリールが発砲する。視界を遮られて尚、彼女に躊躇うような素振りは無い。

 続く第二射で、ステフを捉える。運がいいのか悪いのか、弾の軌道上にギリギリ入ったことで服の一部が消失する。

 

 

(走れ……とにかく今は、絶対に……)

 

 

 追いつかれるな。そう自分に言い聞かせて足を前に進ませる。背後からもの凄い威圧感が追いかけてくるのを感じながら。

 体感したことで改めて実感出来る。自分が今相手をしているのは、勝負を挑むなどと思う事すらおこがましい、絶対的で絶望的な強者なのだと。

 

 

(彼女に()()?ハハッ、馬鹿じゃないですの……)

 

 

 白と別れて数十分が経過したこともあり、ステフの心は不安で押し潰されそうだった。

 アズリールは強すぎる。自分なんかじゃ到底勝てるわけがない。

 けど、別に構わない。アズリールの狙いが自分にあるのなら、今はそれでいい。敵を一人引き付ければ、それだけ白を危険な目に遭わさずに済むのだから。

 

 

(って、冷静になるんですのよステファニー・ドーラ!まだ負けたわけじゃないですわ……ッ!!)

 

 

 消極的な思考を振り払い、状況を分析する。

 今の自分がアズリールより優れている点。そんなものないに等しいだろう。だがこの時に限って言えば、自分の方が勝るものは確かにあった。

 加えて彼女は今、完全に油断している。

 大丈夫。

 あと少しの辛抱だ。

 チャンスは一度……ステフは胸中でそう呟いて、四階へ到達する。

 そこは見通しの良い大広間だった。

 がらりと閑散としたその広間の最奥には、次へと続く階段。だが────

 

 

「……へぇ、オニゴッコはもう終わりにゃ?」

 

 

 

 階段正面。そこにステフは悠然と佇む。

 

 

 

「流石に驚いたにゃ〜、まかさうちが仕留め損ねるなんて……」

 

 

 アズリールが、そのステフへ向かって悠長に歩み寄っていく。

 

 

「まぁいろいろしてたみたいだけど、雑魚にしては意外と楽しませてもらったにゃ」

 

 

 アズリールがおかしそうに、肩を震わせる。

 そんな仕草に、しかしステフは此方の狙いを悟らせないよう素っ気なく返す。

 

 

「悪かったですわね。こっちにも簡単には負けられない理由があるんですのよ」

 

「ふぅん……んじゃまぁ、くたばれにゃ♪」

 

 

 

 最後にそう言って、アズリールはステフに向かって構えた。

 対するステフも武器を両手に構え、一呼吸。アズリールから視線を逸らさず、その一挙手一投足に目を光らせる。

 

 奇しくもそれはステフがアズリールに啖呵切った、あの時と同じシチュエーション。

 

 ただ唯一違うのは、ステフに逃げる素振りがないこと。やり過ごそうなんて弱気な姿勢はなく、むしろその瞳にはここで討つという気概が見て取れた。

 そしてアズリールが撃ったと同時に、ステフも動いた。

 

 

「っ……」

 

 

 飛んできたボムに面食らうアズリール。だがそれも一瞬のこと。冷静に対処すると、轟音と共に爆発が視界を遮る。

 続け様に爆煙に向けて発砲するが、特に反応はない。

 

 また逃げたか。そう落胆するアズリールだったが、ステフはあろうことか爆煙を切り裂き、アズリール目掛け突撃してきた。

 

 再び面食らうアズリール。即座に迎撃しようと銃を構えるが、ここに来て彼女に誤算が一つ。

 これまで後先考えずに銃を撃ち続けたことで、アズリールの残弾が────ラブパワーが、先程の発砲で途切れたのだ。

 

 さらに言えばステフは、まるでそうなるのが初めから分かっていたかのように平然と、アズリールの懐まで潜り込んだ。

 

 

 

(まさか……最初からこれを!?)

 

 

 

 弾切れ。ステフがアズリールを追い詰めるために狙ったのは、その一点のみである。

 

 NPCのいない廃ビルを選んだのも、この状況を作り出すため。銃よりボムを多用したのも、攻撃より回避を優先したのも、自分の弱さで本来の目的をカモフラージュするため。

 

 全ては、アズリールを斃すため。

 

 

 

(この距離なら、いける……ッ!!)

 

 

 

 いくら天翼種といえどここから避ける手段など存在せず、またこの距離なら万に一つもステフが外すことはない。

 

 ステフもアズリールも、画面越しに観戦していた観衆ですら、その事実を理解していた。

 もはや誰の目にも今どちらが優勢なのか。どちらが討たれ、どちらが勝ちうるのかなど一目瞭然だった。

 

 故に獲った、と。そう信じて疑わないステフにも一つだけ、実は誤算があった。

 

 

 それはアズリールの────天翼種のことを甘く見すぎていたこと。

 

 

 別に警戒してなかったわけではないだろう。故に策を巡らせ、油断せずここまで来たのだから。それでも天翼種という種族を相手にするには、些か理解が足りていなかった。

 

 

 

「……っぐ」

 

 

 

 攻撃するために武器は必須。このゲームでの大前提。ただしそれは敵を仕留めるならばだ。迫り来る相手の対処方法は、討つだけが全てではない。

 特に今回のように明確な種族の性能差がある場合、追い詰められてもなおアズリールの取れる選択肢は多い。

 

 ステフが予測できないのも無理な話だろう。

 アズリールが武器を捨て、()()()()()()()()など。

 

 

「いや〜危ない危ない、流石に負けるわけにはいかないから、にゃぁッ!」

 

 

 ステフの努力はたしかにアズリールを追い詰めた。だがアズリールの────天翼種の身体能力はその努力を嘲笑うかのように、一撃で状況をひっくり返す。

 振るわれた拳は、ただそれだけでステフをビルの壁まで吹き飛ばしてしまった。

 

 引き金を引く間もない圧倒的な力。喉元へ届くはずだった切っ先が敵を貫くことはなく、一緒にしてその光景を絶望へと塗り替えた。

 

 

 

 

 




冷静に考えて武器を持たない方が強いとか頭おかしいんだよなぁ。天翼種と殴り合いの喧嘩とか、冗談でも笑えない。
あとこれゲーム内でなきゃ死んでるという。腹パン1発で骨折どころか粉砕するのに、人間が敵うわけ……。
ほんとどうすんのステフ???(考えてない)

あ、次の投稿はなるべく早く出来るよう頑張ります(震え声)
感想待ってます。
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