旧き神話から新しき神話へ   作:うにゃりん

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更新サボってました。言い訳はしません。
楽しみに待っていた方には本当に申し訳ない。

久々すぎて内容覚えてないと思われるので軽くあらすじ載せときます。


獣人種戦開始
 ↓
エルキア側4人vsいづな
 ↓
撤退後、空(リク)撃たれる
 ↓
空の狙撃でアズリール撃たれる
 ↓
白と別れる。ステフvsアズリール
 ↓
アズリール弾切れ、ステフぶっ飛ばされ気絶中

エルキア側:白、ステフ
東部連合側:いづな、空、アズリール




第弍拾弍話 誤算と意地

(っ……ぁ……)

 

 

 

 決着は一瞬だった。目の前まで迫っていたはずのアズリールの姿が遠のき、視界からも消えた。いったい何が。そんな疑問を持つ間もなく、ぶつかった壁との衝撃とそれ以上の腹部への痛みがステフを襲う。そこで初めてステフは自分が殴られ吹き飛ばされたのだと理解した。

 

 ステフは、死んでもおかしくないのに生きていた。

 

 肋骨の多くは砕けた。両腕も壁に激突した衝撃で折れている。身体は崩れたビルの瓦礫が突き刺さり、既にあちこち傷だらけだ。

 頭にはたんこぶにも似た打撲の痕があり、軽い脳震盪をおこしている。

 

 どうして動ける。どうして生きている。朦朧とする意識の中、その疑問だけが頭にこびりついて離れない。

 

 死んでもおかしくない。

 むしろステフのような育ちの良いお嬢様が死なないわけがない。

 

 しかしステフは生きていた。

 

 ここがゲームの中だから。

 

 外傷は目で見て分かるレベルのものばかり。文字通り()()()()()()怪我を負っているが、それでも死ぬことだけはない。

 

 ゲームシステムが作動すれば、数分もしないうちに怪我は治るだろう。故に彼女は生きていた。死ぬことを許されず、全力を賭して尚戦うために生かされていた。

 

 

 

(───あー…………痛い)

 

 

 

 どれほど時間が過ぎただろう。

 数秒か、数分か。気付いてないだけで数十分が経過したかもしれない。

 

 頭がぐらつく。考えが纏まらない。

 

 たった一撃でこの威力。それも体勢が不十分な上、咄嗟に振るわれた拳による一撃でだ。とはいえこれこそアズリールには過去の日常でしかない光景。

 彼女達が生きた時代を、ステフは知らない。大戦があったという事実とその知識はあるものの、思考や感情なんて以ての外。当然その片鱗に触れることすら未知の領域。

 そしていざ対峙して分かったのは、彼女が如何に理解の及ばない存在かということだった。

 

 平然と敵を殺せる力。そしてその力を何の躊躇もなく振りかざせる存在が、脅威が、アズリールの本性。それを理解など、したつもりでしかなかった。

 いくら肉体が回復しようと受けた痛みや殺気。脳裏に焼き付いた恐怖の二文字は、ステフの心を否が応にも蝕んでいく。

 

 

 ────雑魚にしては意外と楽しませてもらったにゃ。

 

 

 アズリールにはそれが分かっていたのだろう。何気なく放ったであろう僅かな言葉は、紛れもなく彼女の本心。あの一言がこの状況を悠然と物語っていた。

 言葉通り楽しんでるだけのアズリールに、必死になって戦う自分。その姿はどれほど滑稽に映っただろうか。一時追い詰めたのだって、アズリールの気まぐれと運が良かっただけにすぎない。

 

 勝てるはずがなかった。相手はアズリールで、天翼種で。

 土台からして違う。

 一矢報いることすら叶わない。

 

 打ち砕かれたささやかな自信。見せつけられた圧倒的な実力差。そして絶望的なまでの恐怖。齢十八の少女にとってはとうに心を壊してもおかしくない、あまりにも残酷で絶望的な現実であった。

 

 

「────そうやってまた、諦めて全部押し付けるんですの」

 

 

 口をついで出た言葉に、ステフは己の胸ぐらを掴んで歯の根を噛みしめる。

 敵が強大なのに対しどうしようもないくらい非力で。頼るべき味方はおらず、起死回生となるはずだった策はあっさり破られてしまった。

 

 また、そんな状況を言い訳にして、見て見ぬふりをしようとした。

 

 

 ────しろ、が……やら……やらな、きゃ……。

 

 

 砕け散ったはずのなにかが、ステフの心の中で叫んでいる。

 

 

「バカですわね、私。……いえ、()()()()()()

 

 

 不意に頭を過ぎった兄妹の顔。あの二人に追いつきたくて、少しでも役に立ちたくてここに来たはずなのに。それがたかだか数十分の時間稼ぎでどうして胸を張ることができる。

 白は感謝するだろう。空もよくやったと褒めてくれるかもしれない。けど求めていたのはそんな上っ面だけの言葉だろうか。

 

 弱音を吐くのは、慰めて励まして欲しいからのくせに。

 

 言い知れない何かが胸の奥から滲み、何処からか沸き上がってくる恐ろしい何かに身体が震えた。

 国民が見てるこの戦いで、誰よりも人類種の現状に絶望してる者達の前でこれ以上醜態を晒そうものなら、たとえゲームに勝利しても、きっとステフは耐えられない。

 壁に付いたその手が、段々と握り拳を作る。強く、強く握り締める。聞き入れる余裕もなくて軽く流した空の気遣いが、厭に鮮明に浮かぶ。

 

 

 ────落ち着けステフ。お前ならやれるさ。

 

 

 普段はあんな言葉絶対に言ってくれないのに。今更なはずなのに、空の声が酷く頭の中に響いた。それはいつまでも反響して、鳴り止まなかった。

 気づけばアズリールの元に向かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

 

 戦闘を終えた広間の端で、アズリールは窓から身を乗り出す。何処へ移動するでもなく、光の伴わない瞳でただその光景を眺める彼女。飛び交う光と激しい轟音は、どこか懐かしさを彷彿とさせる。

 

 大戦終結以降そのなりを潜めていたが、やはり彼女も天翼種。ゲームとはいえ久方ぶりな戦場の空気に当てられたのだろう。

 だが、ビル内の静寂を割く背後の気配に気付くと、呆れながら頭だけ振り返る。崩れ落ちた瓦礫の陰から玩具が戻ってきたのを確認すると、アズリールは深く、心底嫌そうな顔でため息を吐いた。

 

 

「んー、まだ勝つ気でいるのかにゃ」

 

 

 何しに此処へ────。

 そんな問い、考えるまでもない。必死な形相から、自分を探していたのは明白。何故かなんて決まってる。だが、これから彼女の口から告げられるであろう言葉の全てが、今はただどうでもよかった。初めから大した期待などしていなかったけれど。

 しかしステフにとっては、そんなこと知ったことではなかった。アズリールに再び挑むという行為は、彼女にとって恐怖の対象でしかない。

 ゾワリと背筋を這う何とも言えない感覚。胸を叩き、ステフは大きく息を吸い込む。一度止めて目をつむり、それから息を吐きながら目を開く。前を向けば正面、欠伸するアズリールがステフを見下ろしている。

 

 

「いえまさか。この期に及んでまだ勝てると思うほど私、頭のネジは飛んでませんわ」

 

「そんなこと言って口元、()()()()()()()にゃ?まぁ別にど〜でもいいけどにゃ。うちはそろそろ戻らないとって思ってたところだし〜?」

 

 

 アズリールはいたって冷静だった。今回の戦闘による自分の過失と、残っている敵の数、自分のこれからのこと。そしてステフという個人に対する興味。

 口調と顔つきこそ冗談まじりを装っているが、ステフに向くアズリールの視線を見ればそれが本心から出た言葉なのは明らかだった。主であるいづなへの忠義を思い出したのか、そこにステフと戦う選択肢はない。

 

 息を吐ききり、窓枠に足をかける。

 

 

「でもアズリールさん、戻って何するつもりですの?」

 

 

 ピクっと反応し一瞬、動きが止まるアズリール。再び振り返った彼女の顔は呆れた様子で、本当に何を言ってるかわからないようだった。

 

 故にステフは1つの事実を突きつける。敵に寝返ってからのアズリールは明らかに格下のステフと戦い、しかし倒しきることはできず、エネルギーも切れた。有り体に言ってそれは────

 

 

「今のアズリールさん、()()()()ですわよね」

 

「────は?」

 

 

 地雷だった。

 ステフも当然、それは分かっていた。けれど、こうでもしなければステフは戦いの土俵にすら上がれない。

 

 アズリールがステフと対峙する理由は、興味からだ。

 弱いのは知っている。震えているのも見て分かる。格付けは戦う前から済んでいた。それでも挑むと言うのなら、お前には一体何ができるのか。そんな好奇心にも似たような感情がステフを負うアズリールの心境だった。

 

 だからこそ気に入らない。

 

 戦う気のないくせに、勝てないなんて分かりきってるだろうに。

 なのにどうして、こんなにも心を掻き乱されるのだろう。

 

 

「よく聞こえなかったにゃ……うちが、なんだって?」

 

「ぁ……」

 

 

 それはまさしく“死”そのものだった。

 常人であれば死ぬ。常人でなくとも死ぬ。下位種族では到底耐えられない。これを前にして獣人種や人類種に違いなど些末なものだ。

 

 抱いていた幻想。昂っていた熱が引いていく感覚。恐怖が再演する。

 

 

「死にたいならそう言うにゃ」

 

 

 アズリールを逃がさない。口で言うのは簡単で、1度はできたからと慢心していた。こんな自分にもまだできることがあるんだと。

 

 それが如何に傲慢な考えだったか。できると信じて疑わなかったさっきまでの自分をステフは恨む。

 口だけに笑みを浮かべ、目元は笑っていないその表情が今は何よりも恐ろしい。これを相手に何度も挑発する勇気を、ステフは持ち合わせていなかった。

 

 ────声が出ない。

 

 空も白も、いづなもこれを相手に戦い、果ては勝ってすらいる。

 私には、覚悟が足りていなかった。

 そう思わざるを得ないくらいにステフは無力さを感じていた。

 怖い。

 怖くてたまらない。

 先程から手の震えが止まらない。手で押さえても恐怖と緊張で言うことを聞いてくれない。アズリールが手を出さないのが、こちらのことを見透かしているようだった。

 数秒の沈黙。決して長くはないその時間に、しかしアズリールはため息をまた一つ吐いた。それは呆れからか、怒りからか。

 

 

「ほら、なんとか言ったらどうにゃ?」

 

 

 瓦礫を一掴みして、投げる。避けることも出来ず飛んでくる悪意の塊が酷く痛い。やはり無理だったのだろうか。そんな後ろ向きな考えばかりが頭から離れてくれない。

 

 これはきっと罰だ。今まで、何もしてこなかった自分への。

 思えばいつも口だけだった。強くもないのに勝てると意気込んで、そのくせ文句だけは一人前。国の命運がかかったこんな大事な時ですら、数分で覚悟も揺らいでしまう。

 

 反応しないステフを面白くないと感じたのか、やがてアズリールも攻撃をやめる。此方に冷ややかな目線を送るものの、そこから立ち去ることはしなかった。

 

 

「っ……はぁ、はぁ」

 

 

 アズリールの言葉は高圧的で、殺意が高くて、けれど本当に殺されることはなく。そのことにほっとしてる自分がいて。

 心底、自分の弱さが嫌いになる。

 

 白のためだと理由を付けても、アズリールを前にするのはやっぱり怖くて。そう気づいてしまえば、何も喋ることができなくなって。自分の性根は、結局何も変わっていない。

 

 そんな自分が、()()()だった。

 

 アズリールから視線を落とし、自分の手のひらを見る。汚れを知らない、綺麗で真っ直ぐな手だ。

 ここがステフにとって分水嶺なのだろう。

 嫌だ。

 怖いのは嫌だ。

 泣きわめいて諦めるのなんて、もう何度もしてきた。けどそれ以上に、ここで諦めてしまうのはもっと嫌だ。

 だからこそ変わると決めたんじゃないか。

 

 ステフの瞳孔が開き、揺れる瞳を遠くのアズリールに向ける。瞬間、体中から湧き上がる恐怖の感情が再びステフの心を抉る。

 ここで逃げるのは今までの自分だ。

 

 思い浮かべるは、無謀だった自分。大した実力もないくせに何度も空達へ挑み、そのたびに返り討ちにされる姿。

 ゲームなら恐怖など感じない。ではこの状況、いったい何が違うという。空も言っていたではないか。ここはゲームの中だと。

 

 改めて自分を見直し罵倒する。

 油断するな、警戒しろ、安易に勝てるなどと思い上がるな。

 自分は弱い。本来なら守られるだけの立場で、天翼種相手に驕れるな。相手は強い。空達に比べれば弱くとも、自分より強い。

 

 強い、がそれだけだ。

 

 

「────ッ!!」

 

「言いましたよね。負けらんないんですのよ!」

 

 

 撃ってきたステフに目を見開くアズリール。とはいえそこは天翼種。予想外ではあるが反応が遅れることはない。

 もとより身体能力は限界値。迎撃ができずとも避けさえすればどうということはない。

 

 

(けどこの数。残弾が惜しくないのかにゃ?)

 

 

 銃口が光りアズリールに向けられる。明らかに攻撃に対する躊躇いが消えた。近づこうとするとその前に発砲して阻止しようとする。

 

 

「そんなんで当たると思ってんのかにゃ?何でそこまで必死になるにゃ」

 

「…………そんなの、()()ですわよ」

 

 

 空達に巻き込まれたからとか前国王の孫娘だからとか、そんなもの関係ない。

 ここに立っているということは、自分にもこの国のために戦う意思があるということ。

 

 これっきりでいい。もう一度、力を振り絞れ。もう二度と大切な人を失くさないために。仲間を救うために。

 不格好でいい。強がりで構わない。だから、今だけは笑え。

 

 

「はあああ!」

 

「────っ!」

 

 

 今度はステフが叫び、アズリールの元へ直接ボムを投げつける。

 いづなを迎え撃った時と同じだ。

 攻撃と予測を繰り返して常に先手を取る。主導権は握らせない。

 全てをぶつけろ。

 空から学んだ駆け引き。

 白から学んだ戦術。

 二人から学んだ全ての経験。

 

 撃つたびに、投げるたびに送られる電気信号で脳が擦り切れそうなほど痛い。

 かつてないほど回る頭。その判断力と処理速度は先程のアズリールの反応にも匹敵する。アズリールは広間を走り回り、その攻撃をひたすら避け続ける。

 

 

「当たらないのがまだ分からないかにゃ!!」

 

 

 弾幕をかいくぐるアズリール。ステフも銃口を向けるがアズリールの拳が振るわれるのが一歩早い。

 

 

「ぐぅ……まだ、まだぁ!」

 

 

 鳩尾をえぐる衝撃がステフを襲う。全身に走る激痛に、だがステフの脳は無理矢理起き上がるよう命令を下す。

 システムによる回復を待ってる時間などない。

 こんな痛みはただの錯覚。

 怪我をしたように見えるのは全て幻覚。

 頭を回せ。

 動きを止めるな。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 残弾が残ってないアズリールの決着は、相手を気絶させ行動不能にするのみ。彼女に冷静になられたら、その時点で全て水の泡。

 今の自分では届かないなら、さらに一歩先へと踏み込め。

 

 

「届けえええ!」

 

 

 撃つのをやめることなく、アズリールにさらに詰め寄る。

 アズリールも負けじと隙を見ては反撃するが、痛みも恐怖も関係ないとばかりにステフは立ち上がり攻める。

 そしてついにアズリールの服が消える。

 

 

「やばっ……」

 

 

 咄嗟に距離をとろうと体をステフの正面に向けたまま倒れるように後ろへ跳ぶ。

 ここにきての逃げの一手。それを引き出せたのはアズリールを弾切れにさせた戦術と、反撃にも屈しなかったステフの精神力の賜物だろう。

 だがまだ足りない。

 そもそもアズリールが本気で逃げようとしたらステフにそれを止める手立てはない。

 

 だからこれは賭けだ。

 

 アズリールがまだ油断しているか、はたまた何もできず蹴散らされるか。けれどそこに不安はない。

 故にステフは引き金を引いた。

 エネルギーを使い切り、残弾全てをぶつける。

 

 

「ぁあああああああああああ────っ!」

 

「なっ!?」

 

 

 今までの状態から『ステフは安全策を取り、深追いはしてこない』と判断していたアズリールは、完全に意表を突かれた形となった。

 だがアズリールに焦りはない。

 なにせここは左右も広く、障害物となり得る瓦礫の多いビル内。

 なんの捻りもなく突貫してくる銃弾など、目を瞑ってでも避けられる。

 アズリールは悠然と身を翻し。

 

 

「はぁ……もう終わらせるにゃ」

 

 

 投げやりに拳を構える。

 物理限界に迫る天翼種の全力が、ステフを真っ直ぐ襲う。

 これでステフは今度こそ、完全に心を叩き折られるだろう。

 そうして弾を全て避けた先にいるステフへ手を伸ばすが。

 

 

「くぅ───ッ!」

 

 

 顔を狙ったアズリールの攻撃。

 だがステフの身体がほんの僅かに横に流れ、アズリールの放った攻撃はステフの頬を鋭く掠めて過ぎる。

 

 

「にゃっ!?」

 

 

 この時、一瞬だがアズリールはステフのことを舐めていた。舐めてしまった。

 先程の攻撃でエネルギーは尽きただろうことは明白で。たとえ1発や2発分残っていたとしても撃つ余裕を与えない。

 

 そんな打算から逃げなかったことを、後悔することになるとも知らず。

 ステフはその突貫の勢いのままアズリールへ体当たりすると共にしがみつき、二人はもつれ合うよう派手にバウンドしながら転がっていく。

 

 

 途端、二人を支えていた床が崩れ落ちる。

 

 

 重力に従うように落下していく二人。その眼前に広がるのは積み上がった瓦礫の山と、添えられた無数のボム。

 二人が落ちるピンポイントで、事前に仕掛けておかねばありえない場所に、アズリールにとっての()()は待ち受けていた。

 

 

(不発弾!?そんな、いつから……)

 

 

 いつから。それを考えた時、アズリールの脳裏をよぎるのはこのビルに来た時のこと。

 誘い込まれたのは自分で、敵が選んだ舞台。

 いつから。

 そんなもの、()()()()だ。

 

 上の階層に誘導したのも、ボムの多発で視界を悪くしたのも、罠を仕掛けるために他ならない。

 おそらくこれは保険。

 真上から落ちる保証もない策など愚策としか言いようがない。本命は自分が弾切れになった時を狙うあの瞬間だったはずだ。

 

 ()()()()()

 

 思考を巡らせた刹那の時間。周りの景色がゆっくり進むと幻視するほどに加速したアズリールの脳内が示したのは、“死”の一文字。

 咄嗟に羽を打って避けようとするアズリール。

 だが羽はただ虚しく空を切る。

 

 

(飛べない!?なんで────あっ)

 

 

 アズリールにとって2つ目の誤算。

 それは戦いに身を投じすぎたことにより、ここがゲームの中だと瞬間的に抜け落ちていたこと。

 

 普段となんら変わらぬ動作で飛ぼうとした結果、体勢は立て直せず、迫りくるは夥しい数の爆弾(絶望)

 反撃、不可能。回避、不可能。

 ならば────と直撃だけは阻止するべく身をよじるアズリールだが。

 

 

「どこ、いくんですの」

 

 

 ────ゾワリ、と。

 背後から溢れる濃厚な死の香り。

 

 床が崩れたことにより落ちるのは、アズリールだけにとどまらない。自然落下に身を任せ後を追うステフ。

 アズリールが弱いと切り捨てた彼女はそこで、笑っていた。

 

 

「逃げないでくださいよ?」

 

 

 眼前のボムと背後のステフ。自らの失態や迫る敗北に対する感情でアズリールの脳はパニック寸前だった。

 床に落ちる直前、ステフがアズリールの身体を抱きしめ、押さえつける。

 反射的に身を翻し、ステフを踏み台に使うが。

 

 爆発。

 

 大量のボムが互いに誘発することで連鎖的に爆発。建物の階層をぶち抜く大爆発を起こす。

 モニターで様子を見ていた観衆にとっては、二人の姿を確認できないもどかしさばかりが積もる。

 何が起きた。

 画面はどうなってる。

 決着はとうなった。

 不安と、ほんのわずかな期待が入り交じったざわめきの後、観衆の目に飛び込んできたのは一人の女性に抱きつく()使()の姿。

 

 

「にゃ〜、キミってばもう、い・け・ず〜ッ!散々うちのこと振り回してくれちゃって〜〜〜〜〜────んでもッ!!そこが────んいいッッ!!」

 

 

 ハートマークに変わった眼差しで、殺意の抜けた柔らかな笑みで。いつもと変わらない、爛々と目を輝かせた表情をしたアズリールの姿。

 観戦フロアの熱が高まる。

 歓声と、怒号にも似た叫び声。

 

 勝敗は決した。

 

 

 【天翼種】アズリール vs【人類種】ステファニー・ドーラ

 

 勝者:ステファニー・ドーラ

 

 

 

 

 

 

 




獣人種戦これが書きたくて始めたまである。長かったね。
でも実際原作のステフとアズリールが戦ったら秒でステフやられます。
死ぬ威力のグーパン何回もされて立ち上がる今作ステフが頭おかしいだけです。

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