旧き神話から新しき神話へ   作:うにゃりん

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評価が貰えて嬉しい今日この頃。
まだまだ駆け出しなので文章も拙いですが、頑張っていきたいです。



第参話 夜明けと幕開け

 

 

 

 

 

「……どういう、ことですの?」

 

「……」

 

 

 少女の質問に対して、空はひたすら沈黙を貫く。

 いや、視界にすら入ってないのか。ピクリとも反応を示さない。

 

 部屋で寝ていた空と白。

 そこへ響いた、突然のノック音。気怠げに空が起き上がり出迎える。

 そこには昼間酒場にいた少女───ステファニー・ドーラが身ぐるみを剥がされ、ショーツ1枚の姿で佇んでいた。

 大方、ギャンブルで負けたことにより衣服を奪われて。路頭に迷い、宛もないので仕方なくここへ来た、といったとこだろう。

 こんなことなら、下手にアドバイスなどするべきじゃなかったなぁ。と、物思いにふけっていた数分前。

 だが、そんなことはどうでもいい。

 

 

 

 

 

 白が先程からずっと、睨みつけているのだ。

 

 

 

 

 

 いや、ステファニーを、ではない。

 残念なことに、白にさへも彼女は無視されている。

 というよりも、『眼中にないから帰れ』といった殺気に近い圧力が放たれている。

 人としての本能からか、瞬時にそれを感じ取ったステファニーは押し黙るしかなく。憂さ晴らしのように空へ質問をぶつけることしかできなかった。

 

 さて、そんな白はというと。

 目線の先にあるのは兄の瞳。

 彼女が入って来るまでは、まだ半分寝ぼけた状態だったのだが。その姿を見た途端に目を見開き、空へと詰め寄った。

 

 半ギレに近い白。涙目のステファニー。そして、そんな状況を作り出したにも関わらず理解ができていない空。

 異様な光景が広がる、この部屋に。

 どうにかしろよ空。と、つっこめる者はいないのであった。

 

 

「えっと……し、白……?あっいや、白さん?怒って…ます……?」

 

「むぅ……にぃ、有罪(ギルティ)

 

「いや俺が何したってんだよ……」

 

「ちょ、ちょっと!私を置いて勝手に話を進めないでもらえますっ!」

 

 

 声に気づき振り向く。

 空達は誰だこいつ? といった表情で首を傾げる。しばらくして、たった今思い出したようにポカンとすると、頬をポリポリと掻いた。

 

 

「まだ……いたの?」

 

「あーすまん、今日はもう帰っていいぞ。今絶賛取り込み中なんでな」

 

「いや、私まだ何もしてないですわよ!?はいそうですかと帰れるわけないじゃないですの!」

 

「うっせーな、わかったからさっさと要件を言え」

 

 

 涙目の少女に更に追い討ちをかける。なんという理不尽だろう。

 しかもこれが悪意のないものだから、より一層タチが悪い。

 若干キレ気味な心を落ち着かせるように、ステファニーは口を開く。

 

 

「昼間、すれ違いざまに言いましたわよね。『イカサマされてる』って」

 

「……やっぱり……負けた?」

 

「そ、そうですわ。それよりなぜイカサマとわかってて内容を教えてくれなかったんですの。それをバラせば勝てましたのにっ!」

 

「ふむ……【十の盟約】その八、ゲーム中の不正発覚は、敗北とみなす、か」

 

「おかげで敗北!国王選定から外れ何もかも終わりですわ」

 

 

 立ち上がって叫ぶステファニーに、空が耳をふさぐ。

 ボロボロと涙をこぼし、慰めの言葉の一つでもかけてやるべきものだろう。

 だが、そこは元ひきこもりとニートの二人。そんな経験、生まれてこのかた一度もない。方法など知ったことじゃない。

 とはいっても、そんな彼女に同情してやるほど、この二人は甘くない。

 

 

「つまり、負けて悔しいから、八つ当たり?」

 

 

 オブラートに包む気などない言葉に、図星を突かれたステファニーの歯が軋む。

 だが空は構わず、わざと下卑た目でその体を眺め回す。

 その顔には、人が変わったような嫌味な笑顔を浮かべて。

 そして、相手の逆鱗に触れる言葉を、慎重に選んで話を進める。

 

 

「なるほど。あの程度のイカサマも見破れず、身包み剥がされた挙句八つ当たりか。全く話にならん」

 

「なんですって!」

 

「しかも子どもに図星を突かれていちいち怒りを顔にだす。単純、沸点が低い、感情抑制もできない上に、リスクを恐れる保身的思考。ハッキリ言って“()()”。これが愚王の血筋なら、負けが込むのも当然だなぁ」

 

 

 知能の低い動物を哀れ見るような目で、見下すようにその顔を覗かせると、ステファニーの肩が震えだす。

 その表情は、明らかにキレていた。

 

 

 

「………撤回……しなさい」

 

「撤回?はは、なんで?」

 

「私はともかく、御爺様まで愚弄するのは許せませんわっ!今すぐ撤回しなさい!」

 

「怒るってことはまた図星か?さすがは愚王の孫娘」

 

「黙って聞いてればあなた───!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、ゲームをしよう」

 

 

「……え、あ、はぁ?」

 

 

 いきなりの誘いに戸惑う。だが警戒心むき出しで空の言葉を聞く。

 

 

「なに、難しく考えることはない。ただのジャンケンだ。

 ただし───俺はパーしか出さない。

 俺がパー以外の手を出したら、俺の負けだ」

 

 

「…………」

 

 

 

 パー以外を出したら負け?

 

 

 この男は何を言っているのだろうか。自ら自分が不利になる条件で、ゲームを持ち出すなど。

 けれど空の目は真剣で、冗談じゃないだろうことが伺えた。ステファニーは更に警戒を深める。

 

 

「賭けるのは何ですの?」

 

「おまえが勝ったら、おまえの要求を全て呑もう。

 おまえが負けた理由、イカサマの真相を教えてもいいし、愚王を愚王呼ばわりしたことが気に入らないなら、この場で死ねと言うのもありだ」

 

「なっ!?」

 

「……で、俺が勝ったら。逆におまえが、俺の要求を全て呑むわけだ」

 

 

 楽しそうな、だが氷より冷たい表情で平然と言う。

 不気味に笑みを張り付かせ、下品にも、醜悪にも、そして冷酷にも思える口調で、空は続ける。

 

 

「こっちはたかがジャンケンに命を賭けんだ。そっちも貞操とか色々、賭けてもいいだろ?」

 

「……引き分けたら?」

 

「俺はイカサマのヒントだけ教える。そのかわり、些細な願い叶えてくれないかな。手持ちで数日は凌げそうなんだが……ぶっちゃけここで4泊した後、宿も食い物もないんだわ」

 

「つまり、宿を提供しろ、ということですの?」

 

 

 ステファニーの言葉に、空はニッコリと笑顔で応じる。

 なんてことはない。

 しばらくタカらせろと言いたいわけだ。

 

 

「どうする?やめとく〜?

 まぁ、相手のイカサマを今更知った所で、もう王の資格はないわけだし?防戦大好きな人みたいですし、そんなリスク背負う必要ないしな、断っていいよ別に」

 

 

 あからさますぎる挑発。

 分り易すぎるその挑発に、しかしステファニーはあえて乗る。

 

 

「……いいですわ、やりますわよ。【盟約に誓って】」

 

「オッケー、じゃあこっちも……【盟約に誓って】っと」

 

 

 ニヤニヤと、目以外で笑って、空は誓いを立てる。

 だがステファニーの頭の中では、既に猛然と思考を巡らせていた。

 

 

 パーしか出さない?

 そう言われて、ほいほい私がチョキを出すと思ってるのかしら。

 上手く罠にはめたつもりでしょうが、この勝負3分の1の確率で引き分ける。

 回りくどいことをして、結局この男は宿が欲しいだけ。つまり引き分け狙い。

 そしてイカサマも本当はわかってない。

 こんなところが真相じゃないかしら。

 

 私が素直にチョキを出したらグーを出して、『はい予定通り〜バカ正直乙』とでも笑うつもりなんでしょう。

 しかしパーを出せば、ほぼ確実に引き分けられて結局相手の思う壷。

 この男、私が絶対グーを出さないと思ってる。

 唯一、負ける可能性がある手だからっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……とか、考えているんだろうなぁ』

 

 

 ヘラヘラと、しかし的確に相手の思考を読み取っていく。

 別に大したことではない。相手は怒りで行動に身を任せているのだから、考えを理解するのは簡単なことだ。

 その程度のこと、昔からずっとしてきた。

 このまま勝負に勝つことなど造作もない。

 

 だが、コロンの顔が脳裏をよぎる。そのせいか、どうにも無下に扱うことができない。

 情けをかけるつもりはない。むしろ真面目に勝負しなければ失礼だ。心残りがあるとするなら、それは純粋な疑問。

 彼女がこんな簡単に引っかかるだろうか。

 自分が想いを託し、任せた彼女が。そしてそれを受け継いだ子孫が。

 

 少しばかり試してみる。空はそう思って、途端に表情を変える。

 そこに先程までの憎たらしい軽薄な姿はなく。

 冷徹に、ただ冷静に勝利を確信する、薄い笑いだけがあった。

 これでも気づけないようなら、お前には興味はない。そう言わんばかりの表情で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果だけで言えば、勝負は引き分け。

 冷静になったステファニーが、チョキを出し。

 そしてその思考を全て読み切った空が、グーを出したことで、勝負はついた。

 ステファニーは膝を折り、未だ床に手をついている。

 

 超オマケしてギリギリの合格、っといったところだろう。

 最初にグーを出すと決めた段階から手を変えないようなら、用済みと判断して即座に切り捨てるつもりだった。

 だがそこで踏みとどまらず、冷静になって手を変えた。

多少評価を改め直さねばならないだろう。あくまでも多少だが。

 

 

「さてと。これで俺は、命令一つでお前をどうとでも出来るわけだ。

 俺に一生服従と言えば、奴隷のように傅かないといけないわけだし。死ねと言われりゃ、その場で即ゲームオーバーだ」

 

「……ッ!!」

 

 

 返す言葉もない。

 自分のミスで状況を悪くしたと気づけば、時すでに遅し。

 一度止まっていた涙がまた溢れそうになり、文句の一つすら出てこなかった。

 

 

「まぁ落ち着けって。そんなことされたくないだろ?だから俺は命令なんかしない」

 

「……えっ……ほ、本当ですの?」

 

 

 空の言葉に、ステファニーは目を丸くして驚く。

 当然と言えば当然だろう。賭けの対価を払わなくて良いと言われれば、誰だって聞き返したくもなる。

 空が本当にそれだけで済ますわけないのだが。そんなことステファニーは知る由もない。

 

 

「ま、その代わりと言ってはなんだが、いろいろと教えて欲しいのよね。ぶっちゃけ俺ら、この国の置かれてる状況とか何一つ知らないし」

 

「……そ、そんなことでいいんですの?」

 

「他にもあるけど、とりあえずそうしないと何もできんしな」

 

 

 これが空の真の狙い。盟約を盾にした半ば脅しに近い行為によって、命令権を残したままの服従を考えていた。

 これで全て計画通り。と思いきや、ここまで口をつぐみ状況を眺めていた白が、割って入る。

 

 

「……えーと、にぃ?」

 

「どうした妹よ。兄のパーフェクトプランに感動して声も出ないか?こういった物は、残しとくことにこそ価値があるんだぞ」

 

「回りくどい。隷属させてから……八百長で、ゲームすれば、同じことじゃない?」

 

「いやいや何を言う。それじゃそのうち、命令を待つだけで自分から考えることを辞めちまうだろ?ある程度泳がせといた方が面白い」

 

「頭、悪そう……だけど……大丈夫?」

 

 

 どうやら、白のお眼鏡にかなわなかったようだ。

 だがこの娘、腐っても王族。どうにか引き込んでおくべきだろう。

 白への言い訳を考えていると、泣いていたはずのステファニーが立ち上がり、こちらへ睨みを効かせていた。

 

 

「全部聞こえてますわよ!てか妹さん、隷属とか頭悪そうとか、私を何だと思ってるんですのっ!?」

 

「じゃあ……今の状況、理解できてる?」

 

「馬鹿にしてますの!?って、私が馬鹿でしたわね。引き分け=負けって状況を作ったばっかりにこんなことに……」

 

「ほら見ろ、妹よ。最低限のことは理解できてるんだ。多少は頭が回るみたいだぞ」

 

「……ん……小学生みたい、とか……思って……ごめん、ね?」

 

「あなた方、いったいなんなんですのよぉぉぉ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところ変わって、王宮の浴室。

 マスターを脅すようにして獲得した連泊を、1泊もすることなくチエックアウトした、翌日の朝。

 

 

「……で、何故私は裸にされてシロの髪を洗わされてるんですのッ!」

 

「話を聞いてなかったか?そうしないと白が風呂に入らないからだよ」

 

「……うぅ……にぃ、嫌い」

 

「妹よ、おまえはちゃんとすれば、すげー美人さんなんだから、ちゃんとしろって」

 

「……美人じゃなくて……いい」

 

 

 

「……って、いやそうじゃなくてッ!」

 

 

 

 兄妹らしからぬ会話に、一瞬呆気にとられたステフだが無視して。

 それより、と二人の会話へと割って入る。

 

 

「なんで私、使用人みたいなことさせられてるんですのよ。あなた方の要求、いろいろ教えて欲しいって……」

 

「はー……だから『()()()()』頼んで聞いてんじゃねぇか」

 

「そういう意味だったんですのっ!?うぅ……もう驚くのも疲れましたわ」

 

 

 もはや諦めたかのように俯くステフ。

 そもそも負けた立場なのだから仕方ない。この二人に慈悲はないのだから。

 すると昨日の会話内容を思い出して。ハッと顔を上げ、空のいる方向へと視線を向ける。

 

 

「そういえば言ってましたわよね。この国がどーとか、知らないとかって。ソラ達はまさか人類種じゃないんですの?」

 

「おいおい、ステフはこの姿が獣にでも天使にでも見えるってか?」

 

「悪魔になら充分見えますわよ。いえ、そういうのが言いたいんじゃなくて」

 

 

 そう言われても、異世界や日本などと話しても理解してくれるとは限らないため、迂闊には話せない。

 こういう系のお話では、信じて貰うのがネックになるお約束イベント。

 ステフにその辺の知識がなければ、空と白はおかしなことを言う人、というレッテルを一生貼られてしまうだろう。

 

 余談だが、ここへ来るまでの間にお互いの呼び方が決まった。ステフ呼びは、元が長くてめんどくさいというなんとも身勝手な理由だが。

 

 

「……にぃ……ステフって、馬鹿じゃないっぽいし…良いんじゃ?」

 

「もしかしてシロ、まだ私のこと馬鹿にしてます!? 私これでも、国内最高のアカデミーを首席で卒業してますわよッ!」

 

「サラッとえげつない経歴言ったな。さすが王族ってことかよ。

 まー別にそれなら言ってもいいか。俺ら“()()()()”なのよ。今まで暮らしてたのはここじゃない場所ってわけ。分かるか?」

 

 

 空は悩んだ末に、自分達のここに来るまでの経緯を話す。なんだかんだ言っても、ステフのことはある程度信用しているのだろう。

 最初こそ要領を得ない、といった顔をしていたステフだが、やがて納得したかのように頷いた。

 

 

「あぁ……そういうことでしたのね」

 

「意外だな。もっと驚くもんだと思ってたが」

 

「召喚魔法なども存在していますし、ありえる話ですわ」

 

 

 この世界に召喚魔法がある。つまり自分達はそれによって呼び出されたと、そう言いたいわけだ。

 それを聞くと、何か思うことがあったようで、空は急に真剣な顔になる。

 

 

「……なぁステフ、召喚魔法とか異世界人とかって、頻繁に見るの?」

 

「いえ、私も言葉だけなら知っているってレベルですわ。

 実際に異世界から来た人と会って話すなんて初めてですし、たぶん私じゃなくてもこんな体験したことない人がほとんどだと思いますわ」

 

 

「ふーんそっか」

 

「にぃ……?」

 

 

 空は平然を取り繕って頷いたつもりだったが、変に違和感を持たせてしまう。

 突然の質問にステフは困惑していたが、白は心配そうに兄の様子を伺った。

 空はその言葉を皮切りに顔を俯かせ、そのまま黙り込んでしまう。

 自分を納得させようと、自問自答のように()()と対話する。

 

 

 

 

 

 何故俯く

 

 

 ───信じたかった。もしかしたら、ありえない話じゃないと。

 でも現実はいつだって残酷なもので。

 理不尽で不条理で不合理で。淡い期待など、するだけ無駄だ。

 

 

 期待?今更何を?

 

 

 ───あぁ、少しでも期待したのが間違いだったよ。そうであってほしいと思って。でも本当は、心のどこかで気づいていたのに、見て見ぬふりを続けて。その事実から逃げようとして。

 

 

 こんなことになってすら、まともに現実を視認できないなんて。ほんと、つくづく自分が嫌になる。だってそうだろ。

 

 

 

 

 

 あんな思いは、()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、何なんですのあの兄妹」

 

 

 風呂から上がった後、ステフはぶつくさ言いながらもてなす準備をしていた。

 

 

「お嬢様、お茶ならば私共が」

 

「いえ、このくらいいいんですのよ。むしろこのままいいように使われて、黙っているわけにはいきませんわ」

 

 

 使用人に声を掛けられても、手を止める様子のないステフ。

 妙に気合いが入っているのは、自分自身のプライド故か、それとも───

 

 

「だいたい一度勝ったくらいで良い気になるな、って話ですわ。私をこき使おうったってそうはいきませんわよ」

 

 

 

 現在進行形でこき使われている事実に、ステフは気づかない。

 そもそも頼んでもいないのに勝手に始めたのは彼女であり、空達への八つ当たりはお門違いなのだが。

 

 

「たしかにあの服を着てる姿はグッと来ましたけど……って私は何を考えて!?」

 

 

 そうして一人悶絶しているうちに、準備を終わらせ、部屋へと戻る。

 

 

「これ以上あんな異世界人に利用されてなるものですかっ!

 お待たせ致しましたわ!」

 

 

 ステフは愛想笑いをして扉を開けるが、そこに空達の姿はなく。

 階段を登った先。ベランダに続く扉が開かれ、風にカーテンが揺れていた。

 

 二人はテーブルへと腰掛けていた。

 空は視線を外へ移し、遠くを眺めて物思いにふけって。

 白はそんな兄の足を背もたれに、本を読んでいた。

 先程までの二人とは打って変わって大人しい。

 白は集中しているため当然だが、白を気遣うように、空も一言も発しない。

 ステフが近づくと、それに気づいて空も反応する。

 その表情は、どことなく儚げだった。

 

 

「国王選定戦が行われてるわりには、随分と活気がないな」

 

「これでもエルキアは、人類種(イマニティ)最大の国でしたのよ」

 

「人類種?」

 

「“じんるいしゅ”ですわ」

 

 

 聞き覚えのない単語を聞いた空は、それがなんなのか一瞬戸惑う。

 ステフは持ってきた菓子をテーブルに置くと、目を細めながら説明する。

 

 

「かつて人類種の国は、世界に幾つもあったんですの。でも、御爺様が国王になった時には既にジリ貧で、エルキアを残すのみ。領土を取り戻すには、国盗りギャンブルに挑むしかない状況でしたの」

 

「てことは相手は人類……人類種じゃなかったってことか。人類種以外には今何がいる?」

 

「そうですわね……神が十の盟約を適用した、知性ある種族は全部で十六。それを総称して私達は『十六種族(イクシード)』と読んでいますわ。

 唯一神に敗れた一位の神霊種(オールドデウス)、二位の幻想種(ファンタズマ)、三位の精霊種(エレメンタル)

 魔法が得意で、エルヴン・ガルドを世界一の大国に押し上げた七位の森精種(エルフ)

 

「待て待て、その一位二位ってのはなんだ」

 

 

 空はまたも初耳となる単語を疑問に思う。

 聞いた部分はスマホでメモを取っているので、さすがと言うべきか。

 ステフは空を見て一呼吸置く。

 

 

「位階序列ですわ。魔法適正の高さで決まっているらしいのですけど」

 

「……てことは人類種は十六位(最下位)か」

 

「そう、ですわね……けど仕方ありませんわ。魔法適正値0ですもの」

 

「魔法が使えない、感知すらできない、という訳か」

 

「……ッ!!よく分かりましたわね」

 

「いや別に。ただ人間が魔法なんてもん振りかざすとこが想像できなかっただけだ」

 

 

 人間は魔法を使えないし、使われたことにすら気づけない。

 一方的に、見破れないイカサマを使われては、勝ち目がない。

 

 ───とでも思ってるなら、負けが込むのも当然だろう。

 

 合点が行った様子で深く頷く。

 そこへ、白がちょうど本を読む手を止めた。

 

 

「……にぃ、おぼえた」

 

「お、さすが」

 

「……え?何を、おぼえたんですの?」

 

「なにって、人類語だろ」

 

 

 白の頭を撫で回していると、ステフが呆然と眺めてくる。

 意味がわからない、といった様子のステフに、逆にきょとんとした顔で空はさらっと言ってのける。

 本来ならばステフのような反応が普通だが、この二人に常識は通用しない。

 

 

「にぃは……どう?」

 

「ん?ちょっと貸してみろ……あーえと、たぶんこれなら読めそう」

 

「やっぱ、チート……それ」

 

「暗号解読は白に勝てる数少ないジャンルだしな。まぁ今回は似たような文字を見たことあってな……ステフ、どうした?」

 

 

 唖然と、二人のやり取りを眺めていたステフ。

 信じられない物を見たような目で、声で、顔を引きつらせる。

 

 

「あの……聞き間違いですの?言語を一つ覚えた、って言ったんですの?」

 

「うん、そうだけど?」

 

「……こくっ」

 

「ありえませんわ!こんな短時間で?冗談ですわよね?」

 

「音声言語が一致してるから、簡単。でもにぃ、早すぎ」

 

「言ったろ、偶々似たもん知ってたって。一目見ただけだし、さすがに全部理解できてるわけじゃねぇしな」

 

 

 当たり前のことのように、さらりと言ってのける二人だが。

 言葉が同じ、会話ができる、文字を覚えるだけ。

 これだけ並べると、たしかに簡単そうに見えるだろう。

 しかし。

 

 “誰にも教わらず”それをやるのは、『学習』でなく『解読』だと。

 

 その重大な事実が織り込まれていない。

 そして短時間でやってのけ、誇りもしない。

 もはや己の理解を完全に逸した生き物。

 ステフはそんな二人を見て背中に寒気が奔るのを感じる。

 ひょっとして、とてつもない人達に出会ってしまったのではないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 書斎に篭り、二人は一晩中調べ物をしていた。

 膨大な数だったが、それ故にわかることも多かった。

 

 

「なぁ、ステフはなんで王様になりたかったんた?」

 

「……」

 

 

 ふと、興味本位で聞いてみる。

 特に気になったわけではない。ぼーっとしてて、偶々口から出た疑問。

 だが、それは失言だったようだ。

 

 何も言わずに押し黙るステフ。

 そんな彼女を見続けていた空だが、やがてその視線を左にずらした。

 

 

「……別に言いたくないなら無理に聞かんぞ」

 

「っ……」

 

 

 ステフは言葉に詰まり、歯を噛み締める。

 手すりを握りしめていた指先までも震え、いつも以上に何かを堪えているように感じた。

 

 だが何かを決意したのか、街の喧騒を哀しそうに眺める。

 そして、ポツリと、言葉を絞り出した。

 

 

「私は………このエルキアを、救いたかった……」

 

「そっか……やっぱお前、あいつの子孫だな」

 

「え、な、何ですって?」

 

「いや、なんでもない。それだけ聞けりゃ満足だ」

 

 

 独り言のつもりだったが、またも口から出てしまっていた。

 幸いステフには聞こえていなかったようで、いつも通りに振る舞う。

 涙まじりのステフの頭を軽く撫でると、大きく伸びをして、頬を叩く。

 そして白も本を閉じ、その場から立ち上がった。

 

 

「うっし!白、どう思う?」

 

「……白は、にぃに……ついてく。約束通り……どこへ、でも」

 

「即答か。こっちは結構覚悟固めるのに」

 

「……嘘……にぃ、たのしそう」

 

 

 白は相変わらず無表情。

 だが、兄にだけ分かる程度の笑顔を浮かべる。

 空もそれに返すよう口元を緩ませて、苦笑する。

 

 

「ははっ、やっぱわかる?さてと、じゃあステフ。お前の爺さんが正しかったと証明しに行くぞ」

 

「……え?」

 

 

 慌ててついて来るステフ。

 その気配を背後に感じながら、ケータイのタスクスケジューラーに項目を増やす。

 

 

『目標』:とりあえず王様になってみる。

 

 

「ちょいと王様になって、領土取り戻して来るか」

 

 

 

 

 やることは多い、“次”は俺の番だ。

 

 

『“次”を、“後”を……任せる』

 

 

 唐突にその言葉を思い出す。

 そういえば昔、そんなことも言ったっけ。

 結局それが最後の別れの言葉となってしまった。

 迷惑ばかりかけて、ものすごく心配させて。今まで自分は何も残してこれなかったんじゃないか。

 

 

 本当に今まですまなかったと思う。そんで。

 

 

『ずっと……ありがとうな』

 

 

 ───あとは任せろ、()()()

 

 

 

 

 




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