旧き神話から新しき神話へ   作:うにゃりん

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原作10巻表紙公開!!地精種っ娘良いですね〜今までのキャラ達とはまた違った可愛さがあって。
早く読みたすぎて若干テンションがおかしな方向になってます。



第陸話 愚者と弱者

 

 

 

 

『…………なんとか勝てた、か』

 

 

 クラミーを破っての勝利に周囲が歓喜する最中。空の内心は、今にも壊れそうなほど疲弊していた。

 それもそのはず。

 この世界に来てから。いや、()()()から今に至るまで。

 もちろん、無意識や無理矢理に出てくることは何度かあった。

 ここ最近は特にそのことが顕著であった、が。

 自らの意志で枷を外したのは、今回が初めてだった。

 久しく感じてなかった感覚。

 身体は麻痺したように正常に機能しない。

 意識は一点にのみ集中される。

 脳は擦り切れ、息も切れた。

 周囲にそれを悟らせないのはさすがと言うべきだろう。

 

 

『……ほんと、ままならない…よなぁ……』

 

 

 こんな状態、昔なら数時間経てば全快する程度のもの。だが今はすぐにでもベッドに横たわりたい気分だった。

 免疫力の低下もそうだが、これはそれ以前の問題。

 

 

『ちゃんとケジメは付けろ、ってか……ははっ、全く……』

 

 

 吐き気がする。己に対する狂おしいほどの憎悪が、喉を灼いた。

 目を閉じれば、瞼に焼き付いたように浮かび上がる、いつもの景色。

 赤く灼けた空、碧い黒灰が積もる大地、それが地平線の彼方まで続く光景。

 何処か諦めに近い感情を覚えながら。

 もういつぶりかもわからない、長らく忘れていた呪文を唱える。

 もう一度、しっかりと。

 

 

 

 

 

 ────ガチャンッ、と。

 

 

 

 

 

 普段より数倍重たく鍵をかけた音に、目を開けた。

 もう間違えることはない。

 何度も繰り返す真似はしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やれるか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あぁ、やれるさ───“テメェ”なら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もはや聞き慣れた問答を頭の片隅へ寄せる。

 今更こんなことに構ってられない。

 ならばいつまで続ける気だ? と、問う声が聴こえた気がした。

 聞かれるまでもない。そんなの、とうの昔から決まっている。

 

 

『いつまで、か…………()()()()()、だよ』

 

 

 この生き方を変えれるとは思えないし、変えようとも思わない。

 

 

 自分のことは自分が一番よくわかっている、という言葉を何処かのお偉いさんが言ったそうだが。

 んなもん知るか、と一蹴してやろう。

 それができりゃ人間そう苦労はしない。

 悩んで、悔やんで、泣いて。

 失敗に失敗を重ねて、何が間違っていたのか、何が正しかったのかを模索する。

 そうした負の遺産の上に今の自分がある。

 幸せだった過去には戻ることはできない。いや、それを求め縋っているようではダメなのだろう。

 欲しかった選択肢は常に、『共に死ぬ』か『共に生きる』のどちらか。

 ならば『一人生き続ける』という選択をされた自分は、遺してきた者のため生きる。

 それが最低限の恩義で、礼儀だ。

 

 

 

 

 だからこそ今も尚探している。

 

 

 

 

 

 自分自身の、生きる意味を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「す、すごい……」

 

 

 圧倒的、鮮やかすぎる勝利劇。

 城全体が震えるほどの歓喜の中、そう呟いたのはステフだった。歓声を上げる観衆達は、ことの真相を理解してないだろう。

 だがステフだけは理解していた。

 空達の戦術、セリフの全てがわかったという意味ではない。

 彼らの言う世界とやらがどのようなのか、知る由もないのだから。

 だがあの人、クラミーが強力なバックアップを受けており。

 今繰り広げられた勝負はそのイカサマ魔法が仕込まれたゲームであり、それを正面から挑み破ってみせた事実だけは理解していた。

 

 間接的とはいえ、世界最大の国であるエルヴン・ガルドに真っ正面から打ち勝ったことを意味して。魔法を駆使する種族に、ただの人間が勝利してみせたということ。

 それはステフが知る史実上、一度としてない例のない快挙。

 

 

「………本当に、人間なんですの?」

 

 

 畏怖、恐怖さえ芽生えさせ、そう呟かせた。

 湧き上がる城内に反して、敗北したクラミーはうつむいたまま沈黙する。

 それを一瞥することもなく、颯爽とテーブルを離れた。

 ステフの元に歩み寄ってきた兄妹を、一瞬どう対応していいかわからなかった。

 魔法という絶対的なイカサマを使う敵を正面から下し、勝利に喜ぶ様子すらない。

 

 

 

 

 

 “『  』(くうはく)に敗北はない”

 

 

 

 

 

 それを証明するように、勝利して当然という佇まいの二人。

 そんなステフの葛藤などつゆ知らず、空は気楽に言う。

 

 

「これでいいだろ?」

 

「……ぇ?」

 

「おまえの爺さん───前王が愚王だった、と言われずに済むだろ。なんの後ろ盾もない、人類最強の『  』(おれら)が王になれば、賢王だったことになる」

 

「……これで、エルキア……滅びない、よかった、ね……ステフ」

 

 

 言葉に迷って、悩んで。

 自分が彼らにされたことを考えてもみたが、その全てを補っても余りある結果。

 今はただ、目から零れた雫に従って、素直に口にすることにした。

 

 

「ありがとう……本当に、感謝しますわ……ぁっ」

 

 

 若干嗚咽が混じり、聞き苦しくなる。

 ステフの頭を、背伸びしてぽんぽん、と撫でる白。

 更に涙が溢れるのを、ステフは抑えることが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 城内が未だ歓喜に見舞われる最中。

 ぽつりとこぼれたクラミーの呟きは、歓声にかき消された。

 

 

「こんな……はず、じゃ……」

 

 

 何がいけなかった。

 どこで読み違えた。

 振り返っても出てくるのは幾つもの後悔。

 自分を貫いた結果失ったものは多く、それにより得られたのは敗北の二文字。

 フィーの助力というバックアップがあったにもかかわらず、あの兄妹には届くことすらできなかった。

 ミスも誘発した。あと一歩のとこまで追い詰めもした。それでも感じてしまう自分との圧倒的な実力差。

 どんなイカサマを使ったか見当もつかない。それを差し引いても、己の未熟さ、不甲斐なさを痛感する。

 彼らの結果だけ振り返れば、文句を挟む余地もない勝利。 誰の目にも疑いようのない、人類の王としての希望まで魅せつけての勝利。

 

 それにひきかえどうだ。

 高圧的な指揮、イカサマの露見、森精種との繋がり。

 どれをとっても自分に優れた点は何一つない。

 人類種を想った行動で、人類種の国民を不安にさせる。皮肉なもんだ。この国のためなんて、どの口が言う。

 今までしてきたことが全て無駄だったようで。自分の積み上げてきたものは無意味に思えて。誰からも望まれない私には、それをわかってくれる相手さえいない。

 

 

 “どうして私だけ”と、何度そう思ったことか。

 

 

 いつも笑うのは見知らぬ誰かで。

 幸せになるのも自分以外。

 間違ってると主張するのは自分しかいなくて。

 それを否定するのはその他大勢。

 踏まれて貶されて怨まれて諭されて罵られて憎まれて。何度も挫けそうになって、それでも最後は勝つためと自分を押し殺したのに、一体いつまで耐えなければいけない。

 

 それともまだ足りないというのか。

 辛い現実を目の当たりにしてなお来るかもわからない希望を信じて待ち続けろ、と。全く残酷なことを強いるものだ。

 まだまだやれることもあるかもしれない、けど。

 もはやそんなのどうでもいい。

 あれだけ頑張って努力してきたのに無駄に終わったんだから、今更何ができるって言うんだ。

 

 気づくと歓声に沸く城内が、空がクラミーに歩み寄ったことで波を打って静まる。

 最初こそ憎悪をこめた目でキッと空を睨むクラミーだが、力無く床にへたっと座り込む。

 

 

「……何よ、笑いにでも来たの?」

 

 

 自嘲気味に笑うその瞳からは光が消える。

 もはや何を言われたところでどうも思わない。けど今は、一人にして欲しい気分だった。

 全身から魂が抜けたように呆然とする。

 そんな彼女を、頭に手を乗せて軽く抱き締める空。

 一瞬何をされてるかわからなかったクラミーだったが、意識を戻していくにつれてみるみるうちに顔を赤くさせる。

 

 

「ちょっ……え……な!?」

 

 

 突然のことに驚き、動揺を隠せないクラミー。

 数秒前まで感じていた憤りなど忘れて恥ずかしがるその様子は、普段のクールな面持ちとは相反する年相応の少女の姿だった。

 

 

「い、いきなり何するの!」

 

 

 彼女自身、それが精一杯絞り出した言葉だったのだろう。

 だが言葉とは裏腹に突き放そうとしないあたり、どこか受け入れてる節がある。

 何より空の温もりはあたたかくて心地が良かった。

 

 

「よく頑張ったな、クラミー」

 

「な、にを……」

 

 

 何で今更名前なんて呼ぶ。

 頑張っただって?あんたに私の何がわかる。

 あれほど敵対視してたのに、どうしていきなり優しくする。

 私は同情なんてして欲しいわけじゃない。

 なのに───

 

 

「……なん、で……とまん、ないの……」

 

 

 次第に視界がぼやける。

 気がつけば、涙が滲み出て頬を伝っていく。

 ぽたぽたと次から次へ流れるのをクラミーは抑えることができなかった。

 当然空が自身のしてきたことを知る筈もない。

 にもかかわらず、その努力を認めてくれたことがクラミーはたまらなく嬉しかった。

 

 

「もう無理すんな。お前は充分よくやったさ」

 

 

 空は敵。そうわかってても我慢できない想い。

 望まれないことをして、ただの自己満足にしかならないんじゃないかって。

 ずっとずっと悩んでいた。迷っていた。

 そんな自分を救ってくれる言葉、何度も欲してやまなかった、その一言を待っていた。

 

 今までのことはなにも無駄じゃなかったと。無意味なはずがないと。

 

 

 

 “よくやった”の、その一言。

 

 

 

 たったそれだけのことで、たったその一言だけで、クラミーの内側にあったボロボロの堤防が決壊する。

 壊れ、破れ、溜め込んでいたものが一気に外へと噴き出す。

 それは封じ込めたつもりで、しかし欠片も消すことのできずにいた激情の吹き溜まり。

 

 

「うぁあああああぁぁぁぁあああん」

 

 

 感情が制御できない。

 一度爆発したそれは堰を切ったように溢れ出し、仮面をかぶった臆病者の顔を涙で盛大に汚していく。

 大粒の涙を零して、大口を開けて泣きわめくクラミーに、誰もが唖然とする。

 その泣き声だけが、静かな広間に響いた。

 

 

「頑張った…頑張ったのよ。必死で色々、人類の、ために……絶対、負け…られない、って。なのに……ひっぐ、か、勝てなかった」

 

「あぁ、そうだな。頑張ったな」

 

「あんたらの、せい、で……全部……もう、この国は……た、他国に……えっぐ」

 

「大丈夫だ、俺らはんなことしないしさせない。

 安心しろって言っても信じてはくれないだろうけど……約束はするよ。もう誰も死なせない」

 

「……ほん、とに……?」

 

「おう、任せろ」

 

 

 そこまで言いきると、抱き締める力をより強める。

 クラミーの泣き言を聞く空の相槌は優しい。

 理由はわからない。そう思いたいだけなのかもしれない。

 だが、クラミーが今、そのわけのわからない温もりに救われたような気になっていたのは事実だった。

 滂沱と涙を流し、クラミーは空の胸の中で泣き続ける。

 みっともない。情けない。けど今は、今だけは、この温もりをずっと感じていたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次は負けない」

 

「おう、リベンジならいつでも待ってるぞ」

 

「っ……ぜ、絶対よ!今度こそ勝つんだから!」

 

 

 ばかぁ、あほぉと喚くクラミー。

 赤く腫らした目を擦りながら、最後まで喚き続けて逃げるように立ち去った。

 

 

「これで良かったのかな」

 

「……にぃ」

 

「ん、どうした妹よ。兄が構ってくれなくて寂しかったか?……すまん冗談だからそのジト目やめてくれ」

 

 

 空を見る白の目は冷たい。もちろん冗談を言われたことや、その内容は一切関係ない。

 考えていたのは全く別のこと。

 空とクラミーの会話の内容に、ここにいる観衆全員の思考がもっていかれる中、白は見逃さなかった。

 白の観察眼を侮ることなかれ。

 立ち去り際にクラミーが()()()()()()()のを、白だけが気づいていた。

 

 

「……にぃ、有罪(ギルティ)

 

「またそれか……俺が何したよ」

 

「自覚、ない…の?」

 

「おいやめろ、本当になんかしでかしたみたいな言い方するな!?」

 

「じゃあさっきの、素でやってたの……?」

 

「あー……あれか、敵だったクラミーを慰めたのが不味かったと?いやあのまま放っとくわけにもいかなくてな」

 

「……やっぱ、気づいて、ない」

 

 

 本当に自覚がないらしい。末恐ろしいものだ。

 そんな二人の心情とは異なり、クラミーが去ったことで城内は再び喝采に包まれた。

 大広間は割れんばかりに歓声に包まれ、王冠を手に持つ高官の老人の歩みを進ませる。

 

 

「それでは、空様でしたな」

 

「ん、え、ああ」

 

「あなた様を、エルキア新国王として宜しいですかな」

 

「ダメだ」

 

 

 高官の存在を完全に忘れていた空。

 だが、その言葉に空はきっぱりと告げる。そして妹を抱き寄せて、笑って言う。

 

 

「俺らは二人揃って『空白』だ。国王は俺ら二人だ」

 

 

 それはチェス戦の最中も口にしていた言葉。

 観衆は更に声を高め、新たな王と小さな女王の誕生を祝う。しかし

 

 

「残念ですが、それは出来ません」

 

「……え?は?え、なんで?」

 

「十の盟約で『全権代理者』をたてるよう決められております。二人には出来ませぬ」

 

 

 高官の言葉に、歓声がピタリと止む。

 ざわつく広間、顔を見合わせる空と白。困った様子で考え込み、頭を掻いて、眉を寄せて言う。

 

 

「……はぁ。えーと、じゃあ、どっちか決めろってか。白、頼めるか?」

 

「………ぇ」

 

「いや俺こういうの性にあわないからさ。特に人前に立つのは……ちょっと、な」

 

「白も、同じ。押し付け、るの……にぃずるい」

 

「別にそんなつもりじゃなかったんだが……あくまで建前上だ、頼む」

 

「……だめ、にぃ、王さま……やって、絶対」

 

 

 感情の希薄な妹の瞳に、明確な戦意が宿っていた。

 きっ、と兄を睨んで宣戦布告する白。その視線を受けた空もまた表情を変える。

 

 

「はぁ……やっぱ俺がやるのか。たくなんで王は一人じゃなきゃいけないんだ……ん?」

 

 

 ふと沸き起こった疑問に、手を止める。

 違和感を払拭すべく、ケータイを取り出して、メモした『十の盟約』を改めて見直しながら空は言う。

 

 

「『十の盟約』その七、集団における争いは、全権代理者をたてるものとする……」

 

 

 それは集団、すなわち国、種族間の争いは代表者を決めて行えというルール。

 噛み締めるように、吟味するようにそう口にした空は、読み直し口にした言葉と、思い至ったことに矛盾がなきのを確かめる。

 

 

「何処にも『一人』って、明言されてなくね?」

 

「……ぁ」

 

 

 遅れて白も気づいたらしく、口を開けたまま目をぱちぱちと瞬かせる。

 さきほどまでの兄妹の殺気立つ雰囲気に圧倒されて口を開けなかった観衆も、ようやく何が起きてたかを理解してざわつく。

 かくして、人騒がせな兄妹によるなんとも締まらない結果で戴冠式は幕を閉じた。

 もし空が違和感に気づかず、あのままことが進んでいたらどうなっていたか。その先を知るものはこの場に誰もいないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ねぇ、本当にコレでいいんですの?」

 

「いいんだよ。古来より、王が豪華絢爛な衣装に身を包んだのは、往々にして、内面の浅ましさを隠す為だったり、自分を肥大にして見せる為の自己満足だろ。それに言ったろ、性にあわないって」

 

「……と、いう……屁理屈……」

 

「まあぶっちゃけ、この格好が一番落ち着くってだけなんだがな」

 

 

 エルキア首都────城前大広場。

 城のベランダを出ると、ヴェネチアのサンマルコ広場を彷彿させる広大な広場がある。

 今、その広場を埋め尽くすように居並ぶ無数の人々がいた。

 新しき王の言葉を聞こうと、広場から伸びる道路まで何万、何十万の人で埋め尽くされていた。

 それは愚王と言われた先代国王への失望の表れ。絶望の淵に立たされる人類種が一縷の希望にすがる表れ。エルフの間者を、魔法を正面からねじ伏せたという兄妹にそれを見出す表れ。

 全人類の、期待のこもった視線が集中する城のベランダに歩み出る二つの人影。

 

 空は、女性用の王冠を無理矢理ねじ曲げ腕章のように腕に巻きつけ。

 白もまた、男性用の冠で長い髪を束ね前髪をあげている。

 あまりにラフすぎる格好に呆然とする国民を前に、空が声を張り上げることで演説が始める。

 

 

「あー……んっ、んぅーっ。えー、敬愛する国民、いや、人類種同胞諸君、御機嫌よう。こうして見ると、壮観な光景だな。

 

 さて、戴冠の言葉の前に、この場に就いた俺から率直に一つ質問させてもらおう。

 ここにいるおよそ全人類、これだけの人数が揃っていながら、この国はなぜ今の惨状に甘んじている?全くもって情けない」

 

 

 唖然とする大観衆を前に、だが空はなおも語気を荒げる。

 眼は赤く染まり、瞳孔は縦に割れ、圧倒的なカリスマが溢れ出た。

 拡声器の付いたベランダの手すりの、だがそれを必要ないと思わせる毅然とした声で力強く叫ぶ。

 

 

「かつて、古の神々の大戦において多くの種族が争う中、人類はその身一つで戦い抜いた。そのためにどれほどの犠牲を伴ったか諸君らには想像もできない話だろう。だが、そうして国家を守り生き残ったからこそ、今の俺らがいる。この国がある。その功績を、諸君らは何一つ理解してない。

 先人たちの苦労を、努力を、覚悟を、今まさに終わらせようとしている事実に恥ずかしく思わんのか」

 

 

 大仰に手を振り乱して、ずっと言いたくて我慢していたことを吐き出すように、感情を叩きつけるように空は吠える。

 その唐突な物言いに聴衆は戸惑う。そこを包む落胆、絶望、不安などの感情。

 それを、ため息混じりに眺め回して、おそらくこの場にいる全員の総意であろう思いを代弁する。

 一転、声を落として、温度のない声で。

 

 

「『前国王が失敗したせいだ』。そう思うのは結構。確かにそれもあるだろうし、そのことは大いに賛同する。ならばなんだ、諸君らの我々に対するその目は。一体何に期待する。

 皆は言う、誰がいけないんだ。皆は言う、誰の責任だ。皆は言う、誰を吊し上げればいいんだ。皆は言う、誰かどうにかしてくれ。

 そう思ってるやつらは考えを改め、そして肝に銘じろ。

 

 この世界に、希望なんてない」

 

 

 高圧的な、冷えた視線で見下すように眺める空。半分口癖のように、絶望の淵に立たされた身だからこそ希望を語る。

 聴衆の誰もが、互いに顔を見合わせた。更なる不安が伝播していくのを待って、聴衆の思いをさらに先回りして追い討ちをかける。

 

 

「誰も自分たちがやるんだとは言わない。結局のとこ誰も彼も他人任せなんだ。

 此度の王は今までとは違う、そう思うのは結構。だが此度の王なら何とかしてくれる、そんな甘えはいらない。もう誰も助けてなどくれない。わかるだろ?

 諸君らは我々に期待も信頼もするな。我々も諸君らにはなにも期待しないし、しようとも思わん」

 

 

 突如の罵倒に近い、いや罵倒そのものの宣言を畳みかけ、未来への希望をもって集まった民衆どもは首を垂れる。

 

 

「失望したか?軽蔑したか?

 

 ならば共に戦え。

 

 見据えた勝利という僅かな可能性に貪欲に喰らいつけ。何があっても諦めるな、妥協など以ての外だ。諸君らには知性がある。知恵がある。技術がある。己の牙が折れてないなら動け、立ち上がるのは今しかない」

 

 

 誰かがハッと何かに気づき、それまで死んだような目だった者達の瞳に明確な意志が宿る。

 そこには既に、数分前までの誰かに縋る目をした弱々しい姿はない。

 その様子に空、妹と目を見合わせる。

 こくり、と妹が楽しそうな微笑で小さく頷いたのを確認して、最後の演説を贈る。

 大きく腕を掲げ、ワクワクした子供のように純粋な、だが百戦錬磨の策士にして戦士のように不遜な、天真爛漫にして傲慢な笑みを湛えて、新しき『人類種の王』は言う。

 

 

「我らは『弱者』だ。『弱者』のまま、『弱者』らしく、『強者』を討て。今までもそうだったように、これからもそうであるように。

 今日まで生き残った、生きる価値無き世界で、それでも生き残った。それ以上に理由なんて必要ない。『弱者』が無知で無力で無意味なんてことは絶対にない。

 為すべきことを為せ。他ならぬ自分自身の為に、守りたいものを守る為に、その力を奮え」

 

 

 

 

 

 我と我が妹は、ここに二〇五代エルキア国王、女王として戴冠したことを宣言する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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