とある交差の電光石火   作:エスル

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ようやくここで原作、禁書目録の最初の最初に入ります!
本当に長かった……

それではどうぞ!


上条当麻(あいぼう)

「―――ええいっ! くそっ! くそっ! あーもうちくしょー不幸すぎますー!」

 

「どうしてこうなった! どうしてこうなった! あんだよもう理不尽だぁっ!」

 

 変態じみた叫び声を発しているのは二名。

 それは二人とも自覚しつつも凄まじい逃げ足は止めようとはしない。

 アスファルトで靴底を切り付けるように暗闇の路地裏を走り抜けた。

 自分達を追いかけている人数の確認をするため、後ろを振り返る。

 八人。

 既に二キロ近く走っているのにまだこんなにも大勢の熱心な人数(ファン)が追いかけてきている。

 こちらはただの男子高校生二人。元軍人でもなければ由緒正しき忍者の末裔でもない。

 そして頼るべき能力(チカラ)も無い状況で二対八。そんな人数でケンカ等すれば実力云々よりも以前に話にならない。きっと袋叩きだ。

 そこらの看板やポリバケツをなぎ倒し『どうしてこうなった』か、真藤豪摩(しんどうごうま)は少し前を振り返る。

 

 

 

七月十九日

 

 

 下校時刻も程々に過ぎ、夜の帳が落ちかけた頃、真藤は商店街を歩いていた。

 その顔はとても上機嫌とわかる程生気に満ちている。もっと言えばかなりのハイテンション。

 怪我の痛みすら気にならないのだ。こうなると真夏の湿った夜の風さえも肌に心地いい。

 真藤は先月売り切れて買い逃していた毎号愛読している雑誌のバックナンバーを購入出来たのだ。

 大事そうに抱えながら鼻歌を歌い、今にもスキップしそうな勢いで帰宅するため寮に向かう途中、一人の少女と出会う。

 

「やっと見つけたわよ。豪摩」

 

「お、惟代か! どうした?」

 

 真藤に声をかけた少女はお嬢様学校と名高い名門校の制服に身を包み、女子中学生とは思えないボディライン。そして青みがかった髪は腰まで伸びていて、何となく儚げな美貌を漂わす。

 少女は腕を組みながらと立っており、呆れたように顔をしかめて目の前にいる真藤に問いかけた。

 

「どうしたじゃないわよ、昨日の約束忘れたの?」

 

「昨日?」

 

「そうよ、通りのケンカで手助けしたときの借りよ」

 

「あぁ……って、あれが借りか!?」

 

 七月十八日、真藤と惟代はとある通りで不良とのケンカに巻き込まれた。

 その際に惟代の能力で真藤の身体を補強し、立ち回っていたが真藤がピンチの時に惟代はスタスタと先に進んでいて、肝心な時にはいなかったのだ。

 それが自分を護ってくれている真藤への照れ隠しとは知らず、裏切りだ! 無効だ! と抗議していると、

 

「あら、でも『空圧包帯(ブーストテーピング)』がなかったら豪摩はどうなってたのよ?」

 

「ぐ……」

 

「しかも怪我した後の送りつき。これだけでもう一生モノの借りよ?」

 

「そんなに!?」

 

「そう、常盤台(めいもん)のお嬢様に助けられたのは大きいのよ」

 

「はぁ……わかったよ。俺の行きつけの店でいいか?」

 

「何言ってるのよ、ただのファミレスじゃない」

 

 今までのテンションの高さはどこへやら、徐々に昨日の傷がズキスキと痛んでくるのを自覚する。

 これで現実(リアル)へ逆戻りか……せめて明日の補習までは現実逃避(エスケープ)したかった。と真藤は涙目だ。

 ぐずっている真藤の手を引っ張りながら惟代は夜の街並みをズンズンと前へ進む。

 その顔は口元は緩み、心なしか赤いが真藤はそれに気づかない。

 自分も晩御飯はまだだし、丁度いいかと真藤が開き直り始めた時には目的のファミレスの看板は見えていた。

 中に入ると真藤たちと同じような年頃の学生達が各々の学校の制服のまま、まばらに席を埋めている。

 今日がほとんどの学校が終業式なのだろう。

 明日から夏休みDAZE!前祝い☆といういかにもな若さ独特の眩い雰囲気で席を囲んでいる。

 アミューズメント施設が集中した第六学区のガイドマップを広げ何やら計画している集団も見えたくらいだ。

 真藤はそれらを眺めつつ店員に案内され、席につきメニューを開く。

 

「どれでも好きなのを頼むわね」

 

「せめて俺に言わせてくれないか!?」

 

「全く……本当に小さいわね」

 

「俺は苦学生なんだぞ。 どこぞの『お嬢様』と違って、貰う奨学金に余裕は無いんだ」

 

「はいはい。それじゃ私はここで一番高いメニューね。当然デザートも一番高いのを」

 

「待て待て! ここで一番高いメニューってそれだけで3人前分はあるぞ!? 食えるのか? しかも注意書きに『お残しはオ・シ・オ・キ・か・く・て・い・ね』って書いてあるんだが…」

 

「何よ、文句あるの?」

 

「いや別に……」

 

 真藤の突っ込みにチラリ、というよりギロリとメニューから目を離して見た惟代の視線から真藤は逃れ、こいつの食べ方がわからねぇ。と心の中で思いながらも店員を呼び出し、注文をする。

 注文を待っている間に惟代との会話は皆無。しかし特段気負って話題探しに必死になる事は二人の間に無い。

 幼い頃で築いていた二人が持つ自然な距離感であり、空間なのだ。

 何となく、真藤が先程の学生達の賑やかな光景を眺めようと店内を見回すとどこかで見たようなツンツン頭の後ろ姿があった。

 恐らく一昨日知り合った自分の隣のクラスの生徒、上条当麻(かみじょうとうま)で間違いないだろう。

 ここは一つ交流を深めるかと真藤はおもむろに席を立ち、上条に声を掛ける。

 

「よう。上条、奇遇だな……って、え?」

 

 ギギギと振り向く上条。後ろには複数人の男たち。服装から人相、顔から見てとれる年齢までとても学校の生徒とは思えない。

 真藤の今までの経験から考えるに、いわゆる不良といわれるカテゴリに属するだろう。

 上条の振り向いた視線の先には真藤がいて、上条に釣られるように男達は真藤に視線が集中する。

 

「お前もコイツの仲間か! まとめてヤっちまうぞ!?」

 

「え、え!? ええぇぇぇ!?」

 

 真藤豪摩は上条当麻という人間に声をかけただけで不良と思わしい奴等にあっという間にロック・オンされてしまった。

 違う、長い夏休み前日からこんな奴らと交流を深めたかった訳じゃない。

 真藤の脳裏にそんな考えが(よぎ)ると上条は店の出口に向かって走り出した。条件反射的に追い掛けるかの如く真藤も走る。

 外に逃げることによって必然的に店に置き去りにされる『誰か』のことなど忘れて。

 

 

 

 ―――こうして今に至るわけだ

 今も二人は表通りと裏通りを交互に縫い走り、一人、また一人と息を切らし、両膝をついて脱落していくの確認しながらその度に安堵しつつも、その都度チラリホラリと目に付いたのは幸せいっぱい夢いっぱいのカップル達(かちぐみ)

 肩を並べてお互いがお互いの顔を見合わせ、微笑みあっていた。何て羨ましいのだろう。それに引き換え、

 

「……何で俺はこんな男集団相手に追いかけっこをしなきゃならねーんだよ!」

 

 美少女が傍らでの逃亡劇ならまだいいだろう。ある意味絵にもなる。

 しかし実際にはこの真夏の中、汗をだらだら流しながら肩を並べて走り、顔が見合うと『へへへ』とナチュラルハイになっているのか、薄ら笑いを浮かべてしまう相手(どうせい)しかいない。

 ふと、真藤の頭にこの逃亡劇のタイトルが浮かび上がる。

 

 

~この二人、負け組につき~

 

 

 汗どころか涙まで出そうになってきた。いや出た。

 と、背後から不良の一人の罵声が飛んできた。

 

「おるぁ!! ちくしょう止まれやこの逃げ足王!」

 

 この熱烈なラヴ・コールに対し、真藤は上条に促す。

 

「ほら、言われているぞ? 逃げ足王!」

 

「はぁ!? いやいや、お前の称号だろ? いやぁ見事な逃げ足!」

 

「とんでもない! そちらこそ素敵なフォームですね!」

 

 二人が王座を押し付けあう事二キロほど、都市部を離れ、大きな川に出た。その川を渡す為に大きな鉄橋が架かっている。

 ライトアップもされていない無骨な鉄橋を突っ切る途中、二人は後ろを振り返り、足を停めた。

 いつの間にか後ろにいた男達の姿は見えなくなっていたからだ。

 

「くそ……やっと撒いたか?」

 

「はぁはぁ……俺まで……何で毎回お前と関わったら全力疾走しなければいけなくなるんだよ!」

 

「上条さんだって夏休み前日からこんな事はしたくありませんよ!?」

 

「そりゃ好きでこんなコトしたくなる奴はいねーだろうよ!? 何で俺が巻き込まれるんだって話だ!」

 

「いやぁ、真夏に若者たちの流れる汗。青春って素晴らしいナァ」

 

「おい!」

 

 と、お約束のようなやり取りを灯りや観客も一つも無く、誰もいない筈の暗闇の鉄橋の中で行っているとバチン、と音が鳴り、真藤がいち早く『何か』を感じ取ってその方向に目を向ける。

 

 

「ったく、何やってんのよアンタ。不良守って善人気取りですかぁ?」

 

 

 刹那、ギクリと上条の体が凍りついた。

 そして先程まで無かった風がビュウ、と吹き、

 

 

「あら、一緒にいた女の子をほったらかしておいて男と逃避行だなんて、とんだ悪人ねぇ?」

 

 

 背後からの声に真藤の体はビクリと跳ね上がり、振り向く。

 

「げっ、ビリビリ……!」

 

「うお!? 惟代か!」

 

 学園都市の中でも5本の指に入る名門校、常盤台中学の誇る『雷神・風神』と呼ばれる『少女たち』がそこに立っていた。

 ただ立つ、というよりは仁王立ちと呼んだ方が相応しい。

 『雷神』と『風神』はお互いが10メートルくらい離れた距離で二人を挟むように位置取る。

 

……つー事はアレだろ?後ろの連中が追ってこなくなったのも

うん、めんどいから私達が(ヤッ)いといた

つか、俺が何をしたっていうんだよう……

 

 片方の男女一組の会話が始まると、もう一組の男女も会話が始まった。

 

「豪摩……一応言い分は聞いてあげる」

「いや、俺は」

「言い訳は聞きたくないわ!」

「そんな!?」

 

 真藤はもはや何を言っても無駄だろうと諦め、項垂れると後ろの会話が耳に入ってきた。

 

 

『ねぇ知ってる? 解析された私のDNAマップを元に軍用の妹達(シスターズ)が開発されているって話』

 

 

「なっ!?」

 

 真藤は驚愕する。あれは、あれは嘗て自分も罹ったとある病気を治す為に提供されたものじゃなかったのか。

 御坂の方を振り向こうとするといなや惟代に呼び止められる。

 

「私が話しているのに余所見しないの」

 

 話してなかっただろ、と言いたいが『風神』のあまりの迫力にたじろぎ、後ずさる。

 するといつの間にか上条と背中合わせのポジションになった。

 次に真藤は御坂の能力(チカラ)放出を背中越しでも感じ取る。

 能力の放出先は上条。しかし、放出された雷撃は上条が自分の右手を前にし、吹き飛ばしていた。

 

『で、何でアンタは傷一つないのかしら?』

 

 上条は犬歯を剥き出しにした御坂を無視、そこで真藤は前からの疑問を小声でぶつける。

 

(先日も土手で見たけど何だよ、その能力!?)

 

(詳しいことは省くけど、俺の能力は異能の力なら原爆級の炎だろうが戦略級の超電磁砲でも打ち消せるんだ)

 

(……ッ! なるほど、そしたらこっちも頼めるか!?)

 

(なん……ッ!)

 

 真藤は後ろ向きのまま上条の腰を両手で押さえ、自分の位置と入れ替えるように反転させる。

 反転させられた上条の視線の先には風を纏った惟代がスカートのポケットからトランプを取り出し、扇子のように広げる。

 次に一枚のカードを人差し指と中指ではさみ、そのまま上条に投げつけた。

 一連の動作を背中越しに見て確認した真藤は上条に合図を送る。

 

(今だ、上条! 打ち消せ!)

 

 真藤の合図に上条は右手を惟代に向けるよう慌てて突き出す。突き出した右手の先には惟代の投げたカードは風を纏い、その直線上には歪んでいる空間が出来ている。

 が、それも上条の右手に触れると同時にゴキン、と音がして歪んだ空間は消えた。

 

(死ぬ! ホントに死ぬ! いきなりナニしやがるんですか! 上条さんは寿命が縮みましたよ!?)

 

(どっちにしろこのままじゃ俺達は死体確定だぞ! お互いの持ち味を生かすんだ!)

 

(お互いの……?)

 

(そうだ、お前が能力を打ち消している間に俺が逃げる。完璧だ!)

 

(ってオイ! それじゃーお前が逃げた後の上条さんはどうなるんでせうか!?)

 

(俺の安全が確保された後、逃げればいい。必ず生きて帰ろうぜ。相棒)

 

(相棒じゃねぇよ!? 単なる犠牲(サクリファイス)だろーが!)

 

 この場において『逃げ足王』の称号を受け入れた真藤と上条が言い争っていると右手をおもむろに上げている惟代が口を開いた。

 

「やっぱり『超空圧砲(エアブラスト)』もダメなのね。……でもこれならどうかしら」

 

「ちょっと惟代!」

 

「いいじゃない美琴。元々の私の目的は豪摩だし、次のを仕掛けてダメなら替わるから」

 

「しょうがないわね……」

 

(あそこは勝手に何を話進めちゃってるんですか!? 上条さんはゲームやオモチャじゃありませんのことですよ!?)

 

(……あの二人、下の名前で呼び合って、譲り合いの精神持つ程に仲良かったっけ?)

 

 真藤が上条の嘆きを無視し個人的な疑問を抱いていると、上空に雲が集まり始めていた。

 

「二人とも、ダウンバーストって知ってる?」

 

「「?」」

 

 当然、二人とも知らない。何しろ学校では『バカの六芒星(ヘキサグラム)』を担っている二人なのだ。

 

「……簡単に言えば真下に吹き下ろす強風って事でいいわ。次は『点』ではなく『面』での攻撃よ。周囲に影響しないように一応手加減はするけど、受け止められるかしら?」

 

「なっ! 俺も近くにいるのに……冗談じゃねぇぞ!? 俺はさっさと逃げる!」

 

「あら、豪摩はここから逃げれると思っているのかしら」

 

 真藤は改めて周囲を確認するとここは橋の大体中央に位置している。橋から下の川まではかなりの高さだ。

 

 二人から逃れるには橋の欄干から飛び降りなければいけない。

 

 しかも飛び降りたところで土手に泳ぎ着く頃には追いつかるだろう。

 

 ならば正面突破、と前後を見る。

 

 

 前門の雷神、後門の風神。

 

 

 ようやく理解した。どの道逃げれるはずが無かったのだ。真藤はがくりと膝から崩れ落ちる。

 

「……覚悟決めよーぜ、相棒」

 

「くそぅ……理不尽だ」

 

「じゃ、準備はいいかしら? それっ!」

 

 何故か笑顔の惟代が上げた手を勢いよく下ろしたと同時に、上条は空に右手を突き出す。

 

 ゴッという音の瞬間、真藤の身体は押しつぶされるが、やはりバキンと何かガラスの砕けたような音がして強風は収まった。

 真藤は上条の足元にしがみついている。

 

「あら、これもダメか。交代ね……美琴?」

 

 御坂美琴は俯いていた。美琴を見るにあたり、今ので上条は諦めてくれたかと思い説得に持ち込む。

 

「なぁ、もうやめよーぜ? これ以上続けても不毛なだけじゃねーか」

 

「何ですって?」

 

 俯いたまま美琴は答える。その表情は見えない。

 

「だからこんな無意味なことはやめて、もっと若者らしく青春を謳歌しないか?」

 

「そうだ! 今なら間に合うぞ!」

 

「豪摩は黙りなさい」

 

「はい」

 

「らしく……か。そうね……私が間違っていたのかもしれないわ。」

 

「わかってくれたか」

 

「ずっと心のどこかでブレーキをかけていたのかもね」

 

 上条がホッとしたのも束の間、美琴は俯いたまま肩を震わせ、身体には電気を帯びている。

 それを感じた真藤がハッと自らの頭上に目を向け、上条もつられて空を見上げた。

 二人の視線は先刻に惟代の呼び寄せた雲。先程まで黒みがかかっている程の色だったのに今ではすっかり黒い。

 そして雷雲は美琴に対応するかのようにバチバチと帯電している。

 

「雷……雲?」

 

「ウソ……だろ?」

 

「人間を相手にさすがに『コレ』は……とか躊躇するなんて、でも自然災害クラスの能力を打ち消す相手には遠慮はいらないわね」

 

 天に向かって口をポカンと開けていた二人は美琴の表情を見ることはせず、お互いの顔を見合う。

 

「なぁ、上条(あいぼう)

 

「どうした、真藤(あいぼう)

 

「お互い生きて帰れたらヤシの実サイダーで乾杯と行こうぜ?」

 

「……ああ! その時はお前のおごりだぜ?」

 

「ふっ、敵わねーな」

 

 死亡フラグを避雷針の如く見事に立てた二人は、もはや不幸だ理不尽だなど言う余裕は無い。

 涙目で再度天に顔を向け、お互い抱き合って二人の女子よりも女子らしい叫び声を上げる。

 

 

 

「「きゃあぁぁぁあ!!」」

 

 

 

―――近く(まうえ)の空で電光が閃いた。

 




次回からようやく彼の『交差』が始まります。

今回もご精読ありがとうございました!
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