とある交差の電光石火   作:エスル

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大変お待たせしました!
と言っても忘れられているかもしれませんが(笑)

約二ヶ月半ぶりの更新です!どうぞ!


魔術師(ステイル=マグヌス)

 真藤は一人、商店街からスーパーの袋を両手にぶら下げ、帰路についている。

 

 あれから我に返ったかのように御坂美琴は上条を再度追いかけ始め、二人はあの空間から先に抜け出し、真藤はポツンと一人取り残されてしまった。

 その後、真藤は気を取り直し無事に帰ってくるか分からない上条との約束を果たすべく、鍋の材料や今後の非常食のインスタントも買い込むためにスーパーへ寄った。するとたまたま向かった店がゲリラセールというイベントが催され、ついつい夢中になった真藤は夏の空に赤みが少し差しかかる時間となるまでスーパーで過ごしてしまい、その帰りという訳だ。

 

「ついつい買いすぎちまったな。遅くもなったし上条のやつ、先に戻っているか?」

 

 パンパンに詰まったスーパーの買い物袋を両手にぶらさげ、空を見上げながら一人ごちる。

 どちらにしても約束の晩餐の仕度をすべく自分の学生寮へと足を向け、着いた頃には先程よりも更に陽は落ちていた。

 真藤は寮の入口に向けていた足を急に止め、ふと気付く。周囲の人の気配が『異様』に無い事に。

 最初は夏休み初日でみんな街に繰り出して遊びほうけているのか帰省の為、人が少なくなったのだろうと思っていたがそれにしてもあまりに『不自然』な程気配がない。いや、一ヶ所だけ。

 数日前にも一度あった鋭敏な感覚。その感覚を持って真藤は七階を、『上条の部屋』の位置を見上げた瞬間。

 

 爆弾が大爆発したかのように七階の通路から炎が溢れ出した。

 

(……ッ!)

 

 真藤は咄嗟に右腕で顔を覆う。炎と煙が晴れると、そこは辺り一面が地獄絵図。

 金属の手すりは飴細工のようにひしゃげ、壁の塗装も剥げてコンクリートもセメントに戻ったかのようにドロドロだ。

 そして真藤は見逃さなかった。炎が外にあふれ出す瞬間、上条が手すりを飛び越えて落下し、一階下の手すりに掴まって身体を通路側へと入れたところを。

 まず脳裏に浮かんだのは、上条が助かって良かった。その後、家まで御坂に追いかけられたのか?

 いや、それならば真藤に感じられるはずの御坂の『力の放射』が無い。

 大前提として先程見たものは電撃(・・)ではなかった。

 

 ならば。

 

 今朝の出来事を思い出し、最悪の推測が頭を過ぎる。

 

 

 追われているインデックス。

 『魔力』を持っていた『歩く教会』、ただしそれは上条の右手、幻想殺しで壊した。

 しかし、それは身体の部分だけの話。頭部のフードについては上条は右手で触れていない。

 そのフードは上条の部屋にある。フードにも『魔力』が込められているとすれば。

 別れ際のインデックスの言葉を思い出す。

 

 

『―――敵は『歩く教会』の魔力を元に検索(サーチ)かけてるみたいなんだよね』

 

 

「くそっ! 何やってやがんだ!」

 

 買い物袋を投げ出し、真藤はエレベーターや通常階段とは反対側の方向にある非常階段を駆け上る。

 目指すは七階、最悪の答え合わせをする為に。

 一階下には上条もいるのだろうが、合流している暇は無い。

 あいつはあいつで何とかするだろう、と上条(あいぼう)を信じ、真藤自身も内心驚くような速度で七階に到着し、通路へと身を踊り出した。

 

 すると、そこには

 

 血だまりの中に沈んだインデックス。

 

 最悪の答え(そうぞう)正解(げんじつ)であった事に真藤は顔を歪めながら倒れているインデックスの元へ向かう。

 

「おい、インデックス! 大丈夫か!」

 

「―――出血に伴い、血液中にある生命力(マナ)が流出しつつ、間も無く生命維持が困難な状況にあります(・・・・)

 

 真藤は言葉を返されたことにも驚いたが、それ以上に倒れている少女の顔、具体的には瞳に驚く。

 まるで機械、人形のような、あまりにも感情が欠落した瞳。

 一言一言告げる度に背中の傷口から血は溢れてくる。

 

 こんなにボロボロで、こんなにも血まみれでどうしてこんなにも冷静に話せるんだ?

 

「お前、イン、デックス、だよな?」

 

「はい、簡潔に説明しますが私はイギリス清教内、第零聖堂区『必要悪の教会』(ネセサリウス)所属の魔道図書館です。呼び名は略称の禁書目録(インデックス)で構いません。」

 

 朝の時とは全く違う、別人とも思いたいような顔、口調。話すごとに血が出てくることも気に留めず、まるで『装置』(システム)のように説明された真藤は寒気すら覚える。

 

そんな状況の中、冷ややかな声が真藤の耳に突き刺さった。

 

「そろそろいいかな? 僕は『ソレ』を保護したんいだけど?」

 

 真藤は犬歯を剥き出しにし、その声がする方向を睨み付け、吼えた。

 

「お前か! インデックスをこんなにしたのは!!」

 

 

「うん? 確かに僕達、『魔術師』だけど?」

 

 

 『魔術師』は男。日本人ではない、白人の男であった。

 身長は真藤よりも三〇センチ以上高い。しかし、男とは言っても顔は幼く自分よりも年下の印象を受けた。

 服装はインデックスが着ている白い修道服よりもより『らしい』神父が着ているような漆黒の修道服。ただし目の前にいるコイツを『神父』と呼ぶにはあまりにも現実味が無い。

 高い身長はともかくとして肩まである長髪を赤く染め、耳に大量のピアス、左右十本に嵌められた指輪。右目の下にバーコードの刺青といった外見。

 こんな格好の神父は世界中に一人として存在しないであろう。

 

「女の子を追い回して! あまつさえ斬りつけて! それで何がしてぇんだ!」

 

「言ってるだろ? 保護だよ。それに正確には神裂が斬ったって話なんだけどね」

 

 神裂は誰かは知らない。が、確かにインデックスの背中、というより腰に近い辺りが真横に切られていた。

 長い髪の毛も切り揃えられたかの様に無残に斬られ、血に染まっている。

 

 そんな見たままの『常識』(ゲンジツ)と目の前にいる不良神父。

 その男を中心とした、辺り一体の空気は明らかに『異常』だ。

 不安や戸惑いもあるが、それ以上に不自然な感覚が肌にまとわりつく。

 真藤の手は何故か震え、胸に圧迫感を感じる。

 

 そんな見えない非常識(オカルト)がここには存在していた。

 

「そこをどいてくれないかな? 僕は『ソレ』を回収しなればいけないんだ」

 

「さっきから回収だの保護だの……ッ! インデックスはモノじゃねぇんだぞ!!!」

 

「うん? 君はさっきから何を言っているのかな?」

 

「目的はコイツの言う、一〇万三〇〇〇冊の魔道書とやらなんだろ!? その在り処を吐かせる為だけのモノみたいな扱いをしやがって!」

 

「……君()どうやら何も知らないみたいだね?」

 

口の端で咥えているタバコを上下に揺らし、顔は笑っているのにつまらなさそうに魔術師は話を続ける。

 

ソレ自体(・・・・)が一〇万三〇〇〇冊の魔道書なんだよ。ま、正確にはソレの記憶(・・)の中のことだけど」

 

「な、に?」

 

 

 言っていた。

 

 

『一〇万三〇〇〇冊!? そんなのどこにあるんだよ? それを隠している鍵でも持っているのか?』

 

『ううん、ちゃんと一〇万三〇〇〇冊、一冊も残らず持ってきているよ?』

 

『? とにかく、それがお前の追われている理由なんだな?』

 

 

 そう、確かに言っていたのだ。

 

 

 朝にインデックスの言っていた意味を理解し、愕然としている真藤の反応を気にもせず尚も魔術師は話を続ける。

 

「完全記憶能力という言葉は知っているかな? 彼女はその科学(SF)の能力をもって魔術書(オカルト)を記憶している魔道図書館なのさ」

 

 

『なあ、それがどんなに大事なものかわからねぇけど他の人に預けるとか、……捨てるとか出来ないのか?』

 

『捨てることなんて出来ないんだよ! ……それに預けることも出来ないかな』

 

 

 当たり前だ。捨てたり、預けられるわけが無い。自分の記憶の中にあるのだから。

 例え、預けられたとしても他の人間が犠牲になる。それをインデックスは許すはずが無い。

 わざわざ危険を冒して、命を賭けてまで、出会って三〇分も満たない二人を危険から遠ざけるために。

 魔術師との戦いに巻き込ませないために。戻ってこなければ気の済まない人間(・・)なのだから。

 

 

『……、じゃあ。私と一緒に地獄の底までついてきてくれる?』

 

 

「ま、ソレ自体には魔力が無いから無害なんだけどね。ただソレを使える連中(・・・・・)に拾われたら厄介だ。いくら人を庇う良心や良識があったとしても拷問や薬物には耐えられないかもしれない。だから保護をするって訳さ」

 

 魔術師の言葉で真藤の頭の中で過去がフラッシュバックする。拷問ともいえる実験。得体の知れない薬物投与。

 しかし、あの時とは違う。恐怖ではない、単純な怒りでもない感情で目の前の魔術師に話しかける。

 

「なあ、コイツは、……インデックスは、お前らと関わっていることを地獄の底だと表現していたぜ」

 

「……そうかい、あながち間違っちゃいないね」

 

 魔術師の右手は何故か力を入れていることに真藤は気付かない。

 

「それに保護だの回収だの言っていて……ましてや身体を斬り付けた連中が、拷問や薬物投与と同じくらいひどい事をしないって保障もないよな」

 

「うん? だからどうしたのかな?」

 

「お前らにコイツを渡さないって事だよ!!!」

 

 真藤は両手に力を込め、両足は地に縫いつかせるようにし、相手に対し戦闘態勢の構えをとる。

 このインデックスを守る戦いは上条のものだ。しかし。

 過去に逃げることしか出来なかった自分と、今日まで逃げていたというインデックスを重ねる。

 決定的な違いはインデックスは自分と上条を守るために危険を冒してまで戻ってきた。

 命が惜しくて、何も触れずにひたすら逃げ続けていた昔の自分には無かった強さ。

 

 真藤は思う。

 

 今、一時でもインデックスを守ることであの時(・・・)逃げた自分に対し、何か、変わるかも知れない。

 

 いや、変えられるかも知れない。

 

 昔の逃走本能を今は闘争本能に。

 

 真藤は歯を食いしばり、放たれた矢のように魔術師の下へ飛び込む。

 一方魔術師は口の端を歪め、笑みを崩さず口の中で何かを呟く。

 

「―――Fortis931 」

 

「ッ!?」

 

「魔法名だよ。本当はステイル=マグヌスと名乗りたいところだけど、僕達魔術師は魔術を使う時に真名(まな)を使ってはいけないんだ」

 

 魔術師、ステイル=マグヌスは右手に十字架の様な炎の剣を作り出し、袈裟を斬る動作で振りかぶる。

 

「そして魔法名(これ)は君への『殺し名』なんだよ」

 

 轟! と高熱を持った炎剣は一直線に向かってくる真藤に叩きつけられる。はずだった。

 

「なんだ。意外と遅いな? これじゃ以前に闘った筋肉のオッサンの方がよっぽど速かったぜ!」

 

「―――なっ!?」

 

 いつの間にか懐に潜り込んでいた真藤に対し、炎剣を持つステイルは背筋に凍るものを感じる。

 しかし怯むステイルにお構いなし、と言わんばかりに真藤はお互いの身長差を利用し斜め下から左の掌底を顔面に打ち込み一気に重心を沈めて、体ごとぶつかるような感覚で右肘を胸に叩き込む。

 一筋の電光の如き打撃により胸を圧迫され、肺から一気に空気を無理やり吐かされたステイルは三メートルほど奥へと吹っ飛んだ。

 

「がッ……!はァ!!」

 

「ま、これが八極拳・頂心肘(ちょうしんちゅう)って奴だ」

 

 通用した、自分が殴れば顔を歪ませ、痛みに悶える。魔術とやらが使えるといっても相手はただの人間だった。

 真藤は確信し、極度の興奮の為か息を荒らげ肩を上下に動かし、口の端を上げる。

 一方、目の前の魔術師は仰向けで胸を押さえ苦悶の顔を『予想外』に対し向けて、口を開く。

 

「……ッ、君は一体何者だ!?」

 

「名乗る程のもんじゃねえよ。本名を名乗るにはお前にはもったいなさすぎる」

 

 この数日の間で上条と行動を少なくとも共にした真藤。

 様々な場面で道に迷った女性や落とし物をした子供と不思議と困っている人に出会うことが多く、上条は状況を顧みずそれらにすべて関わり助けようとしていた。

 真藤は「やりすぎなんじゃないのか?」と口にしたものの、上条は何となく複雑そうな笑顔でそれらの行いを『偽善使い』(フォックスワード)と自嘲して卑下した。

 その時の上条はそう表現したが、何故かひどく眩しく見えたのだ。

 

 自分のことだけに必死だった自分(しんどう)

 他人のことに必死になってる他人(かみじょう)

 

 そして関わった人間を巻き込ませまいと、危険へと飛び込んだインデックス。

 

 自分もそのようになれたら。

 

 再度確認する。この戦いはインデックスを守る上条のものだ。

 主役(ヒーロー)とヒロインは他人の為に動ける二人。

 

 だから自分はそれまでの脇役。

 

 

『時間稼ぎ』(ライフライン)だよ」

 

 

 決意する。自分も誰が為に『時間稼ぎ』になると。

 




なるべく早く更新したいですね…!

今回もご精読ありがとうございました!
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