それではどうぞ!
「時間稼ぎ……だと……?」
とある学生寮の七階で一つの戦いが繰り広げられていた。
通路は焼け跡や焦げ後、果ては一部のコンクリートが溶けている箇所がある。
そこには3人の人間。
一人は背中に裂傷があり、血を夥しく流し、倒れている少女。
一人は三人の内、唯一両足で立っている少年。
そして最後の一人は立っている少年に殴り飛ばされ、仰向けに倒れている長身の男がいた。
その長身の男、―――『魔術師』ステイル=マグヌスは先程衝撃を受けた部位に手を当て、顔を歪め正面、少年の方を見ながら呻くように言葉を漏らす。
「そうだ、ただの
漏らした言葉に少年は返した。その顔の口元は笑みを浮かべている。
倒れている『魔術師』を見て言葉を返した少年、真藤は思う。何が魔術師だ。ただの人間じゃないか。
自分の拳で倒れ、更に痛みを受けた苦悶の表情で自分を見ている。
これならいける。自分も戦える。そう思った瞬間、ステイルの口元が真藤と同じように緩み、開く。
「ふっ、誰の時間を稼いでいる
「決まっているだろ? 下にいる
顔に余裕が出たステイルに対し、真藤は顔をしかめながらビシ、と刺すように指を下に向ける。
真藤の動作には目もくれず自分の膝に手を当て立ち上がって煙草に火をつけ、一息に煙を肺に入れて吐き出した後、話を続けた。
「何を寝ぼけた事を言っているのかな? 彼は僕の
言い放つステイルの口は歪んだ三日月の様な形へと変わる。
「何だ、アイツが下へ行ったのを見なかったのか?」
対する真藤は顔をしかめたまま眉はついに八時二〇分の角度になる。
おかしい。自分が来るまでに相手は『上条の能力』を一度は目にしているはずだ。
余裕の表情に戻ったステイルに対し不気味さを感じる。
「見てはいなかったけどね。下で足音がしたから魔女狩りの王に追尾させたのさ」
「魔術ってのはそんな事も出来るのか……なんかずるいな」
「優秀と言ってほしいね。直に魔女狩りの王が戻って来るはずだ。その時が君の最期だよ」
真藤は会話の中で
ステイルが『上条の能力』を見た上での前提として。
まず、『追尾させた』。自分に対し使ってこないのは
次に『戻ってくるはずだ』 追尾させる事が出来るが『はず』というところから自分の魔術がどういう状況になっているかは把握出来ないということになる。
恐らく戻ってくる条件は術者が呼び戻すか目標を焼き尽くした時。
そして上条の能力を見たのならば触れただけで消えるだろう魔術に対し、自信を持っている『はず』にも捉えられる。
多分、上条の右手が触れてもちょっとやそっとでは消えない。もしくは消えても自動再生などを行い再度目標に向かう類の
全ては憶測だ。少ない会話で得たなんら確証のないもの。
だが、『何らかの刺激』によって普段よりも回転が速い脳を駆使し、思考を加速させて出た結論は単純。
その自信を持っている
―――上条は無事であるということだ。
真藤は上条を信じ、会話やその間を利用し、あくまで自分の役割に徹した。
しかし背後にいるインデックスの身に残された時間にふと考えが過ぎり、安易な言葉を口にする。
「……へぇ、自分で来る自信がないのか。意外と臆病なんだな? 魔術師さんってのは」
「……ッ、いいだろう。僕の手にかかりたいとお望みならば相手してやる! プロの魔術師を甘く見るなよ!」
(おっふ、わっかりやすい挑発によく乗ってくれたな! ホントにプロかよ!?)
焦り、自分で作ってしまった
「―――
ステイルは右手を高く掲げ、真藤を見据えたまま右手には十字架の形をした炎の剣が現れた。
軽率な発言に後悔しながらも先程にも見せられた魔術に対し、どうせならこのまま冷静さを欠かせてしまえと言わんばかりに挑発を続ける。
「またそれか! その魔術じゃあ、お前に勝ち目は無いぜ!?」
「君にはこれで充分だよ!」
ステイルの叫びと同時に寮に設置されていた火災報知器のベルが一斉に鳴り響く。
降り注ぐ轟音の嵐に思わず二人は天井を見上げる。
その後すぐさま取り付けられたスプリンクラーが人口の豪雨を撒き散らされた。恐らく上条が報知器のボタンを押したのだろう。
なるほど、確かにこれは機転が利いているが火災報知器を忌々しげに見つめ、顔に血管を浮かせているステイルの持つ炎剣は一向に消えている気配がない。
この状況にあまりにも滑稽なのかステイルはこめかみを痙攣させ、肩も震わせている。
「……、ふむ。このままだと色々と面倒な事になるかな。君の見せ場はもう終わりだ。さっさと片付けて一刻も『ソレ』を回収させてもらうとするよ」
この出来事と自分とのやり取りにあまりにも頭に血が上っているのだろう。挑発も無駄じゃなかったなと真藤は思う。
感情の如く燃え上がっている炎剣を握り締めたまま、『魔術師』ステイル=マグヌスは気付いてない。
背後から鳴っているキンコーンと電子レンジの様な音に。
がこがこ、と。ガラクタの様なエレベーターの開く扉の音に。
カツン、とスプリンクラーで濡れた床を踏む足音に。
「そうだな、
ふっ、と漏らした真藤の表情は一気に緩くなり、それはとても重い肩の荷を下ろしたかのような顔。 その顔で見据えた先はすぐ正面にいるステイルではない、更にその先にいる少年へ向けたモノだった。
そこでようやくステイルは気付き、ゆっくりと振り返る。
「よう、待ってたぜ。ヒーロー」
「あぁ、待たせたな」
「……何故生きている? 『
上条当麻がそこにいた。
自分の『役目』は終わった。ステイルのことは上条に任せればいい。上条とステイルが対峙したのを見届けると、真藤は即座に重症のインデックスへと考えと視線を移す。
「インデックス! ……このまま放って置くのはのはマズイ!」
背中の傷が思った以上にひどい。血が溢れてどれだけ傷が深いかは詳しくは見えないが、正視することがまず躊躇われる。
しかし、それでもと自分のシャツを破くように脱ぎ、傷口にあてがう。包帯を巻けば血が止まるなんて素人レベルではないことも理解しているが、応急処置でも何でも出来ることをしなければならない。
白いシャツはあっという間に血の色に染まり、握り締めたワイシャツ越しからインデックスの身体に触れ、真藤の感情も絶望という感情へ染まり始める。
(生体電気が……弱い?)
人間の体には起電力があり、電圧を持った生体電気が流れている。
子供、大人、老人と年を取るに従って『生命力』が衰え、電圧が低くなり電気の力も弱まる。
そして今のインデックスには自分に感じている生体電気程の電圧は無い。今にも切れそうなほどに。
―――身体の中にある『生命力』が確実になくなってきているのだ。
死。その先に感じたものに恐怖を覚えた真藤は歯の根が合わず、歯をガチガチと鳴らし、それを抑えるため唇を血が出そうな程にかみ締める。
(どうすればいいんだ? 『今』の俺でも何か出来ることは無いのか!?)
「だい、じょうぶ。だよ? とにかく、血を……止める事ができれば……」
インデックスは弱弱しい口調で真藤に話しけてきた。先ほどの様な機械的なモノは何も無い。
まるで大丈夫じゃない。話した口調もさながら生体電気を読み取り、インデックスの状況『だけ』は把握しているのだ。
この場を上条に任せてインデックスを連れ出し、その身を救けられる場所へと駆け込むか?
いや、それは得策ではないはず。インデックスを抱え、七階から階段で降りたときにステイルが言っていた『
自分だけならまだしも、インデックスにこれ以上の負担は言葉どおりの意味で致命傷だ。
だが、この思考の中で真藤は一つの希望が浮かび上がる。
「おい! お前の一〇万三〇〇〇冊の魔術書の中で傷を治す
これだ、切羽詰った状況の中で浮かび上がった希望。
確か、言っていた。インデックス自身には『魔力』を扱う素質が無いから『魔術』を使えない。
しかし、微弱だが曲がりなりにも『超能力』を扱っている真藤が、インデックスから知識を聞き出せばもしくは―――。
「……ある、けど。君には、無理」
「何でだ! 俺は『超能力』が使える! それなら魔術だって! 試してみなければ分からねぇじゃねぇか!」
呼吸を浅く繰り返し、蒼ざめた唇を震わしてインデックスは話を続ける。
「ううん……、『超能力者』ってのがもうダメなの」
こんな、真夏なのに。まるで、真冬で、薄着で、外に放り出されたように身体を震わして。
「魔術っていうのは……、
何を言っているんだろう。真藤は思う。
「だから……、脳の回路から既に違う
目の前が真っ暗になったような気がした。何が『時間稼ぎ』だ。一番肝心な事の時間も稼げない。
これでは彼女を、インデックスを救えない。
幸徳井も、赤髪も、瑞穂や瑞稀、惟代や御坂、後ろにいる上条だって目の前で震えている女の子を助けられない。
『学園都市』にいる、『才能ある』
学生たちでは?
いや、―――まだだ、まだ、望みは、ある。
瞬間的に浮かんだ考えをインデックスに答え合わせしている暇など無い。
時間が惜しい。
すぐにでも魔術師を倒し、確実に下の出口へと向かわなければならない。
そして真藤は立ち上がった。
「―――殺せ!
ステイルが両手を広げ爆発するかのように笑いながら叫ぶと、エレベーターの扉を溶かし、通路を這いずる様に炎の巨神が上条の背後へ迫っていた。が、
「邪魔だ」
一言。一発。背後を振り向きもせず、上条は右手で裏拳気味で炎の巨神に叩き込むと、間抜けな音で爆発し四方八方に飛び散った。
「う、あ、い、の……けんてぃうす…イノケンティウス!
一瞬硬直したステイルは飛び散った黒い肉片に何度も呼びかけるが一向に復活せず、もぞもぞと動くのみ。
「さて、と」
一言発し、一歩踏み出した上条に魔術師はビクン、と身体を震わせ、顔を強張らせ真藤、いやインデックスの方に顔を向け、
「くそぉっ!」
体を向けて駆け出す。近づいてくる顔はやけに歪んでいる。負け戦と解りきっているのにも関わらず特攻へと赴く兵士のように。
「なるほどな、こんな状況においてあくまでも目標の奪還の為に進む、か。流石プロだ、感服したぜ」
「ア、―――
魔術師は吼えるものの、右手に現れたのは先程の自分と同じくらいの長さの炎剣ではなく、ナイフと言えるようなものしか生まれない。
「でもな」
真藤はステイルから振り下ろされる右腕を左に捌き、両腕で引っかける。
「こっちにも『アイツを救ける』って目標があるんだ」
そして右手で修道服の右袖を捕ってくぐり抜け、
「悪いが」
またぐ足を震脚させ、反動で肩の下、脇から腰にかけての体の側面を相手に当てた。
「『電光石火』で倒させてもらうぜ!」
八極拳・
「ごッ、ヒュ……ッ!」
ステイルは車に撥ねられたかのように
「そっちに行ったぞ! 止めだ上条!」
「おう!」
「……ッ! ッ!」
上条の右拳は飛んでくるステイルの顔面に突き刺さり、体は回転しながら後頭部を金属の手すりに激突させた。
「俺達の勝ちだ、魔術師」
質問、アイデア、ご指摘等がありましたら宜しくお願い致します!
今回もご精読ありがとうございました!