それではどうぞ!
「さて、と。後は俺に任せろ。コイツは身動きが出来ないようにしてアンチスキルに出すなりしておく。お前は早くインデックスを連れて早く行け!」
真藤はステイルに意識が無いと確認するやいなや、上条にインデックスをおぶらせて早急に場を離れさせようとする。
「わかってるけど……行くってどこにだよ!?」
「いいか、オマエの信頼出来る『大人』がいる場所だ! そこでなら救けられるはずだ!」
真藤は焦る。時間が無い。説明する時間ですら惜しい。
焦る自分が説明したところで上手く伝わるはずもない。インデックスから聞いた詳しい事を省き、叫ぶように話す。
通常なら病院などが考え付くが、ここは外部の人間を嫌う傾向がある学園都市。外部の人間が入院でもしようものなら、あっという間にその情報は行き渡る。そこに魔術師達に襲撃されればインデックスどころか周囲にも被害、危害が及ぶ。
最悪、手術中に襲われでもしたら守る手段が無い。
だが、自分の推測が正しければ。
それが合っていれば病院でなくとも、インデックスをすぐにでも死の淵から救い出せるはずだ。
ただ、こんな意味のわからない説明で上条は納得してくれるだろうか。
しかし上条は、
「……わかった。信頼できる『大人』の場所だな」
真藤の言葉を受け止め、重く頷いた。
「ああ、後は無理させない程度でインデックスから聞いてくれ。頼めるか?」
本来であればインデックスに一言でも話させると言うことはしたくはないが、
インデックスは肩の上下と共に浅く呼吸を繰り返し、黙って頷く。そして上条におぶられ非常階段を降っていった。
足音が遠くなると共に早まっていた真藤の胸の鼓動はある程度落ち着き、両手の平がじっとりと汗ばんでいたことに気が付く。
身体の緊張は解けず、ほう。と一息だけついた後に先程炎の巨神が熔かしたエレベーター、向かい側の階段の方向視線を投げ、
「おい、もう出てきてもいいぜ」
「よく気付きましたね。気配は完全に絶ったつもりなのですが」
その場所に声を掛け、たった一度瞬きした瞬間、そこに女は立っていた。
まさに一瞬。声はかけたものの、それは誰もいないフロアにだ。
現れた女性の出で立ちはTシャツに片脚だけ大胆に切ったジーンズという、学園都市でなくても万国共通、個性的な服装。
それよりも服装以上に現れた存在自体が真藤の直感にヤバイと感じ取らせた。
あまりにも圧倒的な存在感。細身且つグラマラスで魅力的な見た目にも関わらず、元々真藤自身が併せ持つ生存本能で連想出来るのは分厚い壁。
いざ、勝負になればあっという間に決着は付くだろう。
―――真藤が地に倒れているという形で。
けれども、ここは簡単に倒れるわけにはいかない。
自分が倒れてしまい、あの二人に追いつかれてしまっては今までのことが水の泡だ。
どんなことをしてでも倒れるわけには。
そして
目の前の女性を前に直感的な恐怖で小刻みに震える身体を血の気の失せるほど唇をかみ締めて抑え、舞台は再開する。
「気配じゃねぇよ。人が持つ『電界』、それを察知しただけだ」
「なるほど…、超能力者も侮れませんね」
「ま、そういうことだ。……ところでお前が神裂って魔術師だな?」
「その通りです。ステイルが言っていたのですね」
「ああ、その持っている刀でインデックスを斬り付けた奴だってな……!」
真藤の身体の震えを抑えられた、ギリギリのところで冷静でいられた一番の大きな理由。それは神裂が持つ刀。
今は水浸しの床に倒れているステイルが言っていた、
『それに正確には神裂が斬ったって話なんだけどね』
あの言葉。
あの刀がインデックスを傷つけた。
持ち主の女性だけではなく、刀からも発せられる本物の雰囲気を感じ取り根拠は無いがそうに違いないと、決め付け、糾弾する。
「あれは! 仕方なかったのです……っ!」
「何が仕方ないんだよ!? もしかして
真藤は胸に紅く、暗く、ドロリとしたような澱みのようなモノが溜まり、溢れ、それは噴出すように感情から言葉へと変化する。
言葉を投げつけても、ぶつけても収まらない。―――怒り。
「……あなたに何がわかるんですか」
「何もわからねぇよ。知っているのはインデックスを傷つけた。って事だけだ」
「そう、ですね……」
一しきり言い放った言葉に対し、神裂は苦そうなモノを口に含んだかのように顔を顰め、目を細めた後、俯く。
「……? それに何故インデックスを追いかけねぇんだ? お前なら上条が階段の降りている途中に不意打ちでも何でもして攫う事が出来たはずだ」
表情の一連の流れも疑問だが、それよりも最大の疑問点はそこだ。
先程目の前に一瞬で現れた動きで追いかけられようものならあっという間にインデックスは魔術師達の手に落ちていただろう。
だが、それをしなかった。
俯いていた神裂は頭を振った後、顔を上げ、現れた当初の冷静な表情でもって真藤に向ける。
「今はそこにいる彼の身柄を確保しに。学園都市に捕らわれると厄介ですから。幸い、彼女には『彼』がいます」
「ふぅん……『幸い』ね。ソイツを確保するにあたって、ここで俺が大人しくしてると思うか?」
「大人しくしていただかなければ……それ相応の目には遭ってもらいます」
神裂の右手が刀の柄へと移した瞬間、空気がピンと張り詰める。
真藤の方にそよぐ風そのものですら肌に触れる度、既に少しずつ切られているのかと錯覚するくらいピリピリと痛い。
どこまでやれるか。
相手に先手を打たれるよりかは自分から仕掛けた方が得策か。
スプリンクラーの水を充分に吸い、濡れてしまった靴の中で足の裏への意識を集中させ、駆け出すための一歩を踏み出そうと力を込める。
身を前傾姿勢に飛び出そうとする瞬間、目の前が炎で遮られた。
真藤は弾かれるように反射的に後ろへ飛び、回避する。
「……なっ!?」
「くっ……。神裂、僕を足手纏いにするな!」
ステイル=マグヌスが倒れた身はそのままに、右手を前に、顔は苦しげに、辛そうに、恨めしそうに真藤へ向けている。
「そうですか、なら退きますよ。ステイル」
「なっ、易々と身体を持ち上げるんじゃない!」
そんなステイルの様子も介せず、ヒョイ、という効果音があまりにも似合うほどに神裂は軽々とステイルを持ち上げた。
ステイルの身体は相当な長身だ。体重だって修道服で見えないとはいえ、如何に細身だろうと真藤以上の重さはあるはず。それをコンビニで買い物をしたぐらいの荷物にしか思っていないような感じの涼やかな顔で、片手でステイルの腰に手を回し持ち上げている。
「まだマトモに動けないのでしょう? とにかく、そこの貴方。……名前を教えて下さい」
「ん、ん? ……真藤豪摩だ」
ウエスタンスタイルサムライ・肝っ玉母ちゃん。真藤の頭の中でその言葉が即座に浮かび、呆けていたところに思いがけず名前を聞かれてアッサリと答えてしまった。
「改めて
せめてもの抵抗と言わんばかりに、お前は。と聞き返したものの、これから知人になるような気楽さで名乗られ、なおも話を続けてくる。
「
「……出来れば僕はもう二度と会いたくないけどね」
「はいはい、お前はちゃんと自分の足で立ってから言おうな」
肝っ玉母ちゃんに持ち上げられながら何か会話に入り始めた
「では」
「ま、待て! 神裂! 僕はアイツにまだ言いたいことが―――」
またもや真藤が一瞬きしただけで二人はいなくなっていた。
背後を振り向いてもいない。
「ふぅ……」
舞台はついに終わった。
観客もいない
そして見上げた空に呟く。
まるでこれから始まる、とある物語の
「……本当にあったんだな、
夜、とあるビル屋上。
黒髪に真ん中分け、学生ズボンの中にしっかりと入れたワイシャツという一見優等生に見える少年は右手で顔に覆うように眼鏡の位置を直しつつも指と指の隙間から、レンズの奥から切れ長な眼で相手の少年を鋭く睨み付ける。
「どういうことだ。答えろ! 何故、アイツが巻き込まれた!」
「そんなこと言ってもにゃー、単なる偶然だぜい」
逆立てて、染め上げたであろう金髪にアロハシャツ、金のネックレスにサングラスといった不良な輩とも言える派手な風貌で長身の少年は、相手の雰囲気にそぐわぬ不思議な訛り口調の軽口であっさりと返した。
「……っ、本当か?」
「くくっ、
「……
―――アキ、幸徳井広秋は顔から離した右手を相手に袈裟斬るように振り下ろす。体勢は前のめり、今にも食って掛かりそうな勢いだ。
―――ハル、土御門元春はフラフラ、ユラユラと柳のように体を揺らし、顔はニヤニヤと笑っている。まるで、この光景は昔からの日課だといわんばかりに。
「まーまー、冗談だ。でも、アイツは元々巻き込まれてもおかしくないんだにゃー、何せあの『奇跡の子』なんだからな。言わばコッチ側の人間だ」
「だが『今回の件』には何も関係ない筈だ! しかも『幻想殺し』まで関わっている!」
突き刺さるような鋭い視線はそのまま、早歩きで幸徳井は土御門に近づいてくる。月の光が幸徳井のメガネの緑で反射し、そのまま瞳の鋭さに拍車をかけた。
そんな状況にも全く動じず、口を緩めたまま土御門は危機感を持たない。口元は緩んでいるが、月の光を吸収しているサングラス越しの目は笑ってはいない。大仰に手を前にして振って否定のポーズを取った。
「それについても偶然ぜよ。なんせあの二人はアイツ等のことを知らない。ホント、何が起こるか分からないっていう典型的な例だぜい」
「どこまで真実か判らないが……お前を信じるぞ」
「あぁ、『いつも通り』に信じて欲しいモンだな。それより、
今までの話が本題だったはずが閑話休題、と言わんばかりに急転換する。
サングラスの少年は緩めていた口元をニッ、と広げ旧知の友に返答を求め、その顔に幸徳井は毒気を抜かれた。
「……む、息災だがどうした?
「学校は同じでもクラスが違うからな、たまに会って話すことはあってもそんなに頻繁じゃないだろ? オレだって様子は気になるぜい」
「そうか……」
土御門の殊勝な発言に、相変わらず何を考えているのか解からないと幸徳井は訝しげな表情になりながらも肯定する。
ただ、こんな会話の流れはもう既に幼い頃から何度も繰り返している。本当に今更だと諦めながら会話は続く。
「しっかし『あの』観冬ねーちんがまさかメイド学校とは、驚天動地ってのはこの事だぜい」
「まぁな、この前も弁当を作ってくれたと思ったら中身はお菓子の詰め合わせだったよ」
「お姉様系天然ドジっ娘メイド見習い、爆誕ってトコだにゃー……」
「そう言ってやるな。本人はあれでも
肩を竦め両手を上げ、首を横に振る土御門、そして頭を下に額に右手を当てため息をつく幸徳井。お互いが顔を見合い、苦笑する。
「なぁハル、……俺は守るぞ、自分の『世界』を」
穏やかな笑みで、幸徳井は言う。
「自分の
瞳には強い意志が宿っている。月の光は眼鏡の縁に反射し、今度はその意思の大きさを示すかのように光る。
「お前の『世界』? まさか監視対象に情が移ったのか?」
「俺の『世界』は
「そうかい、ソイツは結構な事だ。しかし、身の程をわきまえろよ?」
「お前に言われるまでもない。……俺はもう行くぞ」
言いたい事を言えたのか、満足した顔で幸徳井は土御門に背中を向け、ビルの出口へと消えた。
「『世界』ねぇ……」
土御門は横目でチラリと見届けた後、ビルの屋上から下を見渡す。
この場所から見つかるはずのない、だが確かに
「とうに固まっているさ、オレの『世界』は」
それは、『本当』に昔から。今でも、恐らくこれからも。ずっと変わらない。土御門の『世界』。
ゆっくりと瞳を閉じて再び開けた時、土御門元春はいつも通りの顔に戻る。
目で悟られないようサングラスという仮面で隠し、口元はいつも余裕という口端を上げた顔。
「さて、この物語は……とある少年の『不幸』に理不尽にも巻き込まれた少年か、とある少年の『理不尽』な人生に不幸にも巻き込まれた少年のどっちのお話かな?」
なるべく早い更新を目指すつもりです!
感想、ご指摘お待ちしております。
宜しくお願い致します!
今回もご精読ありがとうございました!